超音速魚雷が海戦を変える

 
今日は、国防系の話です。

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1.中国空母「ワリヤーグ」の試験航行迫る

中国が遼寧省大連で就役に向けて修復作業を続けてきた、ウクライナ製空母の「ワリヤーグ」が、近く試験航行する見通しとなったと伝えられ、一部で話題となった。

「ワリヤーグ」は、旧ソ連時代にウクライナで建造が始まった、排水量6万トンの中型空母で、旧ソ連崩壊後の1992年3月、建造資金の供給停止に伴い、工事中止。その時点で「ワリヤーグ」は船体が100%、機関が80%、その他の部分が20% の完成度であったとされている。

その後、ウクライナは「ワリヤーグ」をスクラップとして 2,000万ドルで売却する意向を示し、マカオのダミー会社「澳門創律旅遊娯楽公司」が中国本国で海上カジノとして使用すると称して1998年に購入した。

案の定「ワリヤーグ」が大連まで曳航されて間もなく、購入した「澳門創律旅遊娯楽公司」は無くなり、中国政府が"やむなく接収"し、2005年から改修工事が行なわれていた。

最近になって、「ワリヤーグ」のレーダーと武器システムに関する情報が漏れてきていて、少なくとも、短距離艦対空ミサイル「FL-3000N」と730型近接防空機関砲からなる近接防御システム(CIWS)を備えていることが明らかになっている。

対空ミサイルである、「FL-3000N」の外観は、米独共同開発のRIM-116艦対空ミサイル「RAM」に極めて良く似ており、長さ2メートル、弾径120ミリ。最大射程は高空域で6,000m、低空域で9,000m。発射間隔は3秒/1発で、誘導方式は、無線誘導+パッシブ・レーダー誘導+赤外線誘導の複合式とみられ、複数の対艦ミサイルに対処することが出来るとされる。

730型近接防空機関砲は重量8トン、長さ279センチで、箱型の砲塔上に設置され、探知距離は小型目標で8キロメートル、大中型目標で15~20キロメートル。目標を定めると、3キロメートルの距離から目標を撃墜できるといわれている。




中国政府は「ワリヤーグ」を練習艦として位置づけているようけれど、これらの装備はすでに中国海軍で使用されているものであり、その攻撃力から、単なる練習艦ではないという観測もあるようだ。

尤も、アメリカ海軍は、「ワリヤーグ」とて、並みの空母に過ぎず、純粋に戦闘能力だけからみれば、大したことはないと見ているようだけれど、周辺各国へのプレゼンスという意味では、空母を持つということは、大きな意味を持つし、正規空母として運用可能な以上、海上戦力として一定以上の打撃力を持つことになる。

「ワリヤーグ」は中国海軍の南海艦隊に所属するという噂もあるようだけれど、その場合は、台湾はもとより、尖閣を始めとする東シナ海の領有権の主張や、南シナ海の領土紛争に関してのASEAN諸国への圧力に使われることはほぼ間違いない。

日本が、これらに対抗するのに、 一番いいのは、日本も正規空母を保有して、軍事プレゼンスを発揮することになるのだけれど、「空母運用の難しさ」で述べたように、空母は建造にも運用にも莫大な費用がかかるから、今日明日で直ぐ配備というわけにはいかない。「ワリヤーグ」が近く試験航行を始めようとするこの時期に、今から空母保有を検討しても間に合わない。

もちろん、それでも空母の保有準備を進めておくことは必要だし、やらなくてはいけないことなのだけれど、現時点で政治的に中国空母を牽制しようとするならば、「そんな空母なぞ、いつでも沈められるんだぞ」というところを見せておく必要があると思う。

それも、戦ってみなければどちらが勝つか分からないようなものでは牽制にも何もならないから、話を聞いただけで明らかにもう勝てないと思わせるくらいのものでないと、政治的効果は低くなる。

たとえば、少しでも空母が変な動きをすれば、たちまちのうちに撃沈できる攻撃力を持つ潜水艦を建造するとか、保有するとかになれば話は随分違ってくる筈。

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2.スーパーキャビテーション航行できる潜水艦を開発せよ

実は、近年、海戦に革命が起こりつつあるとも言われている。それは、これまでの常識を根本から覆す超高速魚雷が開発されてきているから。

その新型魚雷は、「スーパーキャビテーション魚雷」といい、これまでの常識をはるかに超える雷速を持っている。

従来の魚雷の速度は、時速100kmから140km程だったのだけれど、この「スーパーキャビテーション魚雷」は、時速370km以上、理論上は水中での音速である、時速約5400kmも可能なのだという。

水も圧力が下がると低い温度でも沸騰することはよく知られているけれど、その圧力が極端に低くなると、冷たい海水中でも、水が気化して水蒸気となって泡が発生する。これを流体力学で「キャビティー」というのだけれど、この泡の内部は別に気体が入っているわけではなく、圧力は殆どゼロになっている。

