F35調達見送りの可能性

 
7月27日付「オーストラリアン・ナショナル・アフェアーズ」によると、オーストラリアのスミス国防相は、アメリカの巨額の財政赤字が米国防予算の大幅カットにつながることから、既に開発遅れと価格高騰が指摘されているF35の調達を見送ることを示唆する見解を表明したそうだ。

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オーストラリアは2009年から従来型のFA18を24機配備するとともに、F35の共同開発国として2018年までにF35の運用を目指していたのだけれど、F35の導入を断念した場合は、従来型のFA18の追加調達を検討するようだ。

F35の共同開発国のひとつであるオーストラリアが導入を止めるとなると、当然、共同開発プロジェクトにも本腰を入れなくなる。使いもしない機体を金を払って開発する謂れはないから。

となると、ただでさえ、開発の遅れているF35はますます開発が遅れる可能性があるし、調達コストもますます上がるだろう。

日本は次期中期防衛力整備計画でF35導入を念頭に「新戦闘機12機」の整備を明記していて、16年度に4機、17年度に国内で最終組み立てした4機の引き渡しを希望しているけれど、既に運用試験で17年になるとされているから、要望どおりに調達できる見込みは少ない。

アメリカのF22輸出禁止とF35の開発遅れを横目に、欧州は日本に対して、次期FXとしてユーロファイターを売り込もうと力を入れている。

この動きは去年からずっと続いていて、今年5月に行われたフランス・ドービルサミットでも、イギリスのキャメロン首相が、菅首相(当時)に「ユーロファイターの調達に力添えをいただきたい」と売り込みをしていた。

また、9月7日に、ユーロファイターの主力開発企業である、イギリスのBAEシステムズのアンディー・レイサム副社長がインタビューに応じ、「スクランブル発進や空対空、空対地攻撃で将来の脅威を含めて対処できる」と説明。また、リビア戦争を引き合いに出して、アメリカ軍との相互運用性を確保しているとアピールしている。

BAE社は、以前から日本がユーロファイターの採用を決めた場合、日本でライセンス生産ができるよう詳細な技術情報を開示する考えを提示していて、日本向けの改造も許諾しているから、日本お得意の"魔改造"だってやろうと思えば可能になる。

ユーロファイターは、迎撃・爆撃・偵察など一機でこなすマルチロール機であり、第四世代戦闘機に位置づけられる。(4.5世代とみる人もいる)

イギリス、イタリア、スペイン、ドイツが共同で設置したユーロファイター社によって開発され、1994年に初号機が初飛行。現在は、既に配備運用されている、空対空戦闘型のトランシェ1、対地攻撃能力を有するトランシェ2に続いて、さらに高い攻撃能力を持つといわれるトランシェ3の開発が進んでいる。

ユーロファイターは、主翼にデルタ翼とコクピット前方に全遊動式のカナード翼を持つ、クロースカップルドデルタと呼ばれる機体構成を持っていることが特徴で、前翼のカナード翼からの渦流が主翼上面を通り抜けることにより、より大きな揚力を発生させるという構造になっている。

そのため、STOL性能や機動性に優れていて、離陸に必要な距離は300m、着陸は600mで可能であり、滑走路は700mあれば運用できるという。F15には1500mの滑走路が必要なことを考えると中々のもの。



また、ユーロファイターの操縦システムには、ケアフリーハンドリングと呼ばれる、パイロットがどのような操作を行っても飛行状態が異常にならないように、速度、高度、形態、バランス、機体負荷などの情報をコンピュータがモニタリングして自動的に制御するシステムが搭載されている。これによって、失速、オーバーG、スピンなどの危険がぐっと減らされている。

更に、パイロットの耐Gスーツや加圧呼吸装置も新規開発されて、人間が耐えられる限界といわれる9Gもの機動に長時間耐えられるようになっているという。

アメリカのF22のパイロットが体調不良を訴えるケースが相次いで、今年の5月からF22の全面飛行禁止措置が取られていることを考えると、実績のある機体は安心できるものがある。

ユーロファイターの運動性能はF-22には及ばないものの、F35やF18より優れているとされている。また、アフターバナーなしで超音速巡航(スーパークルーズ)できるのもユーロファイターの強みで、そんなことができる機体は、今のところ、F22とユーロファイターしかない。

ただ、ステルス機ではないから、ステルス性能はF22やF35には敵わないのだけれど、F18よりは上だというから、中々どうして馬鹿にしたものじゃない。

また、ユーロファイターは、海軍用のデータリンクシステムと空軍用のデータリンクシステムを統合する、NATOの新しい標準的戦術データ・リンクである"リンク16"にも接続できることから、イージス艦や空母、パトリオットミサイル部隊や地上レーダーサイトなど、様々な部隊との情報共有が可能だとされる。

