世論調査の落とし穴

 
6月12日、仙谷官房副長官は、菅首相の退陣時期に関して、記者団の質問に対して、6月いっぱいあたりになる旨のコメントをした。

画像


また、テレビ番組でも今週開かれる予定の両院議員総会が一つの節目になる、と発言していて、やはり月内退陣を模索していると思われる。

また、それに呼応してか、自民党の大島副総裁は佐賀県唐津市での講演で、「1日も早く退くことが唯一の功績になる。今週が限界だ」と週内の退陣を求めている。

今週土曜日は18日で、今国会会期末の22日までギリギリ。だから、もし、今週中の退陣がなければ、あるいは参院で問責決議を出すかもしれないし、その行方は、民主党の両院議員総会にかかっているのだろう。

問責決議が出されれば、可決される公算が高く、その場合は、参院はストップ。特例公債など重要法案は全く通らなくなる。

このような状況で、NNNが10日から12日にかけて行った電話世論調査(全国2018人対象。回答率51.1%)で、菅内閣を「支持する」と答えた人は24.1%、「支持しない」と答えた人は60.8%となった。

また、菅首相の退陣表明については、「辞任は適切」が62.6%、「辞任の必要はない」が25.9%になり、一方、自民党などが内閣不信任決議案を提出したことについては「評価しない」が56.2%、「評価する」が32.4%だった。

これだけを見ると、菅首相の辞任は止む無しでだけど、自民党の不信任決議提出はちょっと駄目だね、という世論なのだな、と思ってしまうのだけれど、ここで、実際のNNNの世論調査の質問内容について確認してみる。次に質問文のみ引用する。
○ NNN 2011年6月定例世論調査
[ 問1] あなたは、菅直人連立内閣を支持しますか、支持しませんか?
[ 問2] [問1で「(1)支持する」と答えた方へ]菅直人内閣を支持する理由は何ですか?
[ 問3] [問1で「(2)支持しない」と答えた方へ]菅直人内閣を支持しない理由は何ですか?
[ 問4] あなたの支持している政党を教えて下さい。(支持政党がないとき→強いて挙げればどの政党ですか?)
[ 問5] 菅総理は、東日本大震災の対応で一定のめどがついた段階で、総理大臣を辞めることを明らかにしました。あなたは、菅総理の決断について、辞任は適切だと思いますか、それとも辞任の必要はないと思いますか?
[ 問6] [問5で「(1)辞任は適切だ」と答えた方へ]辞任は適切だと思う主な理由は何ですか?
[ 問7] [問5で「(2)辞任する必要はない」と答えた方へ]辞任する必要はない思う主な理由は何ですか?
[ 問8] 菅総理の辞任表明と民主党の混乱は、6月1日に自民党、公明党、たちあがれ日本が、菅内閣の不信任決議案を国会に提出したことをきっかけにしたものでした。あなたは、自民党などが不信任案を提出したことを評価しますか、評価しませんか?
[ 問9] 菅総理の退陣表明のあと、民主党と自民党の間で、連立内閣をつくる構想、いわゆる大連立が浮上しています。あなたは、新しい内閣で、自民党は民主党との間で、どのような協力関係をつくるべきだと思いますか?
[ 問10] 民主党内閣になっても、ほぼ1年ごとに内閣総理大臣が交代する事態となっています。あなたは、このまま民主党を中心とする内閣が続くことでよいと思いますか?
[ 問11] 菅内閣が協議を進めている税と社会保障制度の一体改革についてお伺いします。検討会議では、消費税率について、4年後の2015年までに、段階的に10%にまで引き上げることを検討しています。あなたは、これに納得しますか、納得しませんか?
[ 問12] 年金については、支給額を見直して、低い所得者の年金額を増やし、高い所得者の年金額を減らすことが検討されています。あなたは、この見直しを支持しますか、支持しませんか?
[ 問13] また、年金を支給し始める年齢について、現在、すでに段階的に65歳からにすることが行われています。これを若い世代では、さらに69歳前後から支給することに改めることを検討しています。あなたは、この見直しを支持しますか、支持しませんか?
[ 問14] あなたは、次の総理大臣には、誰が最もふさわしいと思いますか?(自由回答)
[ 問15] あなたは、次の内閣には、震災対策のほかに、何を優先する政策課題として、取り組んでほしいと思いますか?
[ 問16] あなたは、いつ衆議院選挙を行うべきだと思いますか?



