放射能を怖がるな

 
今日はちょっと趣向を変えて…。

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10月9日のエントリー、「ウォール街占拠デモとダライ・ラマの後継者」 のコメント欄で、ちび・みみ・むぎ・はな様から、" 「歴史通」11月号の茂木弘道氏の論説は如何だろうか"とのコメントを戴いたので、お返事も兼ねて、エントリーします。


1. 「歴史通」11月号の茂木弘道氏の論説

「歴史通」11月号の茂木弘道氏の論説というのは、「放射能を怖がるなーラッキー博士の日本への贈り物」という6頁にわたる寄稿文のことです。ラッキー博士でピンと来られた方もいらっしゃるかと思いますけれども、放射能に対するホルミシス効果について述べたもので、論説そのものは、主に8月に日新報道から出版された、ラッキー博士の論文3点の和訳と、茂木氏の解説章を纏めた『放射能を怖がるな』の紹介が主な内容です。

日比野庵でも、放射線については、何度かエントリーしたことがありますけれども、ホルミシス効果およびDNA修復については、今年の4月に以下の2エントリーで取り上げています。
放射線とDNA(放射線と健康被害について 前編)の3章 
人体の放射線抵抗力(放射線と健康被害について 後編)の3章

かい摘んでいえば、放射線によって、DNAは傷つくのですけれども、塩基の損傷や、DNAの二重螺旋の片方だけの切断(一本鎖切断)は、残った片方の正常な一本鎖情報を参照して、ほぼ完璧に修復されます。ただし、ごく稀に、二重螺旋の二本とも切断(二本鎖切断)される場合があり、その時、更に僅かな確率ですけれども、修復エラーを起こして、癌細胞の原因となる場合がある、ということですね。

DNAの損傷や切断は、自然の状態でも、当たり前に起こっていて、一本鎖切断は細胞一個あたり、毎日5万個発生しています。それが二本鎖切断となると、細胞一個あたり、毎日10個というオーダーで、仮に二本鎖切断されたDNAとて、1日で修復されます。

また、DNAの二本鎖切断と実行線量についての関係については、国立保健医療科学院によると、X線CT検査での実効線量で15mSv照射した直後に、一つの細胞あたり0.2カ所のDNA2本鎖切断が生じるとされているようです

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2.『放射能を怖がるな』についての批判と反論

さて、茂木弘道氏が紹介している『放射能を怖がるな』の書籍についてですけれども、アマゾンのレビューで、ある批判的なレビューがあり、それについて、茂木弘道氏本人と思われる反論が同じくアマゾンのレビューに書き込みされていましたので、参考までに以下に引用します。

-『放射能を怖がるな』についての批判 

ホルミシス効果は継続的な被曝にはあてはまらない(放医研の本参照), 2011/8/11 By konohonwasugoi  

ホルミシス効果の名付け親の学者さんが書かれているようですが、ホルミシス効果(細胞レベル、分子レベルも含めた広範な言い方では「適応応答」とも呼ばれる)は、以下の特徴があります。

1.放射線抵抗性の獲得に時間がかかる
2.100mGy以下の事前照射のみに効果が現れること
3.抵抗性の誘導は一時的で永続性がないこと

ここで大事なのは3で、原発事故が発生し、人々は体内にある程度の放射性物質を取り込んでしまいましたので、内部被曝をしているわけであり、その場合は継続する被曝ですから、「ホルミシス効果(適応応答)は一時的」、という特徴をかんがみると、まったくあてはまらない楽観論であることがわかります。

ちなみに上記は、日本の放射線防護機関のトップである放射線医学総合研究所編著の「虎の巻 低線量放射線と健康影響」からの抜粋です。さらに同書の108ページには、「放射線ホルミシスのように、不安解消に都合のいい情報に関心を示される事業者にお会いすることもある。これらの対応は、安心醸成に即効性があるように見えるが、長い眼で見ると事業者/専門家への不信感といった副作用を生みかねないので、慎重に行っていただきたい」とあります。

