今日は、アメリカの国防戦略と日本の対応についてです。
1.NSS2010とQDR2010
さる2010年5月27日、オバマ政権は、外交・安全保障政策の基本方針を示した「安全保障戦略(NSS)」を公表した。
通常、アメリカの安全保障戦略は、このホワイトハウスから出される「国家安全保障戦略(NSS)」に基づいて、国防総省から「4年ごとの国防戦略の見直し(QDR)」、「核態勢の見直し(NPR)」、「弾道防衛見直し(BMDR)」等々が作成される。
まず、2010年2月に公表されたNSS2010なのだけれど、以下にその概略を示す。
一、(北朝鮮、イランなど)敵対的姿勢をとる国家の真意を測り、姿勢転換の機会を与えるため、関与を追求していく。
一、日本、韓国などとの同盟関係は、アジアの安全保障の基盤。
一、米国は(テロ組織など)「非対称の脅威」に対抗するため、通常戦力における優位性を維持する。
一、最大の脅威は核兵器などの大量破壊兵器。
一、米国は朝鮮半島の非核化とイランの核兵器開発阻止を追求。北朝鮮やイランが核放棄しなければ、複合的な手段で孤立を深めさせる。
一、中国に対し国際社会で責任ある指導的立場に立つことを求める。中国の軍事近代化計画を注視し、適切に備える。
一、米国は国際テロ組織アルカイダと交戦状態にあるが、イスラム教徒は敵ではない。
一、中国、ロシア、インド、ブラジルなどの国々と米国の付き合いは、世界はもはや(勝者か敗者しか存在しない)「ゼロサムゲーム」ではないとの考え方に基づいている。
一、国力再建のため内政も重視。
一、景気回復は安全保障戦略の中核に位置する。財政赤字削減は米国の国力増強につながる。
一、外国産石油への依存を減らす。
一、米国は20カ国・地域(G20)首脳会議が経済分野での最高レベルの協議の場と認識する。
一、G20を通じ、国際通貨基金(IMF)、世界銀行の改革を目指す。
一、国際的な気候変動対策として、二酸化炭素(CO2)排出削減への取り組みが必要。
これをみると、アメリカは国益追求は当たり前のこととして、たとえば、「敵対的姿勢を取る国家に姿勢転換の機会を与える」だとか「世界はもはや"ゼロサムゲーム"ではないとの考え方に基づいている」だとかの文言を見ると、他国とも話し合って折り合いのつくものは調整しようという姿勢がうかがえる。
これが更に4年前のNSS2006だと、次のようになっている。
1)人間の尊厳の追求を擁護
2)グローバルなテロを打破するための同盟を強化し、米国と友好国への攻撃抑止に努力
3)地域紛争を緩和するために他国と協力
4)米国、同盟国、友好国に対する大量破壊兵器による脅威の防止
5)自由な市場と貿易を通じてグローバルな経済成長の新時代を開拓
6)社会を解放し、民主主義のインフラを構築し、国家発展の輪を拡大
7)他の主要なグローバルパワーとの協力行動の課題を発掘
8)21世紀の難題と機会に対応できる米国の国家安全保障機関に改編
9)グローバルな課題への積極的対応
とまぁ、このように2006年当時は、強気の姿勢が目立っていたことを考えると、NSS2010の融和姿勢がはっきりと浮かび上がる。
さて、このNSS2010に基づいているとされるQDR2010はというと、大きく次の5つのポイントが挙げられている。
1.現在の紛争と将来の戦争への備えとのバランスを重視
2.複雑な安全保障環境=「新興勢力の台頭、非国家主体(テロリストなど)、大量破壊兵器の拡散」を踏まえ、主要な紛争地域に同時に対処する「2正面作戦」を基軸に戦力規模・編成を決定するのではなく、多様な脅威に対応できる柔軟な態勢を確立。
3.6つの主要任務と4つの優先目標(・現在の戦争における勝利、・紛争の予防と抑止、・あらゆる危機への備え、・志願兵制度の維持と強化)の確立。
4.前方配備・展開の組み合わせによる米軍の体制整備。同盟国等パートナーとの協調を重視。
5.日本(及び韓国)への拡大抑止の提供に言及。在日米軍の長期的プレゼンスを確保し、グアムを地域安全保障の拠点とする再編ロードマップ合意の実施を継続。
とまぁ、安全保障を行う上で、周りの環境より複雑になっていることを認めると同時に、同盟国との協調を重視して、アジアにおいては、グアムを地域安全保障の拠点とする再編ロードマップの継続を謳っている。
これはすなわち、アジアにおいては、アメリカだけが前面にでるのではなく、グアムまで引いて、同盟国と協調しながらの安全保障体制を目指すように志向しているように読める。
それは、3で述べられている"6つの主要任務"を見るともっとはっきりする。
QDR2010で述べられている"6つの主要任務"とは次のとおり。
A.米国防衛と文民機関に関する支援
B.武装勢力鎮圧・安定化・対テロ作戦の成功
C.パートナー国の安全保障能力の構築
D.アンチ・アクセス能力を有する敵勢力の抑止・侵略の排除
