放射性物質の海洋投棄

 
福島第一原発の事故で放射能に汚染された土を海洋投棄する案が、一部の研究者の間で浮上しているそうだ。

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これは、12月2日から3日にかけて、大阪大学核物理研究センターで行われた、セッション「核変換技術の展開 ‐ 医用RI製造と核廃棄物処分」の中で出されたもので、海水で腐食せず高い水圧に耐えられる容器に汚染土を入れ、日本近海の水深2000メートル以下に沈める方法が最適だというもの。

セッションの資料を見たわけではないから、具体的にどういう条件下で海洋投棄を勧めているのか分からないけれど、海水で腐食しないというのもそうだけれど、水深2000メートルの水圧に耐えるなんて簡単な話じゃない。

水圧は、水深10メートルごとに1気圧増すから、2000メートルともなれば、200気圧にもなる。200気圧というと、1平方センチメートル当たり約200キログラムの圧力。10cm×10cmのメモ帳程の大きさの板なら20トンの圧力がかかる。

はっきり言って、2000メートルという深度は、深海探査艇でないと潜れない深さ。今の潜水艦の最大潜航深度は大体500~800メートルと言われているから、如何に、2000メートルという深度が厳しい環境なのか分かろうというもの。

だから、2000メートル以下の水深の高い水圧に耐えられる容器なんて、安易に作れるものではないだろうことは容易に想像できる。既に運用を終えているけれど、水深2000メートルまで潜れた、日本の深海探査艇「しんかい2000」は鋼鉄で出来た球形の耐圧殻を持っていたし、後継機で、水深6500メートルまで潜れる「しんかい6500」の耐圧殻は厚さ73.5mmのチタン合金でできている。

福島県内だけで1500万~3100万立方メートルにも及ぶと見られている汚染土を入れるだけの容器をとなると、一体どれだけ必要なのか見当もつかない。

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実は、放射性物質の海洋投棄は昔はいくらでも行われていた。

世界で始めての海洋投棄は、1946年にアメリカによって、カリフォルニア海岸から北西約80kmの北太平洋で行われた。当時は、放射性廃棄物の海洋投棄に係わる国際的な取り決めは存在せず、後にイギリスが投機を始め、1950年代中頃になると、ニュージーランド、日本、ベルギーなども海洋投棄を実施した。

1966年までは各国が別々に海洋投棄を行っていたのだけれど、1967年からはOECD/NEAの下で各国が協力して投棄を行うことになり、その後、投棄海域周辺国の意向を考慮して1972年にロンドン条約が採択された。

ロンドン条約とは、正式には「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」といい、投棄による海洋汚染を防止するために、廃棄物の海洋投棄を国際的に規制する条約で、次のような海洋投棄の基準が定められている。
 a) 高レベル放射性廃棄物は海洋投棄の対象ではない。
 b) 投棄海域は大陸棚より離れて、かつ4000m以上の深度であること。
 c) 北緯50度以北および南緯50度以南の海域でないこと。
 d) 液体は固化し、容器に封入し、投棄に際して容易に破損しないこと。
 e) 海洋投棄に際しては事前にIAEAおよびIMOに通告すること。

ロンドン条約は、1975年に発効し、以後この条約の下で実施されることになったのだけれど、1982年の第6回の会議で、スペイン、北欧諸国等より、海洋投棄に関する科学技術問題を再調査し、その結論が出るまで投棄を一時停止するという提案が行われたことから、投棄は一時中止することになり、この年以降は実施されていない。その後、1993年の第16回会議で、放射性廃棄物の(船からの)海洋投棄は全面的に禁止となり、1996年には、海洋投棄規制を強化するための議定書(1996年の議定書)が採択され、2006年3月に発効している。

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核廃棄物の海洋投棄については、2011年8月に、みんなの党の水野賢一参院議員が質問主意書で下記3点について質問している。
1.放射性廃棄物の海洋投棄については、国際条約や国内法によって日本でも行われていないはずだが、放射性廃棄物の海洋投棄を禁止する国際条約と国内法の条文を明示されたい。

2.陸域から放射性廃棄物を海洋投棄することは、国際条約や国内法によって禁止されていると考えるか。政府の見解を明らかにされたい。

3.放射性廃棄物の海洋投棄を禁止する国際条約や国内法の発効・施行前の時点では、日本でも放射性廃棄物の海洋投棄が行われていたのか。行われていたとすればその規模はどのくらいのものだったのか。政府の承知しているところを明らかにされたい。

この質問に対する政府の答弁は次のとおり。
一及び二について

 千九百七十二年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の千九百九十六年の議定書(平成十九年条約第十三号)第四条の規定において、締約国は、廃棄物を船舶等から海洋へ故意に処分することを禁止するものとされている。また、海洋法に関する国際連合条約(平成八年条約第六号)第百九十四条の規定において、いずれの国も、あらゆる発生源からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、実行可能な最善の手段を用い、かつ、自国の能力に応じて、全ての必要な措置をとるものとされている。
 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。以下「原子炉等規制法」という。)第六十二条の規定及び放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和三十二年法律第百六十七号。以下「放射線障害防止法」という。)第三十条の二の規定において、核原料物質等及び放射性同位元素等は、人命の安全を確保するためやむを得ない場合等のほか、船舶等から海洋へ廃棄してはならないとされている。お尋ねの陸域からの海洋投棄については、現行法令上明文の規定は存在しないが、核燃料物質等又は放射性同位元素等を所定の施設を設置した工場等の外において廃棄する場合には、原子炉等規制法第五十八条第一項の規定又は放射線障害防止法第十九条第二項の規定により、保安又は放射線障害の防止のために必要な措置を講じなければならないとされている。

