菅首相の侵した2つのミス
不信任案否決の決定打となった菅・鳩山会談の内容が少しずつ漏れてきている。
例の菅首相の退陣をめぐっての覚書は、菅首相の側近である北沢防衛相と鳩山氏の側近の平野元官房長官が極秘にまとめ上げたものだったようだ。
両者はそれぞれ、菅首相と鳩山氏の意向を確認しながら、6月1日の夜から覚書づくりに着手して、2日の昼に仕上げたのだから、相当頑張ったのだろう。なんでも、 「鳩山は時間をかけて話をすると、あっちへ行ったりこっちへ行ったり揺れるから、一気にやろう」ということだったらしいから、鳩山氏のくるくる変わる言動と性格はよくわかってのこと。
退任の時期については、鳩山氏側の説明によると、「2次補正の早期編成のメドが立ったら」が落としどころだったらしく、菅首相が「早期編成ではなく、成立の時点ではどうか」といったところ、鳩山氏側が断ったとしていて、原子炉の冷温停止が一定のめどに当たるなどという話は、全く出ていないという。
両者は、確認文書を読み上げたうえで、鳩山氏が「達成できたら、身を捨ててほしい」と述べたのに対して、菅首相は、"この文書"に全く問題はないと明言したという。
鳩山氏が「身を捨てて欲しい」といったのに対して、菅首相の「この文書に問題はない」なんて答えになってない。第一文書には辞めるとは一言も書いてない。退任の時期も書いてなければ署名もない。だから、後からなんとでも言い逃れできるただの紙切れ。
鳩山氏が署名を求めたところ、「同じ党内の身内なんだから。私を信用してください」と菅首相は署名を拒み、鳩山氏はあっさりと引き下がった。勿体ない。90人賛成名簿を見せた時点で、鳩山氏側の絶対有利。署名を拒んだ時点で、「じゃあ、この話はこれで終わりだ」と席を立って帰ればよかっただけのこと。これでは、首相当時は外交交渉にも何にもならなかったろうと推定される。
さぁ、見事不信任案が否決され、延命を果たした「お情け宰相」殿は、少しはしおらしくなるのかと思えば、その日のうちに、周辺に辞めるつもりはないと漏らし、翌日の閣議では、「自分と鳩山氏の会話はあの紙(確認文書)に書いてある通りであって、それ以外のことは一切話をしていない」と辞任の約束を否定した。
一般的には、鳩山氏が一杯喰わされた形であるのは間違いない。
菅首相本人はしてやったりと思っているかもしれないけれど、致命的ミスを2つ侵している。
ひとつは、自分の正体を国民の多くにさらけだしてしまったこと。もうひとつは、鳩山氏をはじめ、党内の多くの議員を裏切り、菅おろしの大義名分を与えてしまったこと。
前者については、原発処理問題で、ベントを遅らせただの、海水注入を止めさせただの、これまでいろいろと国会で追及されてはきたけれど、国会内での話だし、お得意の言い訳答弁と誤魔化しで多くの国民の目を欺けたかもしれない。
だけど、今回に限っては、辞任表明という分かりやすく、かつ注目を集めるテーマの上に、代議士会の様子がそのままTV中継されていた。それをあっさりと反故にしてしまう。その顛末が赤裸々にお茶の間に届けられてしまった。
これでは、もう誤魔化しようがない。これまで菅首相のこうした姿勢は、政治に興味があって、自分で情報を取るような人の間では当たり前のことだったのだけれど、それが、政治に興味のない層にまで、知れ渡ることになった。これが第1のミス。
後者については、鳩山氏を完全に反菅に向かわせてしまった。しっかりと交渉して、辞任の約束を取り付けたと思っている人に対して、あれほど明確に辞任の約束をしていないと否定したら、一体どういう感情を持つのか想像に難くない。なのに、そうした人の気持ちを全く理解していない。
菅首相という殺風景な男。人の気持ちが分からないという欠点が、こういうところで仇になる。
今でこそ無任所とはいえ、鳩山氏は首相も勤め、不信任案採決直前の代議士会で鳩菅合意を報告して、一丸となって、と発言しただけで、不信任が可決するところを大差で否決にまで持って行った人物。それだけの影響力、いい影響なのか、悪い影響なのか分からないけれど、兎に角それだけの影響力を持っている。
