民主党のTPP対立

 
「農協はTPP反対でわめいて走っているが、物の分かる人を何人か捕まえて中立化する。あるいはこちらの応援団を中につくっていく」
仙谷由人政調会長代行 於:10/29 軽井沢・前原グループ勉強会

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1.TPP推進派の理屈

TPP交渉参加問題について、政府が参加のメリットとデメリットを分析した内部文書を作成していたとの報道があった。内部文書が表に出てくること自体、政府内の対立の証左でもあると思うけれど、与野党への説明資料として作成されたようだ。

その文書の要旨は次のとおり。
 ◇政府のTPPに関する内部文書(要旨)

 ▽11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で交渉参加表明すべき理由

・米国がAPECで政権浮揚につながる大きな成果を表明するのは難しい。日本が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング。これを逃すと米国が歓迎するタイミングがなくなる

・交渉参加時期を延ばせば、日本は原加盟国になれず、ルールづくりに参加できない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国から徹底的な市場開放を要求される

・11月までに交渉参加を表明できなければ、交渉参加に関心なしとみなされ、重要情報の入手が困難になる

・韓国が近々TPP交渉に参加する可能性。先に交渉メンバーとなった韓国は日本の参加を認めない可能性すらある

 ▽11月に交渉参加を決断できない場合

・マスメディア、経済界はTPP交渉参加を提案。実現できなければ新聞の見出しは「新政権、やはり何も決断できず」という言葉が躍る可能性が極めて大きい。経済界の政権への失望感が高くなる

・政府の「食と農林漁業の再生実現会議」は事実上、TPP交渉参加を前提としている。見送れば外務、経済産業両省は農業再生に非協力になる

・EU(欧州連合)から足元を見られ、注文ばかり付けられる。中国にも高いレベルの自由化を要求できず、中韓FTA(自由貿易協定)だけ進む可能性もある

 ▽選挙との関係

・衆院解散がなければ13年夏まで国政選挙はない。大きな選挙がないタイミングで参加を表明できれば、交渉に参加しても劇的な影響は発生しない。交渉参加を延期すればするほど選挙が近づき、決断は下しにくくなる

 ▽落としどころ

・実際の交渉参加は12年3月以降。「交渉参加すべきでない」との結論に至れば、参加を取り消せば良い。(取り消しは民主)党が提言し、政府は「重く受け止める」とすべきだ

・参加表明の際には「TPP交渉の最大の受益者は農業」としっかり言うべきだ。交渉参加は農業強化策に政府が明確にコミットすることの表明。予算も付けていくことになる

毎日新聞 10月28日(金)2時31分配信  政府、文書に本音 11月表明「米が最も評価」より

一見、なんとなくそれらしいことが書いてあるようにも見えるけれど、この文書について、その本質を見事に一行で表したツイートがある。

曰く、「・オバマに褒められたい・マスゴミに叩かれたくない・韓国にハブられる・経産省と外務省が拗ねちゃう・選挙が怖い…日本人のことまるで考えてねえw」

正に、この通り。まぁ、対象が国会議員だから、こういう書き方になるのかもしれないけれど、逆に言えば、今の国会議員が、この問題に関して、何を一番気にしているのかが透けて見える。それだけ、保身を一番に考える議員が多いということなのだろう。

それにしても、この文書の中に、国益に関する部分が何ひとつ書かれていないというのは、一体どういうことなのか。もしも、これで与野党を説得できると考えているとするならば、それは国民の声など聞かずに決めてしまえばいいという思いあがりがあるのではないか。

例えば、「大きな選挙がないタイミングで参加を表明できれば、交渉に参加しても劇的な影響は発生しない。」という一文なんかは、時間が経てば、国民も忘れてくれるだろうという前提があるように思えてならない。

この内部文書は、少なくとも、国民向けではないことは確か。これでは国民に説明はできない。

仙谷政調会長代行は、29日の勉強会で、「自分たちの信念なのか、宗教的関心なのか知らないが、党内合意を形成させないよう動くことがあっては政党の形をなしていない」と反対派議員を批判し、農協関係者や農協の支援を受ける議員の切り崩し工作が重要だとの認識を示している。

要するに、党内を説得すればそれでよしという態度。国民に説明して議論しようという姿勢は微塵もない。




2.問われる"口だけ番長"の力量

それでも、もう情勢は動いている。

民主党執行部はTPP交渉参加問題について、11月4日の党のプロジェクトチーム(PT)での意見集約、7日の野田首相の参加表明との方針を決めて反転攻勢に出ているという。

10月28日のPT総会で、ようやくこの問題について民主党議員同士の議論が始まったそうなのだけれど、これまで鳴りを潜めていた賛成派議員から「交渉への参加は必要だ」との発言が出ていて、発言者の割合は慎重派6に対し賛成派は4と、賛成派の発言がこれまでよりも大幅に増えたという。

一方、JAグループが中心に集めたTPP交渉参加に反対する国会請願には、実に356人の国会議員が紹介議員になっている。今の国会議員の数は衆・参合わせて721人だから、過半数は361人。あと少しで過半数を超える数が集まっている。

