
昨日のエントリー「TPPに参加するメリットとは何か」のコメント欄で、かめを愛する者様からコメントをいただいたのですけれども、お返事が長くなったので、エントリーとして上げさせていただきます。
まずは、いただいたコメントを以下に引用します。
参加したら「どうなる」という議論も大切ですが、「どうする」「どうもっていく」という議論も必要なのではないでしょうか。例えば、農業分野は自由化に対応して少人数効率農業になり、高付加価値の輸出産業になる、今強い素材産業はますます無敵になり、外国人労働者も多く入って国内消費が伸びる、その一方で国内のサービス産業は規制の緩和が進んで自由化されるが日本語が障壁になって日本人の雇用はしっかり守られる、という感じにもっていければいいなとビジョンを描き、そのためにはどうすればよいか考えて、それをかめでもわかるような言葉で表現して国民の合意を形成し、今から手を打っておく、こういうことができる政治家に登場してほしいと思います。かめを愛する者さまより
1.大局的見地ってなあに?
私は、TPPに対しては、今のところ、やや批判的スタンスですけれども、政府がちゃんとした構想を持っているのであれば、勿論、その内容によりますけれども、TPP参加もアリだと考えています。まぁ、今の政権では全然お話になりませんけれども。
それ以前に、しっかりとした国家戦略なり、未来への構想があるのであれば、最初からきちんと国民に説明できるはずなんですよ。それができないのは、構想がないか、功を焦っているかのどちらかだと思いますね。
功を焦っているというのは、鳩山・菅と2代続いて、日米関係を無茶苦茶にした汚名を挽回しようとしているようにも見えるんです。特に鳩山さんが普天間でミソつけたのがかなり利いていますね。
けれども、それならそうと、正直に国民に言って、信を問えば済むことです。既に政権交代時のマニフェストとは真逆の方向に行っているんですから、国民の審判を仰ぐべきですね。そう思います。
どこかの政調会長様は、まだ政権交代して2年間だ、なんて言っていたようですけれども、戦争になったら、国が滅ぶのに2年も要らないんですよ。兵器が発達した現代なんかとくにそうです。政治家は、国民の命を預かっているという自覚がないといけない。
それで、かめを愛する者様の仰る「どうする」「どうもっていく」という議論なんですけれども、これは正に、国家戦略や未来構想の部分ですよね。政府にこれがないから、そういう議論が起こらない。
まぁ、それでも一部の議員にはそういう意識はあると思うんですよ。先日のテレビで、TPPの"議論"をすべきだと言ったのに、TPPに"参加"すべきだと捏造された、自民党の谷垣総裁なんかは、そのテレビで「外交や安全保障といった観点からの検討も必要だ」と言っているのですから、認識のある議員はいるはずなんです。
けれども、テレビや新聞で出てくる記事は、農業がどうだとか、医師会が反対しているとかばかりです。経団連会長あたりは「大局的見地からの判断が必要だ」と言っているようですけれども、その大局とは具体的に何かなんて言わないですね。まぁ、経団連の立場では、TPPは中国包囲網だなんて口が裂けても言えないでしょうけれども、政治家はそれくらい議論できないと駄目だと思いますね。
まぁ、何もストレートにそう言えとまでは言いませんけれども、アメリカのブルッキングス研究所のジョシュア・メルツァー氏なんかは「現時点で中国のTPP参加の議論はない」なんて、結構ストレートに言っていますね。
それに、政治家が言えなければ、マスコミが代わりにその辺りを指摘できなければいけないのですけれども、やれTPPありきだとか、結論を早急に出す必要があるとか煽るようでは、その役目を果たしているとはいえません。
2.口コミ市場原理
さて、「農業分野は自由化に対応して少人数効率農業になり、高付加価値の輸出産業になる」ということですけれども、私も大きな流れでは、安全性も含めて、やはりその方向にいくと思いますね。どうみても、日本の農産物を輸出産業にしようと思うとそれしか道はない。
今の日本の農作物に対する農薬の安全基準は、EUと同じく世界最高水準の厳しさを持っているかと思いますけれども、TPPに参加すると、アメリカ基準並みに下げられてしまうという指摘があります。
仮にそうなった場合、味や鮮度は勿論ですけれども、日本の消費者が農薬基準も購買の選択枝にいれるかどうかだと思うんですね。これまでの安全基準をクリアしている品を選んで買うようになるか、ならないか、それが質で日本の農産物が勝てるかどうかのひとつの目安になるのではないかと思います。
おそらく国産でも、安全基準が緩くなったから、とバカスカ農薬を使って大量生産するものも出てくるかもしれませんけれども、これまで以上に厳格に、減農薬野菜を売りにするものも、きっと出てくると思うのです。それを、消費者が多少高くても、名指しで買うようであれば、まだまだ勝負できる。