一見、何ほどの無い質問のように見えるのだけれど、よくよく見ると、大きく2種類の質問に分類されていることが分かる。それは何かというと、質問の前に、何某かの説明文が付加されているものと付加されていないものの2種類。

たとえば、問1~4、問6~7、問14~16は、「あなたは何々ですか?」と単純にYes/NOを聞いているものなのに対して、問5、問8~13は、「あなたは何々ですか?」と質問する前に「何々がどうでした」とか「何々がこうなってます」という説明文がついている。そういう違いがある。

別に説明なんてあってもなくても大差ないじゃないか、と思う人もあるかもしれないけれど、仮にその説明が嘘であったり、中立を欠いているものであったりしたら、それは回答者に対して、予断を与えることになるから、正しい回答を引き出せなくなるのみならず、下手をすれば、"誘導尋問"になってしまう可能性すらある。

その意味でいえば、筆者がちょっと気になるのが問8と問10。もう一度、これらの質問文と回答結果を次に引用する。
[ 問8] 菅総理の辞任表明と民主党の混乱は、6月1日に自民党、公明党、たちあがれ日本が、菅内閣の不信任決議案を国会に提出したことをきっかけにしたものでした。あなたは、自民党などが不信任案を提出したことを評価しますか、評価しませんか?
(1) 評価する 32.4 %
(2) 評価しない 56.2 %
(3) わからない、答えない 11.5 %

[ 問10] 民主党内閣になっても、ほぼ1年ごとに内閣総理大臣が交代する事態となっています。あなたは、このまま民主党を中心とする内閣が続くことでよいと思いますか?
(1) 自民党に政権を譲るべきだ 12.2 %
(2) 衆議院を解散して衆議院選挙を行うべきだ 51.3 %
(3) 民主党政権を続けることでよい 27.8 %
(4) わからない、答えない 8.6 %

まず、問8についてだけれど、これは、菅首相の辞任表明とその後の民主党の混乱について説明した前段部分と、不信任案提出の是非を問う質問部分の後段に分けられると思うけれど、はっきり言ってしまえば、前段と後段の文章は、ロジックとしてつながっていない。すなわち、前段の説明文は、意味を成していない。

なぜかというと、そもそも自民党が、内閣不信任案を提出した理由は「菅内閣は、国難のときにあって明確な指針を示せないまま迷走を続け、わが国の復興と再生に対して大きな障害となっている」からであって、菅首相の辞任表明と民主党の混乱は民主党が勝手にやっていることだから。



もしも、この[問8]にロジックとしてつながる説明文をつけるとするならば、次のような文章になると思われる。
<問8> 自民党は「菅内閣は、国難のときにあって明確な指針を示せないまま迷走を続け、わが国の復興と再生に対して大きな障害となっている」ことを理由として、内閣不信任案を提出しました。あなたは、自民党などが不信任案を提出したことを評価しますか、評価しませんか?

先のNNNの世論調査の問8と今回書き直した問8を比較してみると、随分と印象が変わってしまう。

NNNの世論調査では、民主党が混乱したのは、あたかも不信任案が提出されたからのような質問になっていて、それに対して、評価しないとの回答が56.2%と過半数を超えているけれど、もしも、書き直した文章で質問されたとしたら、また結果は違ってくるのではないかと思う。

因みに「誘導尋問」の定義をWEB辞書で確認すると次のようになっている。
ゆうどう‐じんもん〔イウダウ‐〕【誘導尋問】 尋問の際、尋問者が希望する内容の答弁を暗示して、その供述を得ようとする尋問。刑事訴訟では、禁止または制限される場合がある。
 
質問者が希望する内容の答弁を暗示して、その供述を得ようとする尋問が誘導尋問。だから、質問の前に、予断を与えるような情報を提供することは細心の注意が必要になる。その意味でNNNの問8の質問の仕方には疑問が残る。

また、問10に関していえば、質問そのものに、1年ごとに内閣総理大臣が交代する事態が"よろしくないもの"という前提が置かれている。しかも枕詞に「民主党内閣になっても」をつけているところをみると、裏を返せば、「民主党だったら、1年毎に内閣が変わることなんてしないで欲しかった」という願望が込められているようにも読め、これも予断を与える可能性がある。

ここで、比較のために別の番組の世論調査、例として、「新報道2001」が6月9日に行った、世論調査の質問文を次に引用する。
○ 新報道2001(6月9日調査・6月12日放送)
【問1】菅首相の退陣時期について、あなたはいつが相応しいと思いますか。
【問2】2つ以上の政党が連立して政権を運営する大連立構想が民主党と自民党の間に浮上しています。あなたはどう思いますか。
【問3】あなたは次の首相に誰が相応しいと思いますか。
【問4】あなたは次の衆院選でどの党の候補に投票したいですか。
【問5】あなたは菅内閣を支持しますか。

「新報道2001」の質問文は、説明がある質問自体が問2の1個だけ。それも大連立行動がある、という事実を提示して、続けてそれについてどう思うかを質問しているから、ロジック的な齟齬は全くない。