こんな状態で、あと1週間かそこらの期間で党内意見を集約なんてできるのか。

党内意見の取り纏めは、政調会長である前原氏がその責を負っているのだけれど、前原氏を政調会長にする人事について、野田首相が誕生した直後の9月1日に「野田人事が定めてゆくもの」というエントリーで次のように述べている。一部引用する。
更に、野田首相は、政府と党の方針の一元化を図るために、政府の政策決定にあたって、原則として党の政調会長の了承を必要とする方針を打ち出し、その会長に前原氏を当てた。

この方針によって、前原氏は、政府・与党内の政策調整と与野党協議に専念することになった。党内では輿石氏を始めとする小沢派と調整をし、更に与野党協議で野党とも政策協議をすることになるから、前原氏は、たとえ嫌なことであっても、物事を最後までやり遂げる使命を「定められて」しまったといえる。

これは、同時に、前原氏の最初こそ威勢がいいものの、あとで尻つぼみになるという、言いっ放し、やりっぱなしの癖が矯正される可能性を意味するから、前原氏が政調会長を最後までやり遂げるられるのであれば、化けるとまでは言わないけれど、そうした欠点が補整されるかもしれない。

果たして、野田首相がそこまで計算して、前原氏を政調会長に当てたのかどうか分からないけれど、結果として絶妙な人事になっているように見える。

《中略》

だから、野田政権中に、それだけの争点、すなわち、双方の主張がぶつかってどちらも折れないテーマが出てくるかどうか。それが解散の引き金になると思う。
2011.9.1 日比野庵本館 「野田人事が定めてゆくもの

TPP推進で党内を纏められるか、やり遂げることができるのか、出来るなら、次期首相候補として、党内に影響力を持つことができると思うけれど、ここでも口だけ番長になるのなら、党内の支持は落ちるだろう。

前原氏は、10月23日、TPPについて「仮に交渉に参加した後、日本の国益を害し、到底受け入れられない議論になれば、交渉から抜ける選択肢は当然持っておくべきだ」と、交渉の内容によっては離脱もあり得るなんて言っているけれど、ペルーの首都リマで開かれていたTPPの第9回交渉会合が終了した28日に、アメリカのバーバラ・ワイゼル首席交渉官が一部記者団に対して、「参加の決断は前もってなされるべきだ。真剣な意志を持たない国には来てもらいたくない」と、前原氏の"嫌なら途中で抜ければいい説"を思いっきり否定している。

もしも、TPPが、双方の主張がぶつかってどちらも折れないテーマになるのであれば、仮に野田首相がAPECでTPPへの参加表明をしたとしても、国会で否決するなんて事態も起こらないとは限らない。




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画像仙谷氏、TPP反対派を批判 前原グループの勉強会で 2011.10.29 11:24

 民主党の仙谷由人政調会長代行は29日、長野県軽井沢町のホテルで開かれた前原グループの勉強会で環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉参加問題について「自分たちの信念なのか、宗教的関心なのか知らないが、党内合意を形成させないよう動くことがあっては政党の形をなしていない」と反対派議員を批判した。

 また、仙谷氏は「農協はTPP反対でわめいて走っているが、物の分かる人を何人か捕まえて中立化する。あるいはこちらの応援団を中につくっていく」とも述べ、農協関係者や農協の支援を受ける議員の切り崩し工作が重要であるとの認識を強調した。

 前原誠司政調会長も合宿の閉会式であいさつし、TPP交渉参加問題を念頭に「おのずと時間の区切りはあってしかるべきだ。自分と違う結論を政府・与党が出してもフォロワーシップ(リーダーを支える精神)を発揮することが大きなポイントだ」と述べた。

URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111029/stt11102911250001-n1.htm



画像慎重派徐々に陰り 賛成派は反転攻勢へ TPP交渉参加問題 2011.10.28 22:56

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加問題で、民主党執行部は11月4日の党のプロジェクトチーム(PT)での意見集約、7日の野田佳彦首相の参加表明との方針を決め、反転攻勢に出た。逆に、これまでPTを中心に声を張り上げてきた慎重派の勢いに陰りが出はじめている。離党をちらつかせる議員もいれば、早急な結論を出さなければよいという議員もいるなど慎重派にも濃淡があり、必ずしも一枚岩でない。(酒井充)

 議員間の議論が始まった28日のPT総会では、これまで鳴りを潜めていた賛成派議員から「交渉への参加は必要だ」(近藤洋介衆院議員)とする発言が出てきた。慎重派も「命がけで反対する」(斎藤恭紀衆院議員)という主張で応酬したが、発言者の割合は慎重派6に対し賛成派は4と、賛成派の発言がこれまでよりも大幅に増えた。

 慎重派の陰りは出席人数にも表れている。

 「TPPを慎重に考える会」(会長・山田正彦元農水相)に賛同した議員は約200人と党所属議員の半数に匹敵する。しかし、この日も総会に出席したのは、賛成派も含めて約70人にとどまった。慎重派とされる議員は会のメンバーの4分の1程度しか出席しなかったことになる。

