「ここで公務員優遇だという国民の不満が爆発したら、消費増税などすっ飛んでしまう。民主党はいったい何を考えているんだ」財務省中堅幹部
1.八ツ場ダム建設再開決定
12月23日、政府は首相公邸で政府・民主三役会議を開き、凍結していた八ツ場ダムの建設再開を正式決定した。来年度予算案に本体工事事業費として7億円を計上する見込み。
前原政調会長は、「党として承服できない。国交省予算の閣議決定は認められない」と最後まで抵抗を続け、1時間以上も堂々巡りの議論が続いたそうなのだけれど、最後には、最終決断は政府に委ねるという結論になったようだ。それまで野田首相がずっと無言のままだったそうだから、腹の中では建設再開を決めていたのかもしれないけれど、増税議論のように"不退転のなんちゃら"を言い出さない分、この問題にはあまり関わりたくなかったのかもしれない。
最近、野田首相は周辺に、「どんな案件でも官邸に持って来すぎる。閣僚がいるのは個別事案を判断するためだ」とぼやいているそうなのだけれど、本当なのであれば、閣僚が仕事をしていないか、口だけ番長様のような人が横槍を入れて、ぐだぐだにしているかのどちらかになる。
ただ、今回の八ツ場ダム建設再開決定で、党内に亀裂が入ったのは間違いなく、比例北関東選出の中島政希衆院議員が建設再開を批判し、離党の意向を固めたと報道されている。
中島議員のサイトでは、自身の活動報告として、何度も八ツ場ダム建設反対の報告をしている。以下に引用する。
■2009.9.23 前原国土交通大臣 八ツ場ダム視察
■2009.11.11 八ツ場ダム建設中止に伴う生活再建策について前原国土交通大臣に提言
■2010.9.1 八ツ場ダム問題について研究中の山形大生が研修の一環で来所。
■2010.9.1 山形大生に八ツ場ダム問題について説明。
■2011.2.7 民主党群馬県連として、大畠国土交通大臣へ八ツ場ダム建設中止を申 し入れ。
■2011.10.7 民主党群馬県連から前田国土交通大臣へ八ツ場ダム事業の中止を求め、申し入れ。
■2011.12.8 民主党群馬県連所属国会議員一同、八ツ場ダム等の地元住民の生活再建を考える議員連盟、他民主党国会議員有志で前原政調会長へ八ツ場ダム建設中止を要請。
■2011.12.16 民主党群馬県連会長代行として五十嵐財務副大臣に八ツ場ダム建設中止を要請。
■2011.12.20 民主党群馬県連、八ツ場ダム等の地元住民の生活再建を考える議員連盟で藤村内閣官房長官に八ツ場ダム建設中止を要請。
中島議員の活動報告をざっと見る限り、議員は2009年に前原氏が国土交通大臣だったときから、八ツ場ダム建設中止を訴えているのだけれど、特に12月になってからの活動は積極的で、何度も建設中止を要請している。
まぁ、民主党のことだから、本当に中島議員が離党するのかどうか分からないけれど、本当に離党するのであれば、それはそれで筋を通したことにはなる。
さて、八ツ場ダム建設再開を受けて、マスコミも民主党に対する批判を強める。たとえば、FNNなんかは、街の声として、「(民主党に)期待した自分が腹立たしい」、「結局、やると言って、どれ1つできていないし」とか、「もうちょっと長い目で見て。あまり長くは待てないけど」、「(子ども手当を)やるという話を聞いて、(選挙で民主党に)入れましたから。全然話が違うなと。だまされた」といった声を取り上げて、ついに"だまされた"という言葉まで出すようになった。
ただ、筆者としては、本当に国民が声を上げるべきは、野田政権が進めようとしている消費税増税議論。デフレの今、増税なんてされては、益々経済を冷やし、国民全体に悪影響が及ぶ。それは八ツ場ダムの比じゃない。
2.財務省のシナリオ
民主党税調は年内の社会保障・税一体改革の素案取りまとめに向けて、来週には「たたき台」を示し意見集約を進める方針で、政府税調も「素案」の策定作業に入っている。
それによると、「2013年10月に消費税率を8%に引き上げ、2015年4月に10%とする」という2段階引き上げ案を軸に最終調整が進められていて、これは、衆議院議員の任期中は消費税を上げないとした民主党マニフェストを満たし、かつ、政府が国際的に公約した15年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を半減させる目標を達成する案だからというのがその理由のようだ。