私自身、3年ほど前、広島の放射線影響研究所を尋ねたとき、そこのナンバー2レベルの研究者が、「ホルミシス理論といういいかげんな論調を振りかざして安全だと主張する近藤宗平氏は、非常に無責任である」と言って怒っていらしたのを目の当たりにしております。

ラッキー博士、本当に100mSV以下の放射能くらいであれば、体に良いとおっしゃるならば、翻訳者と推薦者の日下公人氏とともに、福島に移住されてみてはいかがですか?Dr. Lucky, if you insist that low level radiation is harmless and even beneficial to you, why don't you move to Fukushima and live there for a while to prove your precious theory?

内容とともに表紙のデザインやいでたちも、日本人を小馬鹿にしているような気がしてなりません。福島の子供たちへの健康をまったく無視したこのような本を見かけると、悲しく、情けなくなります。
Dr. Lucky, can you tell the same thing to your grandchildren so that they can come to Fukushima for summer camp to enhance their health condition? Have you ever thought about children in Fukushima?


これについての茂木本人と思われる反論は次の通り

ラッキー博士に代わって, 2011/8/16 By 茂木弘道 "moteki" (東京都港区)

ホルミシス効果そのものについて少々誤解された批評がkonohonwasugoiさんから出されていますので、ラッキー博士になりかわり説明いたします。

1. 放射線抵抗性の獲得には時間がかかる  
といっていますが、ホルミシス効果は必ずしも放射線「抵抗性」ではありません。放射線の害がないという意味で「抵抗性」と言うのかもしれませんが、ホルミシス効果は放射線の「益」があるということをいっているので少々見当はずれです。更に、時間がかかるというのは間違いで、広島・長崎の被曝者は1秒以下の瞬間的な被曝をしたわけですが、その後のデータを見ると、数々のホルミシス効果が表れています。
 77ページに広島と長崎の白血病死亡率のグラフが出ています。140ミリグレイ(シーベルトと読替えて可)以下の被曝者は、一般平均死亡率を下回っていますが、特に、72ミリグレイの被曝者は、一般平均の20%の死亡率です。
 こうしたデータは、『放射線を怖がるな』の中にいくつも紹介されていますので、是非ご覧いただきたいものです。ホルミシス効果とは、このように、放射線抵抗性というより、放射線効果なのです。

2、100ミリ以下の事前照射のみに効果が表れること
と言うのも上記の広島・長崎の被曝者の実例によって完全に否定されていると言えましょう。140ミリグレイ以下の被曝者は、白血病死亡率が明らかに一般平均よりも低くなっています。

3、抵抗性の誘導は一時的で永続性がないこと
というのですが、6か月は続くという事です。それに、このことから「ホルミシス効果(適応反応)は一時的」と言う論を展開し、内部被曝と言う継続する被曝に「ホルミシス効果」は効かないという結論を出しているのは、混乱の極みです。第1に内部被曝が現在の福島で起こっている被曝の中心ではありません。又内部被曝であろうと外部被ばくであろうと、人体への影響度は累積シーベルトではかられますから、「内部被曝」と言う事をことさら強調して、お脅しをかけるかのようなことを言うのは、科学者の取るべき態度ではありません。第3に、前にも述べましたが、抵抗性などと言うのが間違いです。ホルミシス効果は慢性的、累積的な被曝によっても現れます。本書109ページにアメリカのコーエン博士が70万世帯の人々にラドン濃度を上げていったときどういう効果が出るかを観察したグラフが出ています。40ミリシーベルトに濃度を上げると、肺ガン死亡率が約半分に減少しています。こういう事実が本書に出ているのを全く読んでいない方のレビューとしか思われません。

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3.放射能は気にして怖がらない

この批判と反論についてですけれども、批判している方(konohonwasugoiさん)ですらも「ホルミシス効果」を否定していないところがポイントだと思うんですね。ただ、"一時的で永続性がない"点を取り上げて批判している。

