「人々のニーズをつかみ、最も効率よくそれを生産して販売することによって、多くの富が得られるのが、貨幣経済競争社会。それに対し、人々の不安や不満をつかみ、最も効率よくそれを解消する方法を提案することによって、多くの人に影響を与え、尊敬と称賛を得られるのが、評価経済競争社会。」岡田斗司男著「評価経済社会」より
1.Anime Expo 2011
2011年7月、ロサンゼルスで、北米最大級のアニメイベント「Anime Expo」が開催された。
Anime Expoの開催は、今回で20回を数え、国内外から多くの人が集まり、4日間の開催期間中の参加者は実数で4万7000人以上、延べでは12万8000人を超えたと発表されている。
しかも参加者の半分くらいは日本のマンガやゲームのキャラクターのコスプレをしていたというから恐れ入る。その中には「魔法少女まどか☆マギカ」のキャラクターもいたそうだから、日本の放映をほぼリアルタイムで見ていることになる。
今回のAnime Expoで注目されたイベントの一つに、例のボーカロイドアイドル「初音ミク」のコンサートが行なわれたこと。
会場には、Anime Expoから流れてきた客がコスプレ姿のまま詰めかけ、実に6000人を動員したという。会場は満席で7000席だとのことなのだけれど、現地に参加した人によると、視野角の問題を少しでも解決しようと1階両端には客を余り入れなかったそうだから、それを差し引くと、ほぼ満席だったといっていいかもしれない。
ライブは物凄い反響で、イントロが流れた瞬間に会場全体が絶叫して日本語で歌っていたそうだ。1階後方席は3曲目くらいからは総立ちで、前から10列目くらいまでのVIP席と思われるところも、最後は総立ちしていたという。
ライブ後もあちらこちらから「awesome」「oh my god」「amazing」などの単語が飛び交って多くの参加者を陶酔させた。なんとも凄い。
初音ミクなどのボーカロイド・ソフトを開発した、クリプトン社によると「初音ミク」が世界的に認知されるようになったのは投稿動画サイトの影響が大きく、CDの発売やゲームの発売がその後押しをしたのだろうと見ているようだ。
クリプトン社は、初音ミクのユーザーについて、「購入いただいた当初は、好きな曲、綺麗な曲をミクに歌わせていたと思いますが、次にソフトの可能性を探ろうとして様々なチャレンジをしていただいているようです。ソフトを使って他の人に迷惑をかけるようなものでなければ、色々試していただきたいと思っています」としていて、自由な使い方を望んでいる。
初音ミクの元となる声は、声優の藤田咲さんが担当し、2日間で3時間づつ計6時間かけて行なわれた。スタジオでの録音は「意味のないカタカナの羅列」を歌詞として、流れるメロディーに合わせて歌うことで収録したそうだ。
藤田咲さんによると、初音ミクは声優としてアニメキャラの声を当てているときとはちょっと違うとして、次のように述べている。
「私自身は「初音ミク」が歌っている、という感覚です。自分で歌うと自分の表現があると思っているからです。「初音」さんの場合は、その、二日間かけて作った「初音ミク」というキャラクターが私の中でちゃんと確立していて、あとはクリプトンさんにお任せしますという形でお別れをしてきましたので。・・・
アニメだと自分が経験したものを切り取って表現している部分が非常に多く、3ヶ月とか半年という期間で、一緒に成長しているといった感じです。「初音」さんの場合は…何て言ったらいいのか試行錯誤したんですが、自分の分身だけど私は「初音」さんに魂を入れた段階でお別れをして、そのあとのストーリーはユーザーさん、一人一人の力で作って下さった、と捉えているんです。100人ユーザーさんがいたら100通りの「初音ミク」のキャラクターが存在している。だから、大きなムーブメントは全てユーザーさんのおかげなんですよね。」
このように、声を当てた本人も自分が歌っているのではなくて、「初音ミク」が歌っていると感じている。だから、バーチャルとはいえ、ボーカロイドは相当にキャラクターとして確立していて、それらに対して、ユーザーがそれぞれに味付けしていく、いわば、個人でプロデュースできる魅力があるのかもしれない。
初音ミクの楽曲の殆どは一般ユーザーによる、いわゆる素人作品。それでも、日本はおろか海外の人々を絶叫させるくらいにまでの人気になる。単なるアイドルキャラとしての魅力だけではこうはいかないだろう。初音ミクには、自分もこうした曲を作って、多くの人に聞いて貰えるという可能性が籠められている。
単に、素人が趣味で作ったものが、周りの人に評価されて終わっているうちは、それだけのことで終わっていたのかもしれないけれど、それが、経済効果を生むとなると少し話は違ってくる。
