ハロー!「空飛ぶ球体」くん

 
防衛省・先進技術推進センターの佐藤文幸技官が試作開発した、"空飛ぶ球体"が一部で話題になっている。

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これは、防衛省技術研究本部が行っている先端技術の一環として、開発されたもので、丸い飛行体の内部にプロペラを組み込み、ヘリコプターのようにホバリングや水平・遷移飛行を可能とするもので、正式名称は「球形飛行体」。

性能諸元は、直径42cm、重さ350g、飛行時間はホバリング状態で8分。最高速度は約60kmで、カーボン、スチレン、ペットボトルなどの素材からできている。

ほとんどの部品はアキバで購入し、制作費用はたった11万円で、開発期間は16ヶ月。凄い。

この球形飛行体は、地上への着陸するときには、そのままストンと落ちて、移動するときには、転がってゆくというのが実にユニークなところ。

また、外形を球形にしたことで、いろいろなメリットがある。

たとえば、球形であるがゆえに、着陸時に破損が生じにくく、普通の飛行機ではとても着陸できないような凸凹の地面でも、着陸できる上に、飛行体の天地左右が逆さまになっていようが、何していようがお構いなし。どんな姿勢でも転がりながら着陸できるので、垂直離着陸機(VTOL機)のように、わざわざ「垂直」に着陸する必要もないし、建物の壁や天井等との接触にも強い。



この球形にするという発想は、テールシッター機の弱点を克服するというところから生まれた。

テールシッター機というのは、機体を垂直に"立てた"状態で離着陸するというマンガのような仕様の飛行機のことで、1950年代に本当にアメリカやフランスで研究開発されていた。

これは、空母のような広い飛行甲板を持たない戦艦などからでも、発進できる戦闘機ができないものか、という発想があって、そのような戦闘機があれば、多数の空母は必要なくなる、という要求から計画された。その意味では、現在の垂直離着陸機(VTOL機)の元祖だともいえる。

1951年にアメリカ海軍は、ロッキード社とコンベア社に対して、垂直離着陸戦闘機を発注したのだけれど、その要求に対して出した2社の答えが、このテールシッター機。

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確かに、飛行機を"立てて"しまえば、接地面積は小さくて済むから、戦艦にも搭載できるけれど、こんなベタな発案をして、かつ本当にそれを作ってしまうところが、いかにもアメリカらしいというべきか。

離着陸は、直立した機体にあおむけの格好でパイロットが搭乗して、そのまま垂直に離陸。上空では水平飛行して、着陸するときには、また尾翼を下に姿勢転換、垂直下降して着陸する仕様だった。

開発は1954年3月に試作機が完成し、11月には、垂直に離陸して水平飛行を行い、その後、尾部を下にして着陸する史上初の遷移飛行を成功させている。

だけど、このテールシッター機は、実用にはならなかった。その理由はやはり、操縦が難しいこと。

特に、着陸時の操縦は、パイロットが仰向けの姿勢で肩越しに地面を見ながら下降するというアクロバティックな操作を要求され、熟練のテストパイロットでも恐怖感が拭えなかったという。その状態で、揺れ動く艦船の甲板へ安全に着艦するのは無理と判断され、この計画は中止された。

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今回、防衛省が開発した球形飛行体は、外形を球形にして、着陸時の姿勢の制約を無くし、また"起き上がり小法師"の要領で、重心位置を低くとり、プロペラ面が上にくるようにした構造にしたことで、垂直離陸を可能にしている。

まったく、素晴らしい着想と発明。

ただ、実際の開発にあたっては、球形にしたことによる重量や空気抵抗の増加、および操縦性、安定性の問題などが予想されたため、いくつかの試作機をつくって原理検証をしていて、今回、一般公開された試作機は7号機にあたる。

また、今のところは、無線操縦なのだけれど、実用化にむけて、自律機能を含む遠隔操縦や、耐環境性の強化、製造コスト抑制や使用用途の拡張などがあるようだ。

とはいえ、このユニークな空飛ぶ球体は、軍事偵察などに非常に威力を発揮すると思われるし、国防を考える意味でも中々有効なものではないかと思う。

早期の実用化を期待したい。

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この記事へのコメント

  • almanos

    日比野殿。確かにそれは怖い。私はスターウォーズに出てきた球体ロボを連想しましたけど。レーア姫の訊問様でしたか。でも、一つ目でそこからレーザー撃ちながら追いかけてきたら確かに怖そう。例えそれが目潰し程度の威力でも夜の歩兵部隊に突っ込まれたら大混乱でしょうね。後は滞空時間の問題でしょうか? アメリカ軍から既にかなり強い要請が出て技術供与されているでしょうし。無人対地攻撃機として使えそうですし。あれに高性能爆薬を機体に装備させて洞窟に突っ込ませてドカンとやるだけでもかなりの脅威ですし。まあ、回転翼の音を如何に消していくかという問題がありますけど。来年辺り模型メーカーからキットが出てアメリカ軍が慌てて「それは輸出規制しろ! (何でうちで研究しているのより性能が良いのに安いんだよ! だから全部日本に造らせろと言ったんだ! 変な意地張って事態をこじれさせおって)」となりそうですけど。で、中韓でパクリ品が出るけど出来が悪すぎて、人民解放軍は如何に秋葉原でキットを揃えてくるか重要になり、キットをうまく組み立てて、メンテできるオタク兵士が士官より厚遇されて士官達の不満が溜まって軍内部に不協和音というオチ
    2015年08月10日 15:27
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    面白い.

    特に防衛省の機関で真面目にやっているのが面白い.
    重心を適応的に調整することができれば良いようだ.
    プロペラ軸に何らかの工夫ができないものだろうか.

    再び飛び立つことができなくても応用の可能性は
    沢山ある. だから, 現在の形で様々な電子機器を
    搭載する可能性を研究する必要がある.

    しかし, 日本の弱点は優れた発想を実用化させる
    プロジェクトリーダの不在なのだな.
    2015年08月10日 15:27
  • 白なまず

    警備用で配備されたとして、、、ハロが追いかけてきてもそんなに怖くないですが、ダルマだったら空飛ぶ妖怪みたいで怖いですね。複数の機体を自動的に連携させる等と予想以上の展開があるかもしれません。真っ赤なダルマさんが大きな目で追いかけてくる、、、しかも、沢山。
    2015年08月10日 15:27

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