鳩山氏のようにお坊ちゃんで、他人の悪意にあまり接したことのないであろう人物が、ああいう裏切られ方をしたら、どうなるか。耐性があまりないが故に物凄い反撃というか怨念というか、復讐にでることだって十分に考えられる。しかも鳩山氏は自分が民主党のオーナーだという自負がある。その自分が出て行って話を纏めて、党を守ったつもりでいたところ、あっという間にちゃぶ台返しされてしまったら、どういう感情を持つのかいうまでもない。
事実、鳩山氏は菅首相を「ペテン師だ」と厳しく批判し、こんなことなら不信任案に賛成しておけばよかったなどと言っている。
傍からみれば、ころころ発言が変わる貴方が「ペテン師」なんていう資格はないだろう、と思うけれど、それはひとまず置いておく。
それに、鳩山氏だけではなく、代議士会に出席していた、他の議員の「お情け」をも踏みにじっているから、彼らの気持ちとて、ただでは済まないし、なによりこの裏切り行為によって、「菅おろし」の大義名分を与えてしまったことが大きい。いくら、"一定の目途"が原発の冷温停止だと言い張ったところで、代議士会での発言を聞けば、ああ、あと1~2ヶ月くらいで辞めるんだな、という印象を持つ。人を馬鹿にしてはいけない。
これが2つ目のミス。
既に、鳩山氏は首相の早期退陣を求める両院議員総会開催のための署名集めを行い、衆院だけでもう150は集まったという。何ともすさまじい。
もちろん、民主党の規約には、両院議員総会で党の代表を交代させる規定はなく、仮に解任動議を採決できても、強制力はないから退陣に追い込むことはできない。だけど、方向性として菅おろしを公然と行う名分が出来た以上、早期退陣までこの流れは続くと思われる。
一般には、内閣不信任案の提出は1国会につき1度だけという慣習になってはいるのだけれど、いざ退陣させるとなると、いろんな裏ワザがあるようだ。
たとえば、国会会期延長せずに、一度閉じてからすぐ、国会議員1/4の要請で臨時国会召集してもう一度不信任を出すとか、もう掟破りして、別の内容で不信任を出すとか。
前者については、自民党の逢沢国会対策委員長が「辞める総理が国会を延長する理屈とはならない」として、会期延長に難色をしめしているし、後者については、元参議院議員で小沢氏の側近だった平野貞夫氏が、「参院で問責決議案を出せば通ると思うんですよね。それで、衆議院に出せばいい。ただ同じ内容では、震災対応では出せませんので、総辞職決議案という形で出せばいい」と、コメントしているようだ。
または、憲法69条には、「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。」とあることから、内閣信任決議案を出して否決してしまうという大ワザもあるらしい。
ともあれ、菅首相の姑息な延命策によって、民主党内の対立は決定的となった。
自民党はすでに問責決議の検討を始めている。そう遠くない時期にもういちど政局がやってくる。
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「それはウソ」色をなす鳩山前首相
2日の菅首相の「退陣示唆」は、内閣不信任決議案の可決を回避するための方便だったのか――。
攻防の舞台裏を検証した。(文中敬称略)
◆極秘作業◆
菅の退陣に関する条件なのかどうかを巡って解釈が割れた鳩山前首相と菅の間の覚書は、菅の指南役、北沢防衛相と鳩山の側近、平野博文元官房長官が極秘にまとめ上げたものだ。
「鳩山は時間をかけて話をすると、あっちへ行ったりこっちへ行ったり揺れるから、一気にやろう」
平野と北沢が覚書作りに着手したのは1日夜。鳩山は不信任案賛成の意向を表明済みだったが、平野は鳩山の、北沢は菅の意向を確認しながら、何度も電話で文案を詰めた。
2日午前、首相執務室。北沢は覚書を手に、枝野官房長官とともに菅に向き合った。
「2次補正の編成とは、成立のことか」
いぶかる菅に、北沢は「そこはぼかさないとダメです」と進言した。
約1時間後、菅は平野、岡田幹事長らの前で鳩山と覚書を交わした。鳩山は覚書を退陣条件と考え、署名を求めた。菅は「党の中のことだから、信用してほしい」とかわした。しかし、両者の意図の違いは、菅がこの日、一度も「退陣」という言葉を使わなかったことに表れていた。
◆「終わり」の始まり◆
