
TPPにも触れたい。過去の日米関係を振り返ると、これぐらい重要な政策ならば、米国は事前に日本との政策調整を行ってきた。ところが、民主党政権が普天間移設問題やインド洋での給油活動中止などで信頼関係を壊したためか、米国は踏み絵を踏ませるような姿勢を取っている。安倍晋三 於:11/2 夕刊フジ 安倍晋三の突破する政治
1.TPP交渉参加へ
11月1日、野田首相はTPP交渉参加問題に関する記者会見を11日に開いて、交渉参加を正式に表明する方針を固めたと報道されている。
野田首相は、APECでTPP交渉参加を関係国に伝え、11日は、国内向けに農業強化策などを説明することで、慎重派の理解を得たいとしている。先日の衆院代表質問で、野田首相は、TPPについて「得られた情報は国益を確保する観点から検討・分析を行うと共に、国民の理解を深めるために可能な限り説明に努めてきた」と答弁していたけれど、一体いつ説明したというのか。
国民皆保険にしても、国民向けの概略版資料では「公的医療保険制度は交渉の対象外」としていたにも関わらず、正式版の分厚い資料の方に「医療自由化の可能性」を記していたことが発覚している。確かに説明はしたかもしれないけれど、こんなやり方で国民の理解が深まるとは思えない。
民主党の長尾議員は、この件について、次のように告発している。
重大な事実が分かった。
国民向けTPP資料には、「公的医療保険制度は(TPP議論の)対象になっていない」と明記していた。我々議員にも繰り返しそのような説明がなされていた。
医療保険制度自体を交渉するTPPの「金融サービス分野」では議論の対象とはなっていないというもので、実は別の分野である、「物品市場アクセス分野」で取り上げられる可能性を厚生労働大臣が認めたのだ。
ではこれをいつ認識したのか。
なんと、9月16日に「米国政府が公的医療保険の運用で自由化を求める声明」を、大臣は外務省を通じて受け取っていたのだ。
受け取っていたじゃぁないかっ!!!!!!
今迄、何十時間とPTで議論してきたことは何だったんだ?? これ迄の議論は、国際協定であるが故、我々も外務省との質疑を中心に行っていた。きっと、外務省は黙っていたのだろう。
一方の厚生労働省としては、懸念表明をしたかったが其の舞台がなかったと言い訳もしたいのだろうが、それは許されない。国民を欺くとはこのこと。
違う器を指差しここにはありませんが、こちらに入っていますというものである。こういうやり取りがPTや委員会で繰り返されるから信用できないのである。また、薬価決定方法について交渉対象になる可能性について認めた。
長尾議員が指摘するように、これは国民を欺くやり方でフェアじゃない。こんなことでは、他の部門で「交渉対象外」としているものでも、実は、対象でしたなんてことがあるのではないかと不安になる。
一方、そうなのであれば、早期にTPPに参加して、ルール作成に関わったほうがいいのではないかという意見が出てくるかもしれないけれど、そうは問屋が卸さない。
2.電車は行ってしまった。我々が駅に着くのが遅かった。
11月2日の東京新聞に、日本がAPECでTPP交渉に参加表明しても、ルール策定作業に加われない可能性があることが分かったとの報道がある。
これは、日本のTPP参加を認める為にはアメリカ政府及び議会の非公式な事前協議が必要で、参加決定に時間がかかるというのがその理由のようだ。何でも、参加承認までには、アメリカ議会の事前協議に3ヶ月、その後の議会承認含めた正式協議に90日必要で、合わせると半年以上になってしまう。
来年夏には、TPPのルール策定の完了が予定されているから、確かにこれでは全然間に合わない。
それに、アメリカ議会で参加承認の協議中に、交渉離脱なんてできないから、今の時点での交渉参加は実質無条件参加と同じ。
アメリカ通商代表部高官や米議会関係者は、事前協議を通じて、日本政府のTPPへの姿勢を歓迎できる見通しがつくかどうか見極めた上で始めて、90日間の正式協議に入るとコメントしているけれど、その為に、現在進められているTPP交渉を遅らせることは望んでいないというから、その場合は、日本の主張など受け入れられる余地などないことになる。
筆者は、10月13日の「TPP交渉参加と野田首相の指導力」のエントリーで、この辺りについて指摘していた。次に引用する。
まぁ、今参加しなければ、TPPのルール作りに参加できない、という焦りがあることは分からなくはないけれど、逆にいえば、11月のAPECで「大枠合意」もしくは、「重要分野で共通見解に至る」ことを目指している中、11月にのこのこと参加しますといったところで、一体何ほどのことができるのか疑問に思う。
電車に乗り遅れるな、とマスコミは囃し立てるけれど、実はもう、列車は行ってしまったのではないのか。日比野庵本館 2011.10.13 「TPP交渉参加と野田首相の指導力」
とまぁ、議会の事前協議と承認が必要だという報道が本当であれば、電車はもう行ってしまったことになる。
それに、日本は去年の10月に、"市場開放方針が不十分"という理由でTPP参加国拡大交渉のオブザーバー参加さえ断られている。市場開放方針が不十分で参加が断られたのなら、参加するためには「十分な市場開放方針」が決まっていなければならないのに、今の参加するしないで喧々諤々の状況は、それ以前の話。
これでは、いくら日本が参加するといっても、認められない可能性がある。
3.信なくば独断する政権
それなのに、野田首相は、TPPに参加を表明するという。もしかしたら、参加表明はするけれど、アメリカとの事前協議で折り合いが付かず、結局参加を断られるという台本を書いた上でのアメリカと示し合わせた高度な腹芸なのかと疑いたくなるほど。
