「マグネット理論」は本当に妥当か(「幻想の平和」纏めメモ 第2回)

 
今日は、「幻想の平和」纏めメモの第2回です。

前回の「幻想の平和(オフショア・バランシング)」の続きになります。前回は、アメリカの大戦略における4つの疑問を取り上げましたけれども、レインはそれらについて、解説と反論を述べていきます。

画像



2.「マグネット理論」は本当に妥当か

アメリカの大戦略における4つの疑問の最初のひとつである、アメリカはユーラシアの大国間戦争に巻き込まれるのは避けられないという、いわゆる"マグネット理論"について、レインは疑問を投げかける。

というのも、アメリカが1783年に独立して以来、ヨーロッパでは7つの別々の大国間戦争が起こったけれども、アメリカが関与したのはそのうち3つだけ。しかもそのうち2つまでは関与しなくても影響のなかったものだという。そして、第一次大戦についていえば、アメリカが自分で進んで関与したのだ、と指摘する。

また、覇権を支持する立場からの「1920年代と30年代のアメリカの孤立主義は大失敗で、将来も同じ結果になる」という主張に対して次の2つの反論をしている。

ひとつは、1930年代にアメリカは孤立主義を取ってはいなかったというもの。1939~1940年頃のアメリカは、イギリスとフランスが協力してドイツを抑え込むはずだという期待を抱いて傍観していただけであり、1940年5月のフランスの敗北、(著書には明記されていないけれど、おそらくナチスドイツのフランス侵攻と思われる)の時にも、アメリカはイギリスとソ連に軍備品と経済支援を提供し始めていて、事実上の「オフショア・バランシング」を実行していた、と反論する。

もうひとつは、真珠湾攻撃までアメリカが日本と戦わなかった理由は、孤立主義だったからではなく、当時の東アジアの権益を日本から守ろうとして、前進的な政策をとっていたからだとレインはいう。著書には、この辺りについては、アメリカの政策者たちは、日本が作ろうとしている自給自足ブロックはアメリカの門戸開放政策の原則を無視するものだから、対抗しなければならないと考えていた、としか説明されていないのだけれど、この時期から真珠湾までは次のような経緯がある。

まず、アメリカの日本に対する対抗策として、1939年に日米通商航海条約が廃棄され、1940年から、アメリカは屑鉄・航空機用燃料などの輸出に制限を加えた。

その後、日本が日独伊三国軍事同盟を締結すると、アメリカは日本の拡大政策を牽制するという名目のもと、屑鉄と鋼鉄の対日輸出を禁止し、日本がオランダ領東インドと石油などの資源買い付けをする動きに対しても、アメリカは裏からオランダ領東インドに圧力をかけて、日本の要求の4分の1しか供給させないようにしている。

日本は海軍などが三井物産などの民間商社を通じ、ブラジルやアフガニスタンなどで油田や鉱山の獲得を進めようとしたのだけれど、これも全てアメリカの圧力によって契約を断念させられている。

そして1941年7月に、日本は資源確保のため、フランス領インドシナ南部に進駐したのだけれど、アメリカは、これに対する制裁という名目で、対日資産の凍結と石油輸出の全面禁止。それに連動して、イギリスも対日資産の凍結と日英通商航海条約等の廃棄。更に、オランダ・インドは、対日資産の凍結と日蘭民間石油協定の停止をそれぞれ決定している。

こうしてみると、確かに対日政策という面でみても、1930~40年代のアメリカは孤立主義ではなく、あの手この手で東アジアに関与していたといえる。

というわけで、レインは、過去の歴史をみてもアメリカはヨーロッパとアジアの戦争に介入する破目になったのではなく、自ら進んでそれを行ったのだと述べる。そして、当時のアメリカはそのまま「オフショア・バランシング」を続けられたかもしれず、両世界大戦に参戦しないままでいられたにもかかわらず、アメリカの野望とイデオロギーが自身を紛争に巻き込ませずにはいられなかったと主張する。つまり、アメリカの野心が安全を強化するのではなく、逆に「安全でない状態」に追い込むことになったのだ、と。

今回はここまでです。


画像 ←人気ブログランキングへ

この記事へのコメント

  • 日比野

    >何だか米国中心の都合の良い議論.
    >日比野庵殿が書かれるように,
    >「真珠湾攻撃までアメリカが日本と戦わなかった」
    >という表現は妥当ではなく,
    >「日本と戦うべく真珠湾攻撃に誘い込んだ」
    >と言うのが正しい.

    まぁ、向こうが書いた本の要約ですからね。有り難がる有り難がらないにかかわらず、アメリカは今後オフショア・バランシング戦略を取ってくる可能性があると言われていますから、向こうの考えを知っておくことは無駄ではないと思いますよ。
    2015年08月10日 15:26
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    何だか米国中心の都合の良い議論.

    日比野庵殿が書かれるように,

    「真珠湾攻撃までアメリカが日本と戦わなかった」

    という表現は妥当ではなく,

    「日本と戦うべく真珠湾攻撃に誘い込んだ」

    と言うのが正しい.

    欧州では自ら決断した戦争しか参加しなかったのは
    参加しなくとも権益が犯されなかっただけだし,
    ヒットラー・独国を育てたのは米国の資本投資で
    あったことはもはや常識.

    フロンティアが終了した米国は太平洋に侵出し,
    植民地化・併合を繰り返してきたのであって,
    孤立主義も何も関係なく, 自らの経済権益を守る
    ために戦争をしてきたと言うのが正しい.

    米国文明を何やらあやしげな思想で装飾したのを
    有難がる必要はないと思う. そうしないと本は売れないから.
    2015年08月10日 15:26

この記事へのトラックバック