「SF映画に出てくるような異次元の機体だ。全く新しい戦い方になるだろう」航空自衛隊・現役パイロット
1.スクランブル発進にステルスは要らない
12月20日、政府は安全保障会議で、航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)としてF35を42機導入することを正式決定した。
1機当たりの調達費は、交換部品込みでおよそ99億円。将来的な購入や維持にかかる費用総額は1.6兆円と防衛省は試算している。
今回のFX選定にあたり、防衛省は(1)性能(2)経費(3)国内企業の参加形態(4)納入後の支援態勢の評価基準を設定して、候補の3機種を100点満点で評価した結果、F35は国内企業の参加形態以外の項目でトップになり、総合的に最高得点を獲得した。
一川防衛相は、記者団に対して、「安全保障環境の変化に対応できる性能を有した戦闘機だ」と述べているから、将来的にどう変化するか分からない事態に対しても対応できる性能を重視したことになる。
また、一川防衛相は、F35の製造や修理に民間企業が参画することも公表し、機体を三菱重工業、エンジンはIHI、電子機器類は三菱電機がぞれぞれ担当する予定。
F35は、生産技術の情報開示が限定的であるものの、計約300の部品のうち、主翼やエンジンなど4割程度の製造や組み立てに国内防衛産業が関与できる見込みだという。
F35は、近く退役が始まるF4EJ改の後継機で、また、現在主力のF15も2020年ごろの退役の見込であり、この後継にもF35を想定している。
F35はF-4EJ改の後継機だから、当然、その主任務もF4EJ改のそれを受け継ぐことになるのだけれど、F4EJ改はF15Jと同じく要撃戦闘機。日本の防空識別圏(ADIZ)へ侵入し、領空侵犯の恐れのある航空機を監視および警告して、退去させることを主任務とする。
航空自衛隊には現在、6ヶ所の基地に計9個の要撃戦闘機部隊があり、そのうち、新田原と那覇にある2個飛行隊で現在も運用されている。したがって、F35も要撃戦闘機の任務を課せられることになる。
、スクランブルした要撃戦闘機は、領空侵犯機を目視で確認するまでは、その航空機は所謂、未確認飛行物体(UFO)として扱われるのだけれど、要撃戦闘機は目視確認した領空侵犯機に対して、領空を侵犯していると警告して、速やかに領空外への退去を促す対応をとる。そして、それに従わなかった場合にはじめて強制着陸やミサイルなどによる撃墜といった措置を取ることになる。
現在、空自のスクランブル機は、領空侵犯機に対して、「目視による確認」を義務付けられており、その確認が終わったあと、自衛隊である旨を名乗ってから「日本の領空に接近している、速やかに当空域から離脱せよ。(領空に侵入した場合は"領空を侵犯している、速やかに退去せよ")」と国際緊急周波数121.5MHz(超短波帯)及び243MHz(極超短波帯)で英語、または侵犯機の所属国語で呼びかけることになっている。
自分の機体から、領空侵犯機を目視できるということは、当然相手機からもこちらが丸見えな訳で、ステルスもクソもない。それ以前に、相手航空機を退去させるのが目的なのだから、自分の存在を見て貰わなければならない。
だから、要撃戦闘機の目的だけを考えると、ステルス性能は全く必要ない。
それに、F35が空自に配備されると、中国やロシアなどの周辺国は、F35の情報を取ろうとして、わざと領空近くを飛び回って、スクランブルさせるようにするだろうことは容易に予想されるから、レーダー波を反射する装置(レーダー・リフレクター)なんかをわざとF35に取り付けて、ステルス能力を落とす処置をする必要がある。
実際、空自幹部も「実戦に備えて手の内を明かさない」とコメントしているそうだから、おそらく何らかのステルス・オフの処置をするだろうと思われる。
2.パイロットを"ニュータイプ"にするF35
だけど、ステルスを使いもしないのならF35を導入しなくてもいいじゃないか、というとそういうわけでもない。
なぜなら、有事の際の防空能力は維持しなくてはならないから。領空侵犯機に対して、警告して退去させる段階ならいざ知らず、宣戦布告されて、堂々と攻め込んでこられた場合は、今度こそ迎撃しなければならない。
ステルス機の最大の特徴は、相手に自分が見つかる前に、先に相手を発見して、叩き落とす能力の高さ、いわゆる「First look, First shot, First kill」。
そのためには、相手に見つからないステルス能力は勿論のこと、相手を先に発見できる探知能力も高くなくちゃいけない。F35はF22に対して遅れて開発が始まった分、この探知能力の部分、すなわち、レーダーやセンサー及び、それらの情報を融合して状況認識をする"統合アビオニクス"能力は、F22より優れているとされている。
