LED植物工場

 
最先端の植物工場が本格生産を始めた。

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1.植物工場研究センター

これは、大阪府立大が開設した「植物工場研究センター」によるもので、総面積約2千平方メートル。人工光だけで栽培する研究施設としては国内最大規模という。

植物工場には、その光源として人工光だけを使うタイプと、人工光と太陽光を併用するタイプとに分けられるのだけれど、人工光だけを使うタイプは、安定した周年栽培が可能な反面、初期コストと運用コストに課題がある。このあたりの解決のメドがつけば、地下でもどこでも植物生産への道が開けることから、その展望が期待されている。

植物工場研究センターは、この完全人工光型の植物工場に必要な技術を開発するために開設され、「空調」、「光源」、「自動配置移動装置」などについての実証研究・開発が行われている。

ここでは、光や温度、水やりなどは自動制御され、たとえば、15段あるレタスの棚は成長に応じて1段ずつ下りてきて、下まで来たら収穫するシステムになっている。

今はまだ、露地物野菜と比べて、生産コストが3割ほど高いのだけれど、今年度中に露地物並の生産コストにする方法を確立したいとしている。

そのコスト低減の鍵を握るもののひとつに光源の問題がある。

現在、植物工場に使用される光源には、高圧ナトリウムランプやメタルハライドランプ、そして蛍光灯などが使われているのだけれど、最近注目を集めているのがLED照明。

LED照明は、従来型のランプと比べて寿命が非常に長く、たとえば、蛍光灯が6千から1万3千時間の寿命であるのに対して、LEDは6万から10万時間の寿命がある。

また、LEDには、従来型とくらべて光量調節や色の選択のバリエーションがあるなど従来型にはない利点がある。

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2.光合成には赤と青の光

植物の成長には、当然、光は欠かせないものなのだけれど、植物自身にも光の方向や質を検知できる仕組みがある。

たとえば、開花前の向日葵なんかは、茎が成長する際に、陽に当たっていない側の茎が、先に延びていくことで、陽のあたる側に向きをかえてゆくけれど、あのように、自然と光を検知している。

また、植物の種は、赤い光を受け取る事で発芽を始める仕組みを備えている。植物には、フィトクロムというタンパク質が含まれているのだけれど、これは、赤色(波長:660nm)の光によって活性化して発芽を促し、遠赤色の光(波長:730nm=赤外線の内1番可視光に近い部分)では不活性化して、発芽を抑えてしまう。

この赤色光による発芽促進効果と遠赤色光による発芽抑制効果は違いに打ち消し合う関係にあって、最終的にどちらの光が多かったかで発芽するかしないかが決まるのだけれど、通常、赤色光は、植物の葉っぱなどに光合成のために吸収されてしまうから、葉の下の影などでは、遠赤色光に対して、赤色光の量が減っている。

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したがって、種にとってみれば、遠赤色光が多ければ、その場所は光が十分でないと判断して、チャンスがくるまで発芽を待つ仕組みになっている。実に上手くできている。

また、赤色の反対の青色の光も、植物の生長には欠かせない。

植物には、向日葵のように、横から光を当てると、ゆっくりと光の方向へと向きを変える性質(光屈性)があるのだけれど、この仕組みには、青色の光が関わっている。

植物には、青色の光を検知する、フォトトロピンというタンパク質があり、この働きによって、茎などは光の方向に曲がるようになっている。

植物の光合成そのものは、可視光である青色光から赤色光までの波長域(400~700nm)で行われるのだけれど、赤色光が一番効率がよいことが知られている。また、植物の光に向かって伸びる性質には青色光が欠かせない。

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3.LED照明の利点

したがって、植物工場の光源にも、この青色光と赤色光は必須になるのだけれど、蛍光灯の光の波長は、波長600nmくらいの黄色から橙色くらいにピークがあって、青色光と赤色光はそれと比較して少ない。

けれども、LEDだと、単色の光源が作れる利点がある。たとえば、白色LEDや青色LEDの発光スペクトルのピークは470nmくらい、赤色LEDは660nmくらいと、見事に植物の育成に必要な波長をもっている。

また、植物の光合成には、暗反応といって、炭水化物を生成する反応には光を必要としないのだけれど、それを逆手にとって、光を必要とする時間だけ光を当てるようにすることで、光合成速度が増大することが分かった。

この光を当てたり、当てなかったりするというのは、昼と夜のように、12時間周期で照明をON/OFFするものではなくて、昼間のように光が当たりっぱなしの状態で、更に光合成を進める方法で、これは、1秒の100分の1以下の物凄い速さで照明ON/OFFしてやると、光を当てっぱなしにしたときと比べて、2割程度光合成速度がアップすることが分かっている。

この1秒の100分の1以下でパルス的に照明の電源をON/OFFしてやるというのは、従来型の光源だと、逆に寿命を縮める要因にもなりかねないのだけれど、LEDは半導体素子なので、その点は心配ない。無論、パルス照射は、同時に電気代の節約にもなる。

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こうしてみると、植物工場にLED照明を使うことはいいことづくめのようにも見えるのだけれど、当然欠点はある。それは、LEDの値段と発熱の問題。

