今日は、「幻想の平和」纏めメモシリーズの第3回です。前回の「マグネット理論は本当に妥当か」の続きになります。
今節からレインは、東アジアに対するアメリカの戦略について解説してゆきます。
3.ユーラシアにあるアメリカの同盟国たち
アメリカは大戦略面で選択肢を持っているとレインは続ける。それは、ユーラシアの大国間戦争を阻止するために、ユーラシアに軍を駐留させる方法と、ユーラシアから撤退して、ユーラシアの新しい大国の台頭はユーラシアの多極的なパワーバランスに任せて抑える方法という。
前者は大国間紛争を止めることに失敗すれば、アメリカも紛争に自動的に巻き込まれてしまうが、後者は介入するもしないも自由に決められるのだとし、そして、東アジアこそが、アメリカの覇権戦略の危うさと、「オフショア・バランシング」の有利さを体現した地域なのだと指摘する。
アメリカの東アジアにおける長期目標は、アメリカが世界の重要な地域へのアクセスを拒否されることを防ぐために、「地域・大陸的覇権国の台頭を排除」し、「アメリカに世界規模で挑戦しようとして、資源を集めることを防ぐ」ことであるとする。
そして、アメリカは現在の覇権的な戦略を選択した場合、東アジア(とヨーロッパ)で次の3つのことを行なわなければならないという。
1) "ならず者国家"から同盟国を守る
2) 地域の抑止力や心的確証を提供しつつ、ユーラシアに留まる
3) 抑止に失敗したら、同盟国を守るために戦って信頼を勝ち取る
レインは、このような戦略はリスクの高い戦略だという。それは、これが本当に実行できるかどうかは「東アジアにおける安全保障の約束はどこまで信用できるのか?」という疑問にかかっているからで、アメリカの東アジア戦略は直近では、北朝鮮によって脅威を受ける可能性が高い。
しかし、現在、アメリカ本土は北朝鮮からの報復攻撃を受ける可能性がない状況であることを考えると、アメリカの核抑止力の傘は、北朝鮮をして、韓国や日本を攻撃することを"思いとどまらせる筈"であるとしながらも、本当に北朝鮮が抑止されているかどうかは誰にも分からないと指摘する。
そして、少なくとも次の3点についてだけは、明らかであるという。
・北朝鮮が核兵器を持っているならば、在韓米軍は「人質」であること
・半島で紛争が起こったら、核が使われなかったとしても、アメリカが被る被害は大きいこと
・在韓米軍は半島で戦争が発生した場合、自動的に巻き込まれる「トリップワイヤー」が仕込まれている。
さらにレインは、東アジアで大国間戦争を阻止するというのは、アメリカの大戦略にとっては困難な任務であり、日本と中国が東アジアで優位を争うことは自然なことであり、この二国間には長期的な敵対関係が存在すると指摘する。
その一方、その敵対関係こそが、アメリカをして、地域の安全保障競争をエスカレートすることを防ぐ唯一の例とする。
もしも、アメリカが日本の自主防衛(再国家化)を防ごうとすれば、「中国は抑止できる」と日本を安心させ、抑止に失敗した場合は、日本とその国益を守ると約束しなければならないのだけれど、その為には今度は台湾を守らなければならないという。
※その理由はレインは述べていないけれど、文脈から、おそらくは、シーレーン防衛のことを指していると思われる。
故に、アメリカの東アジアの覇権的大戦略は、やがて冷戦時代のような「拡大抑止」に直面するとレインはいう。
「拡大抑止」は、海外の同盟国に対してをも、攻撃抑止することなのだけれど、それは簡単ではないとレインは警告する。
その理由は至極シンプルで、「アメリカが自分の国を危機に陥れてまで、守ってくれるとは思えない」と同盟国側も思ってしまうからであり、冷戦時代にアメリカ及び同盟国がソ連の攻撃を受けなかったのは、「拡大抑止」されていたわけではなく、ソ連にそれを"試されなかっただけ"としている。
冷戦時代と比べて、冷戦後の状況は大きく変化していて、最大の変化は、アメリカの国益に関わる事象が少なくなったことだという。そして、その観点から見ると、将来、米中で衝突が起こった時、台湾・尖閣・南シナ海がアメリカにとって重要なのかどうか、とレインは疑問を投げかける。