それに対して、茂木氏は一時的ではなくて、6か月は続く(期間について、茂木氏はラッキー博士に確かめたらしい)と反論しています。まぁ、6か月が一時的なのかそうでないのかはさて置いて、現実をみると、福島第一原発事故による放射能汚染は6か月で綺麗さっぱり無くなるなんて有りえないわけで、その意味では、6か月ではなく、何年にもわたって、低線量の放射線を浴び続けた場合であっても、ホルミシス効果があるのか、またはないのかについての論究がないと、あまり意味はないと思います。

茂木氏は、ラドン濃度を上げていくと肺ガン率が減少したという例を挙げ、ホルミシス効果は慢性的、累積的な被曝によっても現れる、と反論していますけれども、ラドンは体内のどこかに蓄積することのない物質で、呼吸などによって、速やかに排泄されることから、放射性セシウムのように筋肉に蓄積される放射性物質と全く同列に扱ってよいのかどうかは少し疑問に思います。

更にいえば、外部被曝は、紙一枚で遮蔽でき、空気中では数cmしか飛ばないα線や、厚さ1cmのプラスチック板で遮蔽できるβ線による被曝はあまり考慮しなくてよく、主にガンマ線による被曝が主であるのに対して、内部被曝はα、β、ガンマ線の全てから被曝するという違いもあります。

尤も、放射性セシウムは体内に取り込まれても、大半は、100日から200日で体外に排出されますから、茂木氏の言うとおり、「ホルミシス効果」が6ヶ月持続するのであれば、うまい具合にセシウムが体内にいる間は、「ホルミシス効果」が利いていることになります。

いずれにせよ、長期間の低線量被曝の影響について、まだよく分かっていない現状では、なんとも判断できないとしか言えません。

ですから、現在の筆者の個人的なスタンスは、低線量の影響が分からない以上は、避けられるものは避けたほうが無難であると考えています。

それでも、現状の空間線量では、外部被曝を殊更に気にするレベルではないと思われますから、避けるとしても内部被曝が中心になるかと思います。

ただ、これまでの米の汚染状況をみると、「福島産米とモンモリロナイト」のエントリーでも触れましたけれども、あの結果から予想すると、精米して100Bq/Kgもセシウムが残るものは殆どないと思われますので、主食の米がある程度大丈夫であれば、内部被曝のリスクはぐっと下がりますし、可能であれば、個人で一番対策しやすい水について、極力汚染の少ないものを使用することで、更にリスクは減らせると思っています。やり方はある。

ですから、こんな言い方は、無責任かもしれませんけれども、現状では、個人が何処までリスクを取るかに拠ると思います。

事故から半年経って、東日本のセシウム汚染の状況が大分わかって来ています。福島であっても会津地方はそれほど汚染されていませんし、群馬県でも北のほうは、原発60km圏並みに汚染されているところもあります。

ですから、筆者としては、消費者の不安とリスクを少しでも軽減するためには、農地を細かく区分けして、高濃度汚染されている地域は除染がある程度済むまで休ませて、その間は、低汚染地域に農地を集約するなどの工夫をすればどうかと考えたりします。

まぁ、個人的には、何も考えないものアレですけれども、悲観的になるほど酷くはないと思いますね。

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この記事へのコメント

  • セシウムの除菌をせずに桃を販売した瀬戸弘幸

    東京電力福島第1原発事故を受け、福島県のすべての子どもを対象に行われる甲状腺の超音波検査が9日、福島市の福島県立医大付属病院で始まった。県は今後2年半にわたり、事故当時18歳以下だった約36万人に対して検査を実施する。
     初日は被ばく線量が比較的高かった浪江町と飯舘村、川俣町山木屋地区の約140人が来院。小学生の子ども2人を受診させた浪江町出身の榊原紀子さん(38)は「これからのある世代。毎年でも検査をしてもらいたい」と語気を強めた。検査を受けた飯舘村出身の草野洸紀さん(18)は「甲状腺異常のニュースを見て不安に思っていた。結果は1カ月後に郵送されてくるが、それまでは不安だ」と語った。
    2015年08月10日 15:26
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    放射能を必要以上に恐がらない, と言うところが
    重要なんでしょう. 過去のエントリーについて
    は失念してました. 失礼.