その意味では、八ツ場ダムとか高速道路無料化とか、マニフェストを守ったことのない民主党だけど、消費税増税については、任期中に上げないからマニフェストを守っているだろ、と言わんばかりで、なんとも気持ち悪い。
「消費増税法案提出について」のエントリーでも触れたけれど、2009年度の税制改正法の付則104条に、税制改正については「平成20年度を含む3年以内の景気回復に向けた集中的な取組により経済状況を好転させることを前提として、遅滞なく、かつ、段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、平成23年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする。」と、経済状況を好転させることを前提として法改正を行うとなっている。
政府は、消費税増税に向けての"法改正"の準備を進めているけれど、その前提となる"景気回復に向けた集中的な取組"なんてやっていない。
それを単に、八ツ場ダムはマニフェスト違反だけど、増税の"実施時期"はマニフェストを守ったよなんて居直られたら堪らない。
民主党内では増税反対の声も相当あるとは言われているけれど、民主党の税調幹部によると、反対論の大勢は、経済状況より、国会議員の定数削減や公務員制度改革など行政改革とセットで進めるべきとの「条件付き反対論」に変わっているのだという。
だけど、経済ジャーナリストの磯山友幸氏によれば、それこそが、財務省の増税シナリオなのだという。「現代ビジネス」12月21日付の磯山友幸氏のコラムから一部引用する。
「言うまでもなく増税には国民の理解が必要だ。国民の多数が諸手を挙げて賛成することなどないにせよ、ある種の納得感の醸成は不可欠であることを、財務官僚は熟知している。だからこそ、増え続ける社会保障費を賄うには、もはや消費税率の引き上げしかない、という認識を国民の間に広げるために「社会保障・税の一体改革」を仕掛けてきたのだ。
それでも簡単には納得しない国民に訴えるには、政府もギリギリまでムダを削っているという姿勢を示さなければならない。公務員給与の削減や、行政組織のスリム化など、国民に見える"成果"を上げることが不可欠だ、という認識を十分に持っていた。
財務省のシナリオどおりならば、来年度の予算編成が本格化する十二月には、社会保障・税の一体改革のプランを固めて、消費税論議を盛り上げる一方、自ら身を切るスリム化策を次々に打ち出すはずだった。「そこまで政府がやるのなら、増税もやむを得ない」というムードが国民の間に広がっていなければならない時期だったのだ。」磯山友幸「経済ニュースの裏側」 12/21 より
磯山氏の説が本当であれば、民主党の増税反対派が、行政改革とセットで進めるのなら、という「条件付き反対論」に変わること自体が、既に民主党が財務省の術中に嵌っていることを示している。
ただ、問題があるとすれば、その肝心の行政改革を進める力が民主党自身にあるかどうか怪しいことなのだけれど、これまでの野田首相のやり方を見る限り、ステルスでもなんでもして、法案提出にまでは持っていくだろうと思われる。
唯一それを阻止する可能性があるとすれば、やはり国民の声。具体的には、内閣支持率をもっと下げて、増税反対を主流に持ってゆくこと。
金正日が死去したとする放送があると示唆されていたにも関わらず、街頭演説で、社会保障と税の一体改革の必要性を訴えようとしていたくらいなのだから、世論の声には相当敏感な筈。
尤も、その街頭演説ですらも、財務省からの入れ知恵だったかもしれない可能性も考えらえるのだけれど、万が一そうだったとすれば、金正日の死去の特別放送との重みの差を理解できなかったことは、財務官僚の限界であり、野田首相の限界であったと言える。
ともあれ、来年3月に向けて、国民の声が日本の将来に大きく影響することは間違いない。
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民主・中島氏が離党意向 2011年12月24日(土)0時22分配信 共同通信
民主党の中島政希衆院議員=比例北関東選出=が、野田政権の八ツ場ダム(群馬県)建設再開方針を批判し離党の意向を固めたことが23日夜、分かった。中島氏周辺が明らかにした。近く記者会見して正式表明する見通し。執行部は慰留するとみられるが、実際の離党に至れば野田政権には痛手だ。中島氏は党群馬県連会長代行などを務め、自身のホームページなどで再三、八ツ場ダムの建設中止を訴えていた
