TPP情報戦争

 
今日は、TPPに関する報道について。

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1.揺れる民主党

10月4日、自民党は外交・経済連携調査会を開いて、TPPについて、APEC首脳会議において交渉参加を表明することに反対する見解をまとめた。

その理由は、議論がまだ熟していないというもので、参加の可否そのものには触れていない。自民党内でも、TPP推進と反対で意見が分かれているようだ。

野田首相がAPECでも参加表明に意欲を示しているのは明らかだから、野党としてそれに対抗するという意味で、APECでの参加表明に反対する立場を取るというのは、ある意味当然だともいえるけれど、参加の可否について判断を下していないから、まぁ、様子見の一種といっていいだろう。

それも、与党民主党自身が、TPP参加推進と反対とで分かれている状態だから。

民主党のTPPに関するプロジェクトチームは4日、政府への提言に向けた論点整理を6日の役員会で提示することを決めたようなのだけれど、「TPPという電車」のエントリーでも触れたように、「公的医療保険制度は交渉の対象」だったとか、「交渉参加にはアメリカ政府との事前協議が必要でTPPのルールづくりには間に合わない」とか、ここにきて、ネガティブファクターが明らかになってきている。

同じく4日には、民主党を中心に自民党、みんなの党、社民党などの、TPP交渉参加に慎重な議員およそ50人と、農業関係者などおよそ1000人が集会を開いて、政府から情報が十分に開示されていないなどを理由に、APECまでにTPP交渉参加を決めることに反対する決議を採択している。

ただ、先日、JA全中が公開した「TPP交渉参加反対の請願」を国会に提出するための紹介議員一覧で、衆議院では、民主党議員が議席数302の内99名が名を連ねていたことと比較すれば、今回の決議に参加した人数は半数以下。だから、もしかしたら、その99人の中には、ただ反対のポーズだけの人もいるかもしれない。

民主党の山田正彦前農相は3日のBS朝日の番組で、野田首相がTPP交渉参加に踏み切った場合は、TPP慎重派による集団離党も考えていると匂わせているけれど、果たして、本当に離党するのか、仮に離党しても集団といえるだけの人数が離党するのか疑問な部分はある。




2.TPP情報戦争勃発

さて、TPPに関するマスコミの報道を、表面上追う限りでは、TPP賛成、反対とさも二分されているように見えるのだけれど、その報道の性質の違いに着目すれば、情報戦争というか、プロパガンダ戦が行われていることが浮き彫りになる。

以前「中野無双、とくダネを一刀両断」のエントリーで、京都大学の中野准教授の"キレ芸"が何故あれほどのインパクトを持ったのかの理由として、心の3つの働きである知・情・意の全てに訴えたからだ、といったけれど、この知・情・意の切り口で、TPP参加推進、反対それぞれのメディア報道を分類すると、少し面白い傾向が見て取れる。

まず、反対派の主張についてだけれど、反対派はTPPに参加しても、GDPへの貢献含めてメリットはなく、米韓FTAから類推して、国家主権が帯やされる恐れがある、という具合に数字や条項に依拠した"知識"をもとにした主張を行っている。

先日発覚した、「公的医療保険制度は交渉の対象」だったとか、「今から参加してもTPPのルールづくりには間に合わない」といったことも、文書やアメリカ議会のルールといった、知識ベースの主張だといえる。それに比べて「感情」や「意思」の領域での主張はそれほど強くなく、控え目な印象を受ける。

一方、賛成派の主張は、「このままでは農業は立ちいかない」だとか、「開国なくして栄えた国はない」とか、「反対派は既得権益を守ろうとしているだけだ」といった、「感情」に訴える主張が目立つ。

そして、これは、特にマスコミ報道に顕著なのだけれど「意思」の領域でのプロパガンダも目立つ。たとえば、何度も取り上げているけれど、自民党の谷垣総裁がテレビで「TPPの議論をすべき」と発言したのを「TPPに参加すべき」と歪めて報道して、野党も賛成しているんだぞ、と外堀を埋めるような報道をしたことがあるし、最近では、鹿野農水相が野田首相と極秘会談をして、TPP交渉参加を容認したと"虚偽報道"を行ったこともそう。

11月1日の記者会見で鹿野農水省は、野田首相と極秘会談を行ったという報道も、TPP交渉参加を容認したという報道もどちらも明確に否定している。

こうした、反対派の重鎮である鹿野農水相がTPP交渉参加を容認したなどという報道は、TPP反対派に対して、「ガタガタいっても態勢は決まったのだから、もう諦めろ」という具合に"士気を挫く"効果は間違いなくあるから、たとえそれが嘘であっても、侮れない。

このように、TPP反対派は「知」の領域で反対し、TPP賛成派は「情」と「意」で押している。互いに主張する領域が違っているから、話は中々噛み合わない。

いずれにせよ、APECまでには何らかの答えは出るのだけれど、報道されているように、野田首相がTPP参加をAPECで表明したら、それ相応の反応や反発はあると思われる。

民主党のTPP反対派が大量の集団離党を本当にするのであれば、一気に政局化して政界再編への動きになる可能性もなくはないのだけれど、正直そこまでいくのかは分からない。

少なくとも、TPP問題に関して、日本は熾烈な情報戦の最中にあることは知っておくべきだと思う。



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画像TPP参加表明に反対=「情報欠如、議論熟さず」-自民