三について

 お尋ねの日本における放射性廃棄物の海洋投棄については、社団法人日本放射性同位元素協会(当時)が、昭和三十年から昭和四十四年までの十五年間に、相模湾、駿河湾及び房総半島沖において、計十五回の投棄を行ったと承知している。その投棄量の合計は、ドラム缶等に封入したものが千六百六十一本であり、また、その放射能量の合計は、約十五テラベクレルであったと承知している。

とまぁ、1996年の議定書に触れ、投棄する場合には必要な措置を講じなければならない、としているのだけれど、現実として、1982年以降、放射性廃棄物の海洋投棄は行なわれていないことを考えると、今から海洋投棄というのは、国際的にも相当ハードルが高いと思われるし、仮に、投棄できたとしても、ロンドン条約に「投棄海域は大陸棚より離れて、かつ4000m以上の深度であること」と定められているから、2000メートルどころではなく、4000メートル以上の深さの水圧に耐える容器を用意しなければならない。これは、もう、福島やその他汚染地域の汚染土の量を考えると、ちょっと現実離れしている。

したがって、実際上は、福島原発由来の汚染土の深海への海洋投棄は殆ど不可能だと思われる。

12月2日、環境省は、放射性セシウムが1キロ当たり8000ベクレルを超え10万ベクレル以下の上下水道汚泥の焼却灰について、汚泥の焼却灰は放射性物質がほとんど溶出しないことが分かったため、セメントで固めなくても、雨水の流入を防ぐ措置で埋め立てできるとの方針に変更した。

また、1キロ当たり10万ベクレルを超える廃棄物については、地中に細かく仕切ったコンクリート製の構造物を設置した「遮断型処分場」に埋め立てることにしているという。

やはり、時間はかかっても、地道にこうした処分場をどんどん地下に建設して処理を進めていくしかないかもしれないけれど、放射性セシウムを除去できる技術開発も同時に行ないつつ、放射性廃棄物の処理を進めるしかないだろう。

主の名に よって 来る者に 祝福が あります様に




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画像除染で出た汚染土、海へ投棄案 研究者が提唱

 東京電力福島第一原発の事故で放射能に汚染された土を海に捨てる案が、一部の研究者の間で浮上している。除染のために削り取った土の保管・処分場所を確保することが難しいからだ。世論や国際社会の反発は必至だが、現実的な対応策の一つとして政府への提言を目指す。

 除染は、被曝(ひばく)線量が年1ミリシーベルト以上の地域は国の責任で行う。土壌を削り取り、各市町村の仮置き場に保管した後、福島県内につくる中間貯蔵施設に運ぶ方針だ。県内だけで1500万~3100万立方メートルの汚染土が出る見込み。最終処分の方法が決まらなければ恒久的に置かれることになりかねず、用地確保の見通しは立っていない。

 こうした現状を踏まえ、文部科学省の土壌汚染マップ作成に携わった大阪大核物理研究センターの谷畑勇夫教授、中井浩二・元東京理科大教授らのグループが3日、大阪大で開かれた研究会で、深海への処分を提案した。海水で腐食せず高い水圧に耐えられる容器に汚染土を入れ、日本近海の水深2千メートル以下に沈める方法が最適とした。

URL:http://www.asahi.com/national/update/1204/TKY201112040327.html?



画像東日本大震災:10万ベクレル以下汚泥焼却灰、セメント固化不要--環境省決定 毎日新聞 2011年12月3日

 環境省は2日、放射性セシウムが1キロ当たり8000ベクレルを超え10万ベクレル以下の上下水道汚泥の焼却灰について、セメントで固めなくても、雨水の流入を防ぐ措置で埋め立てできるとの方針を決めた。汚泥の焼却灰は放射性物質がほとんど溶出しないことが分かったため、方針を変更した。

 また、1キロ当たり10万ベクレルを超える廃棄物については、地中に細かく仕切ったコンクリート製の構造物を設置した「遮断型処分場」に埋め立てることとした。福島県内で発生した場合は、除染後の汚染土壌などを入れる「中間貯蔵施設」を活用。それ以外の都道府県で発生した場合は、新施設を建設する必要があるという。一方、放射性物質に汚染され処分が進んでいない稲わらなどについては、焼却処理のガイドラインを策定する。【藤野基文】

URL:http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111203ddm008040075000c.html

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    福島原発の事故程度の汚染土壌中で高濃度
    汚染土壌は付近に埋めてしまえば良い.
    低濃度汚染土壌は心配することもない.
    何だたら, 低能度汚染土壌を浅く埋めた
    ところを自然公園にして暫く立ち入り禁止
    にして様子を見れば良い. 牛などは健やかに
    育つことだろう. 勿論, これは実験だ.
    原子炉事故の責任を世界に対してとると
    いうことはこういことだ. 我々は責任を
    持って低能度放射能の影響を調べるべきだ.
    決して, 反原子力や自然エネルギーに
    逃げることではない. 日本が逃げれば
    世界的な影響が出る.

    風力発電や, 太陽光発電, 海流発電など
    自然エネルギー簒奪発電は環境変かに
    大変に弱い. 人類が本当に気にしなくては
    いけないのは, 海洋大循環流に何らかの
    支障が生じて循環流が止まる可能性だ.
    その時, 世界は数年で氷河期に突入する.

    既に過去の様子は良く調べられている.

    一度止まった大循環流の復元には長い時間
    がかかる. その間のエネルギに自然エネルギなど
    使えるものか.

    人類は本当に重要なことを見つめるべきだ.
    2015年08月10日 15:26

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