これが本当であれば、例え、空自がユーロファイターを導入したとしても、少なくとも作戦運用上での齟齬はかなり軽減されるのではないかと思われる。

肝心のお値段は一機あたり30~35億とされ、F35の50億よりも安い。実際は魔改造やらライセンス生産やらで、その2~3倍はするかもしれないけれど、今年生産が終了するF2が1機120億くらいであることを考えると、ライセンス生産で国内の航空機技術や防衛産業を維持できることを考えると、安い買い物ではないかと思われる。

防衛省は、東日本大震災による津波で松島基地の水没したF2、18機のうち、6機を修理して継続使用する方針を固めたそうだけれど、修理には、各機の部品を集めて5年かかり、修理費は1150億円程になるというから、そんな金が出せるなら、繋ぎだとしてもユーロファイターの導入を検討してもいいように思う。

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画像豪州がF35断念か 日本の選定に影響必至 2011.8.3 20:37

 【ワシントン=佐々木類】レーダーに映りにくい第5世代戦闘機、F35ライトニング2をめぐり、オーストラリアが開発の遅れと価格高騰を理由に導入を断念する可能性が出てきた。国防相がF35導入に否定的な見解を表明したためで、年内に決定する日本の次期主力戦闘機(FX)の選定にも影響を与えそうだ。

 7月27日付「オーストラリアン・ナショナル・アフェアーズ」(電子版)によると、同国のスミス国防相は、巨額の米財政赤字が米国防予算の大幅カットにつながり、F35の開発に影響が出ると指摘。すでに豪空軍が運用しているFA18スーパーホーネットについて「追加調達は明確な選択肢だ」と述べた。

 豪州の判断が日本政府に影響を与えるとみられるのは、ともにF35の導入を目指してきたが、計画通りの調達が困難なためだ。F35の導入を断念した場合、豪州は従来型のFA18の追加調達を検討し、日本はステルス性を備えた最新鋭FA18の調達を視野に入れるなどの共通点もある。

 豪空軍は2009年から従来型のFA18を24機配備するとともに、F35の共同開発国として18年までにF35の運用を目指している。

 日本は次期中期防衛力整備計画(11~15年度)でF35導入を念頭に「新戦闘機12機」の整備を明記。16年度に4機、17年度に国内で最終組み立てした4機の引き渡しを求めているが、米国は運用試験が「17年春にずれ込む」(国防総省)とし、日本の要求を満たすのは絶望的な状況。価格も当初予定から倍増している。

URL:http://sankei.jp.msn.com/world/news/110803/amr11080320380013-n1.htm



画像領空侵犯対処、優位性を強調=FX選定、ユーロファイター-英BAE

 【ワシントン時事】日本が選定を進める次期主力戦闘機(FX)の候補で、欧州4カ国が共同開発したユーロファイターの主力開発企業、英BAEシステムズのアンディー・レイサム副社長が7日、インタビューに応じた。レイサム副社長は最大速度や加速力でライバル機種を上回ると述べ、航空自衛隊戦闘機の主任務である領空侵犯機の対処での優位性をアピールした。
 レイサム副社長はユーロファイターが候補機の中で唯一、アフターバーナー(推力増強)無しで超音速巡航でき、最大速度もマッハ2.0で候補機の中で最も速い点を指摘。離陸から150秒以内に高度約1万メートルに至る上昇性能も強調し、「スクランブル発進や空対空、空対地攻撃で将来の脅威を含めて対処できる」と説明した。
 米軍との相互運用性を確保しており、「リビア戦争でも実証済みだ」と話した。欧州、サウジアラビア、オーストラリアから計700機以上を受注しているとした。
 選定条件の一つとなっている日本の防衛産業基盤の維持についても、エンジンの主要部位やレーダーの日本への情報開示を視野に入れており、「日本の防衛産業の発展に貢献したい」と述べ、日本国内での全面的なライセンス生産の可能性を強調した。
 選定では、米ロッキード・マーチン社の次世代ステルス戦闘機F35やボーイング社のFA18スーパーホーネットも候補になっている。各企業は防衛省が求める性能や仕様に対する回答書を今月に提出する。(2011/09/08-15:47)

URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011090800575



画像震災で水没のF2戦闘機6機、修理し継続使用

 防衛省は、東日本大震災による津波で水没した航空自衛隊松島基地(宮城県)のF2戦闘機全18機のうち、6機を修理して継続使用する方針を固めた。

 同省は18機について、修理して引き続き使えるかどうか、分解検査などの調査を行った。垂直尾翼やエンジンの一部などそのまま使える部品があったが、電子機器などは海水の塩分が入り込み、使えなくなっていることが分かった。

 F2は国内での生産が今年度中に終わる予定で、新規調達はできない。しかし、同基地のF2は空自のパイロット育成用として使用され、同省は一定の機数を確保しなければ、育成計画に支障が出ると判断。使用可能な部品を組み合わせるなどして6機を修理し、引き続き使うことにした。修理に必要な費用は約1150億円と見込まれる。

(2011年9月4日10時27分 読売新聞)

URL:http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110903-OYT1T00757.htm