玉虫色の合意のほころびは、すぐに表面化した。
「それはウソだ。私と首相との間で、辞めていただく条件の話をした」
岡田が2日昼の党代議士会後、菅の退陣時期について「区切っていない。(確認事項が続投の条件とは)言ってない」と記者団に語ったことを伝え聞いた鳩山は色をなして反論した。
逆に、菅は「紙に書いてないのに、何を言っているんだ」と、鳩山への不信と怒りを周囲にぶちまけた。鳩山が代議士会で、2011年度第2次補正予算案の「編成のメド」をつけた段階で菅が辞任すると説明したからだ。
鳩山には、小沢一郎元代表の顔も立てなくてはいけない事情があった。2日午前の菅との会談内容を小沢に報告した際、「どこまでしっかり詰めたのか」と問われ、「私が代議士会できちっと話をします」と約束したのだ。ただ、不信任案否決後、鳩山が議員会館のエレベーター前で居合わせた側近議員に語りかけた言葉には、菅への不信が色濃くにじんでいた。
「まだ油断できない。もし約束不履行だったら(退陣を求める)両院議員総会を(実現する署名を)150人、いや250人は集めないといけない」
矛先は岡田にも向いた。
「岡田氏が小沢元代表は除籍と言っているって? 本当にやるなら、岡田氏のクビを取らなくては」
当選1回の若手衆院議員は衆院本会議後、ため息交じりに「民主党の『終わり』は、まだ始まったばかりの気がする」とつぶやいた。
(2011年6月3日06時13分 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110603-OYT1T00130.htm?from=top
平野氏 首相と鳩山氏の会談を説明 6月3日 16時23分
2日の菅総理大臣と鳩山前総理大臣との会談に同席した民主党の平野・元官房長官は、記者会見し、「鳩山氏はきのうの会談で、菅内閣の退陣に向けた確認文書を読み上げたうえで『達成できたら、身を捨ててほしい』と述べ、菅総理大臣は『この文書に全く問題はない』と明言した。岡田幹事長が、文書が辞任の条件ではないと言うのは、的を射ていない」と述べました。
また、平野氏は「確認文書を事前に作成するなかで、『今年度の第2次補正予算案の早期編成にめどをつけること』という部分については、菅総理大臣サイドから『早期編成ではなく、成立の時点ではどうか』という打診もあったが、断った。私自身は、早期編成というのは、少なくとも1か月あれば十分だという認識だ。さらに、原子炉の冷温停止が一定のめどに当たるなどという話は、全く出ていない」と述べ、菅総理大臣の対応を批判しました。
URL:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110603/t10013301811000.html
首相の早期退陣求める声、民主党内で広がる
首相は同日の参院予算委員会で政権運営の継続に強い意欲を示したが、自民党は月内にも首相に対する問責決議案を参院に提出して退陣に追い込む構えを取り、2日に内閣不信任決議案が否決されたにもかかわらず、首相を取り巻く環境は険しさを増している。
松本外相は3日の記者会見で、首相の退陣時期について、「6、7、8月というのが一つの考え方ではないか」と述べた。松本防災相も閣議後の記者会見で、「(退陣時期は)私の頭の中には6月いっぱいというのがある」と語った。
旧民社党系グループは3日の緊急会合で、「首相は鳩山前首相が言うように、2011年度第2次補正予算案の編成メドがついた段階で退陣すべきだ」との認識で一致した。首相を支持する菅グループにも早期退陣を求める声が上がり始めた。
(2011年6月3日21時15分 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110603-OYT1T00931.htm
自民党・逢沢氏“会期延長応じられない”
自民党の逢沢国会対策委員長は記者会見で、「辞める総理が国会を延長する理屈とはならない」として、菅総理の下での国会の会期延長に応じるのは難しいとの考えを示しました。
「(菅首相が)辞められる国会を閉じる。その後、きちんと首班指名のための臨時国会を開くということが、ひとつの整理された議論になるのではないか」(自民党 逢沢一郎国会対策委員長)
