土壌から放射性セシウムを100%除去する方法開発

 
8月31日、産業技術総合研究所、放射性セシウムに汚染された土壌から、ほぼ全量の放射性セシウムを回収できる技術を開発したと発表した。

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これは、汚染された土壌を、低濃度の硝酸や硫酸の水溶液で洗浄したあと、その水溶液をプルシアンブルーナノ粒子吸着材で、水溶液に溶け出したセシウムを回収する2段階の工程から成り立っている。

この方法は、低濃度の酸水溶液を使っているところがポイントで、これによって、除染処理の簡易化やコストダウンといった効果が期待できる。

これまで、土壌から放射性セシウムを除去する方法として、濃硝酸や濃塩酸(6mol/L)を使って90℃程度に加熱することで、90%くらいの放射性セシウムが取り除くことができることが知られているのだけれど、濃硝酸や濃塩酸を使うため、取り扱いに注意を要することに加え、高濃度の酸水溶液中では、水素イオンや土壌中のほかのイオン、有機物なども大量に抽出される影響で、セシウム吸着材の吸着能力が低下する場合があることが知られている。

さらには、高濃度の酸水溶液で土を洗うと、土に酸が溶出してしまって、酸水溶液が再利用できなくなってしまうことなどから、産能研では、低濃度の酸水溶液で放射性セシウムを抽出する方法を模索していた。

ただ、土といっても、赤土、黒土といった色から始まり、その鉱物組成や有機物含有量、粒径、科学的性質など様々な違いがあって、地域性が強いとされている。

そこで、産能研では、福島県飯舘村の畑から採取した非汚染土壌(下層土、褐色森林土)から非放射性セシウムを除去できれば、同様の方法で放射性セシウムも回収できるとして実験に着手した。

採取土壌を0.5mol/Lの希硝酸に浸したときの、土壌の重量に対する酸水溶液の重量比(固液比)と抽出率の変化および、固液比200の希硝酸溶液に95℃で45分間放置したときの温度による抽出率の変化の結果を次に示す。

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左図は固液比と抽出率の変化の図なのだけれど、酸濃度が一定でも、酸水溶液の量を増やしていくと、溶液中のセシウムイオンの抽出率は向上し、固液比200では、およそ60%抽出されている。また、この希硝酸溶液を希硫酸に変えると同じ条件で88%のセシウムイオンが除去できるという。

次に右図は、固液比200の希硝酸溶液の温度を上げていった時の結果なのだけれど、200度にするとほぼ100%の除去率を示している。
(※産能研は、抽出率が100%を超えているのは、土壌中のセシウムイオン量のばらつきに起因する誤差だとしている。)

つまり、低濃度の酸水溶液でも、汚染された土の倍の酸水溶液で200度くらいに温度を上げることでほぼ100%のセシウムを溶液中に排出させることができるということ。

あとは、この水溶液から、セシウムを回収すれば、土壌の洗浄は終わる。次に、第2段階である、プルシアンブルーナノ粒子吸着剤を利用した、酸水溶液からのセシウムイオン抽出試験結果を示す。

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この抽出試験では、0.5 mol/Lの酸水溶液に硝酸セシウムを溶解させたものと、土壌からセシウムイオンを抽出した溶液それぞれで、試験を行ったのだけれど、どちらでも98.2~99.9%もの回収率を示しているから、非常に有効な土壌の除染方法だといえる。

因みに、セシウム吸着に使用したプルシアンブルーナノ粒子は、試験対象の土壌の量の150分の1だそうだから、表土を剥がして除染する方式と比べて、放射性廃棄物の量を劇的に減らすことになる。理論的には10万分の1以下にすることも可能であるという。

また、セシウムイオン回収後の酸水溶液は若干酸濃度低下したものの、再度新たな土壌洗浄に使っても問題なくセシウムイオンが回収できたので、酸水溶液の濃度を調整してやれば、何度も繰り返し使用できると見られている。

以前「粘土でセシウム除染」のエントリーで粘土による除染方法を紹介したけれど、これは、セシウムが粘土とよく吸着して離れない性質があることを利用している。

多くの粘土は単一あるいは複数の鉱物からできているのだけど、その主体は層状珪酸塩鉱物と呼ばれる構造的、科学的特徴を持つ鉱物から成っている。

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層状珪酸塩は雲母に代表される平行に薄くはがれやすい性質(劈開)を持っていて、これは、4個の酸素原子によって囲まれた四面体構造をとる珪酸塩の3個の酸素原子が、隣の珪酸塩の四面体(SiO4)と共有して、平面的に繋がる構造を持つことに起因している。

