11月11日、野田首相は、記者会見で、TPP交渉へ参加する方針を表明した。
記者会見での冒頭発言で、野田首相は「50時間に及ぶ経済連携プロジェクトチームにおける議論が行われてまいりましたし、私自身も、各方面から様々な意見を拝聴をし、熟慮を重ねてまいりました」と述べた。
その、経済連携プロジェクトチームは如何なる結論を導き出したのかというと、次のとおり。
環太平洋パートナーシップ(TPP)について
・TPPへの交渉参加の是非の判断に際しては、政府は懸念事項に対する事実確認と国民への十分な情報提供を行い、同時に幅広い国民的議論を行うことが必要である。
・APEC時の交渉参加表明については、党PTの議論では「時期尚早・表明すべきではない」と「表明すべき」の両論があったが、前者の立場に立つ発言が多かった(詳細は別表の通り)。
・したがって政府には、以上のことを十分に踏まえた上で慎重に判断することを提言する。
とまぁ、一言でいえば、「TPPについては、もっと国民的議論が必要であり、APECでの交渉参加表明は慎重に判断すべき」ということなのだけれど、こんな結論は、拙ブログでこれまで何度も言ってきたとおりのことで、目新しくもなんともない。ようやく、妥当なところに落ち着いたかというところ。
こちらに、TPPの論点整理がまとめられているけれど、推進派と慎重派のそれぞれの意見を併記しているだけで、議論を進めて双方納得する結論にたどり着いたという形跡はみられない。
たとえば、TPP反対派がよく指摘するISD条項なんかをとってみても、慎重意見では、「理不尽な理由で国が外資に訴えられるのではないか。日本をアメリカのような訴訟社会にしてはならない」という至極もっともな意見を述べているのに対して、賛成意見はというと「国家対投資家の紛争処理は、日本の企業を海外で護るために必要なのではないか。日本の既存のEPAにの含まれる規定である。」となっていて、慎重意見が自国が護れるのかという懸念を示しているのに、賛成派は、他国に進出している自国企業の立場での回答となっていて、今一つ噛み合ってない。また、賛成意見では、「既存のEPAに含まれている項目だ」とも言っているけれど、2011年現在日本がEPAを結んでいる国々は以下のとおりで、其処にはアメリカは含まれていない。
日本・シンガポール新時代経済連携協定:2002年11月30日発効
日本・メキシコ経済連携協定:2005年4月1日発効
日本・マレーシア経済連携協定:2006年7月13日発効
日本・チリ経済連携協定:2007年9月3日発効
日本・タイ経済連携協定:2007年11月1日発効
日本・インドネシア経済連携協定:2008年7月1日発効
日本・ブルネイ経済連携協定:2008年7月31日発効
日本・ASEAN包括的経済連携協定:2008年12月1日より順次発効
日本・フィリピン経済連携協定:2008年12月11日発効
日本・スイス経済連携協定:2009年9月1日発効
日本・ベトナム経済連携協定:2009年10月1日発効
日本・インド経済連携協定:2011年8月1日発効
日本・ペルー経済連携協定:2011年5月締結、発効待ち
と、まぁ、TPP慎重意見で名指しで明記されているアメリカとEPAを結んでいない以上、それ以外の国とのEPAの実績がいくらあっても、アメリカとのEPAが大丈夫だという理由にはならない。
さて、こうした、党内を二分する意見を抱えたまま野田首相は、交渉参加を表明したのだけれど、11日に行われた国会での集中審議にて、自民党・佐藤ゆかり議員の質疑で、野田首相がTPPに含まれてISD条項について知らなかったことが発覚した。
これは、佐藤議員が、貿易協定におけるISD条項について説明し、国内法がISD条項によって曲げられる可能性についての質問に対して、野田首相が「国内法で対応できるよう交渉をしていく」と答え、質疑が一時中断したあと、野田首相自ら「ISDS(ISD条項)は、あまり過分に詳しくしらなかった」と答弁したことで明らかになった。
最初は筆者も、いくらなんでもそれはないだろうと、動画をチェックしたのだけれど、野田首相が狼狽えて、"仲裁人が入ってきて云々"とペーパーをただ読み上げている姿をみて、本当に知らなかったんだと戦慄した。有り得ない。
TPPのプロジェクトチームを作って、50時間も何百人もの党内議員に議論をさせたのは一体なんだったのか。
最初からTPP参加は決まっていて、適当に議論させてガス抜きさせていただけなのか。
それでいて、その後の答弁で、国内法より条約が上だと認めた上で、「条約を結ぶために、国内法を壊すことはしない」なんていけしゃあしゃあと答えている。
TPPの条約と国内法が両立するためには、TPP条約と国内法がぴったり同じか、日本の国内法については例外規定扱いにならない限り論理的に有り得ない。
例外なしがコンセプトであるTPPにおいて、除外項目を設けることが、唯でさえ難しいのに、先日明らかになったようにアメリカ議会の90日ルールによって、日本は既にTPPルール策定に参画できない公算が大きいと見られている。
だとすると、これも佐藤議員が指摘しているように、TPPの中身が決まった段階で、日本にこれを丸のみするのか、しないのかの二者択一を迫られるだけ。
だから、もしも、この日の野田首相の「条約を結ぶために、国内法を壊すことはしない」という答弁が"本当"であり、それを貫くとしたら、TPP条約を結ぶことはほぼ不可能だと思われる。
今回、野田首相がTPP参加表明をしたことで、日本は大きく針路変更を始めた。野田首相の一字である"定"は、まずTPPという形となって発現した。
自分の党のPTTについてのPTが「政府は懸念事項に対する事実確認と国民への十分な情報提供を行い、同時に幅広い国民的議論を行うことが必要」とまで提言した意味は軽くない。
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この記事へのコメント
とおる
この数日前に、自民党の石破茂議員が、枝野経産相(前官房長官)にISD条項について質問しましたが、同様に知らなかったことがバレました。
TPPは管首相の時に推進しましたので、その中心人物のはずの官房長官で、今も関係する大臣が知らなかったことは、何もしてないと思わせるには十分です。
こういう人達が「国益を守る」とだけお題目を唱えていて、詳細を提示できない所は、普天間移設で「国外、最低でも県外」と唱えて何も出来なかった事、「腹案がある」と言って何も無かった事を思い出してしまいます。
格好いいことだけ述べて、後は何も知りませんでは、迷惑を被ります。
クマのプータロー
これで次の任期満了まで解散がなければ選挙は怖くない、という状況を作り上げる事には一応成功したようです。実際の選挙は水物ですけどね。
ちび・むぎ・みみ・はな
政治家失格, 首相失格のレベルの話ではなく
人間として駄目だ.
嘘付党が担ぎ上げる人達は全て「人間として駄目」
という共通項があるようだ. それなら, 嘘付党の
実力者達も「人間として駄目」なのだろう.
しかし, そんな駄目な人達と対等に付き合っている
自民党執行部も困る. 結局, 自民党総裁はTPP反対
とは言っていないのではないか. それは, TPPにも
見所があると考えているのか?
almanos