この記事へのコメント

  • 無駄遣い

    新品6機720億円 修理6機1150億円なんでこんなことがまかり通るのか謎です。
    F-Xとしてタイフーン買ったほうが、いいとおもう・・
    2015年08月10日 15:27
  • ユーロファイター

    やはりマッハ2は出ないと如何なもんかと・・鈍足の2機種はどうも頼りになりません。そりゃ電子機器はイージス以上かもしれませんが。マッハ1.6~1.7(スーパークルーズ無し)では制空権は確保できない気がしてなりません。隣国の冷かしにスクランブルをかけても「ぶっちぎられては」舐められるのでは無いかと。今の時代、戦術的に高く飛ぶ、速く飛ぶは無くても良いかもしれませんが、最高峰の戦闘機はM2以上です。
    2015年08月10日 15:27
  • 日比野

    ユーロビート様、ユーロファイター様。コメントありがとうございます。

    私もF35のスーパークルーズ無しと、航続距離の短さは、従来から気になっていて、たとえば「F35を選ぶなら」
    http://kotobukibune.at.webry.info/200911/article_25.html というエントリーで、そのあたりについて触れています。ただ、F35をどういう目的で使うかにも拠るところもあると思いますけれども、防衛省はどのあたりまで考慮しているのでしょうか。
    2015年08月10日 15:27
  • ユーロファイター

    こんばんは日比野様
    F-35は攻撃機であり、専守防衛の観点からは他国を攻める物ではないと思います。迎撃機目的にしては鈍足。ステルス性や戦術能力、格闘能力がありそうですが実績も無いため未知数ですね。ただただ5世代機てだけですかね。日米同盟
    を考えるならばF/A 18の選択もありますが設計が古く、更に鈍足でもあり直ぐに旧式になるかと。実績はありますが物足りない。この際F-35とユーロファイタ-を案分する方が賢明かもですね英国もそうしてますね。日本はユーロファイタ-のデルタ翼に
    慣れてないので馴染むのが大変かと思いますが国内の経済効果が期待出来そうですし、それにしても内定した以降決定したのでしょうかね。
    2015年08月10日 15:27
  • 一知半解

    日比野さん、こんばんは。
    私は無難に器用貧乏なF/Aー18でいいんじゃないかと思います。
    米軍機ですから相互運用には何の問題も無いですし、日本のミサイルだって問題なく積めるでしょう。
    出来れば、多少高くてもライセンス生産して次につなげたいところです。

    オーストラリアは調達する一部をグラウラーに改造できるような形で購入するとも聞いてますし、日本もそのような形を取れれば良いかな…と。

    F-Xの議論を見てて気になるのは、機体単独のスペック至上主義で語り過ぎてないか…ということ。

    今時、単独のドッグファイトなど考えられませんし、たとえ機体性能がそこそこでも他機やAWACSなどとの連携強化で対応すれば宜しいのではないでしょうか?

    つか、一点豪華主義に拘るよりも、掩体運用を推進するとか地道な対策をとるべきなんじゃないかな…と素人なりに思っています。
    2015年08月10日 15:27
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    残念.

    戦闘機の自主開発を決断していれば他の国の
    景気の動向に右往左往しなくとも良かったものを.

    国の未来のために身を捨てても決断できる政治家が
    必要だ.

    松下政経塾では駄目なことは既に判明した.
    一期生がこれではね.
    2015年08月10日 15:27
  • sdi

    現代版「銀河」であるF-2の後釜、と言う点で考えるとユーロファイターはペイロードと戦闘行動半径の点でものたりないです。本音でいうと、欧州大陸という全土まるこど飛行場みたいな地理環境(あくまでも日本のおかれた地理状況に比べてですが)で運用するのが前提の戦闘機なんですから、航続距離は二の次です。自基地から遠く離れた目的地まで飛行して任務を遂行し帰還せねばならない、しかも途中で降りて一服なんてできないという環境ではないですから、設計思想という点で日本向きじゃないのでないかと思っております。
    ただ、対抗馬があの(傍点つき)F/A-18となると迷いますね。ただ、F/A-18のほうが元が空母艦載機ですから設計思想という点では日本向きでしょう。でも「最も成功した駄作機」なんて評価がある機体です。性能は必ずしも高くないですが、震災で失われたF-2の穴埋めとして緊急購入する、というのなら悪い選択ではありません。もしくは退役するF-4IIの代替にF/A-18、F-2の後継にユーロファイターの最新バージョンというのもありでしょう。
    ただ、私としてはF-16の最新バージョンにするのが一番やすあがりじゃないかと
    2015年08月10日 15:27
  • ユーロビート

    未だ混迷しているFX選定、F-35及びユーロファイターの選定がベストチョイスではないでしょうか。即納入可能なユーロ、ブラックBOX無でのラ国生産による技術力の維持が
    出来る。日米同盟の面子が保てるF-35(他に旨味は無いが・・・)。
    2015年08月10日 15:27

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