8月24日の早朝、中国の漁業監視船「漁政31001」と「漁政201」の2隻が尖閣諸島久場島北北東19キロの領海に浸入する事件があった。
2隻は縦列で航行し、午前6時36分ごろから7時13分ごろまで日本の領海内に入り、「漁政201」は、海上保安庁の警告にも関わらず、7時41分ごろから7分間、再び領海内に侵入したという。
巡視船の警告に2隻は「魚釣島その他周辺諸島は中国の固有の領土である」「法にのっとり中国管轄海域において正当な公務を行っている」などと応答し、更に、船上に同じ内容の中国語を表示した電光表示盤を掲示したというから念が入っている。
海洋は自由航行の認められた公海と、沿岸国の主権がおよぶ領海とに分けられるのだけれど、19世紀末までは領海の幅は3海里とされていた。
これは、18世紀のオランダの国際法学者バイシケルスフーク(Bynkershoek)とイタリアのアズニ(Azuni)が当時の大砲の着弾距離の範囲から領海の幅を定めようと提案したことが元になっていて、それが3海里。
ところが、当然のことながら、時代が下って軍事技術が発達してくると、当然のことながら、沿岸砲の射程距離が伸びていったこともあり、安全保障、資源配分、環境保護その他の要因で、統一的な国際慣習はどんどんなし崩しになっていった。
1945年9月のトルーマン宣言においては、自給自足体制確立のために領海外の大陸棚にある鉱物資源の管轄権が主張され、1952年のサンチアゴ宣言では、チリ、ペルー、エクアドルの三ヶ国がフンボルト海流のアンチョビ漁を確保するために領海200海里を主張した。
この領海の幅については、各国の利権がそれぞれ絡んでいて、国際合意が得られるまでには長年が費やされた。
なぜかというと、既に全世界の海で漁業を行っていた諸国にとっては、これまで通り世界中で漁業を続けたいから、公海は広ければ広いほどよい。すると必然的に各国の領海は狭くなっていて欲しいから、従来の領海3海里を主張していた。
それに対して、漁業がそれほど発達しておらず、遠洋漁業を行う力のない発展途上国は、逆に領海を広くとることで、自国の海産資源を確保したいという思惑から、広い領海を主張し対立した。
また、軍事的側面でも対立があって、海軍力の勝る西側諸国は、自国海軍の行動範囲を広げるために狭い領海を主張したのだけれど、相対的に海軍力で劣る東側諸国は、その西側諸国の海軍の行動に制限をかけようと広い領海を主張していた。
このように、海洋資源の面と軍事安全保障のそれぞれの面で各国の利権が真っ向対立したために、領海の幅は中々決まらなかった。
そこで、国連を中心として、沿岸国の権利と自由通航の確保を両立させるための条約制定会議が行われ、1982年に国連海洋法条約が採択された。
この条約で、各国の沿岸から200海里(約370km)を「排他的経済水域(EEZ)」として設定し、全ての国に、航行と上空の飛行および海底電線・海底パイプラインの敷設を認める代わりに、沿岸国は、この範囲内の水産資源および鉱物資源などの非生物資源の探査と開発に関する権利を持つように定められた。
要するに、沿岸国に対しては、沿岸200海里の経済的主権に限定して認める代わりに、沿岸200海里は自由航行できる水域として確保するという解決策。
それでも、領海のすぐ外側に排他的経済水域があって、領海スレスレを他国の漁船だの軍艦だのが自由気ままに航行されてしまうと、今度は、安全保障上問題になるから、そのためのクッションとして、「接続水域」と名付けられた、領海の外側12海里以内の排他的経済水域内を設定している。
「接続水域」では、関税・財政・移民・衛生上の国内法令違反の防止・処罰のために、必要な法規制・通関の取締りを行うことが認められている。
今回の中国の漁業監視船は、北から日本の領海に侵入したあと一度東に舵を切って、領海を出た後、直ぐ舵を南に戻して、再び領海に入ったあと、領海の直ぐ外側を舐めるように航行している。
中国の漁業監視船は24日の午後5時2分までに接続水域から出たというから実に12時間近くに渡って、接続水域内を航行していたことになるのだけれど、主権国の取締りが認められている接続水域内を長時間にわたって、なおかつ領海に沿って航行したのだから、これはもう明らかに示威行動とみていいだろう。
もちろん、菅政権の退陣間際という、政治が一番機能しにくい時期を狙って仕掛けることで、リスクをなるべく低く抑えつつ、規制事実を積み上げていこうという合理的なやり方だと思われるけれど、これに対しては日本政府はきちっと対応する必要があることは言うまでもない。
尤も、「領海侵犯」は「領空侵犯」とは、管轄権において少しその性格は異なっている。領空侵犯の方は、国際法違反として扱われ、当該国は強制着陸や撃墜などの対処措置を取ることができるのに対して、領海侵犯のほうは、管轄権は持つものの、沿岸国以外の国の船にも無害で航行する権利(無害通航権)が認められている。
従って、他国の船が無許可で領海に入ったとしても、それだけで即座に領海侵犯には出来ない。
国連海洋法条約には、こうした無断での領海侵入行為(自国領海での無害でない通航)に対して、それを防止するため必要な措置をとることができる、となっていて、これまで日本は、こうした船に対して、発光信号や、音声信号などで停船要請や退去要請で対処してきた。
もちろん、これらの要請を無視する場合には、国際慣例に則り、質問、強制停船、臨検、拿捕及び強制退去等の措置を行うことができるとされている。
8月10日の参院沖縄北方特別委員会で、みんなの党の江口克彦議員から、北方領土も、竹島も、尖閣諸島も、全部実効支配で外国のものになってしまうと批判された、枝野官房長官が「我が国が有効に支配している尖閣諸島に対して、他国が侵略をしてきたら、これはあらゆる犠牲を払ってでも、自衛権を行使してこれを排除する」と発言している。
そこまでいうのであれば、半日に渡って接続水域に侵入され、あまつさえ領海侵犯(侵入)までされてしまった事実に対して、毎度毎度の抗議だけで十分なのかどうかについては疑問が残る。


24日午前6時15分ごろ、沖縄・尖閣諸島久場島の北北東約30キロの日本の接続水域(領海の外側約22キロ)内で、中国の漁業監視船「漁政31001」「漁政201」が航行しているのを第11管区海上保安本部(那覇市)の巡視船が確認。2隻は一時、日本の領海内に侵入し、午前10時15分時点で接続水域内を南向きに航行していた。海上保安庁は領海内に侵入しないよう無線などで警告している。
海保によると、昨年9月の中国漁船衝突事件発生以降、中国の漁業監視船が尖閣諸島の接続水域内で確認されたのは12回目で領海内に侵入するのは初めて。政府は同日、首相官邸危機管理センターに情報連絡室を設置した。
2隻は縦列で航行し、午前6時36分ごろから7時13分ごろまで日本の領海内に入った。また漁政201は7時41分ごろから7分間、再度領海内に侵入した。
巡視船の警告に2隻は「魚釣島その他周辺諸島は中国の固有の領土である」「法にのっとり中国管轄海域において正当な公務を行っている」などと応答し、船上に同じ内容の中国語を表示した電光表示盤を掲示している。巡視船は「尖閣諸島は日本の領土であり漁政の主張は受け入れられない。ただちに日本の領海外へ退去せよ」などと警告している。
中国公船が領海内に入ったケースは、平成20年12月に中国国家海洋局所属の海洋調査船2隻が9時間にわたり領海内に留まって以来という。
URL:http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110824/crm11082411380009-n1.htm
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