だから、「新報道2001」の6月9日調査の質問文を読む限り、NNNのそれより良心的だといえる。

ただ、NNNの世論調査にしても、中身をきちんとみれば、ちょっと怪しげな設問があるにも関わらず、公に報道され、広まるのはその"結果"だけ。

そして、それが次々と広まっていくのは、いわゆる「数字のひとり歩き」そのもの。

現在のような情報メディアが発達している時代だからこそ、きちんと立ち止まって確認する余裕を持ちたい。


画像 ←人気ブログランキングへ


画像菅首相、月内にも退陣=両院総会が「一つの節目」-仙谷氏が認識

 仙谷由人官房副長官は12日午後、菅直人首相が月内にも退陣するとの認識を仙台市内で記者団に示した。これに先立つフジテレビの番組では「(民主党が今週中にも開く両院議員総会が)一つの節目になるだろう」と述べ、首相が両院総会で退陣時期を明確にすることに期待を示した。
 仙谷氏は、首相の退陣時期に関して記者団から「6月いっぱいがめどか」と問われたのに対し、「その辺で収れんしていくのかなと感じている」と語った。
 また、2011年度第2次補正予算案について「与野党の広い枠組みで共同作業でやっていく。菅首相が骨組みを提示し、(次の首相が)しっかり引き継いでいくのがいい」と述べ、編成作業は首相退陣後が望ましいとの考えを示した。 
 仙谷氏は番組で、野党に対し、首相退陣と引き換えに赤字国債発行のための特例公債法案に協力するよう呼び掛けた。今後の政権の枠組みに関しては「大連立、閣外協力、大連立的(な枠組み)であろうと、与野党が合意形成をして最後はまとめる構えがない限り、現代政治は成り立たない」と強調した。
 このほか、「ポスト菅」として民主党代表選への擁立を目指している野田佳彦財務相について「なかなかの政治家だ。懐が深い」と語った。(2011/06/12-19:19)

URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011061200013



画像「今週が限界」大島副総裁、首相の退陣求める

 自民党の大島理森副総裁は12日、佐賀県唐津市で開かれた党の会合で講演し、菅首相(民主党代表)の退陣時期に関し、「1日も早く退くことが唯一の功績になる。今週が限界だ」と述べ、週内の退陣を求めた。

 大島氏は「民主党が新代表を決めたら、次のステップを踏む。国が借金をする法案は通っていない。年金会計にも穴が空いている。復興財源も決めないといけない。こういうものは速やかに話し合わなければ(いけない)」とも語り、民主党の新代表と特例公債法案の扱いや2011年度第2次補正予算案などについて協議する考えを強調した。

 一方、自民党の石破政調会長は12日のテレビ朝日の番組で、「マニフェスト(政権公約)は絶対だ、国民との約束だ、これは守る、という方が受かっちゃったら、どうにもならない」と述べ、民主党新代表にマニフェストを重視する小沢一郎元代表グループに近い人物が選ばれた場合、連携は難しいとの見方を示した。

(2011年6月12日20時09分 読売新聞)

URL:http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110612-OYT1T00523.htm



画像菅内閣を支持~24.1% 先月より下落< 2011年6月12日 20:34 >

 NNNが10~12日に行った世論調査で、菅内閣の支持率は先月より6ポイント下落し、24.1%となった。

 菅内閣を「支持する」と答えた人は6ポイント下落して24.1%になり、「支持しない」と答えた人は5.1ポイント上昇し、60.8%となった。

 政党支持率は民主党が先月より2.8ポイント上昇し、25.5%だった。自民党は先月より2.3ポイント下がって、28.2%。一方、支持政党なしが33.1%となっている。

 菅首相の退陣表明については、「辞任は適切」が62.6%、「辞任の必要はない」が25.9%だった。一方、自民党などが内閣不信任決議案を提出したことについては「評価しない」が56.2%、「評価する」が32.4%だった。

 民主党と自民党との間でどのような協力関係をつくるべきかを尋ねると、「政策ごとに協力する」が51.6%となる一方、「連立内閣を作る」は11.8%にとどまった。

 また、「次の首相に誰がふさわしいか」との問いでは、前原前外相が5.2%でトップ、続いて野田財務相が3.4%、枝野官房長官が2.7%、自民党・石破政調会長が2.6%の順となっている。

 NNN電話世論調査
 【10~12日に調査】
 【全国有権者】2018人
 【回答率】51.1%
 http://www.ntv.co.jp/yoron/

URL:http://www.news24.jp/articles/2011/06/12/04184398.html

この記事へのコメント

  • とおる

    GHQ占領政策の落し子のマスコミ、福島原発事故で大本営発表を繰り返すマスコミを忘れないようにしましょう。
    2015年08月10日 15:27

この記事へのトラックバック