この珪酸塩の四面体の平面的な繋がりを四面体シートと呼ぶのだけれど、更に、この4面体シートと酸化アルミ(Al-O)や酸化マグネシウム(Mg-O)などが組み合って、八面体の網状の繋がりをつくるものを八面体シートと呼ぶ。

粘土はこの4面体シートや8面体シートを持っているのだけれど、雲母などは、8面体シートを4面体シート2枚で上下に挟んだ構造を持っていて、これを2:1型鉱物という。セシウムは、この2:1型鉱物の層と層の間に潜り込んで、填っていくことで粘土に吸着していく。

粘土でセシウム除染」のエントリーで紹介した粘土による除染は、セシウムと粘土はがっちりくっついて離れないから、粘土とそれ以外の土を分離して、粘土部分を放射性廃棄物として処理しようという方法なのだけれど、今回の産能研が開発した方法は、99%という除去率からみても、その粘土からをもセシウムを引き剥がして取り出している可能性が高いと思われ、方法としては、こちらの方法のほうがより優れているのではないかと思う。

1日も早い実用化を望む。

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画像放射性セシウム:土壌からほぼ全量回収可能…新技術を開発

 産業技術総合研究所(茨城県つくば市)は31日、土壌から放射性セシウムのほぼ全量を回収できる技術を開発したと発表した。汚染土壌に低濃度の酸の水溶液を混ぜてセシウムを抽出し、微粒子状の顔料に吸着させる。東京電力福島第1原発事故では、外部に放出された大量の放射性物質による土壌汚染が問題となっているが、この処理技術を活用することで放射性廃棄物を150分の1に減量できるという。

 研究グループは、福島県飯舘村の畑の地中から採取された汚染されていない土壌から放射性ではないセシウムを除去できれば、同様の方法で放射性セシウムも回収できるとして実験に着手。汚染されていない土と低濃度の硝酸水溶液を混ぜ、圧力容器内で200度で45分間加熱したところ、セシウムの100%抽出に成功した。温度が半分の100度でも約60%を抽出できたという。水溶液は繰り返して使える。

 さらに第2段階で、水溶液からセシウムイオンだけを取り込む青色の人工顔料プルシアンブルーを吸着剤に活用。粒径10ナノメートル(1ナノは10億分の1)の微粒子状に加工して円筒形の装置に詰め、この水溶液を2回循環させたところ、100%吸着できた。

 産総研の川本徹・グリーンテクノロジー研究グループ長は「土壌を傷めなくてすみ、抽出したセシウムを顔料で吸着できる。コストも安い。企業の協力を得て実証実験を目指したい」と話している。【安味伸一】

毎日新聞 2011年8月31日 22時27分

URL:http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110901k0000m040119000c.html

この記事へのコメント

  • 白なまず

    雲母等がゴキブリホイホイ粘着シートで、Csがゴキブリに見えてきました。粘着シートからゴキブリを取り去るのが有機物を分解する菌類ってとこでしょうか。自然の力おそるべしですね。
    2015年08月10日 15:27
  • yutakarlson

    放射性セシウム:土壌からほぼ全量回収可能…新技術を開発―【私の論評】今日の私たち日本には、とてつもない技術力がある!!今回の震災、原発事故を契機として、さらに強いとてつもない日本を目指すべきだ!!
    ブログ名:「Funny Restaurant 犬とレストランとイタリア料理」
    http://goo.gl/wuYJB
    こんにちは。放射線セシュウムを土壌からほぼ全量回収可能な新技術が開発されました。現在の社会パラダイムがすでに、シフトしているわけですから、既存の考えだけにとらわれて、閉塞感にさいなまされるだけというのではなく、とてつもない新たな技術を生み出すこと、さらに、とてつもない技術などを前提として、新たな社会を築くことなどに、注力すべき時と思います。震災、原発事故に対して、ただ手を拱いて、絶望しているのではなく、これを新たな産業の芽とすることに多くの人が挑戦していただき、さらに、強い、日本を創出していくべきと思います。詳細は、是非私のブログを御覧になってください。
    2015年08月10日 15:27

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