今の原発事故によるセシウム汚染についても、産地に拘ったり、水に拘ったりする人が少なくありません。ですから、口コミか何かで、アメリカ産は農薬漬けだぞ、ということが広がれば、思ったほど、アメリカ産のものは売れないかもしれない。これも市場原理ですよね。国の規制が当てにならないとなれば、自衛に走るしかない。そうなるかならないかが、ひとつのポイントのように思います。
あとは、TPPに参加するとなったら、今でもそうですけれども、農作業の人手に外国人を雇うケースも増えてくると思います。彼らが母国に帰って、そこで、日本の質の高い農産物を真似して、外国産で同等レベル以上の作物を作るようになったら、本当の危機がくるとは思いますけれども、それには、もうしばらく時間がかかると思いますね。
やはり、最後には、日本人ならではの拘りと工夫、匠の技を極める気質が勝負を分けるような気がします。
3.矢面に立つ日本
もし、私が、TPPに絡んだ構想を出すとするならば、国内的には、日本語ファイアーウォールを上手く使いながら、国内産業のイノベーションを加速させつつ、対外的、特に、安全保障政策として、TPPを使うことを考えますね。
やはり、今の世界はブロック経済に向かっていると思います。EU、NAFTAとあって、ここでTPPが立ち上がってくれば、環太平洋ブロック経済圏が出来上がりますよね。そして中央アジアでは、プーチンがユーラシア連合を興そうとしていますし、中国は中国で、日中韓FTAもしくは上海協力機構を動かそうとしている。
日本の安全保障を考えたとき、一番危険なのは、やはり、中国と北朝鮮、まぁ、ロシアもちょっと怪しげですけれども、プーチンが権力を持っているうちは、経済協力体制を取れる可能性があります。ですから、まずは中国・北朝鮮に対する備えを考えるべきだと思います。
最近、クリストファー・レインの「幻想の平和」の纏めシリーズをエントリーして、オフショア・バランシング戦略を御紹介していますけれども、あそこまで極端ではなくても、最近のアメリカは東アジアからは一歩引いていく姿勢を見せています。アメリカのパネッタ国務長官は「太平洋の米軍は削減されることはなく、存在を強化し続ける」とはいっていますけれども、今以上の軍事的貢献を日本に求めてくることはもう明らかですね。
アメリカは、オフショア・バランシング戦略をとって、日本と中国を互いに牽制させつつ、漁夫の利を狙う。要するに、日本が安全保障の矢面に立つ時代になったということですね。
では、今後日本はどうするべきか。
4.日本版オフショア・バランシング戦略
まぁ、日本自身も今の金縛り状態の法的制約の解消、すなわち、憲法9条見直しや、防衛力強化は勿論必要ですけれども、アメリカがオフショア・バランシングをするのなら、日本だってオフショア・バランシングしてもいいと思うんです。
たとえば、「ユーラシアを南北に横断せよ」のエントリーで述べたように、インドからアフガニスタン、カザフスタンを経由してモスクワまでいくユーラシア縦断新幹線をつくるなんかはそれに当たると思いますね。インド、パキスタンとプーチンのユーラシア連合を結んでやって、一大経済圏にしてやる。そして、インドやロシアといった、民主国家として歩みだしている国々と結びつくことで、あの地域を民主国家のベルト地帯にする。
それに、パキスタン、カザフスタン、東トルキスタン(ウイグル自治区)はイスラム教徒が多いですから、あのあたりがイスラム教を媒介とした、ある種の極になる可能性もあります。しかも、あの地域は、丁度、日本からみて中国の後背に当たる部分ですから、あの地域と日本が繋がるとなれば、十分に中国に対する牽制になると思いますね。
今、日本は、東アジア海洋フォーラムを提唱して、ASEANとの結びつきを強めています。まぁ、はっきり言って、中国包囲網なんですけれども、インドもベトナムと軍事協力体制を作りつつあります。また、日本もつい先日、そのベトナムと防衛相会議を行なって、防衛当局間の協力関係を強化する覚書に署名していますし、12月には野田首相が戦略関係強化にインドを訪問する予定になっています。
要するに、日本からASEAN、ベトナムを経由してインドまでの半中国包囲網を形成しつつあるということです。そこに、ユーラシア縦断新幹線を作って、インドからモスクワまで繋いでやれば、麻生さんが提唱していた"自由と繁栄の弧"が出来上がることになります。
5.自由と繁栄の環
そして、私は更に、北海道からサハリンを経由してシベリア鉄道に接続してやれば、南は先ほどのASEANからモスクワに繋がる、自由と繁栄の「下弦の月」で、北は日本からシベリア経由でモスクワまで繋がる、自由と繁栄の「上弦の月」でそれぞれ中国を包囲することになります。
つまり、"自由と繁栄の弧”が"自由と繁栄の「環」"になるということですね。