    ICRPの手法は外挿だが, 外挿と言えば, 温暖化問題
    のIPCCの手法も外挿だった.
    学生時代に外挿はもっとも危険な推定法だから避ける
    べきだと読んだ記憶がある. だから, 単純に言えば,
    ICRPもIPCCも科学者の集団ではなく, 科学知識のある
    原理集団と考えるのが良いかも知れない. ICRPに
    対してECRRがチェルノブィリ事故を契機として更に
    厳しい基準を提案したとあるが, どうもこれは欧州の
    緑の党などの反原発原理運動の影響を受けた団体では
    なかろうか.

    チェルノブィリ事故の後遺症については実際より
    酷く喧伝されていると言う話も聞く. 人の話だが,
    チェルノブィリ事故の影響を酷く言う団体に限って
    永続的なデータを持っていないと言う. これも聞いた
    話しだが, チェルノブィリ事故による放射能汚染の
    影響の継続的なデータを持っているのは世界中で
    日本財団しかないらしいし, 日本財団の人の話しでは
    死の町になったと言うことではないらしい.

    IPCCの
    2015年08月10日 15:26
  • 瀬戸の桃を食った者なら問題なく食べるだろう

    大分県由布市湯布院町で10日に行われた「由布院牛喰くい絶叫大会」で、同県畜産協会長で同市区選出
    の近藤和義県議(77)が「セシウム牛は要りません」と叫び、被災者からは「失礼な発言」と憤る声も出ている。

     近藤県議によると、大会冒頭のあいさつ後、最初に見本として、「セシウムで汚染されたわらを食べた牛の
    被害が広がっている。由布院の牛肉は汚染のわらを食べていないので安全だ」と絶叫。一呼吸置き、
    「セシウム牛は要りません」と声を張り上げたという。

     近藤県議は読売新聞の取材に対し、「国の対応のまずさを批判する内容だった」と説明。しかし、福島県いわき市
    から大分市に避難している男性(70)は「現地で生活を立て直そうとしている人に失礼な発言」と怒っていた。

    http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111011-OYT1T00878.htm?from=top
    2015年08月10日 15:26
  • もうフクシマの事故さえ忘れたのかい

    直下地震の発生が懸念される首都圏で東日本大震災以降、プレート(岩板)境界型の地震が
    急増していることが、東京大地震研究所の酒井慎一准教授らのチームの解析で分かった。
    マグニチュード(M)7級の地震発生で1万人以上の死者が出ると国の中央防災会議が予想した
    東京湾北部など、首都圏直下の3カ所のプレート境界で地震活動が活発と推定している。

    首都圏の地下には、陸、フィリピン海、太平洋の3枚のプレートが複雑に重なり合っている。
    1923年には関東大震災(M7.9)が起きた。古文書などから首都圏ではM8程度の巨大地震が
    200年周期で発生し、その間にM7程度の地震がしばしば起きたことが分かっている。

    チームによると、大震災後の半年間に首都圏で起きたM3以上の地震は計347回で、
    過去5年間の合計530回に迫り、半年当たりの回数では6.6倍に上った。
    これらの約8割がプレート境界型だった。

    特に活発化していると見られる3カ所のプレート境界で地震が発生した場合、影響を受けるのは
    ▽東京湾北部▽房総半島南部▽茨城県南西部~千葉県西部と推定。東京湾北部のプレート境界
    (深さ7
    2015年08月10日 15:26

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