2.評価経済社会
オタキングex社長で、大阪芸術大学客員教授でもある岡田斗司夫氏は、これからは、あらゆる価値が貨幣によって数量化され交換されてきた「貨幣経済社会」の時代から、情報の発信者が受信者に情報だけでなく「価値観」をも与え、情報を受け取った側は発信者に「評価」を返す形式が優勢になる「評価経済社会」がやってくるという。
たとえば、多くのフォロアーをもつ人がツイッターである商品について、「これはいい」と好意的評価をしたとする。すると、それを見た人が影響されて、紹介された商品を購入し、その感想をリツイートしたりするとかなどは、情報と価値観を発信し、それに対する評価を返す、評価経済の典型例だし、コミケなどのように、本さえ作れば誰でも参加でき、誰でも買う事ができるという、参加者が供給側でもあり、購入側でもあるという双方向型の交換がなされていて、その売上は専ら「人気」という評価によって、成立している。
コミケで売られる本の中には、人気アニメや漫画をモチーフにした、二次創作、三次創作の作品なども数多く販売されているけれど、アニメや漫画に影響されて、新しい創作活動が行われ、またそれが評判になって、経済活動をドライブしていくという、評価経済社会が出来上がっている。
このように、評価経済社会とは、「評価」を仲介として「モノ」「サービス」、そして「カネ」すらも交換される社会であり、それが今私たちの足下で起きている社会変化のポイントなのだと岡田斗司夫氏は言う。
「かわいいは正義」のエントリーで、グーグル広告プラニングシニアマネージャーの高広伯彦氏が、企業が“商品に合った消費者”を探す時代から、消費者が自分に合った商品を探す時代になった、と指摘したことを紹介したけれど、企業が“商品に合った消費者”を探すという行為は、企業側から情報発信し、それを受け止めて貰える層に売り込む形式、いわば、購買層をセグメント分けして、各々を数量化してターゲットを絞り込んでゆくやり方。
だから、これは、岡田斗司夫氏の定義に従えば、どちらかといえば、従来の「貨幣経済社会」に近い考えであるのに対して、消費者が自分に合った商品を探すという行為は、消費者側が、商品に独自の評価を与え、それに従った購買行動をするという意味では、評価経済社会に近いといえる。
ここで、個人が商品に与える「独自の評価」に影響されて、また別の個人が評価を与え、それらが循環していくと、はっきりと「評価」と「影響」をお互いに交換しあう購買行動になるから、益々
「評価経済社会」に近づくことになる。
こういった評価が経済活動を促すということを理解すれば、たとえば、アニメや漫画に、実在する商品が登場したとすると、視聴者によって、それらに「評価」が与えられ、それが良いともなれば、爆発的に売れてしまう現象も当たり前のように思えてくる。
だから、それらを応用すれば、CMのように単に供給側が何らかの商品イメージを作って、一方的に視聴者に流す方式から、アニメや漫画作品を直接スポンサードして、作品中に自社製品を出してもらう方式、たとえば、作品の人気キャラクターが自社製品を扱っているシーンを入れてしまうようなやり方のほうが効果がありそうな予感を漂わせる。
3.TIGER&BUNNY
そんな、企業が直接アニメなどをスポンサードするようなやり方があるのかというと、実は既にその試みが始まっている。
たとえば、今春から放映されている「TIGER&BUNNY」というアニメがそれ。
このアニメは、ある国の近未来大都市・シュテルンビルトを舞台に、「NEXT」と呼ばれる特殊能力者が、街の平和を守る「スーパーヒーロー」として活躍する姿を描いた作品。作中に登場する8人のヒーロー達は、普段は一般人としての生活をしていて、事件・事故が発生するとヒーロースーツを装着し、犯人追跡や人命救助などに奮闘する。
彼らヒーロー達は、全てスポンサーの援助を受けていて、その活躍ぶりはテレビで生中継され、街の平和を守るだけでなく、ヒーローが目立つことで企業のイメージアップに貢献することも大事な使命だという設定となっている。
よって、彼らのヒーロースーツには、企業のロゴが入っているのだけれど、その企業ロゴに実在の企業のものを使っていることが最大の特徴。
あたかも、プロサッカー選手のユニフォームに企業ロゴが入っているように、アニメのキャラクターに企業ロゴを持たせるという新しい宣伝方法を取っている。
たとえば、主役ヒーローの一人、ワイルドタイガーのスーツの胸には「ソフトバンク」のロゴが入っているし、氷を操る特殊能力を持つヒロイン、ブルーローズの帽子、両腕、両脚には、「ペプシネックス」のロゴが入っている。
