EUも中国もブロックする三日月

  
「我々は強力な超国家的統合モデルを提案し、それは現代世界の極の1つとなるとともに、ヨーロッパとダイナミックなアジア太平洋地域を結び付けることが出来る効果的なつなぎ役となるだろう。それはつまり、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンが参加する関税同盟と同じ構成国からなる統一経済圏を基盤にして、さらに緊密な経済・通貨政策の調整を行う必要があり、完全な経済同盟を作り上げることも含まれている。」
ウラジミール・プーチン首相 於:「イズベスチア」新聞への寄稿論文より

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1.解体吸収を恐れるロシア

10月11日、今年で16回目を迎える中露首相定期協議に、ロシアのプーチン首相が中国を訪問、北京で温家宝首相と会談し、多角的な戦略関係の構築に向けて努力していくことで合意した。

両国は、ロシアが中国に年間最大680億立方メートルのガスを30年供給する契約について、永らく、価格交渉で折り合いがついていなかったため、今回の会談でその解決が期待されていた。

だけど、専ら期待していたのは中国側だったようで、首脳会談に先立って行われた、中国マスコミとの会見では、石油ガス契約をめぐる質問が集中したようなのだけれど、プーチン首相は、「われわれにとってガスをめぐる協同行動が鍵を握るとはみなしてはいない。」と答えて合意文書が署名される可能性を否定。彼らの期待を打ち砕いた。

とはいえ、ロシア・中国間の経済的結びつきは拡大している。10月10日には、中国の王岐山副首相が、昨年570億ドルだった中露の貿易額を2020年に2千億ドルに拡大させる目標を明らかにしているし、プーチン首相は温家宝首相との会談を総括し、「今年われわれは少なくとも、明らかに700億ドルの水準まで到達するだろう。もしかしたらそれ以上、800億ドルに近づくかもしれない」とコメントしている。

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これだけを見ると中露は益々接近していると見えるのだけれど、事はそう簡単な話じゃない。

ロシアの国家戦略研究所で国際プロジェクト所長を務めるユーリー・ソロゾボフ氏は、「ロシアは他のCIS諸国と同様に、地政学的に決定的な選択の前に立たされています。それはヨーロッパや中国にバラバラに吸収されていくか、もしくは関税同盟や統一経済圏のような強力な地政学・経済学的な中心を作り出すか、ということです。」と述べている。

つまり、ロシアは手をこまねいていると、"ヨーロッパや中国にバラバラに吸収されていく"恐れを持っているということ。

ロシアはあの広大な領土を抱えているけれど、人口は一億四千万人と日本と同等の人口しかなく、GDPは1兆4650億ドルと、世界第11位。そして、その国境の大部分が中国に接し、EUとも隣接している。

先進国の連合体であるEUは勿論のこと、経済成長著しい中国と2つの大経済圏と陸続きで接している状況を考えると、確かに、端っこから削り取られていくように、バラバラに吸収されていく恐れを抱いてもおかしくない。

となると、それを食い止めるためにはどうするか。

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2.EUも中国もブロックする三日月

ひとつは、ソロゾボフ氏が指摘するように"関税同盟や統一経済圏のような強力な地政学・経済学的な中心を作り出す"ということ。つまり、EU、中国に対抗できるだけの新しい経済圏をロシアの影響下に作り出すという方法。

仮にそんなものをつくろうとした場合、何処につくるかというと、もちろん、EUと中国からの影響を阻止できる場所につくる必要があるし、できれば、ひとつ作るだけで、EUも中国も抑えられるなら言うことなし。

そんな素敵な場所があるのかというと、比較的それに該当する場所は、カスピ海を中心として、北はヨーロッパ、東は中国へと繋がる三日月状の地帯。国でいうと、北から、ベラルーシ-ロシア西端-グルジア-アルメニア-アゼルバイジャン-カザフスタン-ウズベキスタン-タジキスタン-キルギスを経て、中国のウイグル自治区へと繋がるライン。

ここに一大経済圏をつくることができれば、ロシアからヨーロッパに向かおうとしても、行く途中に壁のように、新経済圏があるから、わざわざヨーロッパにまで出かける必要はなくなる。また、カスピ海から東へ中国に繋がるラインを抑えることができれば、今度は、石油や天然ガス、即ちエネルギー供給の面で優位に立つことができる。

つまり、この三日月上の地帯をロシアが抑えることができれば、EUに対する経済的防御壁を築くと同時に、カスピ海周辺の油田から中国に送るパイプラインの元栓を手に入れることになる。

従って、この地帯はロシアにとっては、非常に重要な地域であり、ロシアの命運を握る地政学上の要衝。

では、ロシアはこの地帯に手を入れているかというと、その下地はすでにある。



3.プーチンの「ユーラシア連合」構想

ソ連崩壊によって、旧ソビエト連邦の12か国で形成された緩やかな国家連合体、通称CISが誕生したけれど、その中のベラルーシ、カザフスタン、タジキスタン、キルギス、アルメニアはロシアとの緊密な関係を保ち、5か国で関税同盟を基礎にした、ユーラシア経済共同体 (EurAsEC) を2000年に結成している。

