今日のエントリーは「生物で放射性物質を除去するプロジェクトについて」の続きです。
5月27日のエントリー「微生物で放射性物質を除去するプロジェクトについて」のエントリーで紹介した、高嶋開発工学総合研究所の福島での実験について、やはりというかなんというか、ネットを中心に批判的な書き込みが寄せられているようで、それに対して、高嶋開発工学総合研究所は自身のサイトで反論を載せている。
反論はある大学教授に向けたものとして公表しているけれど、その内容を読む限り、京都女子大学社会学部教授で「ニセ科学フォーラム」実行委員でもある、小波秀雄氏に宛てた反論であると思われる。
反論の内容については、高嶋開発工学総合研究所のサイトを参照いただきたいのだけれど、その要旨についてピックアップすると以下のとおりになろうかと思う。
○高嶋開発工学総合研究所の反論要旨
1)ラザファード卿は、1919年に窒素が高速のα粒子の照射で酸素に変わる現象を発見した。14N(窒素)+4He(ヘリウム)⇒17O(酸素)+1H(水素)
2)ラザファード卿は、1934年になって、重水素と重水素の衝撃によって、元素融合と元素分裂(2H+2H⇒3H+1H)が同時に起こり、トリチウム(三重水素)の存在を確認した。
3)三菱重工の岩村康弘博士は、常温下で、Cr(セシウム)がPr(プラセオジム)に、Sr(ストロンチウム)がMo(モリブデン)に転換することを発見した。
4)大阪大学名誉教授の荒田吉明博士が常温核融合の公開実験(2H+2H⇒4He+エネルギー反応)に成功
5)キエフ・シェフチェンコ大学のV.I.ヴィソツキー教授らが、放射線耐性菌によって、放射性物質であるサマリウムが、非放射性物質であるバリウムと炭素に変わる反応を発見。
6)チェルノブイリ土壌の一部浄化に成功した。
7)広島・長崎の土壌中の耐放射性細菌によって、放射能・放射性物質の分解消失が起きた。
8)ステンレスが自然土壌及び天然海水で腐食して穴が開くのは常識。微生物が重金属を分解消失させる。
9)深さ15センチ耕したら、放射線量が3分の1になったのはトリックではない。透過力の強いガンマ線にとって15センチの土など無いも同然。
1については、窒素が酸素に変わるという例であって、全ての元素が変わるという例ではないから、窒素が酸素に変わるからといって、セシウムやヨウ素が消失するとはいえない。しかも、普通の土には、アルファ線照射装置なんかは埋まってはいないし、放射性セシウムや放射性ヨウ素はベータ崩壊する核種で、ベータ線は出しても、アルファ線は出さない。だから、純粋にロジックでいえば、この例は反論にはならないと思われる。
2については、おそらく、ラザフォードの弟子で、水素の核融合発見者として知られるマーク・オリファントの濃縮した重水素を加速した重水素で叩く実験のことを指していると思われるのだけれど、これも、重水素同士の衝突でトリチウムと水素ができる例であり、放射性セシウムや放射性ヨウ素の核変の例ではないから、これも反論にはなってない。もちろん、普通の土の中には、重水素同士を衝突させる加速器なんかない。
3、4、5についても同様に、放射性セシウムや放射性ヨウ素の核変の話ではないから、反論としては不十分。
そして、残りの6~8についていえば、これらが多少なりとも反論になる可能性がある。
これらについては、高嶋康豪氏が2004年にウクライナ大統領に対して「チェルノブイリ放射能土壌汚染の浄化と放射能被爆者への医療生体技術による救済」という提案書を提出している。
この提案書の中に、上記の6と7について触れられているのだけれど、残念なことに、放射能が減ったという事実のみ記述されているだけで、肝心のメカニズムについては触れられていない。ただ、2001年に台湾で低レベル放射能廃棄物を用いた実験を行なって、セシウム137を47%以上分解したとの記載はあるけれど、それだけ。
そして8については、微生物が重金属を分解するのはいいとして、ステンレスはクロムはニッケルなどからなる合金であって、別にセシウムやヨウ素を含んでいるわけじゃないから、反論にするには、やはり弱い。まぁ余談にはなるけれど、反論にあるように天然海水がステンレスに穴を開けるのが常識なのであれば、原子炉の熱交換器で、海水を巡回させる2次冷却パイプにステンレスを使うのは、そもそもにしておかしいことになる。
最後の9については、割愛する。
要するに、現時点では、筆者が反論その他を読む限り、この微生物による放射性物質の分解消去というのは、減ったという事実のみが確認されているだけで、何故、分解されるのか、どうやればそれを確認できるのか、といった理論と検証の部分が欠けているために、今ひとつ「トンデモ系」の扱いになっているように思われる。
言葉を変えて言えば、理証、文証、現証の3つの内、現証の1つしか示されていないために、あたかも、イエス・キリストが病気治しをしたように、現象だけあって、何故そうなのかを説明できない状態にある。
だから、これを本当に社会的に認知してもらうためには、理証と文証の部分、すなわち放射性物質が消去されるメカニズムとその検証方法を確立して、多くの人に確認して貰う必要があるだろう。
まぁ、それでも、現場が欲しいのは結果であって、理屈は後でいいというのも事実だから、除染に効果があると見込まれるなら、なんでもやっていいとは思う。
ただ、この現証しかない状態でも、兎に角、使ってみようというのは、一種の「信じる」行為にあたると思うのだけれど、それは時として、時間と空間を捻じ曲げて、未来の常識を現在に引っ張ってくる力として働くこともあるから、可能性という意味において、そう簡単に捨てるのは惜しいと思う。
もしかしたら、この微生物がバウンティ・ハンターよろしく、原子炉から逃亡した「人造核種」を狩ってくれるかもしれないのだから。
参考エントリー
※理証、文証、現証については、こちら「星界の文証」
※信じる行為の力については、こちらを「信じる行為と理性の関係について」
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この記事へのコメント
白なまず
参照URL http://toki.2ch.net/test/read.cgi/scienceplus/1306828210/-100
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