このアニメの制作を行った、サンライズの尾崎雅之エグゼクティブプロデューサーによると、ヒーローが企業のために働くという設定なので、実在の企業ロゴを身に着けさせることができないかと考えたとのことで、二次利用も見据えた広告展開として、アニメビジネスの閉塞感を打破できるものになればと期待を寄せているという。
実際、ヒーロースーツにロゴを入れる企業の公募は昨年11月下旬から始まり、約70社から問い合わせがあったという。番組序盤にロゴを出す企業は9社に絞られ、8人のヒーロースーツの胸、肩、腕などに12種のロゴが入れられている。予定されている全25話の途中でロゴの追加や交代もあるようだ。
実際、この作品による広告効果は物凄いらしく、たとえば、メイン・ヒーローの一人、バーナビ―ブルックスの両親を殺した犯人のキーワードとして『ウラボロス』が出てきた回があって、その『ウラボロス』のマークとよく似たラベルを持った「ブルックス・ピノノワール」というワインが爆発的に売れたりしたそうだ。
こうした広告効果の凄いところは、単にCMを見たから買うなどといった、どちらかといえば受け身な購買行動ではなくて、あれは何だ、何処にあるんだ、と自分でグーグルなどで検索して探し当てるといった、能動的な購買行動になっているということ。
これは、自分で商品を探すという対象に対して積極的な評価を与えた上での購買行動だるから、はっきりと、評価経済的な動きだといっていいだろう。
こうした「TIGER&BUNNY」のように、直接アニメをスポンサードして、それが世に受け入れられ、売上が伸びるのであれば、これからもこうした形のアニメ制作も増えると思われるし、また同時に、それは、評価経済社会の到来を告げるものになるのではないかと思う。
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米国アニメエキスポ 来場者過去最高 128000人超える2011年7月05日(火)12:56
7月1日から4日まで、米国ロサンゼルスで開催された日本アニメ・マンガの大型イベント アニメエキスポ(Anime Expo)は、来場者数が実数で4万7000人以上、延べ人数で12万8000人を超えたと発表した。アニメエキスポは1992年からカリフォルニア州で開催されている。日本アニメ・マンガのイベントでは北米最大規模を誇る。
これまでの過去最高は2009年の4万4000人(実数)、2010年は実数では前年比を下回ったともされているが延べ人数10万5000人だけが明らかにされている。2011年は、この双方を大きく上回ったことになる。また、延べ人数では前年比で22%増と、来場者は2006年以来の高い伸びとなった。
今年のアニメエキスポが大きな伸びをみせたのは、業界を取巻くムードの変化もあるのかもしれない。近年は大手企業の撤退が相次ぎ業界全体が重いムードに包まれていたが、そうした動きも一段落しつつある。また、2011年は6000人を動員したボーカロイドのアイドル 初音ミクのコンサートなどボーカロイド関連の積極的な動きも影響したかもしれない。
また、ゲーム関連の存在感の拡大、ニコニコ動画やクランチロールなどの動画配信サイトのライブ中継の本格化など、新しい時代の流れを取り込みつつある。
一方で、ここ数年、米国で指摘される関連イベントの成長とアニメ・マンガのビジネス不振のミスマッッチ問題は解決されていない。アニメは2000年代半ば以降、マンガは2008年以降、北米での売上げが急減しているからだ。
2011年のアニメエキスポ成功は、依然北米には多くのファンと潜在的なマーケットがある可能性を感じさせる。アニメ・マンガの北米展開に、大きな課題を投げかけるものだ。
アニメエキスポ(Anime Expo) http://www.anime-expo.org/
URL:
http://www.animeanime.biz/all/117851/
バーナビーさまさま! アニメ「TIGER & BUNNY」効果で“ブルックスワイン”に注文殺到 2011年06月08日19時03分
あるワインショップで、テレビアニメ「TIGER & BUNNY」の登場人物「バーナビー・ブルックスJr.」と同じ名前のワイン「ブルックス・ピノノワール」に注文が殺到しました。その経緯と売れ行きへの驚きをつづったワインショップの店長のブログに注目が集まっています。
オンラインワインショップ「パシフィックワインセラーズ」の店長、toryさんは、6月6日(月)に週末の受注内容を確認していた際、普段はそんなに注文が入らないはずのワイン「ブルックス・ピノノワール」に注文が集まっていることに気づいて不思議に思ったそう。そこでTwitterに「休み明け注文やたらと『ブルックス・ピノノワール』の注文が目に付きます。どっかで取り上げられたんでしょうかね?」とツイートしたところ100人以上にリツイートされ、驚いたそうです。