この5ヵ国は地図をみれば分かるとおり、先程述べたEUも中国も抑えられる三日月上の地帯に綺麗に並んでいる。あとは、ここをポイントに梃入れすれば、新しい経済圏を作れる可能性がある。

そこへきて、10月3日、プーチン首相は、ロシア、ベラルーシとカザフスタンの3カ国で結成した関税同盟をベースに、将来的には超国家連合「ユーラシア連合」(ユーラシア・ユニオン)にまで拡大・発展させる構想を明らかにした。

このベラルーシ、ロシア、カザフスタンの3ヶ国は、その位置が綺麗に北から弧を描いて、ウイグル自治区にまで届いているから、ここを中心に「ユーラシア連合」を造れば、EUを経済面でブロックし、中国をエネルギー面でブロックできるようになる。ロシアはこの三日月という友達を得ることで、星を手にしようとしている。

中国でもなんでもそうだけれど、経済発展には必ずエネルギー供給が必要で、発展すればするほど、エネルギー需要は高まってゆく。

だから、ロシアとしては、中国がロシアを飲み込んでゆく前に、ユーラシア連合を作っておきたい。とすれば、一番効果的なのは、中国への石油やガスの供給をしなければ、その分、発展を鈍らせることができる。

だから、先の中露首相定期協議でもプーチン首相は中国との石油ガス契約は二の次三の次といった態度でいるのではないか。

また、中国は中国で、インド洋から南シナ海、東シナ海への海洋覇権を目指そうとしているのなら、後背にあたるロシアとの関係を良好にしておかなくちゃいけない。南シナ海を"最良の戦場"と嘯いて、フィリピンとベトナムに懲罰戦争している最中に背中から撃たれちゃ敵わない。

双方それぞれの思惑が絡み合っての動き。日本はどうしていくのか。グランドビジョンが求められる。




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画像中露接近、欧米を牽制 プーチン氏、訪中で経済関係深化を模索  2011.10.12 11:38

 【北京=川越一】ロシアのプーチン首相が11日、大統領への“返り咲き”を宣言してから初の外遊先として中国を訪問、北京の人民大会堂で温家宝首相と会談し、多角的な戦略関係の構築に向けて努力していくことで合意した。訪中の表向きの目的は今年で16回目を数える中露首相定期協議だが、両国のさらなる接近は米欧に向けた牽制(けんせい)球とも受け取られる。



 中国からの投資を呼び込みたいプーチン氏は、ロシア政府系の天然ガス独占企業、ガスプロムなどエネルギー資源関連企業の幹部ら約160人を従えて北京を訪れた。中国の王岐山副首相が10日、昨年570億ドルだった中露の貿易額を2020年に2千億ドルに拡大させるとの目標を明らかにするなど、両国の経済的結び付きは深まっている。

 ただ、その力関係には変化が生じている。旧ソ連時代から武器輸出の得意先だった中国は、コピー技術にものをいわせ“国産”に傾斜している。経済発展を支える資源の確保が欠かせない中国に対し、ロシアは天然ガスを売り込んできたが、09年に中国と中央アジア諸国を結ぶパイプラインが開通。エネルギー消費の増加を見据え、中国は選択肢を広げている。

 ロイター通信によると、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は「ロシアへの依存度を縮小させている中国が両国関係で優位に立ってきている」と分析。ロシア国内でも「中国の成長はチャンスよりも脅威」とみる意見が出ている。

 今回、中露間の懸案となっているガス価格交渉の決着が期待されていた。露側はプーチン氏の訪中前に、ガス供給に関する合意文書が署名される可能性を否定。ガスプロム幹部も供給開始目標を「2016年まで」と下方修正したが、これを中露の対立とみるのは早計だ。

 両国は国連安保理でともにシリア非難決議に拒否権を発動するなど国際問題で連携を強めている。国営新華社通信によると、プーチン氏は会談で「時折発生する問題の新たな解決策を探すことについて双方に異議はない」と強調。平行線が続く問題を先送りし、世界第2位の経済大国との関係を深化することが得策とする“次期大統領”の外交方針の一端のようにも映る。

URL:http://www.sankeibiz.jp/macro/news/111012/mcb1110121142030-n1.htm



画像【佐藤優の地球を斬る】訪問に見えるプーチン首相の対中認識

 10月11~12日、ロシアのプーチン首相が中国を訪問した。12日、国営ラジオ「ロシアの声」(VOR)は、《ここで注意を促したいのは、2008年の経済危機以前の露中の貿易額は最も高かったときでさえ、560億ドル弱だったという事実である。プーチン首相は温家宝首相との会談を総括した中で「今年われわれは少なくとも、明らかに700億ドルの水準まで到達するだろう。もしかしたらそれ以上、800億ドルに近づくかもしれない」と語っている》と報じた。