 また、TPP参加に反対する全国農業協同組合中央会(JA全中)が25日に衆参両院議長に提出した国会請願で紹介議員となった民主党議員は120人で、「考える会」よりも数が減った。

 農協関係団体はもともと自民党の票田であり、自民党の大半の議員がTPP参加に反対する中、「ここで反対を言っても票につながらない。執行部が参加と決めれば従うだけだ」と賛成に転じた若手議員もいる。

 山田氏は離党をちらつかせることで党執行部に結論を先送りするよう迫ってきた。だが、「考える会」のある幹部は「参加か否かを決める権限は政府と党執行部にあり、われわれは意見を表明する以外に手段がない」と漏らすなど、慎重派内には「降参ムード」すら漂っている。

URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111028/stt11102822570013-n1.htm



画像米首席交渉官、日本のTPP「離脱論」けん制

.【リマ=浜砂雅一】ペルーの首都リマで開かれていた米豪など9か国による環太平洋経済連携協定(TPP)の第9回交渉会合が28日、終了した。

 米国のバーバラ・ワイゼル首席交渉官は終了後、一部記者団に対し「参加の決断は前もってなされるべきだ。真剣な意志を持たない国には来てもらいたくない」と述べた。

 これは交渉参加を検討中の日本政府・与党内にある、国益に合わなければ交渉途中で撤退すればいいとの「離脱論」をけん制し、政府の意思統一を図った上で参加を表明するよう促した発言だ。

 一方、ペルーのエドガー・バスケス首席交渉官は閉幕後の記者会見で、「すべての分野で進展があったが、交渉終了に至らなかった」と述べ、11月にハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での大枠合意に向け、詰めの協議が必要との認識を示した。バスケス氏は、知的財産権などの分野で交渉が遅れ気味だと説明した。

(2011年10月29日10時47分 読売新聞)

URL:http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20111029-OYT1T00287.htm

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    とうとう赤旗が韓米FTAの実体を報道し始めた.
    こうなると, 嘘付党内部でさえまとめることは
    できまい. そもそも, 在日系の議員であれば
    執行部の能天気は信じる気にもならない.

    それにしても小沢さん. 「今」国民のために
    頑張れば, つまり, 増税内閣打倒の旗を揚げれば,
    被告人ではあっても, 主導権を握れるかも知れ
    ないのに. 所詮は, 自分が可愛いヒトデナシか.

    先日のTPPを利用して世界へ, という主旨の
    論調があったが, どう考えてもおかしな議論.
    感覚としては朱子学だね. 米国のかけた理想
    を追求して, 中華の国(米国)に従う. どちらも
    負けつつあることを認めない往生際の悪さが
    残した害悪だ. 元支那人の石氏に教えられた
    のは, 日本は山鹿素行の「中朝事実」をもって
    支那を越えたと言う事実だ. 江戸時代の学者
    にとって既に日本が「中国」であった.

    増田悦佐氏の日本文明優越論は平成の「新中朝事実」
    だと言える. これらをもってすれば, 先日の,
    TPPを拡大してアジアの盟主になるとの主張は,
    TPPなしでも必然だろう. 欧米の連中が今やって
    いることは単なる金儲けに過
    2015年08月10日 15:26
  • 白なまず

    ひふみ神示 第22巻 青葉の巻 第七帖
    いやな事は我が血統に致さすなり、他人傷つけてはならんなり、、、何彼の事ひふみ、いろはでやり変へるのぢゃ、時節めぐりて上も下も花咲くのぢゃぞ。誰によらず改心せなならんぞ、この方さへ改心致したおかげで今度の御働き出来るのぢゃ、同じこと二度くり返す仕組ざぞ、この事よく腹に入れておいて下されよ。同じこと二度、この神示 神と仏のふで。八月二日、一二⦿ 。
    2015年08月10日 15:26
  • tpp

    TPPに反対する人の気が知れない。
    日本は外圧で反映してきた国。明治維新、敗戦など
    今回のTPPは大チャンスであり、既得権益層が潰れ、
    世界的競争力のある分野が伸びる。
    既得権益層を税金でだらだら守る必要がなくなるのが一番良いこと。

    jbbs.livedoor.jp/business/13435
    2015年08月10日 15:26
  • 名無し

    TPPは現代の日米修好通商条約。
    江戸幕府の無知無策の象徴であり、野田政権の無知無策の象徴。
    改定に40年以上を必要とした悪法の2番せんじに賛成するのは、
    歴史の教訓を無視する愚か者。
    歴史は同じ過ちを繰り返さないために学ぶもの。
    「明治維新、敗戦など今回のTPPは大チャンス」という者は、
    同じパターンの対応策しか思いつかない、思考停止の前例至上主義者。
    2015年08月10日 15:26
  • mt

    民主党政権でなければ、参加も考える余地があったかもしれないが、所詮今は泥舟状態だ。世界へ向かって自己主張などできるわけもない。1%の利益の為に99%が辛酸を舐めることになるのがTPP。
    とにかく、情報をはっきり出さないのが何より悪い。隠したがるのは、隠さねばならない事実があるからだろう。
    2015年08月10日 15:26

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