12月5日、NASAは太陽系外の600光年彼方に、極めて地球に似た惑星を発見したと発表した。
ケプラー宇宙望遠鏡で発見されたこの惑星は「ケプラー22b」と名付けられた。ケプラー宇宙望遠鏡による地球外惑星の探索については、以前「地球型惑星は銀河に溢れていた」で触れているのだけれど、今回発見されたケプラー22bは、今年の2月にケプラー宇宙望遠鏡による観測チームが発表していた、地球にサイズが近い惑星の候補の54個の中のひとつ。
このケプラー22bの半径は地球の約2.4倍で、この惑星に地表と大気があれば、気温はセ氏約22度になるとみられ、液体の水が存在する可能性があるという。
今回のケプラー22bの発見で注目されているのは、その軌道がハビタブルゾーンの中心域にあるから。ハビタブルゾーンとは、恒星の周囲で惑星の表面温度が高すぎず低すぎず、水が液体で存在する、即ち、生命を維持するのに適した領域のことをいう。
ケプラー22bは、そのハビタブルゾーンの真ん中に位置して、尚且つ、地球サイズの惑星だから、生命の存在を期待するのも当然だといえる。
問題なのは、この惑星が岩石でできているのか、水で出来ているのかといった、構成している物質についての情報なのだけれど、それを調べるには、質量情報が決め手となる。
ケプラー宇宙望遠鏡による系外惑星の観測は「トランジット法」によるものだから、これだけでは、惑星の質量は分からないのだけれど、他の観測方法と組み合わせることで質量を見積もることが可能になる。
それは、視線速度法による観測。
最初の系外惑星の観測は、この視線速度法によって行われていた。現在、最も多くの系外惑星を発見している方法もこの視線速度法。
視線速度(radial velocity)とは、その名のとおり、天体の移動を、観測者の視線方向、即ち、奥行き方向での速度成分のこと。これに対して、視線に垂直な速度成分を接線速度 (transverse verocity) といい、視線速度と接線速度のベクトルを合成したものを、その天体の空間速度(space verocity)と呼ぶ。
この空間速度を秒角で現したものを固有運動 (proper motion) といい、その天体の天球上の見かけの運動を表す。因みに秒角とは、角度の単位で、1秒角は、3600分の1度になる。
さて、恒星の周りを惑星が回っているとき、恒星は、その場にじっとしているわけではなくて、周りを回る惑星の引力の影響を受けて、少しふらつく動きをする。
例えば、太陽は木星の引力によって、毎秒13メートルふらついているし、地球の引力でも毎秒10センチふらついている。
つまり、恒星を観測して、それがふらついていれば、その恒星の周りに惑星又は伴星がある証拠になる。この構成のふらつきを観測する方法を、アストロメトリ法というのだけれど、あいにく、恒星を大きくふらつかせるくらいの質量をもった伴星ならいざ知らず、恒星に対して、相対的に小さい惑星の引力ではほんの少ししかふらつかず、従来の観測機器の精度では検出することが非常に困難だった。
そこで、恒星のふらつきを、直接測らずに見つけようとして、考え出されたのが、この視線速度法。
ある観測者が、周回する惑星を持つ恒星の動きを観測したとき、その恒星のふらつきによって、観測者からは、恒星が近づいたり、遠ざかったりするかのような動きに見える。
このとき、恒星の光はドップラー効果によって、近づくときは波長が青い方にずれ、遠ざかるときは波長が赤い方にずれる。この波長のズレを観測することで、惑星の存在を確認する方法が視線速度法。ドップラー効果による恒星のスペクトル変化(ドップラー偏移)を観測するから、ドップラー偏移法ともいう。
ただ、この方法の欠点は、ドップラー偏移による恒星のふらつきは分かっても、周回する惑星の軌道が観測者からみて一直線なのか、傾いているのかが分からないこと。
周回する惑星の軌道が観測者からみて、一直線の場合は、恒星に対する惑星の引力方向と恒星のふらつく方向が同一線上に並ぶから、恒星のふらつきはそのまま惑星の引力の強さ、すなわち質量を表すことになるのだけれど、惑星の軌道が観測者からみて傾いてしまっていると、どのくらい傾いているか分からない限り、正確な質量を見積もることはできない。
だから、視線速度法を使えば、系外惑星の何もかも分かるという訳じゃない。
だけど、この欠点は、先のケプラー宇宙望遠鏡で使っている、トランジット法と組み合わせることで解消される。というのは、トランジット法は、惑星が恒星の前を横切る時の明るさの変化によって惑星を探す方法だから、必然的に、観測者からみて、恒星とその周りを回る惑星の軌道が一直線上にあるものしか観測できない。
要するに、トランジット法で観測された惑星は、その時点で、惑星の軌道が確定している。しかもその軌道は、視線速度法にとって理想的な、観測者からみた"傾きなしの軌道"だから、惑星の質量を正確に見積もることができる。
だから、ケプラー22bを、今度は視線速度法で観測して正確な質量を計算して、密度を算出すれば、岩石の惑星なのか水の惑星なのかといったことを特定することができると見られている。
ケプラーの観測チームは、スペインのカナリア諸島で2012年春から観測が始まる、新しい高精度視線速度系外惑星探査装置、通称HARPSーN(High Accuracy Radial Velocity Planet Searcher -North)の協力があれば、ケプラー22bの質量を計算できると期待しているという。
HARPSとはその名のとおり、高精度に視線速度を測定できる装置で、現在稼働しているのは、チリのラ・シーヤ天文台にある3.6m望遠鏡に設置された分光器。その精度は、視線速度で、時速3.5kmを測定できるという。
HARPSはこれまで75個の系外惑星を発見していて、その中にはスーパーアースなどの小型の惑星が数多く含まれている。2009年の報告時点で知られていた、地球の20倍以下の質量の惑星28個のうち、24個がHARPSによって発見されたものとされているから、スペインに設置されるHARPSーNが現行のHARPS並みかそれ以上の精度を持っているなら、ケプラー22bの質量も計算できる可能性は十分あるだろう。
期待したい。
伴星の公転によって主星がふらつく様子
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「極めて」地球に似た惑星発見、生命存在の可能性も=NASA 2011年 12月 6日 15:11 JST
米航空宇宙局(NASA)は5日、太陽系外の600光年彼方に、極めて地球に似た惑星を発見したと発表した。地球外生命体調査の大きな手掛かりになると期待が寄せられている。
NASAのケプラー宇宙望遠鏡で発見されたこの惑星は「ケプラー22b」。半径は地球の約2.4倍で、生命にとって必要不可欠な液体の水が存在する可能性があるという。仮に同惑星に地表と大気が存在すれば、気温はセ氏約22度になるという。
同惑星は、液体の水が存在しうる「ハビタブル・ゾーン」上にあり、今後は同惑星が地球のような岩石惑星なのか、海王星に近いガス惑星なのかを調べる研究が行われる。
またこの発見を踏まえた上で、生命が存在しうる惑星が銀河系にどの程度存在するかについても推測する予定。
URL:http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPTYE7B503I20111206
この記事へのコメント
まゆゆ(高校生)
今度、学校の地学の授業でレポートの発表があるのですが、これらの図を使用させていただいてもよろしいでしょうか?
日比野
>今度、学校の地学の授業でレポートの発表があるのですが、これらの図を使用させていただいてもよろしいでしょうか?
どうぞ、ご自由にお使いくださいませ。よかったら発表の様子も教えてくださいね。
今後ともよろしくお願いいたします。