F35に搭載されているアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダー(AN/APG-81)は、F22に搭載されているレーダー(AN/APG-77)をベースに小型化したもので、探知距離は3分の2程度に減少しているとされるのだけれど、ベースにしているF22のレーダーが世界最高水準の性能を誇るために、依然として高い探知能力を持っていて、F18ホーネットやラファールなどのRCS1㎡の機体でも、150km先から探知できるという。
また、同時複数目標の探知能力も凄まじく、テストでは、前方120度、約140kmの範囲内の空対空目標23目標に対し、捜索開始わずか2.5秒で19目標を探知、 8.8秒で全目標を探知して、その後全目標の同時追尾を行っている。
更に、F35の機体上面・下面・機首側面にそれぞれ2台、計6台の赤外線センサーが取り付けられていて、機体全周囲の状況認識を可能とし、接近するミサイルの探知や捕捉・追尾を360度どこからでも出来るようになっている。
この電子光学分配開口システム(AN/AAQ-37 EO DAS:Electro-Optical Distributed Aperture System)と呼ばれるシステムによって捉えられた画像はコンピュータによってリアルタイムで合成処理されて1枚の画像を生成する。
合成された画像は、パイロットが被るヘルメット(HMD:Head Mounted Display)のバイザーに視界に重なる形で投影されるようになっていて、足元や後ろの視界さえも、顔を向けるだけで、"機体を透かして"みることができる。
しかも、赤外線センサーによる画像だから、昼夜関係なく殆ど同じ画像を映し出すことができ、夜間の飛行や戦闘には絶大な威力を発揮する。
これは、明らかに従来機にはない特徴で、もうこれは、ガンダムに乗ったアムロが一瞬で、自分の周囲360度の敵の位置を把握するといった、"ニュータイプ"の感覚をもたらす技術だといえる。
更には、F-35には、発展型多機能データリンク(MADL)と呼ばれる機体間データリンクシステムを持っていて、各機がセンサーで捉えた情報を共有することができる。つまり、味方機のどれか一機が敵機を探知した途端、その情報が僚機に共有され、その敵機を同時攻撃することも出来る。これもまた、F35に乗って"ニュータイプ"となったパイロット同士が惹きあって、同じ感覚を共有する姿にも似ている。
よもやガンダムの世界が、現実になるとは驚き以外の何者でもない。
スーパークルーズがないとか、航続距離の短さは気になるけれど、それでも、F35が実戦配備されれば、防空能力が格段に高まることは間違いない。
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この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
高性能機の運用には同じく高性能な航空管制
が必要だが, 対ジャミング機能やレーダ網の
整備に十分な予算が当てられていないのでは.
国内通信網の脆弱性も気にかかるところだ.
最新鋭機の保守運営には十分な整備体制が必要.
地上人員が足りていないのではなかろうか.
戦闘では 100%の能力で稼働する機体の割合が重要.
大東亜戦争ではそれが相当に悪かったと聞く.
主に整備士の数と技量の問題だ.
実戦は一点豪華主義では勝てない.
白なまず
【ホンダ、125ccクラ
NGA
自分的には実用性がない気が・・・
使いこなせないものより実用性を重視したほうが具体的で良いと思う。
sdi
陸の国境警備、海の国境警備は治安組織に属する準軍隊が行うのが普通です。空のみ各国とも空軍がおこなっていますが、これはパイロット養成、航空機本体およびその保守・管制システムにかかる手間暇金の面で航空戦力の二本立てが難しいからです。旧ソ連は空軍と防空軍にわけて迎撃任務を後者に割り振っていましたが例外に近いでしょう。この面から考えるとFXにステルスは不要というのは暴論とまでは行かないまでも空軍の本質から外れているというしかありません。
ただ、空自がステルス機を装備した場合の最大の問題は「航空自衛隊がステルス機の本質を理解した運用・作戦立案を行えるか」という点かもしれません。平時の任務中心というか平時任務に特化した思考法になってしまっている可能性があります。ただ、私はそんなことより「震災で損耗したF-2の穴埋めはどうするんだ?」という突っ込みを入れたいですね。
日比野
>空自のというより空軍の主任務は領空侵犯に対するスクランブルではありません。自国の領空の防衛です。敵国の空軍と戦って「勝つ」のが主任務です。スクランブルは空の国境警備です。
そうでした。私はスクランブルにはステルスは不要でも、FXにステルスは不要とは思っていませんし、この記事でもそう書いた積りはないですけれども、主任務に関しては、不正確な表現でした。訂正します。
今の空自が事実上スクランブルしかしていないとはいえ、元々の任務は敵機を撃ち落とすことにあるのは明確ですからね。
あと、「航空自衛隊がステルス機の本質を理解した運用・作戦立案を行えるか」については、何ともいえません。ある程度はアメリカからノウハウを教えて貰えるのかもしれませんけれども、細かいところは、実際運用してみて身につけるしかないでしょうね。