抑止安心から委任へ(「幻想の平和」纏めメモ 第4回)

 
今日は、「幻想の平和」纏めメモの第4回です。前回の「ユーラシアにあるアメリカの同盟国たち」の続きになります。

今節で、レインは、同盟国には国防の責任を負わせるべきだと主張していきます。

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4.抑止安心から委任へ

レインは、覇権主義者たちはユーラシアへの軍事的コミットメントを「ユーラシアでの大国間戦争での損害に対する保険的政策」だといい、それが戦争の発生を防いだり、戦争になっても被害を限定できると主張するが、"保険は損害の埋め合わせであって、損害の阻止や限定ではない"ために、彼らの主張は、それはかなり怪しい類推だといいます。

そして、それ以前に、そもそもこの保険がリーズナブルなものなのか、巻き込まれたら、法外な値段を支払わされるものではないのか、と疑問を投げかけます。

そして、レインは、今のアメリカの同盟国は、地域紛争の調停者などではなく、アメリカを戦争に巻き込む「戦争伝導地帯」だと断じます。そしてユーラシアで戦争をするかどうか決める際に、始めから手を縛られている状態に追い込んではいけない、と警告します。

そんな危険から逃れられるために、「オフショア・バランシング」戦略があるのだ、とレインは言います。

続けて、レインは、オフショア・バランシングは「責任転嫁」戦略であり、「責任を分かち合う」戦略ではない、とここではっきり断言しています。

筆者は、これはオフショア・バランシングを理解する上で、非常に重要な箇所であり、核心に近い部分だと考えます。「オフショア・バランシング」では、他国に自らの国防のコストとリスクを委譲することになるということです。

レインは、第2次大戦直後の、西ヨーロッパや日本が復興するまでの一時期、彼らをアメリカの戦略的傘の下に置くことは合理的な判断であったが、今や、彼らの海外の権益を地域的な混乱から守る理由はどこにもないと言い切ります。西ヨーロッパ、日本、韓国は、自分達の安全を自分達で担うだけの経済・テクノロジーを持っているのだ、と。

アメリカは地理とハードパワーの2つによって、強力なライバル国引き離されているので、本来安全な立場にあるのだから、オフショア・バランシングで国防の全ての責任を同盟国に委譲することで、地政学的な優位を活用でき、多極状態で利益を得、自由に戦略を選ぶことができるとレインは主張します。

レインは、現在のアメリカの"大戦略の推進者達"は、「アメリカが安全保障の傘をたためば、ユーラシアに安全保障の真空地帯が出来てしまい、各国が再軍備して、ユーラシアは多極の不安定状態になる」と反対するだろうとしたうえで、いや、彼らの戦略はすでに失敗しているのだ、と言います。

そして、その理由として、地域の安定装置として行動しているにも関わらず、ユーラシアではすでに、各国は軍事面での自立(再国家化)が始まっているからだ、と指摘します。つまりアメリカのプレゼンスは平和のチャンスを増やしているのではなく、同盟国が将来のユーラシアでも戦争にアメリカを巻き込む確率を上げているのだ、と。

アメリカの同盟国たちは、東京や台北を守るために、アメリカが本気でシアトルやロサンゼルスをリスクに晒せるかどうか疑いを持っており、そうであるゆえに、軍事面での自立を始めているのだ、とレインは主張します。

例えば、日本はその典型例で、1998年の北朝鮮のミサイルを契機として、アメリカに対する信頼性が低下し、憲法九条の改正と核武装の可能性も考え始めているとし、独立したパワーの極としての基礎を固めつつあると指摘します。また、韓国についても、その軍事戦略が陸軍より海空軍の強化に向けられていることから、アメリカに頼って、半永久的なアメリカ軍の前方展開を前提としておらず、アメリカから分離してゆくための基礎を固めつつある、とレインは見ています。

したがって、多極化を食い止めることは無駄な努力であって、アメリカはそれを止め、「オフショア・バランサー」になれ、と主張します。そうすることで、彼らに、「管理された核拡散」をも含めて安全保障の責務を上手く"委譲"してやれば、ユーラシアは不安定化ではなく、安定化するはずだ、とレインは自身の見解を述べ、その方がアメリカにとって好ましく、かつ安全だと主張します。

今回は、ここまでです。



「幻想の平和」まとめシリーズ
 ・第1回:幻想の平和
 ・第2回: 「マグネット理論」は本当に妥当か
 ・第3回:ユーラシアにあるアメリカの同盟国たち


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この記事へのコメント

  • 愛信

    韓国政府は11日(日本時間12日)、国連総会で第二次世界大戦中の従軍慰安婦問題などに触れ、
    武力紛争時の性暴力問題を提起した。

    国連代表部の辛東益(シン・ドンイク)次席大使は、第66回国連総会第3委員会(人権)での
    女性の地位向上討論に韓国政府代表として出席し、旧日本軍の従軍慰安婦や組織的強姦、
    性奴隷など武力紛争下で発生する性暴力問題の深刻性について憂慮を表明した。

    辛次席大使は、このような性暴力は戦争犯罪に該当するとして、歴史的事件に対する正しい教育を通じ、
    武力紛争下での組織的強姦や性奴隷問題の再発を阻止すべきだと強調した。

    また、国連や加盟国は紛争下で生まれる性暴力の犠牲者に対する効果的な救済や
    被害予防に乗り出し、加害者を罰する努力をすべきだと主張した。
    http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2011/10/12/0200000000AJP20111012000500882.HTML

    統帥権を持つことで、韓国が真の主権回復を成しえた結果であり、東京裁判という国際法が否定されていない現実から当然の行為であ
    2015年08月10日 15:26

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