曰く、「台湾の独立や、南シナ海、東シナ海での日本の権益を支持したとしても、これらは、アメリカ自身の安全保障には何の価値も与えてくれないのだから、これらは、アメリカにとって、本源的な戦略価値など持っていないのだ」と。
台湾のケースでいえば、米中が台湾を巡って対立した場合、アメリカは中国からの攻撃を阻止する「拡大抑止」を行うことになるけれど、ワシントンよりも、中国のほうが台湾を重要と考えているがゆえに、中国はアメリカの介入を阻止するために「直接的な抑止」をする可能性が高いと指摘する。
そして、アメリカの覇権的大戦略は同盟国を守ることに加えて、その約束の信頼性を守るために、周辺地域でもしっかり責任を果たすことが必要になるという奇妙なロジックがあるとする。一言でいうと、「アメリカの国益にとって重要でなければないほど、それを守る必要が出てくるのだ」と。
それとは反対に、オフショア・バランシングは、「アメリカにとって具体的かつ重大な権益こそがアメリカのコミットメントを決める」という前提があり、他国もそれについてはマイナスの評価はしない、という前提に立っている。
今回はここまでです。
「幻想の平和」まとめシリーズ
・第1回:幻想の平和
・第2回: 「マグネット理論」は本当に妥当か
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この記事へのコメント
真実
肝を冷やした安重根(アン・ジュングン)義士。18才の時洗礼を受けた敬虔なカトリック信者であっ
た安重根義士に対する諡福諡聖が可能なのか検討するシンポジウムが開かれた。
天主教ソウル大教区諡福諡聖準備委員会は28日、明洞(ミョンドン)カトリック会館で「ソウル大教
区諡福諡聖のためのシンポジウム」を持った。二水頭(トゥムルモリ)福音化研究所ファン・ジョンニ
ョル博士の「アン・ジュングンの諡福諡聖可能なのか」という主題の論文で「安重根義士の生涯に
対する再認識を通じて韓国天主教が安重根義士をカトリック最高の名誉の福者と聖人の位置に
上げることを真剣に考慮しなければならない」と主張した。
19才の1897年、父親の勧誘により家族親戚と共に洗礼を受けた安義士は黄海道一帯を回って
布教活動をした信仰人だった。彼は伊藤博文を狙撃してから旅順監獄で刑場に臨む時も祈祷を
忘れなかった敬虔な信者だった。
ファン博士は篤い信者としての信仰的側面が見過ごされ、ただ‘伊藤殺害者’だけに注目されて
ちび・むぎ・みみ・はな
日比野庵殿の着眼点も良いと思う. しかし,
個人的には「東アジアの不安定性」を長い年月を
かけて計画的に作り出した当事者の反省無しに,
自国の有利不利を議論する米国臭には辟易.
米国と支那は良く似ていると言わずにはいられない.
jackpot3
sdi
いや、さすがリアリズムの大家とゆうしかないです。臆面ないほどの「アメリカにとってどうすることが一番『利益』か」ということに絞って徹底的に議論を進めてます。実用主義の権化ですね。そこには、湿っぽい感情論やら清らかな正義論もない。研究者、理論家だからできることなのかもしれません。為政者がこんな理屈を前面に押し出して臆面もなく公言するなんて、まず無理ですからね。
白なまず
ひふみ神示 第22巻 第二十二帖
己の知では分らん、大神様とはアベコベのこと考へてゐては逆さばかりぢゃ、神示よく読んで誠の仕組仕へ奉れよ。壁に耳あり、天井に目あり、道は一筋と申してあろ、人民と云ふ者はアレコレと沢山に目に見せては迷ふものざから、一つづつ目にもの見せて目標作って、それで引張ってやりて下されよ、一度に沢山見せたり教へたりしては迷ひ生む許りぢゃ、役員殿 気付けてくれよ。この道開けてくると敵が段々多くなって来るぞ、敵結構ぞ、敵尊べよ、敵に親切せよ、何れも神の働きぞ、敵も御役、悪も御役ぞ、敵ふへて来ると力出て来るぞ、神の仕組一切り。八月十一日、ひつ九⦿ 。