模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)

 
もう1年も前の話になるのだけれど、模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の第11回関係国会合が2010年、9月23日~10月2日に東京で開催され、参加国・地域での大筋合意に至ったとの報道があった。

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これは、最先端の模倣品・海賊版対策に関する新しい条約のこと。

これまでは、1995年に発行された、WTOにおけるTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定:Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)があった。

TRIPS協定は、国際的な自由貿易秩序維持形成のための知的財産権の十分な保護や権利行使手続の整備を加盟各国に義務付けることを目的とした、多国間協定で、WTOの規定によって加盟各国は協定の内容を各国の法律に反映させなければならない。

協定に違反した場合、WTOの中の紛争解決機関(DSB)に提訴し、違反措置の是正を求めることが可能で、是正が勧告された場合、応じないと制裁措置をとることができる。

このTRIPS協定によって、現在、模倣品や海賊版の輸入は禁じられているのだけれど、再犯の防止策や輸出に関する国際的な取り決めはなかった。

そこで、2006年に、日本とアメリカが、模倣品・海賊版への対処を支援するための複数国間の新たな条約、いわゆる模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)を提唱し、2006年から2007年にかけて、カナダ、EU、日本、スイス、アメリカは、ACTA に関する予備的な議論を実施。2008年6月には、オーストラリア、カナダ、EU及び27加盟国、日本、メキシコ、モロッコ、ニュージーランド、韓国、シンガポール、スイス、アメリカで交渉が開始された。

そして、今回、東京で9月23日から10月2日にわたって開催された第11回ACTA交渉関係国会合に、日本、アメリカ、EU、スイス、カナダ、韓国、メキシコ、シンガポール、豪州、ニュージーランド、モロッコが参加し、大筋合意に至った。

その具体的な内容は、まだ公開はされていないようだけれど、ACTAはTRIPS協定を土台として策定されていて、民事上の執行、刑事上の執行、デジタル環境における知的財産権の執行、国際協力、執行実務といった、知的財産権の執行のための法的枠組みが規定されているようだ。

中でも、筆者が注目したいのは、「デジタル環境における知的財産権の執行」という規定で、これは、インターネット上での、著作権などの侵害防止について、プロバイダの役割と責任を定めているもののようで、次のような内容が盛り込まれているようだ。
・例外と制限の適用を妨げない、第三者への責任追及
・オンライン上の侵害品の取扱(オンライン・サービス・プロバイダの法的責任の制限を含む)
・技術的保護手段の回避(例外と制限の適用を含む)
・権利管理情報の保護(例外と制限の適用を含む)

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ここで、"技術的保護手段の回避"というのは、おそらくDRM技術(Digital Rights Management)のことを指すと思われ、これに関して、ACTAの最終会合後の条文案の、「第2章 知的財産権の執行のための法的枠組」の"第5節:デジタル環境における知的財産権の執行"、5条と脚注で次のように記されている。
5. その権利の行使に関係する形で著作権者、実演家又はレコード製作者によって用いられ、その著作物、実演及び録音に関して、著作権者、実演家又はレコード製作者によって許可されていないか、法律によって認められていない行為を制限する、有効な技術的手段の回避に対して適切な法的保護と有効な法的救済を規定しなければ ならない。

脚注14: 本条約の目的において、技術的手段とは、締約国の国内法の規定に従い、その通常の動作において、著作物、実演又は録音に関して、著作権者、実演家又はレコード製作者によって許可されていない行為の抑止又は制限のために設計された、あらゆる技術、装置又は部品を意味する。締約国の国内法に含まれる著作権又は著作隣接 権の範囲に影響を与えることなく、技術的手段は、保護を受ける著作物、実演又は録音の利用が、保護の目的を達成する、暗号化やスクランブル化、又はコピー・コントロール機構のような、関係するアクセス・コントロール又は保護プロセスによって制限されている場合に、有効とみなされる。

つまり、著作物を勝手に、コピーしたり、ダウンロードしたりすることを防ぐための暗号化といった技術的なプロテクトを壊して、違法コピーや違法ダウンロードをされてしまった場合の法的反故及び、救済を規定している。

DRM技術(Digital Rights Management)は、基本的に、オリジナルデータを暗号化して、特定のソフトウェアやハードウェアでしか再生できないようにする技術で、仮にデジタルデータだけコピーされても、それにあったハードやソフトがないと再生できないようなっている。

映画産業や音楽産業は、著作権益を保護するためにDRMは必要であると主張していて、日本では、DRMを回避するハードウェアやソフトウェアの流通は不正競争防止法の規制対象になっている。