このキャビティーはスクリューの実験中に発見されたと言われており、高速回転するスクリュー表面から急に水が引き剥がされることで、極低圧状態になり、キャビティーが発生するとされている。もちろん、この状態はほとんどの場合、一瞬だけのものなのだけれど、その後、キャビティーが安定して発生する条件が見つかったことにより、この安定したキャビティーを「スーパーキャビティー」と呼ぶようになった。

そこで、この「スーパーキャビティーの泡」で魚雷などの物体を覆ってやれば、キャビティーの泡の内側は何もないただの空洞だから、水の抵抗はあるはずもなく、水中を超高速で移動することが可能になる。

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「スーパーキャビテーション魚雷」とは、人為的にスーパーキャビティーの泡を発生させて、自身を包み込み、超高速で水中を飛翔する魚雷のことで、推進力はスクリューではなくてロケットエンジンが使われるというから、まさに水中ミサイルと呼ぶにふさわしい。

もちろん、この原理は魚雷じゃなくて、弾丸にも応用可能で、1997年アメリカのロードアイランド州にある海軍水中戦センターで、スーパーキャビテーション弾丸の発射実験が行われ、秒速1549m、時速にして5576kmを記録したという。

通常の潜水艦なり海上艦の速力はせいぜい30~40ノット、即ち、時速55~74kmくらいだから従来の魚雷の雷速(時速100km)の3倍、あるいはそれをはるかにこえる速度を持つ、「スーパーキャビテーション魚雷」が実戦配備されると、あたかも第2次大戦期のプロペラ戦闘機の時代に、マッハ2以上の超音速戦闘機が出現するようなもので、全く勝負にならなくなってしまう。

もうすでに、ロシアは「シクヴァル」と呼ばれるスーパーキャビテーション魚雷を配備しているとされており、この「シクヴァル」は、発射直後の速度は50ノット(92.6km)であるけれど、その後ロケットエンジンに点火して加速、最終的に200ノット(時速約370km)もの雷速になるといわれている。

こうした超・超高速魚雷を開発配備して、海自の潜水艦に配備すれば、中国空母に対するかなりの牽制になるのではないか。

できれば、このスーパーキャビテーションを魚雷にではなく、潜水艦そのものにも応用できれば、普通の魚雷なら簡単に振り切ってしまえる無敵の潜水艦をつくることだって可能になる。

2005年には、アメリカ国防総省が「Underwater Express」計画に基づく、スーパーキャビテーションを応用した試験潜水艦の存在を公表、最高速度は時速204kmをマークしたという。

日本もこうしたスーパーキャビテーション航行ができる潜水艦を開発・配備して、スーパーキャビテーション魚雷と射程数千kmくらいある弾道ミサイルでも搭載しておけば、相手から攻撃されることなく、中国空母や北京を攻撃することが可能になるから、かなりの抑止力になるのではないかと思う。

今や他の国々でも、スーパーキャビテーション魚雷の開発が行われていると言われている。早急な検討を望みたい。

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画像謎の新兵器 超音速魚雷

■S. アシュレー  (Scientific American 編集部)

 昨年8月,ロシアの潜水艦「K-141クルスク」がバレンツ海で爆発事故を起こして沈没したとき,事故原因をめぐってある噂が駆けめぐった。「謎の爆発は超高速魚雷の実験と関連があるのではないか」という憶測だ。
 一方,事故の数カ月前,モスクワにいた米国人実業家ポープ(Edmond Pope)がスパイ容疑で逮捕された。ロシアが開発中の超高速魚雷の設計図を買い取ろうとした疑いが掛けられているという。
 悲惨な潜水艦事故の原因も,世間を騒がしたスパイ事件の真相も,詳細はいまだに明らかになっていない。しかし,これら2つの事件はほとんど報道されることのなかった“驚異の兵器”をめぐって起きたらしい。この謎の兵器の開発が進んでいることを示唆する事実も浮かび上がってきた。現在,水中で使用する兵器や潜水艦の速度は最高でも時速140km程度だが,新兵器が実用化すれば時速数百km,ときには水中での音速(時速約5400km)を超える速さまで加速できる。
 最近になって,この新兵器の開発を世界の軍事大国がこぞって進めていることが明らかになってきた。画期的な水中兵器で完全武装したり,史上最速の潜水艦隊を編成するのが狙いだ。“水中ワープ”とでもいうべき超高速推進を可能にするこの新技術は,「スーパーキャビテーション」と呼ぶ物理現象を応用している。
 スーパーキャビテーションは流体力学で説明される効果の一種で,物体や船体が高速の流体中を動くとき,その背後に水蒸気の泡が生じることによって起きる。物体が気泡に絶えず包まれると,表面の大部分が濡れないまま保たれる。この結果,水の粘性によって生じる摩擦抵抗が劇的に減り,速度を上げられる。かつて航空分野でプロペラ機がジェット機やロケット,ミサイルへと進化したように,海の戦争もスーパーキャビテーション技術によって一変する可能性がある。