E.大量破壊兵器の拡散防止・対処
F.サイバー空間における効果的対応
この中で、はっきりと「パートナー国の安全保障能力の構築」と述べられていて、国連・地域の平和維持活動強化のための支援を任務と位置づけていることから、今後、日本に対しても、更なる防衛力強化を要求してくる可能性がある。
2.A2/AD戦略とスタンダード・ブルー
ここで、ちょっと注目しておきたいのが、最近、其処此処で耳にする、"アンチ・アクセス"という概念。
これは、一般には、中国の軍事戦略として語られる、接近阻止/領域拒否戦略、いわゆる、A2/AD(Anti-Access/Area Denial)戦略のひとつ。
A2、すなわち"アンチ・アクセス(接近阻止)"とは、アジア・西太平洋戦域での、固定陸上基地からの米軍の行動を妨害する戦略であり、AD、すなわち"エリア・ディナイアル"とは、作戦領域で行動する海軍部隊の行動の自由を妨害する戦略。
これは、一応、2009年にアメリカ国防長官官房が議会に提出した年次報告書「中華人民共和国の軍事力・2009」において提唱された名称ではあるのだけれど、この概念そのものは、古くから調査がすすめられていた。
冷戦の終わり頃、ペンタゴンは、ソ連がもはやアメリカの脅威にはならず、第1次湾岸戦争で見せた、ミサイルなどの精密誘導戦争の効果を考え、今後の紛争が如何なる変化をするのかの調査を始めた。
その調査結果のひとつに、A2/ADがあったのだけれど、そこでは、第三世界の国が、弾道ミサイルや巡航ミサイルなどの長距離火器システムや、誘導爆弾、核・化学・生物兵器などのような、命中率・破壊力に優れた兵器を持つようになると、アメリカが仮想敵国の直ぐ傍まで前方展開している基地は、それらの格好の標的となってしまって、やがて抑止しようとしなくなるだろう、と指摘されていた。
そして、この懸念は、今や現実のものとなってきた。
去年の夏ごろ、広東省・韶関市に新設されたミサイル基地に、中国人民解放軍第2砲兵の96166部隊が配属されたようなのだけれど、配属にともない、2つのミサイルが配備された。ひとつは、準中距離弾道ミサイルDF-21C(東風21:Dong Feng-21)で、もうひとつは陸上発射型巡航ミサイルCJ-10(長剣10)。
どちらも射程は2000kmあるとされ、台湾はもちろん、東シナ海や東南アジア諸国と領有を争っている南シナ海をほぼ射程に収めている。更に、韶関には対艦弾道ミサイル(ASBM)DF-21Dを配備する基地も建設中であることが明らかにされているのだけれど、このDF-21Dは、地対地攻撃用であるDF-21Cを対艦型に改造したもので、マッハ6から10で接近するため、防御方法が無いとされている、通称、「空母キラー」。
このDF21-Dは、機動ランチャーを使って中国国内のどこからでも発射できるとされ、台湾の国防報告書(2011年版)では、少量ながら2010年からDF-21Dの生産・配備が始まったとしている。
射程2000kmあって、中国国内の何処からでも撃てるとなったら、沖縄は勿論、日本のほぼ全土が射程に入ってしまうことになる。
また、アメリカのシンクタンク「Project 2049 Institute」によると、さらに海南島の三亜基地へもミサイル部隊を配属する予定とされていて、海南島は中国のA2AD戦略の重要拠点の一つと見られている。
このように、中国はアメリカに対するA2/AD戦略を着々と進めており、中長期的には、沖縄駐留米軍も沖縄からグアムに退くというのは、必然の選択とも言える。
広東からグアムまでは3500kmほどあるから、アメリカとしては、ここまで退ければ、ひとまず直接攻撃を受ける懸念は少なくなる。QDR2010で「グアムを地域安全保障の拠点とする」と謳っているのは、ちゃんと理由がある。
だから、日本としては、沖縄から駐留米軍が去ったあとのことも考えておく必要があり、特に、台湾有事があった場合の対処については、具体的な検討を進めておくべきだと思う。
仮に、中国が、武力行使などによって、台湾を併合しようとした場合、当然邪魔になる米軍の接近と基地からのアクセスを阻止する動きを取ることになる。ぶっちゃけていえば、台湾侵攻と同時に、嘉手納・佐世保、あるいは横須賀にDF-21Dを打ち込んで、第7艦隊が補給できないようにしておいて、潜水艦を展開しつつ、アメリカ空母艦隊を身動きできないようにすることは十分考えられる。
救援を送ろうにも、三沢から台湾は遠いし、当然グアムからも遠い。となると、グアムと台湾、もしくはグアムと沖縄の間に、部隊の補給なり、飛行場なり何某かの拠点となるものを整備してもよいようにも思われる。
そんな便利な位置に島でもあるかというと、実はある。沖の鳥島がそう。