平成21年の段階で、LEDの値段は、普通の蛍光灯に比べて、30倍以上。今はもう少し安くなっていると思うけれど、これを安くすることが普及へのひとつの課題。

また、発熱については、LEDの光そのものは熱放射が小さいために、植物の温度上昇という悪影響を与えることがないので、LEDと植物を近づけることで栽培棚を低くしたり、照明効果を上げることができるのだけれど、LEDを光らせる側の半導体チップが、LED点灯中に発熱してしまうために、LED証明の上の棚が温まってしまう。この問題の解決も課題としてある。

ただ、これの面白い解決方法として、水冷式LEDなども試験的に開発されている。これは、LEDチップをアルミ合金製の板に接触させた状態で実装して、その背面に約15℃の冷却水を流す構造を持っており、これによって、LEDチップの温度を20℃弱に保てるのだという。

こうした様々な工夫で、植物工場が実用化になれば、今の食糧問題の解決の糸口になると思われる。

今後の成果に期待したい。

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画像人工光で野菜生産 大阪府立大に国内最大級の植物工場 2011年6月11日14時9分

 人工の光だけで野菜を栽培する植物工場研究センターが大阪府立大(堺市中区)に完成し、本格的な生産を始めた。総面積約2千平方メートル。人工光だけで栽培する研究施設としては国内最大規模という。

 植物工場は4月に稼働。LEDや蛍光灯で照らして野菜を栽培している。レタスの棚は15段。成長に応じて1段ずつ下ろし、下まで来たら収穫する。苗の時期を含め約40日で成長し、露地物の半分に短縮できる。

 栽培する棚を積み上げることで面積あたりの収量を上げ、品質や大きさがそろった野菜を作りやすい一方、コストが露地物より3割ほど高いのが課題だ。今年度中に露地物と同じコストで栽培できる手法を確立する方針。LEDや蛍光灯の改良で、2015年ごろには大規模な工場で商業ベースに乗ると見ている。

URL:http://www.asahi.com/science/update/0611/OSK201106110013.html

この記事へのコメント

  • mohariza

    私は、LED照明の光は嫌いです。暖かみの無い、光の到達距離が短い、無機質な光のように思えます。効率のみで、照明を捉えて行くと、「無味乾燥な世界」になると思います。光には、雑音と云ってよい他の光があった方が自然で、地球生命もそれに対して感じて生きているような気がします。
    全てが効率のみで、片付けると弊害がその内起こるように思います。
    2015年08月10日 15:27
  • 白なまず

    太陽の恵みを大いに受けられる地域では不要な技術ではあるが、土が汚染され、大気汚染もひどく、旱魃などの地域でも生きていかなくては成らない人たちには必要な技術。モンゴルでも野菜は必要とされているが寒さや水の問題で栽培が難しいらしい。だから彼らは全てを羊などの動物性に由来する食事をしてきた。そこで、温室、LED照明、土もない環境でも野菜が育てられるなら幸い。

    また、LEDの熱、効率などは量子ドットLEDに期待したい。
    http://www.google.com/search?client=ubuntu&channel=fs&q=%E9%87%8F%E5%AD%90%E3%83%89%E3%83%83%E3%83%88%E3%80%80LED%E5%8A%B9%E7%8E%87&ie=utf-8&oe=utf-8
    2015年08月10日 15:27
  • かめを愛するもの

    本当に今後の成果に期待したいですね。
    2015年ごろに採算ベースにのるというのは、おそらく葉物に関してでしょうが、楽しみですね。

    実用化を早めるには、技術の進歩とともに、有償で廃棄物を引き受けて処理しつつ発電を行う施設と併設するなど、
    エネルギーコストを下げる工夫も必要だと思います。

    また、農業に関しては技術以外の問題のほうが多いですね。
    象徴的な事実をあげますと、農業生産額は富士通とほぼ変わらない8兆円あまりですが、
    それを富士通社員の10倍の260万人あまりで分かち合っており、
    さらに農業補助金の総額は生産額の50%を超える5兆円あまりに達しています。
    そのあたりへの日比野さまのご意見をお聞かせいただければ嬉しく思います。
    2015年08月10日 15:27
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    世の中, 最近まで温暖化の大合唱だったが, 識者
    が指摘しているように, 温暖化は一般に植物の
    生産効率を上げるのでそれほど騒ぐことではない.
    本当に恐いのは, 海洋大循環流の停止による
    寒冷化ではないかと言われている. 勿論, 寒冷化
    と言っても日射量が減少するわけではないから
    赤道付近は相変わらず暑いのだが, 中緯度以上では
    海洋熱循環の停止の結果として寒冷化する.

    ただ, 旧石器時代の最寒冷期に人口が逆に増えて
    いる, 或は, 少なくとも減少していないという
    結果が出ているようだから, 寒冷化も実はそれ程
    恐くはないのかも知れない.

    前置きが長くなったが, 日本の南極点基地では野菜
    を室内で栽培していたと言うのを思いだした.
    エネルギー供給(当時は石油)が問題だったので,
    今日の植物工場はこのような場合でも多くの人間
    が生きていくため朗報だろう.
    2015年08月10日 15:27
  • 日比野 >かめを愛するもの様へ

    かめを愛するものさん。
    興味深いコメントありがとうございます。

    >そのあたりへの日比野さまのご意見をお聞かせいただければ嬉しく思います。

    中々面白そうなテーマですね。折をみて、考えたいと思います。

    ここ数日は、以前「ス内パー」様から頂いたコメントのテーマを調べているのですけれども、どんどん、宿題がたまっていきますね σ(^^;)
    2015年08月10日 15:27

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