8月2日、防衛省は、本年度の配備を目標に開発を進めている次期哨戒機P1の主翼や胴体に数カ所のひび割れが見つかったことを明らかにした。
これは、地上で機体に圧力をかけて強度を調べる試験を行った際、主翼や胴体のネジ部分などに数センチ程度のひび割れが複数見つかったとのことで、防衛省は、原因を調べた上で、強度を高める必要があるとして、部隊配備を来年度以降に先送りする方針だという。
哨戒機とは、主に潜水艦や艦船を探知・攻撃することを主任務とする航空機のことで、それ以外にも、近年は、洋上監視、捜索救難、輸送、映像情報収集、通信中継など任務の多様化が進んでいる。
特に日本のように四方を海に囲まれた国家にとっては、領海や排他的経済水域での情報収集、監視、警戒などの哨戒任務は24時間体制で行われている。
哨戒機はその任務の目的から機内にはレーダー、ソナー、磁気探知機、赤外線カメラなどの捜索機材が搭載されていて、また、敵が発射する電波の収集、分析、位置特定をも行なっている。
近年は、軍事行動における、リアルタイムの情報収集能力と情報交換能力が求められていて、陸上基地、友軍艦艇、レーダーサイト等とのデータリンク技術が向上してきている。
現在の自衛隊の主力哨戒機はロッキード社の旅客機L-188エレクトラの機体を流用し開発されたP3-Cで、1981年に最初の3機がアメリカで引き渡されて以来、1997年までに計101機が海自に配備、運用されている。
このP3型哨戒機は世界各国で使用されているのだけれど、海自のP3-Cは最新型のアップデートが加えられ、レーダー、電子支援手段 (ESM:Electronic Support Measures)、赤外線探知システムなど各種の対潜捜索・探知装備とこれらの情報を総合的に処理する大型デジタル・コンピュータを搭載している。
ただ、この機体も初飛行から、はや40年経ち、老朽化も目立ってきた為、2009年から退役が始まっている。
防衛省(当時は防衛庁)は2000年に、次期哨戒機を国産で開発すると発表し、2001年より研究開発が始まった。
そして2007年7月にP1の1号機がロールアウト、翌2008年に防衛省の納入され、運用試験が行われている。
P1はP3-Cと比べて、やや大き目の機体なのだけれど、巡航速度833km/h、上昇限度13520mと速度、高度ともP3-Cの約3割増の性能となっている。
時速833kmといえばF-4E戦闘機の巡航速度が940km/h、F-15戦闘機の巡航速度が1100km/hであることを考えると、相当な高速な機体であることが分かる。
進出速度が速いという事は、現場海域までの展開に要する時間も短くて済むことになるし、また、最前線での哨戒活動に付き纏う、敵機からの脅威から逃れるための逃げ足を持つことにもなる。
尤も、哨戒機は、対潜哨戒を行う際には低速・低高度での飛行を行なわければならないのだけれど、そのためにエンジンを4発積んでいて、現場海域までの高高度・高速移動には4発全部を動かし、洋上哨戒に入ったら、そのうちの2発を止めることで対応するようだ。
P-1には、機首前面と両側面に各1枚、尾部に1枚の東芝製のアクティブフェイズドアレイレーダー(HPS-106)が搭載されている。
フェーズドアレイレーダー(Phased Array Radar)とは平面上に多数の小さなアンテナを備えていて、平面上の多数の小さなアンテナからそれぞれ放射する電波の位相を電気回路で制御して、レーダー波の方向を変えることができるもので、アンテナの首振りを必要としない。レーダー画像はそれぞれのアンテナからの電波を合成して得られる。
P-1に搭載されているアクティブフェイズドアレイレーダーは、機体の機首と尾部、そして両側面に設置したレーダーからの画像を、更に同時運用することで、一度に360度の視界を持つことができるという。
高速移動しながら索敵する哨戒機にとって、4方向360度を一度に索敵できるレーダーを持つことは、その索敵能力を大きく向上させる。
更に、兵装の搭載能力も高く、翼に対艦ミサイル(ASM)を最大8発、それとは別に胴体内に爆弾庫があって、そこに対潜魚雷を最大8発搭載できるのだけれど、ここにも対艦ミサイルが搭載できるという話もあるようだ。
これは、アメリカの次期哨戒機として開発中のP-8の兵装能力である対潜魚雷6発、ASM4発をも上回り、攻撃機としても強力な兵装を持っていることになる。
勿論、対艦ミサイルを8発も積んでしまうと、その分重くなるので、哨戒活動時間は制約されてしまうので、哨戒と対艦攻撃を同時にやるのではなくて、哨戒を主任務として、対艦攻撃等はオマケ扱いではないかと思うけれど、馬鹿にならない打撃力ではなる。
だから、P-1は名称こそ哨戒機とはいえ、性能・兵装を見ると、対艦・対潜攻撃機としての能力も有し、やろうと思えば爆撃機にもなるといったマルチロールな使い方も可能とする優秀な機体ではないかと思う。
それだけに、今回のひび割れ発見は残念。早急な原因究明と対策を施して、配備の遅れを取り戻すことを求む。


防衛省は2日、本年度の部隊配備を目指し開発中の次期哨戒機P1の主翼や胴体に、10?15センチの数カ所のひび割れが見つかったと明らかにした。予定していた4機の導入は来年度以降にずれ込む見通しで、自衛隊の警戒監視態勢に影響を与える可能性もある。
P1はP3C哨戒機の後継機として開発する初の純国産哨戒機。海上自衛隊は約90機のP3Cを保有し、日本周辺で中国やロシアなど他国の艦艇の動向を監視している。
防衛省によると、地上で機体に圧力を加えた試験の際、主翼や胴体のねじ部分周辺などに数カ所のひび割れができているのが見つかり、強度を高める改善策が必要になった。
URL:http://www.topics.or.jp/worldNews/worldPolitics/2011/08/2011080201000277.html
この記事へのコメント
白なまず
ちび・むぎ・みみ・はな
ひび割れは昔からずっと癖もの.
日立のタービンやナトリウム型原子炉の温度計を
思い出すと, 少し技術の伝承が滞ると振出に戻る
シビアな部分のようだ.
解決策はどんどん作り続けること.