 自民党は4日、党本部で外交・経済連携調査会(会長・高村正彦元外相)を開き、環太平洋連携協定(TPP)について「(12日からの)アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議において交渉参加を表明することには反対だ」との見解をまとめた。8日の総務会で決定する見通し。
 見解では「交渉で協議されている事項は何なのか、メリット、デメリット、リスクは何か、いかなる対策を検討しているのかが、現時点でも国民に示されないままだ」と指摘。「(国内経済への影響に関する)各省の試算もバラバラで、国民的議論は全く熟していない」と強調している。(2011/11/04-13:17)

URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011110400417&m=rss&utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter



画像野田首相:TPP交渉参加「党の議論集約後」

 【カンヌ松尾良】野田佳彦首相は3日夜(日本時間4日早朝)、カンヌ市内のホテルで同行記者団に対し、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加問題について「民主党内の議論を集約した後、態度を決めたい」と述べた。党内の慎重派議員が離党を示唆していることについては「基本的には挙党一致が望ましい。党を割るようなことは良くない」と述べた。

 東日本大震災の復興財源を賄う復興債の償還期間に関する与野党協議については「もはや(当初の)10年できっちり、という交渉ではなくなった。(民主党の前原誠司)政調会長が15年と提案しており、どれくらい幅を取れるかだ」と述べ、期間延長を容認する考えを改めて示した。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題については、自らの沖縄訪問に関し「そういう時が来るように環境整備を進めたい」と強調。沖縄県名護市辺野古へ移設する日米合意が一定の前進を見た後、沖縄を訪問したいとの考えを示唆した。

毎日新聞 2011年11月4日 11時14分(最終更新 11月4日 11時51分)

URL:http://mainichi.jp/select/seiji/news/20111104k0000e010027000c.html



画像TPP「私が政治判断」=野田首相、交渉参加表明へ 時事通信 11月4日(金)23時12分配信

 【カンヌ時事】野田佳彦首相は4日午後(日本時間同日夜)、フランス南部カンヌのホテルで記者団に対し、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題について「最終的には私の政治判断が必要になる」と述べた。12日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議出席前に交渉参加の方針を表明する意向を示したものだ。
 首相は交渉参加の判断について「民主党のプロジェクトチームの議論をどこかで終結した暁に関係閣僚会議でも意見集約し、恐らく政府民主三役会議で決定することになる」と述べた。
 交渉参加後の離脱の可能性については、「離脱うんぬんではなく、国益を実現するため全力を尽くすのが基本的な姿勢だ」と述べ、否定的な見解を示した。
 一方、消費税率引き上げについて「実施する前に(国民に)信を問う手順を踏みたい」と述べ、消費増税関連法案成立後、引き上げ実施前には衆院解散・総選挙を行う考えを示した。消費増税を国際公約したことに関しては、「国内で言ってきたことと違うことを言っているわけではない」と理解を求めた。

URL:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111104-00000159-jij-pol



画像TPP交渉参加なら集団離党も…山田前農相

 民主党の山田正彦前農相は3日のBS朝日の番組で、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加の是非をめぐり、「我々の中には離党を覚悟している人もいる。私自身も覚悟している」と述べ、野田首相が交渉参加に踏み切った場合は、TPP慎重派による集団離党も検討する考えを示した。

 山田氏は民主党議員が中心の議員連盟「TPPを慎重に考える会」の会長。議連には選挙地盤の弱い若手が多く、「民主党に残っても先はない」と山田氏に同調する声もある。ただ、山田氏も所属する小沢一郎元代表グループは静観の構えで、「勝負はTPP参加批准の時だ」(中堅)と自重を求める声もある。

(2011年11月3日17時55分 読売新聞)

URL:http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20111103-OYT1T00472.htm

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    誰かが書いていたが, 現在のマスコミは戦時中の
    報道協力会に戻ったようだ. 情報戦争とは書かれて
    いるが, 現実は, メディアを占領したジャーナリスト
    とは言えない者達が一方的に嘘を流している状況.
    昭和10年代では通用したデマゴーグが平成の御世では
    流石に通用しない.

    思うに, 日本のマスコミがジャーナリズムに従って
    いたことは実は一度もなかったのだろう.
    今回が異常と言うことはあり得ない.
    異常であることが赤裸々になったと言うべきだろう.

    逆説的だが, 嘘付達が政権に立ったがために, 世の
    嘘付達が表になったとも言える. 嘘付党の唯一の貢献か.
    2015年08月10日 15:26
  • 日帝の負の遺産

    朝鮮王朝実録には、同性愛の関係にある宮女同士が愛情のしるしとして「朋」の文字を密かに体に刻んだという記録があるが、
    韓国社会で入れ墨が盛んだった時期はない。3世紀、中国の三国志魏志東夷伝には、日本について「男子皆黥面文身」と
    書かれている。「男はみな顔に入れ墨(文身)をしている」と言う意味だ。韓国は、中国から伝わった「文身」という言葉をそのまま
    使っているが、日本では「イレズミ(入れ墨)」と言って、固有の漢字語を使っている。「イレズミ」という題名の有名小説や映画もある。

    ◆韓国で入れ墨は、最近までも暴力団がするものだとばかり考えられている。日本帝国主義による強制占拠期に生れた暴力団員
    たちが日本のヤクザの影響を受けて入れ墨をするようになった。中国水滸伝を見ると、梁山泊に入れ墨をした豪傑たちが登場する。


     http://japan.donga.com/srv/service.php3?bicode=100000&biid=2011110541048
    2015年08月10日 15:26

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