実は、このアイデアは、2007年8月に、「自由と繁栄の環」というエントリーで述べていたりします。(笑)
まぁ、当時の構想では、北アメリカが"上弦の月"に相当していたのですけれども、北極海航路が開拓され、プーチンがユーラシア連合構想を打ち出している今のタイミングであれば、シベリア鉄道・または北極海航路を"上弦の月"にすることも可能だと思いますね。
それに、シベリア鉄道が日本まで延長されれば、バルト海の天然ガスかなんかを液化して、日本に運んでくることもできますね。場合によっては緊急時のシーレーンのバックアップになる可能性だってあります。このあたりについては、2009年2月の「サブマリンレーンとシベリア新幹線」や2011年3月の「海賊対策とシーレーン」「海賊の身柄引き渡しとウラン・ロード」のエントリーで述べたことがあります。
このように、中国、および北朝鮮を民主国家の環で包囲する。そして、TPPという、多少極端ですけれども"自由主義の権化"のようなブロック経済圏を隣接させる。
別に戦争を仕掛けるわけではありませんけれども、そのような状態に置くだけでも中国にとっては、プレッシャーになると思いますね。
ただ、この構想のポイントは、自由主義経済は経済発展するという前提があることです。自由であるからこそ発展できる、この考えとその実証があってこそ、中国に対する牽制足りえるということです。
その意味では、サブプライムやリーマンショック、今のEUの問題など、これらが、果たして自由主義経済だったからこそ破綻したのか、だとすれば、やはり共産国家のような統制経済がよいのか、といった試しというか、問いかけを時代から為されているのではないかと思うんですね。
私個人としては、共産主義より自由主義のほうが、より良いと考えていますけれども、もしかしたら、その答えは、自由主義でも共産主義でもないのかもしれません。
・・・これとは別に、6/12に、かめを愛する者様からいただいている宿題があるんですよね。忘れてはいないんですけれども、7月に一度書き始めて、途中でそのまま・・・。あぁ、もう書き掛け原稿が、メモフォルダの山の中に埋もれてしまってます・・・。すみません。も少し時間ください。
あと、operaさんからも宿題をいただきました。こちらも気長にお待ちくださいませ・・・。

この記事へのコメント
opera
しかし、アメリカがTPPを持ち出してきた経緯を考えれば、これは完全に後づけの理屈です。また、仮にTPPに中国包囲網の意味があっても、その内容は完全に日本を従属化に置いた上でのものです。たぶんそれに気づいているから、産経の古森さんのようなTPP推進派は、その内容を頑なまでに論じようとせず、むしろ反対派に陰謀論者といったレッテルを貼って、議論を封じようとするんでしょうね。
アメリカがアジアの最前線から手を引くといったオフショア・バランシング的な考え方は、冷戦崩壊直後からありましたが、それを押止めていたのは一時的なアメリカの単独覇権国家としての隆盛です。
軍事的にはもちろん、経済的にそれを支えていたのがアメリカ国民の膨大な消費でした。ITバブルの崩壊直後からのサブプライム・ローン等による不動産バブルにおいて、アメリカ国民は年間100兆円規模で借金をして世界中からの輸入を拡大し、途上国等の成長を支えていました。反面
ちび・むぎ・みみ・はな
立てると絶対10年以上はかかる. 例えば,
農業だけを考えても, 体質改善や儲けの
出ない農家の転業などは必ず一世代は必要.
だから, 社会の慣習を変える必要のある
TPP は時間の問題で明らかに不可能.
そんなのは明らか.
日本語ファイアーウォールの話しをされて
いるが, 基本的に商取引の中での日本語は
確実に参入障壁と断定される. 米国は
他国の文化を理解しようとはしないのは
歴史的事実.
それから, 日比野庵殿の様に広域で考える
なら TPP である必要は全くなく, 普段の
外交的な協調関係を進めていけば良いだけ.
そもそも, 積極的な外交を心がけるなら
他国のルールであるTPPに入り込むのは
おかしな話し. 基本ルールがあるTPPに
入り込んで日本の独自性が主張できるか,
試みに現在のTPPルールで思考実験してみると
良い. 誰にでもできる.
かめを愛する者
>国家戦略や未来構想
明治時代は植民地化防止、戦後は欧米に追いつけ追い越せ、と言ったわかりやすい目標があったと思いますが、今はそういうものがなく、目標を「創造」しなければならないので、難しいのでしょうね。政治家が選挙で忙しすぎるのでしょうか。いっそこういう部分は皇室から発信してもらうとよいのかなとも思います。
政治家や識者と言われる方々が、「もし私が、TPPに絡んだ構想を出すとするならば・・・」と意見を発表し、「自由と繁栄の輪」のような構想が次々とでてくれば、(マスコミがそれをきちんと報道してくれれば)国民も冷静で前向きな議論ができるのではないかと思っています。