沖ノ鳥島はグアムから1200kmの位置にあり、台湾の高雄から1620km、佐世保から1550kmと、沖ノ鳥島、高雄、佐世保を頂点とする正三角形を形作って、その三角形の中心付近に沖縄があるという位置関係になっている。
また、沖ノ鳥島は広東から2370kmの位置にあり、広東からは、DF21-Dは届かない。(尤も起動ランチャーで、福建省あたりから撃たれると届く)
だから、沖ノ鳥島をぐるりと取り囲む形でメガフロートの人工島でも作ってやって、整備したらどうか。
できれば、そこで、魚の養殖なり、海洋温度差発電なりして人が住めるようにすれば、沖ノ鳥島周囲のEEZを主張する根拠が増えるし、そこを補給基地として使えるようにすれば、また軍事運用の面でも選択肢が増えることになる。
まぁ、沖ノ鳥島を囲むメガフロートは、別にMOB(Mobile Logistics Platform)のように動かなくてもいいけれど、あの位置に巨大な人工島があるだけでも、かなり違ってくるのではないかと思う。

この記事へのコメント
真実
交渉参加問題をめぐる議論を再開することが分かった。11月に開かれるアジア太平洋
経済協力会議(APEC)首脳会議までに決着を目指す。複数の政府関係者が1日、
明らかにした。ただ、焦点の農業問題をめぐり閣僚間の溝は埋まっておらず、意見集約は
難航必至とみられている。
米政府はAPEC首脳会議でTPP推進に向けた関係国の大筋合意を取り付ける考え。
想定されるオバマ大統領との再会談で、何らかの対応を迫られることも考慮した。
首相は交渉参加に前向きとみられ、鹿野道彦農相の説得が焦点となりそうだ。
▽ソース:共同通信2011/10/02 02:02
http://www.47news.jp/CN/201110/CN2011100101000816.html
全てA級戦犯達を米国が作った国内法で無罪した代償である。
そのA級戦犯達が作った世襲利権自民党は真の主権回復を放棄したということ。
補足
この小泉は、尖閣諸島に上陸した中国人船員を即釈放したおかげで、中国国民に尖閣諸島の回りに近づいても逮捕されない判例を与えただけでなく、尖閣問題を米中間の東京裁判史観における国家利益獲得の駆け引きに利用されだしたのです。
しかも、旅客法違反という日本の法律を破った金正男を即釈放させた弱腰外交で拉致被害者救済を永遠に解決不可能にさせた責任を死後、地獄で英霊達にどやされるでしょうな。
小泉が周恩来が田中角栄と最後までもめた責任問題であり、しかも日中国交正常化の大義である「戦争主導者こそ日中両国民の敵である」という言葉の重みを知らないでは済まされないのは、その戦争主導者を合祀した靖国を小泉が参拝したことで、中国国民の殆どが日本を信用しなくなったのだからね。
sdi
なにかあったとき、支援するには遠すぎる。かといって、独力で防衛できる戦力を置く事も難しい。仮に置いたとしても、その戦力を維持する補給線の確保が厄介です。かなり距離がある上に沖ノ鳥島の方面にはほかに何もありませんから、補給線確保に振り向ける戦力は事実上「沖の鳥島方面部隊」になってしまいます。仮に民間人を居住可能にしてもこの問題は変わりませんし、むしろ深刻化するのでは。海洋研究施設をおくのが精一杯でしょう。
ただ、ここに航空機・ヘリ・船舶と中継基地ができるのは中国にとって実にいやな話ですから実現できれば効果は高いでしょうね。
小泉は鹿児島の田布施という朝鮮部落出身
「成功者をねたみ、能力のある者の足を引っ張る風潮は慎むべきだ」と格差拡大の旗を振った。
http://news.infoseek.co.jp/article/03gendainet000155911/
日本の政府債務は1000兆円に上る。GDPの2倍の規模だ。先進国で最も悪い数字である。
資産の方も先進国で一番多いから安心だろうという意見もあるが、だからといって借金を野放図に積み重ねられるわけではない。
世界中でソブリン危機が叫ばれているのだ。日本だけがノホホンとしていられる状況でないのは、だれが考えても明らかである。
増え続ける高齢者福祉の財源を考えれば、いずれは消費税率の引き上げが議題に上ることになるだろう。
消費税は、欧州の付加価値税と違って、食料品にも貴金属にも同率にかかる。一律に引き上げれば、
貧困層にとって猛烈な負担だ。増税を考えるのなら、複数税率の導入を含め
ちび・むぎ・みみ・はな
固まりのような米国がグアムに完全に引込む
ことは考えずらい.
オバマ大統領個人としては軍隊を引き上げ
て減らしたいのだろうが, 米軍のプレゼンスを
減らすことは米国のみならずオバマ大統領自身の
プレゼンスを減らすことになり命取り.
逆に米軍がグアムに引き上げれば, 支那としては
戦術核を使い易くなる. 戦争は引いた方が負け.
日本も日米同盟を(表だっては)疑わずに
日本のできることを行なうのが上策だろう.