「あと数日で決めることには反対だ・・・場合によれば国会で決議をしなければならないかもしれない」谷垣禎一自民党総裁 於:11/5、仙台市・東日本大震災の被災者との対話集会
1.不信任ではなく国会決議の理由
11月4日、野田首相は、フランスはカンヌのホテルで記者団に対し、TPP参加問題について、「民主党内の議論をどこかで終結してもらったら、閣僚会議でも政府として意見集約する。おそらく、政府と党の3役による会議で決定することになると思うが、最終的には私の政治判断が必要になってくる。その時期が来たら、判断したい」と述べた。
普通、政治判断というと意見が二分され、合意が難しい問題に対する判断や、多数の反対意見を押しのけて、それに対向する判断をする場合に使われる言葉であることと、野田首相自身がTPP交渉参加に意欲を示していること。更には、この会見でも、野田首相が「交渉に参加するということは、しっかりと国益を実現するために、イニシアチブをとりながら対応するということなので、交渉からの離脱うんぬんではなく、国益の実現に全力を尽くすのが基本的な姿勢だ」とTPP交渉参加の意思を示していることから見ると、APECでのTPP交渉参加表明はほぼ間違いないだろうと思われる。
それに対して、自民党の谷垣総裁は、仙台市で開かれた東日本大震災の被災者との対話集会で、TPP参加交渉について、自民党の主張を盛り込んだ国会決議案の提出を検討する考えを示している。
だけど、今のように、民主党内でもTPP賛成派、反対派で二分されていて、山田前農相が、TPP参加表明をしたら離党するなどと行っている状況であることを考えると、どうせ提出するのなら、内閣不信任案を出して、一気に民主党を割りにかかって、政局にすればどうかとも思うのだけれど、おそらくそれでは上手くいかないだろうと考えたのかもしれない。
というのは、6月にあった、菅前首相への内閣不信任案騒動や、そのあとの展開をみると、民主党議員は、口では反対を唱えていても、いざとなれば、腰くだけになるリスクを考えたのではないかということ。
もしも、不信任案を出したはいいけれど、民主党内のTPP反対派がビビッて、それを不信任案を否決してしまったら、それはすなわち、野田首相を信任したことになる。必然的にTPP交渉参加を"国会が承認"したことにもなる。これでは、却って野田首相を応援することになってしまう。
だから、不信任案よりもハードルの低い「国会決議案」で揺さぶりを掛けにきたと見る。もちろんこれでも、TPP反対派が本気で反対しているかどうかのリトマス試験紙にはなる。
特に選挙区で、JA系の支持を受けているような議員にとっては、決議案に賛成すれば、党執行部に刃向うことになるし、反対すれば、選挙区に対する裏切りになる。厳しい選択を迫られる。
2.アメリカン・パワーに対抗する国家の三つのパターン
ただ、自民党がTPPに反対しているといっても、反対しているのは"APECでの参加表明"であって、TPPそのものへの参加可否について触れていないのが、狡いというか、したたかというか、どちらにも行けるスタンスでいる。
尤も、APECでTPP参加表明したとて、TPPのルール作りに参画できるかどうかも不明な状況では、今更という気がしなくもない。
TPPへ参加の是非を別にして、TPP反対派の論拠は、TPPのルールそのものに依拠したものが多く、さらにその殆どが、アメリカの出方に対する懸念が殆ど。
アメリカの国際政治学者でハーバード大学教授のスティーヴン・M・ウォルトは、その著書「米国世界戦略の核心―世界は「アメリカン・パワー」を制御できるか?」で、アメリカに対抗する国家には大きく3つのパターンがあるという。次に該当部分について、引用する。
アメリカのパワーに反対する国家には、大きく分けると3つのパターンがある。最もわかりやすい一つ目のパターンは、ある国がアメリカのことを「本質的に敵対的な国家(しかもアメリカと利害が対立する)である。」とみなし、アメリカへの同調を拒否し、あからさまな反抗政策をとるというものだ。
≪中略≫
二つ目のパターンは、ある国家が特定の問題には反対しながら、それ以外の問題ではワシントン政府と良い関係を維持しようとする、というものだ。国家間の意見の違いというものは、よほど大きな問題に発展しない限り、国際政治では日常的にはよく見られる「摩擦」のようなものである。しかしアメリカ以外の国々は、比較的抑制が効いているように見えても、アメリカのパワーを食い止めるため方法を探り続け、できれば自分たちに有利となる条件を引き出すチャンスを虎視眈々と狙っているものなのだ。
第三のパターンは、アメリカの優位がおよぼす影響を恐れるあまりにアメリカに抵抗しようとする、というものだ。この考えの根底には、「現在直面している問題を有利に進めるために、アメリカはパワーを使ってくるのでは?」という心配だけでなく、「将来アメリカは他国に害をおよぼすようなパワーの使い方をしてくるかもしれない」という懸念が色濃く反映されている。ウォルト著 米国世界戦略の核心―世界は「アメリカン・パワー」を制御できるか?より
今の巷のTPP反対派の主張の多くは、米韓FTAを引き合いに出し、ISD条項やラチェット条項などから、アメリカは国益のために、自分の都合の良いようにゴリ押しするだろうという懸念が根底にあることから、おそらくウォルトのいう、第三のパターンに該当すると言っていい。
また、なにもTPPではなくて、例外規定のあるFTAやEPAを進めればいいじゃないか、という意見も当然あるのだけれど、これは、特定の分野を例外として保護するということだから、ウォルトの言うところの、"特定の問題には反対しながら、それ以外の問題ではアメリカ政府と良い関係を維持しようとする"方法、すなわち、第二のパターンになるだろうと思われる。
まぁ、TPP参加9カ国と日本を合わせた10ヶ国のGDPを比較すると、アメリカと日本の2ヶ国で9割を超えるという現実がある。従って、好むと好まざるとに関わらず、日本がアメリカのパワーを意識せざるを得ないのは無理からぬこと。
だから、結局のところ、日本のTPP問題は、TPPアメリカのパワーを前にして、どう国益を確保していくかという問題に収斂していくように思われる。
それが、アメリカに対抗する形、すなわちウォルトの言う第2、第3のパターンで行なわれるのか、それとも、TPPのルールを丸飲みした上で、それを乗り越えていく道を探っていくのかどうかは分からない。
ただ、いずれにせよ、今までの日本のままで済むとも思えない。だから尚更のこと、しっかりとした議論と国民的合意が必要になる。