URL: http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0108/torpedo.html

この記事へのコメント

  • 日比野

    SDIさん。こんばんは。

    >沈めずに排除する能力は皆無でした。シーレーンを防護する能力と敵艦を沈める能力は同一ではありません。

    ここですね。そのとおりです。私自身は、スーパーキャビテーションを魚雷というより、潜水艦そのものに搭載してほしいのです。速度が全然違いますから、哨戒活動の在り方が変わる可能性があります。尤もスーパーキャビテーション航行をやると、あっという間に探知されてしまうでしょうから、逃げるときしか使えないかもしれないですけども、足が速いというのはやはり大きい。

    特に、海域が広い日本にとっては、いざというときの足がある潜水艦があってもいいと思いますし、政治的効果という意味でも、そのくらいの意思は見せて欲しいものです。
    2015年08月10日 15:27
  • sdi

    こんばんは。ミリネタなんで長文駄文を少々。
    旧ソ連が開発を進めロシア海軍時代に配備された「クヴァシル」を嚆矢とする高速魚雷は、確かに水上艦に対しては「かなりの脅威」でしょう。それは確かです。でも、言ってしまえばそれだけです。シースキマー対艦ミサイルが配備されたとき「これで洋上の水上艦は潜水艦や航空機の浮かぶ標的でしかなくなった」との評価もありました。しかし、21世紀になっても世界の海軍は水上艦の建造をやめてませんし、空母もしくはその類似艦の建造に狂奔していると言ってよいでしょう。それと同じ結果になるだけではないかと私は考えております。
    なぜなら、海軍の主任務は「敵艦を沈める」のではないからです。キューバ危機の際にキューバへの航路を封鎖した米海軍に対してソ連海軍は結局なすすべがありませんでした。彼らは米海軍艦艇を沈める能力はもっていましたが、沈めずに排除する能力は皆無でした。シーレーンを防護する能力と敵艦を沈める能力は同一ではありません。WW2の日本海軍がその典型でしょう。超音速魚雷が実用化されれば恐らく対魚雷平気が開発されることになるでしょう。私は空母はじめ水上艦の価値はそう変わるもの
    2015年08月10日 15:27
  • こたつがめ

    東北の震災の時にアメリカ軍が空母やヘリコプターを使って救援活動をしてくれたことが印象に残っています。これこれ!という感じ。お金はかかりますが、戦争以外でも危機の時にはその機動力は目をみはるものがあるんですね。
    魚雷のことはよくわかりませんが、武器を壊す武器があればいいのになとよく思います。
    2015年08月10日 15:27
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    スーパーキャビテーション潜水艦.

    何だかんだ言っても, 重い水を動かす必要あり.
    馬鹿のようにパワーが必要な潜水艦のようだ.
    米軍は信じられない開発を時々やる.

    魚雷一本で世界中に轟き渡るキャビテーション
    爆弾が破裂するのかな. 潜水艦の意味は何だろう.
    2015年08月10日 15:27
  • 通りすがり

    最高速度370-450kmとの噂でひっくり返るも、弱点が二つ。
    魚雷先頭部よりガスを噴出して、強制的に現象を起こす。よって
    普通魚雷装備の対潜水・魚雷・艦船ソナー・センサーに制限がある。(だから有線)
    超高速だが、猛烈に燃料を喰うので射程距離が通常の2-3分の1.
    2015年08月10日 15:27
  • 日本の守り

    日本の心神が間もなく飛びますね。
    ATDX(先進技術実証機)はステルスと対ステルスの盾と矛の相反する矛盾した技術の獲得を目指しています。日本の守り、長距離高性能レーダーとして日本各地に配備されている通称ガメラレーダー。F22のステルス機も探知出来るとか出来ないとか・・。集団的自衛権、武器輸出3原則、いずれにせよバランスの取れた国防力の整備に日本もようやく一歩近づきました。世界一規律と蓮度の高い日本国自衛隊の手足を縛っていてはダメです。特アの思い道理にさせるわけにはいきません。
    2015年08月10日 15:27
  • 白なまず

    潜水艦は極秘にやるとして、船体の抵抗を下げる技術は大型タンカーや軍艦などはすでに実用段階にきているとおもいますが、、、推進力がスクリューなので速度が普通の領域で、燃費改善に使うのみのようですね。

    【微細気泡による船底の摩擦抵抗低減の研究】
    http://www.geocities.jp/bubbly_dr/drag-reduction.html

    【三菱重工|「Best Innovation 2010」】
    www.mhi.co.jp/news/story/1101175018.html
    2011年1月17日 – 三菱重工業は、1600℃級次世代ガスタービンを実現する高耐久性遮熱コーティング技術や、泡のはたらきで船舶と水の摩擦抵抗を減らす空気潤滑システムなど17件を、「Best Innovation(ベストイノベーション)2010」に選定した。
    2015年08月10日 15:27

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