ただ、いくらコピーを規制したところで、オリジナルをパクって、ちょっとだけ変えたものについては、どうするのか。

たとえば、こちらのサイトでは、中国でよくある偽物・パクリ商品を纏めているけれど、これらもきちんと規制できるのか。

それに、ハードではなくて、ソフト的なコンテンツのパクリの規制はもっと難しいと思われる。たとえば、少し前に一部で指摘されていたのだけれど、2011年に北京・上海間の中国新幹線の開通に伴い、その紹介宣伝を兼ねて、中国でアニメ「高鉄侠」が制作されたのだけれど、そのアニメが、1997年から2000年にかけて、日本で放送されたテレビアニメシリーズ「超特急ヒカリアン」のパクリではないかと話題になった。

ネットでは、その検証動画なんかもアップされているのだけれど、それをみると、構図といい、デザインといい、ほぼそのまんまで、パクリにしても度を超している。いくらなんでも、日本地図やおにぎりまで、同じにする必要なないだろうと思うのだけれど、そんなにオリジナルを生み出すことができないのか。(流石に富士山までは消したようだけれど。)

今回のACTAの大筋合意とて、最大の海賊版大国と言われる中国は参加していない。

だから、まだ、こうしたパクリ商品は出回っていくものと思われる。




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画像海賊版対策に国際協力の道開く ACTA大筋合意 2010年10月11日(月)15:38

 10月3日、経済産業省は2007年以降北米、EU、韓国、シンガポールなどの各国と協議を進めてきた模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)が大筋合意に達したことを明らかにした。実質的な問題はほとんど解決され、今後は最終合意に向けた詳細を詰める。
 ACTAはグローバル規模での知的財産権の侵害、そして模倣品・海賊版の広がりとそれによる経済成長阻害に対し、国際協調により取り組むことを目指す。具体的なプランには、民事、刑事などにおける国境を越えた知的財産権執行の規定やACTA加盟国間の執行を支援するメカニズムの確立などが含まれる。

 日本政府は2000年代に入り、国の経済政策の中に知的財産権に関わる産業の振興、発展を強く打ち出すようになっている。しかし、産業政策を進めるなかで、海外でのブランドの模倣や各種製品の海賊版製造・販売、その流通が産業発展の阻害要因になっていることが明らかになってきた。
 2005年以降は模倣品・海賊版拡散防止を政策の盛り込み、ACTAの推進にも積極的に取り組んできた。今回の交渉には、米国、カナダ、メキシコ、ECとEUの欧米地域のほか、スイス、モロッコ、オーストラリアとニュージーランド、そしてアジアからは日本のほか韓国とシンガポールが参加している。ACTAが最終合意に至れば、主に先進諸国が中心とはなるが模倣品・海賊版拡散防止の進展にも貢献することになる。

 また、ACTAの協議の中では、インターネット上に流通する音楽、動画、映像などの違法なコンテンツ配信問題も大きく扱われている。ACTA加盟国間での知的財産権執行規定や執行支援メカニズムが確率されれば、国内のアニメやマンガ、ゲーム、映画などのコンテンツ産業にとっても朗報だ。
 これまでこうした業界では、海外での大量の違法コンテンツ流通を確認しているものの、国境に阻まれてなかなか法的執行が出来なかったからだ。実際にどの程度の実効力があるかは、今後の最終合意の内容次第だがコンテンツ産業にとっては悪いニュースではない。

 一方で、問題がないわけではない。ACTAの動きについては、各国のコンテンツ産業関連のメディアでも広く取り上げられている。しかし、そのなかには関連産業には朗報としつつも、その実効性に疑問を投げかける声もあるからだ。
 それは現在、模倣品、海賊版が多く作られている中国をはじめアジアの国々などの多くが協議に参加していないためである。ACTAが国境を超えた活動を掲げる中で、未参加国の問題は大きい。すでに経済産業省は加入拡大に向けた諸外国への働き掛けを掲げているが、今後、未参加国をどのようにACTAに巻き込んで行くかが重要な課題になるだろう。

URL:http://www.animeanime.biz/all/2010101101/

この記事へのコメント

  • 白なまず

    パクリとコンペチタの境界線、、、模造品や劣化コピーは本物と偽物の区別がつかない場合、敵と見なされ攻撃される。しかし本物の改良なり、違う魅力が付加すると競合相手となりうると思う。中国の場合、劣化コピーの範疇であり不快感がある。彼らの努力で本物を越えないと駄目だろう。万年劣化コピーばかりではどこぞの奴隷国家と同じになるぞよ。
    2015年08月10日 15:26
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    パクリをした国を貿易から除外する規定がないと
    意味がないと思う.
    2015年08月10日 15:26

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