幻想の平和(「幻想の平和」纏めメモ 第1回)

 
今日はちょっと趣向を変えて…。

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一部の巷で話題になっている「オフショア・バランシング戦略」について、その理論書であるクリストファー・レイン著の「幻想の平和」を先日より、読み始めているのですけれども、アメリカの今後の国家戦略について、重要な位置を占める戦略だと思うので、その勉強もかねて、読んだ内容をすこ~しづつご紹介しながら、筆者なりの纏めをエントリーしたいと思います。

全何回になるかも分かりませんし、最後までやるかどうかも分かりません。ただ、これは、ときどき思い出したようにエントリーするかと思いますので、随分と気の長い話かもしれませんけれども、よろしくお付合いくださいませ。

筆者は「幻想の平和」を第八章「オフショア・バランシング戦略という戦略」から読み始めているのですけれども、まず、そこから始めてみたいと思います。

著者のクリストファー・レインは、テキサスA&M大学の特任教授でリアリズム学派に所属する人物で、更にリアリズム学派の主要3学派であるクラシカル・リアリズム(古典現実主義)、ネオリアリズム(新現実主義)、ネオクラシカルリアリズム(新古典現実主義)のうち、一番新しい3番目の学派であるネオクラシカルリアリズムに属しています。



1.オフショア・バランシング戦略という戦略

レインは、オフショア・バランシング戦略を説明する際に、アメリカが取り得る戦略として次の4つがあるという。
1.優越(覇権)
2.選択的関与
3.オフショア・バランシング
4.孤立主義

1.はジョージ・W・ブッシュ(子ブッシュ)政権が採用した戦略で、その名のとおりの「覇権主義」のこと。対ユーラシアに対する戦略方針は、アメリカに有利になるように、各国の勢力をバランスさせる戦略。因みにユーラシアとは、アジア+ヨーロッパの地域、いわゆるユーラシア大陸のこと。アメリカからみるとアジアとヨーロッパはひとつの大陸として扱われる。

これに対して、2.の「選択的関与」は、ユーラシア各国の多極を維持しようとするもので、クリントン政権が取っていた戦略。ただし、1も2もその前提として、アメリカの軍事力による関与、介入がないとユーラシアの大国間で戦争が起きて、それにアメリカが巻き込まれてしまうのだ、という前提があるとしている。

「覇権主義」と「選択的関与」の違いは、「覇権主義」は相手の国に力ずくでアメリカのいうことを聞かせるだけのパワーを集めることを志向するのに対して、「選択的関与」はそんな意図はないという。

だけど、「覇権主義」も「選択的関与」もどちらも、政治経済の分野で相手に門戸開放を迫る狙いがあることと、その門戸開放状態を維持させるためには、アメリカの力を絶えず見せつけておく必要があることから、表向きはどちらも似たような政策になってしまうと指摘する。

したがって「選択的関与」戦略においてさえも、本来は、各国間の軍事力に一定の等質性を与えることで、突出した脅威が出てこないように均衡させる「バランス・オブ・パワー(勢力均衡)」で留めておくべきところが、同盟国の自主防衛や信頼を維持するために、時には戦争さえもしなけばならない、即ちバランス・オブ・パワー以上のことをしなければならない破目に陥ると述べている。

確かに、アメリカの関与が全く無くなると、ユーラシアの各国が連携して、たとえば地域経済ブロックなんかをつくって、アメリカを追い出してしまうことも有り得るから、「バランス・オブ・パワー」を目指したとしても、結局、見た目は「覇権主義」と同じになってしまうというのは納得できる。

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これらに対して、3の「オフショア・バランシング」というのは、「覇権主義」や「選択的関与」とは根本のところで認識が違っていて、「ユーラシアに覇権国が出来たとしてもアメリカの脅威にはならないのだ」という大前提がある。

レインによるとその理由は4つあるのだけれど、筆者なりに、ぶっちゃけ的に纏めると次のとおり。
1)アメリカが軍事力を使わなくても、ユーラシアは門戸開放され続けるよ。
2)ユーラシアの紛争なんて、アメリカが介入しなくても、奴らのところだけで片付くさ。アメリカに火の粉は飛んでこないよ。
3)ユーラシアに覇権国が出来たって、アメリカにまで攻めてはこれないよ。
4)今だって、ユーラシアに覇権国はないじゃないか!