 このニュースだけを読むと、中露関係は順風満帆のように映るが、実態はそうでない。

 ■石油ガス協力合意せず

 中国が最も必要とする石油、天然ガス分野の経済協力について合意が達成されなかった。

 《北京での一連の首脳会談に先立ちプーチン首相は、中国のマスコミ代表と会見したが、代表たちがまず興味を持ったのは、両国の石油ガス契約をめぐる諸問題だった。プーチン首相は「われわれにとってガスをめぐる協同行動が鍵を握るとはみなしてはいない。優先的になるべきものは、もちろんハイテク領域での協力であり、また伝統的な機械製作のみならず航空機製作における両国の協力だ」と指摘した》(VOR)

 プーチン首相が「われわれにとってガスをめぐる協同行動が鍵を握るとはみなしてはいない」と述べたことが重要だ。中国の経済発展の鍵になるのは、エネルギーの安定的確保だ。ロシアは中国へのエネルギー供給に関して、ロシアの国益を考慮した上で慎重な態度を示したのである。さらに航空機製作の協力をすれば、事実上、ロシアの航空機産業の傘の下に中国が入ることになる。もちろん軍事転用も可能だ。中国の航空機産業をロシアの統制下に置こうとのプーチン首相の意図が如実に反映されている。1970年代にKGB(ソ連国家保安委員会)で教育と訓練を受けたプーチン氏には、ロシアにとって中国が脅威であるという認識が刷り込まれている。今回の訪中も注意深く観察するとプーチン首相の対中警戒感があちこちに表れている。

 ■ユーラシアブロック急ぐ

 さらに興味深いのが自由貿易に関するプーチン首相の認識だ。

 《北京訪問中、ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟問題もテーマとして挙がった。プーチン首相は、これについて以下のような考え方を示した--

 「交渉の枠内での基本的諸問題は解決された。残っているのは、政治面での問題に限られる。ロシアのWTO加盟の見通しに関する私の見方は、全体としてポジティヴなものだが、繰り返し言うが、それは一定期間、ロシア経済の個々の部門を守る義務的なスタンダード合意があるという条件下での話しだ。」》(VOR)

 プーチン首相は「一定期間」という留保をつけているが、保護主義的姿勢を鮮明にしている。プーチン氏は、本質において帝国主義者である。

 10月6日、モスクワで行われた投資家を対象とするフォーラム「ロシアが呼んでいる!」の席上、プーチン首相は、《ロシアはNATO(北大西洋条約機構)にもEU(欧州連合)にも加わることはなく、国民の生活水準を向上させることが主要な課題であることを指摘した》(VOR)

 プーチン首相は、EUを帝国主義的な経済ブロックと見なしている。そして、EUや中国との帝国主義的競争の中でロシアが生き残るためには「ユーラシア共同体」というブロック経済体制を構築しなくてはならないと考えている。国際環境の変化を冷静に受け止め、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の参加を加速し、経済面でも日米同盟を深化させることがわが国益にかなうと筆者は考える。

 (作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS)

URL:http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/economy/policy/531781/



画像<新興国EYE>ロシアのプーチン首相、「ユーラシア連合」の創設構想を発表

ロシアのプーチン首相は3日、旧ソ連のベラルーシとカザフスタンの3カ国で結成した関税同盟をベースに、将来的には超国家連合「ユーラシア連合」(ユーラシア・ユニオン)にまで拡大・発展させる構想を明らかにした。これは同首相が政府機関紙イズベスチャ(電子版)に寄稿したもの。

 ただ、プーチン首相は、ユーラシア連合は旧ソ連邦の復活やCIS(独立国家共同体)に取って代わるものではなく、共通の経済政策や為替政策を持った超国家連合を目指すとしている。関税同盟は今年1月からスタートし、来年1月には統一経済圏(CES)を誕生させる計画だが、同首相は「関税同盟やCESが将来のユーラシア連合の基礎になるもので、統一の度合いを一段と強めることがわれわれの目的だ」と述べた。

 また、同首相はこの構想は強力な超国家連合モデルとなるもので、欧州とアジア・太平洋地域を効果的に結ぶ役割を担うことを目指すとも述べており、「門戸は開放されており、特にCIS諸国の参加を歓迎する」としている。

提供:モーニングスター社

URL:http://www.morningstar.co.jp/portal/RncNewsDetailAction.do?rncNo=538517

この記事へのコメント

  • でか・こめ・くち・まゆ

    ■ちび・むぎ・みみ・はな氏のプロファイリング抄録■

    ■自己顕示欲が旺盛.

    ■だがしかし,他人の評価を恐れて断言できない.

    ■ ∴ いつも論旨は不明で,“感想文”にもならないレベル.

    ■ 痛々しい カワウソ さん.
    2015年08月10日 15:26
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    この地方はソ連の時代から搾取されてきた
    印象がある. ロシアへの求心力がなければ,
    うまくは行かないのでは.

    ロシアの本音はシベリアを支那にとられる
    のを何とかしたいのだろう.
    2015年08月10日 15:26
  • sdi

    墓の中にいるマッキンダーのコメントが欲しいな。
    2015年08月10日 15:26

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