菅総理大臣は今の国会の会期を大幅に延長することを検討していますが、逢沢氏は「辞める総理が国会を延長する理屈とはならない」として、会期の延長に応じられないという考えを示しました。その上で、今後の国会運営についても、「もう辞めると言った総理とやりとりしても生産的ではない」として、菅総理の退陣について政府・民主党が早く結論を出し、震災対応にあたるべきだという考えを強調しました。(03日18:52)
URL:http://hicbc.com/news/detail.asp?cl=j&id=4742211
自民、問責提出を検討=民主に「菅降ろし」
菅直人首相が早期退陣を否定したことへの反発が3日、与野党に広がった。自民党は首相に対する問責決議案を参院に提出することを検討。一方、首相の早期退陣を想定して内閣不信任決議案に反対票を投じた民主党議員の間では「菅降ろし」に向けた動きが出てきた。
自民党の山本一太参院政審会長は参院予算委員会で、東日本大震災などの対応にめどが付いた段階での退陣に言及した首相が、退陣時期を明確にしないことを厳しく批判。「野党が過半数を握る参院であなたを倒すしかない。6月末ぐらいに問責を突き付けるチャンスが必ずやってくる」と述べた。また、「政治的な詐欺だ。ひきょうで姑息(こそく)なペテンだ」と首相を非難した。
問責決議に法的拘束力はなく、可決されても首相退陣には直結しない。しかし、2011年度予算執行の裏付けとなる特例公債法案など重要法案の成立は事実上不可能となり、首相の政権運営は厳しさを増す。
山本氏の追及に対し、首相は「大震災への取り組みに一定のめどが付いた段階で、若い世代に責任を引き継いでほしい」と、従来の発言を繰り返した。ただ、松本龍防災担当相は予算委で、首相発言について「退陣表明と受け止めた」と明言した。
一方、首相の対応に態度を硬化させている民主党の鳩山由紀夫前首相と支持グループの幹部は3日、首相の進退を協議する両院議員総会の開催を求めるための署名集めを続けることを確認。幹部の1人は「衆院だけで150は集まった」と語った。 (2011/06/03-19:25)
URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=pol&k=2011060300748
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
他の政党ならなるほどとは思うが, トラストミーさんが
「信頼を裏切られた」と言っても, 何だかなー.
日比野庵殿が真面目に書かれるほど違和感が募る.
参議院問責決議でも辞めないだろう. 誰も辞めさせられ
ないと言う制度上の守りに乗っているのだから.
嘘付党に全閣僚の辞任と閣僚就任拒否と言う手が打てるか?
しかし, 嘘付党の話をしても生産的ではないですな.
ぐりたん
しかも、スタンフォード大で博士号をとったとなれば、アメリカにおいてすら一目置かれるのである。
東京工業大学の学士とは分けが違う。
鳩山さんが本気になったら、やると思うような気がします。
ですので、この投稿には納得いたしました。
sdi
なるほど。これは思い至りませんでした。たしかにTwitterでも6/2の昼間の時点では、菅首相の身の引き方を賞賛する書き込みを結構見かけました。辞任時期についての報道を見たとき、私などは「そんなの判りきったことだろうに」と思ったものです。そういう点で、友愛殿の騒ぎっぷりのほうに呆れてしまいます。菅首相の最大の計算違いは、友愛殿のお花畑といっていいほどの性格を甘く見たことでしょう。ひょっとしたら「辞任時期なんて明言できるわけないだろう。言った瞬間に即レイムダックなんだから。わかってくれよ。」という腹芸をしかけたつもりだった可能性もありますが、菅首相の性格的にあまり似合いませんね。
大平おろしのとき、最後まで辞任の約束をしなかった故大平首相はそのため不信任案可決という報復を受けましたが、「守れることしか約束しない」という点では遥かにマシだったと言えるでしょう。ジミンガーな人々には通じない理屈かもしれませんが。
almanos