だけど、冒頭で引用したように、安倍元総理は、「民主党政権が普天間移設問題やインド洋での給油活動中止などで信頼関係を壊したためか、米国は踏み絵を踏ませるような姿勢を取っている。」と言っている。だから、おそらく、腹芸の線も薄いだろう。
結局、今回のTPP参加交渉の問題で、賛成派、反対派の意見を聞いていると、最終的には、国民の政府に対する信頼の問題に帰着すると思われる。
TPP反対派は、反対理由を色々挙げているけれど、突き詰めていえば、アメリカは日本の富を奪おうとして、いろいろとごり押ししてくるに決まっている、民主党政権にタフな交渉などできるはずがない、と日本政府もアメリカ政府も信用できない気持ちが根底にある。だから反対する。
また、逆にTPP賛成派は、アメリカとの2国間交渉ではなくて、多国間交渉なのだから、そんなことにはならないと楽観論を述べ、その前提で開国や農業改革が必要なのだと主張する。
だけど、互いの主張の根本に、政府やアメリカを信頼できるかできないかという次元での衝突があるから、神学論争になる。永遠に平行線。
しかも、東京新聞の報道のとおり、今からTPP交渉に参加しても、ルール策定に関われないのであれば、これから決まるであろうルールを受け入れるか、受け入れられないかの選択しか残っていない。
そんなところまで来ているのに、大事なことは隠して、国民に説明してきたと嘯く姿勢で信頼など得られるはずもない。
「信なくば立たず」ならまだ救いがある。「信なくば独断」になったら、その瞬間に民主国家ではなくなる。


野田佳彦首相は1日、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加問題に関する記者会見を11日に開き、交渉参加を正式に表明する方針を固めた。米、豪など交渉中の9カ国は、ハワイで12~13日に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際の大枠合意を目指しており、首相はAPECで交渉参加を関係国に伝える。これに先立ち、国内向けに農業強化策などを説明することで、慎重派の理解を得たい意向だ。
首相は1日の衆院代表質問で、TPPについて「得られた情報は国益を確保する観点から検討・分析を行うと共に、国民の理解を深めるために可能な限り説明に努めてきた」と強調。その上で「できるだけ早期に結論を出す」と強調、APECまでの決着に改めて強い意欲を示した。TPP交渉への参加を巡っては、民主党内で推進派と慎重派の対立が収まらず、意見集約が難航している。【光田宗義】
URL:http://mainichi.jp/select/biz/news/20111102k0000m010160000c.html

環太平洋連携協定(TPP)交渉について、米通商代表部(USTR)の高官が、日本の参加を認めるには米政府・議会の非公式な事前協議が必要で、参加決定に時間がかかるため「受け入れが困難になりつつある」との認識を示していたことが、日本政府の内部文書で分かった。正式協議を合わせると米議会の参加承認を得るのには半年間程度が必要な見込みで、早期参加表明しても来夏にまとまる予定のルール策定作業に実質的に加われない可能性も出てきた。
日本に有利な条件を得るため早い参加が必要、というTPP推進派の主張の前提条件が崩れかねない状況だ。
野田佳彦首相は、今月十二、十三日にハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で参加表明を行いたい意向とみられ、民主党内で調整中。表明すれば、これが最速となる。
日本政府は、米国の承認手続きに関連し、米議会の了承には最低九十日間の協議期間が必要としていたが、事前協議には触れていなかった。日本政府関係者によると、この期間は三カ月間程度という。
内部文書によるとUSTR高官や米議会関係者は、事前協議は「米政府と議会が時間をかけ非公式な協議を行う」とし、日本政府のTPPへの姿勢を歓迎できる見通しがついて「初めて九十日の期間に入る」と説明している。日本を受け入れるため、現在、米国やチリ、豪州など九カ国で進行中のTPP交渉を遅らせることは望ましくなく「既に参加期限は過ぎた」と明確に述べている米議会関係者もいる。
TPP参加を後押しする経済産業省などはこれまで「早期に参加して有利な条件を獲得すべきだ」と主張。しかし、APECで参加を表明しても、交渉参加できるのは早くて来年の夏前。九カ国は来夏までの合意を目指している。日本が加わった段階ではルールの細部まで議論が終了している可能性が大きい。
内部文書は、日本の外務省などの職員がTPPの交渉に集まった米国などの担当者に、日本参加の期限などについて質問し、まとめた。
(東京新聞)
URL:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011110290070328.html

TPP交渉で公的医療保険の運用に関し自由化を求める米国政府の文書を確認していたにもかかわらず、日本政府が国民向けに作った概略版資料で「公的医療保険制度は交渉の対象外」と説明していた問題で、小宮山洋子厚生労働相は27日、「医薬品の保険手続きに関する透明性の確保が論議の対象になる可能性は、分厚い説明資料で説明した」と述べた。概略版で実態を明らかにせず、国民の目に触れにくい「分厚い資料」だけで医療自由化の可能性を示していたことを認める発言で、政府の情報公開に対する姿勢が問われそうだ。
URL:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=10354
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
> これは国民を欺くやり方でフェアじゃない。
では今更何かと言わざるを得ないが,
自分達の実像に目覚めた「とすれば」幸いだ.