【カンヌ時事】野田佳彦首相は4日午後(日本時間同日夜)、フランス南部カンヌのホテルで記者団に対し、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題について「最終的には私の政治判断が必要になる」と述べた。12日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議出席前に交渉参加の方針を表明する意向を示したものだ。
首相は交渉参加の判断について「民主党のプロジェクトチームの議論をどこかで終結した暁に関係閣僚会議でも意見集約し、恐らく政府民主三役会議で決定することになる」と述べた。
交渉参加後の離脱の可能性については、「離脱うんぬんではなく、国益を実現するため全力を尽くすのが基本的な姿勢だ」と述べ、否定的な見解を示した。
一方、消費税率引き上げについて「実施する前に(国民に)信を問う手順を踏みたい」と述べ、消費増税関連法案成立後、引き上げ実施前には衆院解散・総選挙を行う考えを示した。消費増税を国際公約したことに関しては、「国内で言ってきたことと違うことを言っているわけではない」と理解を求めた。
URL:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111104-00000159-jij-pol

自民党の谷垣禎一総裁は5日、仙台市で開かれた東日本大震災の被災者との対話集会で、環太平洋連携協定(TPP)交渉について「あと数日で(参加を)決めることには反対だ」と重ねて強調した。その上で「場合によれば国会で決議をしなければならないかもしれない」と述べ、党の主張を盛り込んだ国会決議案の提出を検討する考えを示した。自民党内では決議案を提出して採決に持ち込めば、民主党の一部が同調すると期待する声も出ている。(2011/11/05-19:11)
URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011110500291

自民党の石破茂前政調会長は5日、都内で講演しTPP交渉について「参加しない選択はあり得ない」と強調した。「気に入らなければ国会で承認しなければいい」とも語った。自民党は4日の外交・経済連携調査会(高村正彦会長)で、APEC首脳会議での参加表明に反対する見解をまとめており、党内での意見の隔たりが浮き彫りになった。
同党の谷垣禎一総裁は5日、TPP交渉参加問題に関し、関税撤廃で打撃を受ける農業への支援策などを求める国会決議を検討する考えを示した。仙台市で開いた東日本大震災被災者との会合で「農業対策をきちんと取るよう国会で決議しなければならない。とにかくTPPに入るというのはいかにも乱暴だ」と指摘した。
URL:http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819481E2E7E2E3938DE2E7E3E3E0E2E3E38297EAE2E2E2
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
勿論, 中川昭一氏への工作などの様なことは
やるだろうが, 結局はそこまでであり,
日本が国益を考えて対処するなら道は開ける.
政治かが本当に政治生命をかけてくれれば良い.
> 狡いというか、したたかというか、
> どちらにも行けるスタンスでいる。
これは谷垣氏のやり方.
玄人受けはするのだろうが, 国民は認めないね.
こんなやり方をするから, 嘘付党の山田某の
TPP反対演説に焦点が集まり, 自民党は
政権から一歩下がることになる.
プロは時々素人でも分かることが分からない.