「ヨーロッパで行われているストレステストを参考にした、より安心感を高めるための対応についてであります。これについては、鋭意、整理は進んでいるところだ。エネルギー供給についての安心以上に、原子力に対する安全と安心の方がより優先度が高い課題だと私は思っている」枝野官房長官 於:7/8 記者会見
またしても、菅首相のおもいつきによるストレステスト実施発言が、政府・自治体の混乱を呼んでいる。7月5日の夜に菅首相が全原発のストレステストを実施するように、関係閣僚に支持したのが事の発端。
ストレステストについては、5月12日の時点で「84%と87%とストレステスト」のエントリーで、行うべきではないか、といっていたのだけれど、政府にそのような動きはみられず、6月18日に海江田経産相から、運転停止中の原発の再稼働についての安全宣言が出たから、そのまま再稼働するのだな、と思っていた。
ところが、今になって、急にストレステストを行うという。
原発のストレステストとは、起こることが少しでも予想される災害、運用ミス、など外的内的の様々な要因に対して、原発の弱点をコンピューターシュミュレーションによって行う負荷試験のこと。
なぜシミュレーションなのかというと、当たり前のことだけれど、地震や津波は人為的に起こすことができず、現物での実験は不可能だから。
EUでは、震災のわずか2週間後の3月25日に、欧州委員会でストレステストについて議論し、EU内全ての原発143基のストレステストを行うことを決めており、6月1日からストレステストを開始、年内に中間報告、来年6月に最終報告が提出される予定になっている。
EUでのストレステスト項目は大きく2つに分かれていて、1つは、地震・洪水・極端な高低温、竜巻、豪雨その他といった、いわゆる天災にたいする耐性試験。もうひとつは、飛行機墜落、近辺での爆発および火災、そしてテロ攻撃などの、人為的災害に対する耐性試験。
前者については、災害時に全ての安全機能が即時稼働するか、安全に停止できるか、電力の供給はどうか、放射性物質は放出しないかなどをチェックする。特に電源喪失時にバックアップ体制や、バックアップバッテリーそのものが故障している場合はどうするかなどの項目もあるというから、福島第一で起こった問題を自分のところにフィードバックして、テスト項目に組みこんでいるように見える。
実際、EUは「福島事故で、考えられない事態が起こること、2つの自然災害が同時に起こること、全電源の喪失が起こることを学んだ」と言っているそうだから、しっかり"日本の事故"を活かそうとしているのだろう。
また、後者については、飛行機の墜落やテロなどで原子炉内格納容器がダメージをうけないか等のチェックを行うという。
原子力安全委員会は6日、経済産業省原子力安全・保安院にストレステストの手法と実施計画を1週間程度で作るよう求めたそうなのだけれど、枝野官房長官の発言のように、EUのストレステストを参考にするというのは、取り組みが遅れたから、ある程度は仕方ないとはいえ、EUのストレステスト項目自体が福島原発事故を参考にしているであろうと思われるのに、それを孫引きの要領で使うとは、自分達が事故から何も学んでいませんと白状するようなもの。
これでは、6月18日の安全宣言は、福島の事故を受けて、緊急安全対策を実施した上での安全宣言ではなかったのだ、と思われても仕方がない。
7月7日、経団連の米倉会長は、担当大臣の安全宣言は何だったのかと批判しているけれど、そのとおり。恥ずかしくないのか。
傍からは、政府の対応は何もかも後手後手、もしくは、真剣に取り組んでいないようにしか見えない。
それでも、海江田経産相は、安全宣言とストレステスト実施の間の矛盾を取り繕おうと、6月18日の安全宣言と、ストレステストを切り離して、ストレステストは再稼働の条件としないとした。確かに双方の矛盾を解消しようとすると、それしかない。安全宣言は安全宣言できちんと福島原発事故を教訓にして対策しました、ストレステストは、それとは無関係だけど、更なる安全のために念のために行うものです、というロジック。
これは、例の浜岡原発停止要請において、事前に海江田大臣と中部電力で事前折衝をして、浜岡原発の東海地震確立87%に対しての備えは十分にしているものの、東南海、南海との連動型巨大地震や、想定外の津波に対する備えが万全かどうかについて再度検証するので、それまで一旦停止する、という理由づけをして停止させようと調整していたのとほぼ同じロジックであり、どうにか丸く収めようとする苦肉の策だったと思う。