> 最終的には、国民の政府に対する信頼の問題
過去の自民党の対大陸・半島政策も相当なものだった.
だから, 今になっても自民党の支持率は中々上昇しない.
> 政府やアメリカを信頼できるかできないか
これは古い考え方だろう.
世界最長の歴史を持つ日本国に目覚めた層が言ふのは
そんなことではなく, 日本国の独立性の問題だと思う.
どれほど良い国であっても, 日本以上に信頼できる
国はないのだから, 米国に独立性を預けるのはおかしい.
opera
小野寺議員のTPA法問題の指摘も今回の東京新聞のスクープも、外務省あたりのリークの可能性が高そうですね。
おそらくオバマ政権としては、日本がTPPに参加することで、議論が煩雑になり成立が大きく遅れるよりは、日本抜きでTPPを早期に成立させ実績をアピールするという方針になったのかもしれません(たぶん効果は無いでしょうが)。
日本としても「オバマ政権=アメリカ」ではないので、まだまだやり様はあると思いますが、TPP及び増税問題についてはこのまま総選挙まで引き延し、その争点にすることで民主党とともに葬り去るのが妥当だと思います。
ただ、そうなると日米間の安全保障問題を解決していくには正攻法(普天間問題だけでなく、武器輸出三原則や集団的自衛権、そして憲法改正)しか道が無くなるという覚悟も必要になるかもしれませんね。
かめを愛する者
TPPはおそらくブロック経済圏化するのでしょうから、日本としては
「参加せずに中華、TPPのブロックのハザマで独自の繁栄を築いていく経済力と軍事力を養っていくか」
「遅ればせながら参加して、TPP(アメリカ)の傘の下で中華圏に対抗するか」
「あるいは何もせずに、なし崩し的にチベットやウイグルのようにされてしまうか」
などと大きな方針を立てて、すぐにでも議論を開始しなければならない重大な時ですね。
しかしながら、未来構想もなく、議論はおろか情報提供もしてくれないのであれば、非常に困った政権ですが、選んでしまったのは我々国民なのですから、自業自得というより他ありません。自分に力がないことを、とても悔しく思います。
放射能が漏れるように住民が漏れていくだけ
まとめた推計人口は199万1506人で、前月より2900人減少した。特に県内でも放射線量が高めの
中通り地方で流出が目立ち、県統計調査課は「子どもを持つ家族が夏休みに合わせて避難したのではないか」と
分析している。
地域別の減少数では、中通り地方の29市町村で2009人に上り、県全体の約70%を占めた。市町村別では
福島市が725人減で最も多く、次いで郡山市が697人減となった。
原発に近い浜通り地方の13市町村は前月比847人の減少。事故直後の3月に4572人、4月に5327人が
それぞれ流出したが、落ち着きつつあるとみられる。会津地方の17市町村は44人減で前年並みの水準に
とどまっている。
推計人口は各市町村の住民基本台帳を基に調べるため、住民票をそのままにして引っ越したりする人の数は
含まれない。実際には、さらに多くの人が県外に流出しているとみられる
河北新報 東北のニュース/福島県人口流出止まらず 前月比2900人減
http://www.ka
日比野
>大きな方針を立てて、すぐにでも議論を開始しなければならない重大な時ですね。
そうなんです。重大なときなんです。おそらく、郵政民営化どころではないと予想されるので、これだけで総選挙してもいいくらいに思います。