とまぁ、醒めているのか楽観的なのかよく分からないけれど、リアルにアメリカのみの安全にフォーカスすると、こうした認識になるのも理解できるし、かなりの部分そのとおりだろうと筆者も同意する。

レインは、「オフショア・バランシング」には次の4つの狙いがあると定義する。
1)ユーラシアで起こるかもしれない大国間戦争から、アメリカを隔離する
2)アメリカが同盟国との信頼関係を守るために、「不要な戦争」をしないようにする
3)アメリカ本土へのテロに対する脆弱性を減らす
4)アメリカの相対的パワーと行動の自由を確保する

要するに、ユーラシア各国にはそれぞれ国防の責任を負わせて、アメリカは一歩引く。ユーラシア各国には互いに睨み合いをさせておいて、もしも彼らがそれで国力をすり減らすのなら、その分、アメリカのパワーは相対的に上がることになる。アメリカはただ見ていればいい。という戦略。

もっとぶっちゃけて言えば、ユーラシアに対する「責任逃れ戦略」だということ。

レインは、アメリカの大戦略における4つの大きな疑問をあげ、「オフショア・バランシング」と「覇権主義」ではそれぞれ違った答えを出すという。その4つの疑問とは次のとおり。
A.「アメリカはユーラシアの大国間戦争に巻き込まれるのは避けられない論(マグネット論)」は正しいのか?
B.ユーラシアが群雄割拠になってしまったら、それはアメリカにとって得なのか損なのか?
C.国際経済の門戸開放と中東の石油にアクセスするために、ユーラシアを守る必要なんてあるのか?
D.仮にユーラシアに覇権国が出来たとして、それがアメリカの脅威になるのか?


…今回のエントリーはここまでです。


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この記事へのコメント

  • 原発推進論者のたかりの場

    東京電力が原発事故の本補償の手続きを開始し、個人向けの補償金請求の書類一式を約6万世帯に発送した。

    しかし、請求のための申請書は60ページと分厚いうえに、内容も複雑。「賠償する側という意識はあるのか」
    「いやがらせのような分量の多さ」といった批判が上がっている。

    ■3か月ごとに書類作成が必要
    東電が2011年9月12日に発送した封筒を覗くと、同意書、補償金請求書、各種証明書類といった書類が入っている。
    中でも目立つのは「補償金ご請求のご案内」と書かれた156ページの分厚いマニュアルだ。そのうち約100ページは、
    「一時立入費用」「生命・身体的損害」「就労不能損害」など、請求対象となる損害ごとの記入方法の解説だ。

     仮払い補償金の申請書類は非常に簡素なものだったが、今回は領収書、証明書の添付のほか、細かく算式を記入する必要がある。
    たとえば「就労不能損害」の場合には、自身の雇用形態を4つタイプから判定したうえで、それに沿った証明書類を用意し、
    補償金の金額を算定しなくてはならない。ページを行ったり来たりで、骨の折れる作業だ。

     申請書は請求者1人につき1冊。し
    2015年08月10日 15:26
  • 白なまず

    米国は移民のせいでなかなか成熟できない社会と考えると、、、反抗期のガキが親の心子知らず状態なんだと思いました。米国が親の心境に成らないと本当の世界の盟主には成れないと思いました。

    なんだか、ぴったりだったので引用します。
    【参照URL:http://blog.goo.ne.jp/isehakusandou/d/20110913
    幼児などは、何でもイヤイヤというものです。しかし、脳の成長と共に、イヤイヤが減ります。実は、知性と同様に、上記のことは霊性の進歩にも言えることなのです。
    釈尊には、嫌いな人間が一切いませんでした。どんな人間でも、真から愛おしかったのです。敵対する者にも、慈悲心を持っていました。自分の霊性の進化をサニワ(判断)するポイントとして、嫌いな他人がいるかどうかの増減を自己観察するのも良いです。
    2015年08月10日 15:26
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    白鳥も水中では常に水を掻いていいるもの.
    国内だけでやっていけるさ, と思った瞬間に
    米国の本格的な凋落が始まる.
    かつては栄光を誇ったが, 現在は夢も希望もない
    民族のるつぼになるのも遠い未来ではない.
    増田悦佐氏が述べていることは正解かも.

    日本は戦前に戻らなければならない.
    2015年08月10日 15:26

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