リツイートされた理由について調べてみると、ブルックス・ピノノワールが、MBSなどで放送中のアニメ「TIGER & BUNNY」に登場する「バーナビー・ブルックスJr.」と同じ名前であることがわかったそうです。ラベルには作中に登場するマークに似た模様も描かれていたため、toryさんは「ここにピンと来た人数名がワインを購入」したのではと推測しています。
toryさんは予想外の注文数について、Twitterで「ワイン漫画だTVなんだで紹介されるよりはるかに大きな爆発力でした」とツイートしています。キャラクターと同じ名前のワインに注文が殺到したことに対し、はてなブックマークのコメント欄では、「ブルックス単体で検索かけるタイバニクラスタがすげえ」「ロゼなら完璧だった」「謎の広告効果である」といった声が集まっています。
URL:http://news.livedoor.com/article/detail/5619851/
企業ロゴ着るヒーロー「TIGER&BUNNY」アニメで活躍「動く広告」
帽子などに「ペプシネックス」のロゴを着けて活躍するブルーローズ(c)SUNRISE/T&BPARTNERS MBS, 大阪・毎日放送などで今月から始まったアニメ「TIGER&BUNNY」の主人公らのヒーロースーツには、プロサッカー選手のユニホームのように実在する企業のロゴが入っている。ヒーローたちは平和を守るだけでなく、「動く広告」となって劇中で活躍するという新手の宣伝方法だ。(笹島拓哉)
このアニメには、特殊能力を持つ8人のスーパーヒーローが登場する。8人は普段、人間と同様の生活をしているが、事件・事故が発生するとヒーロースーツを装着し、犯人追跡や人命救助などに奮闘する。主役の一人、ワイルドタイガーのスーツの胸には通信大手「ソフトバンク」のロゴが大きく入れられている。
劇中においても各ヒーローにはそれぞれスポンサーがおり、8人の活躍ぶりはテレビで生中継される。ヒーローたちにとって、街の平和を守るだけでなく、目立つことで企業のイメージアップに貢献することも大事な使命という設定だ。
スポンサーの商品などを番組の中にさりげなく登場させる「プロダクト・プレイスメント」と呼ばれる宣伝手法を使った番組はあったが、今回は企業ロゴが主人公らの胸や肩などに堂々と描かれているのが斬新な点だ。このアニメの制作会社サンライズの尾崎雅之エグゼクティブプロデューサー(EP)は「ヒーローが企業のために働くという設定なので、実在の企業ロゴを身に着けさせることができないかと考えた」と打ち明ける。
ヒーロースーツにロゴを入れる企業の公募は昨年11月下旬から始まり、約70社から問い合わせがあった。番組序盤にロゴを出す企業は9社に絞られ、8人のヒーロースーツの胸、肩、腕などに12種のロゴが入れられた。予定されている全25話の途中でロゴの追加や交代もあるという。
氷を操るヒロイン・ブルーローズの帽子、両腕、両脚に炭酸飲料「ペプシネックス」のロゴを出しているサントリーは「この試みが、常に新しい挑戦を目指すペプシネックスの広告テーマ『GO NEXT』に合っていて共感できた」と言う。力強い牛をイメージしたロックバイソンの両肩には焼き肉チェーン「牛角」のロゴが入れられ、同チェーンを展開するレインズインターナショナルは「新しい広告手法に魅力を感じた。ロックバイソンは『牛角』を思い描いてもらいやすいキャラクターと確信している」と、スポンサーの企業イメージに合った展開に期待を寄せている。
企業ロゴは、毎日放送(土曜深夜1・58)、東京MXテレビ(火曜後11・00)、BS11(土曜深夜0・30)の放送だけでなく、毎日放送の放送と同時に配信される動画サイト「Ustream(ユーストリーム)」や5月発売のDVDなどでもそのまま描かれる。
尾崎EPは「二次利用も見据えた広告展開で、アニメビジネスの閉塞感を打破できるものになれば」と話している。
(2011年4月14日 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/tv/tnews/20110414-OYT8T00732.htm
この記事へのコメント
クマのプータロー
ちび・むぎ・みみ・はなさんに1票。
ちび・むぎ・みみ・はな
「評価」よりは「好み」であって欲しい.
インテリの言う「評価」は後出しジャンケン.
大体は, 好き・嫌いで始まったものだろう.
社会の広域化は人間にとって必ずしも幸福ではない.
まずは近所・仲間, そして隣接地域・社会.
人間社会にはできるだけ各々が安心できる場所が必要.
広域化した社会は米国にあるが,
私は住みたいとは決して思わない.
インテリのスマートな虚言は無視するが良い.