
10月19日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、平成23年7月8日~8月8日の間に公募した「風力等自然エネルギー技術研究開発/海洋エネルギー技術研究開発」 に対する応募提案について、採択予定先を決定した。
NEDOは、日本最大の技術開発推進機関として、2003年10月1日に設立された独立行政法人で、1980年に石油代替エネルギーの開発および導入の促進に関する法律の制定に伴って設立された「新エネルギー総合開発機構」が前身にあたる。
元々、石油代替エネルギーの開発を目的として設立された機関だから、「エネルギー・環境」や「産業」分野において、新しい産業や雇用の創出につながる技術開発が中心で、現在の主要プロジェクトに、スマートグリッドや蓄電池・燃料電池、新エネルギーの開発などがある。
研究開発には、公募による研究委託も行なわれていて、実に様々な分野で公募が行なわれている。
その中の一つが、風力等自然エネルギー技術研究開発/海洋エネルギー技術研究開発」 に関する公募。これは、実海域における実証研究として、海洋エネルギー発電システム実証研究を実施し、発電性能や信頼性の向上等に関する要素技術の研究開発を行うもので、事業期間は平成23年度から平成27年度迄(平成28年2月末迄)の5年以内。
テーマは、波力発電や潮流発電、海流発電、海洋温度差発電などがあるのだけれど、その中で、まだ商業化されておらず、2020年に発電コスト20円/kWh以下を実現するための要素技術を研究開発対象とする「次世代海洋エネルギー発電技術研究開発」となっている海流発電について取り上げてみたい。
海流発電とは、海流による海水の流れを使って、タービンを回して発電する方式で、発電機は海中に設置する。この海流による発電は、風力発電と比べて非常に効率がいい。
通常、タービンを回す方式での発電力(パワー)は、風速また水流の速度の3乗と、タービン翼の面積、と流体の密度に比例する。[P=(1/2)ρAη・V^3 ρ:流体密度(Kg/^3) A:翼面積(㎡) η:総効率 V:流速(m/s)]
このとき、空気と海水の流体密度を比較すると、空気は1.23kg/m^3、海水は1045.1kg/m^3と1000倍海水の方が密度が高い。従って、海流を使った発電は、流速が小さくても、大きな電力を得ることが出来る。
上図は、海流発電と風力発電でも、タービン翼直径と発電力の関係のグラフなのだけれど、タービン径60mから80mクラスだと、海流発電で流速1.5m/sあれば、風力発電の風速13m/sと同等の発電ができる。
丁度、日本の周辺の海域は、黒潮や親潮など海流に恵まれていて、特に黒潮は高い潜在エネルギーを秘めていると見られていて、今回の研究開発では黒潮のみを対象とするのだという。
黒潮は、北大西洋の湾流などとともに世界有数の流れの強い海流として知られている。黒潮は、フィリピン東方付近から台湾東方を経て、東シナ海に入って、大陸棚斜面に沿って北東に流れ、九州南方の屋久島と奄美大島の間のトカラ海峡を通過して太平洋にでた後、九州南東から四国・本州の南岸を東向きに流れて、房総半島沖まで達する。
黒潮の流速は通常、海面から深さ200m付近までの間で最大となり、最大2.0~2.5m/sに達することもある。それ以深では深さが増すにつれて流速は減少するのだけれど、黒潮の流れは深さ1000m付近まで及ぶ。日本近海では、四国の南や、紀伊半島沖などが流速が高いと見られている。
今回の開発委託先として採用されたのは、IHI、東芝、東京大学、三井物産戦略研究所の4法人なのだけれど、研究開発は「水中浮体方式の海流発電システム」とし、IHIが浮体全体と係留設備とタービン構造を設計・建造を担当。東芝はタービン性能を検証し、発電と変圧、送電の実証を担当。三井物産戦略研究所はどの程度のコストに抑えれば商業ベースに乗るのかのコスト分析を進め、東京大学は、大学院新領域創成科学研究科の高木健教授を中心に海流エネルギー研究に取り組むことになっている。
水中浮体方式の海流発電システムとは、水中タービンを海底に固定せずに、係留し、いわば水の中に浮いた形で発電するシステムなのだけれど、この方式には次の4つの利点があるという。
1.昼夜や季節による流れの速さ・向きの変動が少ない安定した海洋エネルギーを、長期かつ連続的に利用できることで、年間を通じて安定的な発電が可能で、大きな発電電力量も期待できる。