URL:http://news.nifty.com/cs/domestic/governmentdetail/kyodo-2011122301001588/1.htm
消費税増税、「13年10月に8%、15年4月に10%」で調整へ 2011年 12月 22日 10:55 JST
[東京 22日 ロイター] 政府・民主党が「2013年10月に消費税率を8%に引き上げ、2015年4月に10%とする」案を軸に最終調整する環境が整ってきた。
年内の社会保障・税一体改革の素案取りまとめに向け、民主党税調は来週には「たたき台」を示し意見集約を進める方針。政府税調も「素案」(案)の策定作業に入った。政府・民主党そろって年内、同時決着を目指す。
<党内議論の対立際立たず、執行停止条項は明記の方向>
調整難航は必至とみられた党内議論は、対立が際立つことなく進んでいる。6月の成案とりまとめでは、消費税増税の際の「経済状況」をめぐって議論が沸騰し、「経済状況を好転させることを条件として消費税を含む税制抜本改革を実施する」との文言が盛り込まれた。素案とりまとめでも、具体的な経済指標の明記を求める議員の巻き返しで紛糾すると見込まれたが、一転、21日の党内議論では定量的な指標導入には反対論が相次いだ。
政府税調でも、具体的な指標明記を求める意見は少数で、21日に示された論点整理では「経済状況の好転」の判断は「総合的に判断する」とした。
政府・民主党とも、景気が急速に変動した場合には税率引き上げを停止する「執行停止条項」を関連法案に明記する方向性を打ち出しているが、法律の執行の事実上の凍結にもつながりかねない定量的な表現は回避される可能性が高そうだ。
変化の最大の理由は「行政改革こそ消費税上げの条件との認識が広がったため」(党税調幹部)という。実際、20日の議論でも、反対論の大勢は、経済状況より、国会議員の定数削減や公務員制度改革など行政改革とセットで進めるべきとの「条件付き反対論」に変わったという。素案に行政改革の推進を盛り込むことで、とりまとめに向けた意見集約を図る糸口を得たというわけだ。
<政府は2段階引き上げ案>
焦点の税率と引き上げ時期では、政府は「13年10月に8%、15年4月に10%」とする2段階引き上げ案を軸に据えている。今の衆議院議員の任期中は消費税を上げないとした民主党マニフェスト(政権公約)を満たし、政府が国際的に公約した15年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を半減させるとの目標を達成させる狭い道だという。
一方、民主党内でも、「これ以外の選択肢はないと多くの議員が認識している」(党税調幹部)という。藤井裕久税調会長は10%への引き上げ時期について「15年4月が目安」と明言。古本伸一郎・税調事務局長は段階論について「6%、7%、8%、9%と刻むことは多分あり得ない。刻み方は相当縛られる」と指摘。20日には「(党として)時期と率を決めることをダメだと言っているわけではないとわかり、私自身のなかで進歩した」とも述べている。透けて見えるのは、政府同様の2段階での税率引き上げの方向性だ。
<増税反対派の勉強会乱立、残る火種>
今週、連日開催された総会には約90人の議員が参加した。総会では意見集約の兆しがみえつつあるが、火種が完全に消えたわけではない。
増税反対論を展開する議員らは「消費増税を慎重に考える会」を立ち上げ、小沢一郎元代表を支持する議員グループは21日、勉強会「新しい政策研究会」の設立総会を開いた。同総会では小沢氏が「われわれの理想、打ち立てた旗を常に心の中に置いて毎日の仕事に携わらなければならない」と09年衆議院選挙のマニフェストへの回帰を訴えている。
党税調の「場外」で繰り広げられるこうした増税反対論の広がりに、税調幹部からは「ここで決められなければ、『決められない民主党』の大批判合唱になる」と懸念の声も漏れてきた。残された時間は約1週間。神経戦が続く。
(ロイターニュース 吉川 裕子;編集 石田仁志)
URL:http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE7BL01120111222?sp=true
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