7月7日の参院予算委員会で、海江田大臣は次のように答弁している。
「昨日の朝、私はストレステストが必要だということを言ったが、その前に私が行った原発の安全確認は今でも生きている。そういう意味で玄海原発については安全宣言をしている」
海江田大臣の発言からは、なんとか安全宣言と、ストレステストの間の矛盾をなくそうとしているように見える。
今回の玄界原発再稼働についても、海江田大臣は佐賀県の古川康知事と膝詰めで交渉をして、あと一歩、首相の説明で再開受け入れOKのところまで持ってきていた。
ところが、6月30日に、海江田大臣が菅首相に対して、玄界原発の状況報告と共に、首相の一押しという、最後の手柄の部分を差し出して、菅首相にお願いしたにも関わらず、返ってきた言葉が「うまくやってくれと言っただろう!俺は知らない」なんてありえない。
6月18日に海江田大臣が、運転停止中の原発について「安全上、支障がない」と宣言し、翌19日に菅首相は「私もまったく同じ」と安全宣言に同調していた。それが、俺は知らないとは無責任も甚だしい。
菅首相は、7月6日の衆院予算委員会で、ストレステストを含めた、再稼働の条件検討を行うように指示したと答弁し、ストレステストが再稼働の条件になる可能性が出てきた。
海江田大臣の苦肉の策も菅首相がぶち壊そうとしている。
海江田大臣が7月7日の参院予算委員会の答弁で辞任を示唆したのも、当然だろう。よく耐えているものだと感心するくらい。答弁での海江田大臣の表情からは、もうやりきれないという思いがありありと伺えた。
7月7日の参院予算委員会で片山さつき議員の質問時に、菅首相以外閣僚が誰もいない場面が10分ほどあった。あれが何より、菅政権の姿を象徴している。
責任は感じても、責任は取らない。
謝罪は口にしても、補償はしない。
どこかの国会で「全ての失政を押しつけ、責任を免れようとすることこそ、恥の文化に反する」などと語った人がいたようだけれど、是非、その言葉を菅首相に向かって話していただきたい。


海江田万里経済産業相は7日、自らが担当する原発事故関連の法案の成立に見通しが立った段階で辞任する意向を固めた。海江田氏は、原発の運転再開をめぐる菅直人首相の方針が二転三転していることに不満を募らせる一方、辞任を表明した首相が長期間、続投することにも反発していた。
海江田氏は、担当する法案の成立にめどがつけば、菅政権が続いていたとしても途中で辞任する考えだ。
首相は震災復興や原子力政策の改革などを掲げて政権運営になお意欲を示している。松本龍・前復興担当相に続き、原子力政策を担当する海江田氏が辞任すれば、首相が続投理由に挙げる政策の担当閣僚の人事の混乱につながり、政権運営は一層難しくなる。
海江田氏は7日の参院予算委員会で、菅政権が全国の原発を対象に行う安全性評価(ストレステスト)に対し、九州電力玄海原子力発電所の地元の佐賀県や同県玄海町が反発していることへの責任を問われ、「いずれ時期が来たら、責任を取らせていただく」と答弁した。海江田氏は予算委後、民主党の国会議員から「がんばって下さい」と声をかけられると、「私は辞めます」と明言した。
海江田氏は具体的な辞任の時期として、首相が辞任の前提に挙げている第2次補正予算案、特例公債法案、再生可能エネルギー特別措置法案に加え、海江田氏が担当し、原発事故賠償の枠組みを定める原子力損害賠償支援機構法案に成立のめどがつく時期を想定しており、8月中旬にも辞任する可能性がある。
URL:http://www.asahi.com/politics/update/0707/TKY201107070226.html
この記事へのコメント
白なまず
八目山人
そしてその資料は日本政府に全て開示しているといっています。
今になってストレス何とかとか。日本政府(民主党政権)はどうなっているのか。
sdi
与謝野入閣といい今回の菅首相の思いつき発言といい、海江田大臣は菅政権を首脳部(というか菅首相独り?)からコケにされまくってますね。さすがに、今回は海江田氏に同情を禁じ得ません。
ちび・むぎ・みみ・はな
日本の組織が至るところで役立たず化している.
直接の原因は嘘付民主党の役立たず達だが,
浪風を立てずを良とした長年の歪みの結果だろう.
産経の阿比留氏がブログで山本七平の「空気の研究」
について述べていたが, とことん議論せずに物事を
取り繕うやり方が日本を駄目にしてきた.
その日本人の嫌らしさが実体化すると嘘付党の
ヒトデナシ氏になるのだろう. 悪霊は実体化した時
がもっとも払い易い. 今が最大の危機であって
最大の好機でもある.