2.発電装置を海底から係留し、海中に浮遊させることで、波浪の影響を受けずに安定した水深(50~100m)での運用が可能となり、船舶の航行にも支障を及ぼさない。また、海底に大規模な構造物を設置する必要がないために、設置が容易であり、コスト面で有利。
3.1つの浮体の左右に逆回転する(対向回転)双発式の水中タービンを採用するため、タービンの回転に伴う回転トルクを相殺でき、海中で安定した姿勢を保持して、効率的に発電が可能。
4.保守整備時には,タービンの向きと浮力を調整することで、必要に応じて海上に浮上させることができるため、メンテナンスや修理が容易。
と、現時点では、水中浮体方式の方が有利だと見られているようだ。特に、風力発電では、安定した風がいつも得られるとは限らないという弱点があるのに対して、海流発電では、黒潮という年中安定した海流を使える点において、安定した発電という意味では非常に優れている。
将来、海流発電が実用化したときのタービン翼の形状や大きさ、規模がどれくらいになるのかは、まだ分からないけれど、IHIは、直径40mの水中タービンを2つ備えた幅100mの浮体物を想定していて、一基2000kWのタービンを400基置くという案もあるそうだから、実現すれば、80万kWクラス(原発2基分)の発電が出来ることになる。
研究開発の進展を期待したい。


IHI、東芝、東京大学(新領域創成科学研究科 海洋技術環境学 高木健教授)、三井物産戦略研究所は28日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「風力等自然エネルギー技術研究開発/海洋エネルギー技術研究開発」に連名で応募し、「次世代海洋エネルギー発電技術研究開発」の委託予定先に採択されたと発表した。
日本は、黒潮などの海流が年間を通じて沿岸付近を流れているため、この巨大なエネルギーを利用することにより、自国の自然エネルギーを利用したクリーンな安定電源を新たに構築することができると期待されている。今回の事業は、この海流エネルギーを有効、かつ経済的に利用するべく、水中浮体方式の海流発電システムの要素技術を開発するとともに、事業性評価等を実施して将来の海流発電の実用化を目指すもの。
水中浮体方式の海流発電システムは、(1)昼夜や季節による流れの速さ・向きの変動が少ない安定した海洋エネルギーを、長期かつ連続的に利用できることで、年間を通じて安定的な発電が可能で、大きな発電電力量も期待できる、(2)発電装置を海底から係留し、海中に浮遊させることで、波浪の影響を受けずに安定した水深での 運用が可能となり、船舶の航行にも支障を及ぼさない。また,簡便な係留が可能となることから設置が容易であり、コスト競争力に優れている、(3)対向回転する双発式の水中タービンを採用するため、タービンの回転に伴う回転トルクを相殺でき、海中で安定した姿勢を保持して、効率的に発電が可能である、(4)保守整備時には,タービンの向きと浮力を調整することで、必要に応じて海上に浮上させることができるため、メンテナンスや修理が容易である、といった優れた特徴を有している。
今後、海洋における再生可能エネルギー利用による持続可能なエネルギー社会の実現を目指して、海流発電システムの研究開発を進めていく方針。
URL:http://www.zaikei.co.jp/article/20111128/87903.html
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
だから, 太陽エネルギが様々に姿を変える下の
レベルにいくほどエントロピー増大の原理に
従って, エネルギ抽出効率は悪くなる.
だから, 太陽発電が原発の代替エネルギに
ならないのであれば, 海洋発電が代替エネルギ
になる筈はない. 良い所, 補間エネルギ.
そもそも, 海流のエネルギは地球の気候と
密接な関連があり, 黒潮のエネルギを途中で
奪ってしまうと, 極地域における海水の
沈み込みに影響が出る. 極地域での沈み込み
が弱くなると海洋の大循環が弱くなり
地球は寒冷期に突入する.
現在の世界経済は化石燃料発電や原子力発電
の下で発展してきたのであり, この経済体制を
自然エネルギで代替するのは不可能であるか,
もしくは取り返しのつかないダメージを自然に
与える.
自然エネルギは自然の簒奪でもある. 何故なら,
自然の中で潅流するエネルギを奪うのだから.
原子力発電が最も自然・地球に優しいのである.
「自然」という言葉, 或は我々の「気持ち」に
誤魔化されてはならない. 人の気持ちほど当てに
ならないものはないのだ.