脱線のメカニズム
昨日の「北陸新幹線のフリーゲージトレイン化」のエントリーで、ロングレールの必然性についてのコメントをいただきましたので、答えになっているかどうかわかりませんけれども、追加してエントリーいたします。
1.鉄道と粘着力
鉄道列車は、いうまでもなく、鉄のレールの上を鉄の車輪が転がることで走行するのだけれど、鉄と鉄の接触で動くので、双方の摩擦(転がり抵抗)が少なく、エネルギーのロスが少ない。
だから、列車は一度加速して、所定の速度に達したら、駆動停止して、惰性で走行しても殆ど減速せずに、次の駅まで行ってしまう。
これは、省エネルギーではあるのだけれど、逆に言えば、「滑りやすい」ことでもあり、自動車なんかのように急勾配を上ることは出来ない。
車輪の接地面積は、自動車のタイヤが葉書大程度であるのに対して、列車の車輪のそれは、切手の1/4くらいの面積しかない。こんな僅かな面積で、あの重い車両を支え走行している。
車輪とレールの間の接触部分に働く前後の力を鉄道では"粘着力"というのだけれど、列車は、この粘着力が最大になるように、列車の速度に最適な速度で車輪を回転させている。
もしも、車輪の回転速度が列車の速度に対して早すぎると、車輪が空回りしてしまい、加速もブレーキも効かなくなってしまう。
例えば、新幹線が300km/hで走行しているとすると、車輪は302km/hで回転させて、最大の粘着力が得られるとされるから、相当に精度のよい制御を必要とする。
しかも、この粘着力は、温度、湿度、接触面の水、油、汚損物質、接触面の粗さなど多くの要因が関連していて、速度が増すにつれて、粘着力は減少する傾向がある。これは、水と表面の粗さが大きな役割をしていて、車輪とレールの間に入り込んだ、水が膜を作り、速度が速くなるに従って、その水膜が厚くなって、車輪とレールの接触面積を減少させるためだと言われている。
そこで、新幹線などでは、高速走行時でも粘着力を稼ぐために、粒径約0.3mmのアルミナ(酸化アルミニウム)を、毎分30g程度高速ノズルで車輪がレールに接触する直前にレール上に噴射している。
このように、列車の高速化は、粘着力を如何に確保するかとの勝負だとも言える。
2.脱線のメカニズム
だけど、列車の車輪はただ粘着力を確保すればいいというわけじゃない。もうひとつ、横圧(おうあつ)にも対応しなくちゃいけない。
横圧とは、車輪がレールの側面に及ぼす力のことで、列車がカーブを走行するときの遠心力や、カーブを走行中に車輪が向きを変えられることによって生じる転向力及び、蛇行動などによって生じる、レール面上でのレールに直角な方向に掛かる力のこと。
当然、列車が高速になればなるほど、遠心力は増してくるので、横圧もそれに伴って増加するし、カーブが急になればなるほど、車輪の転向力も大きくなるので、これも横圧を増す原因(内軌側横圧=転向横圧)になる。
脱線とはレール上を回っている車輪(転動)がレールから逸脱する現象なのだけれど、脱線はその形態から次の3種類に分類される。
1.乗り上がり脱線
2.すべり上がり脱線
3.飛び上がり脱線
1の「乗り上がり脱線」は、車輪とレールとの間の摩擦係数が比較的大きく、車輪に掛かる垂直の力(輪重)に対して、車輪を横に押し出す力(横圧)が大きくなった時に、車輪がレール上を登りあがっていく現象を指す。
2の「すべり上がり脱線」は、車輪とレールとの間の摩擦係数が逆に小さいときに、横圧によって車輪はレール上を滑り上がることで発生する。
3の「飛び上がり脱線」は、 衝撃的な垂直力の減少や横方向の力の増加により、車輪がレールに衝突して、一挙にレール上に飛び上がったり、飛び越したりする現象をいう。
1と2は合わせて「せり上がり」と呼ばれることもあるのだけれど、脱線のメカニズムとしては少し違いがある。
鉄道車両の車輪の縁にはフランジと呼ばれる出っ張りがあり、通常は線路の内側に設けられる。列車はこれによって脱線を防いでいるのだけれど、先に説明した「せり上がり」は、このフランジの部分が線路の上に乗り上がる、又はすべり上がる現象のことを言う。
列車が直線を走行しているとき、車輪とレールはそれぞれ、ほぼ同じ方向を向いているのだけれど、たとえば、カーブを曲がるときなんかは、車輪の向いている方向と列車の進行方向にズレが生じる。この車輪とレールがなす角度のことを「アタック角」という。
アタック角にはプラスとマイナスがあり、車輪がレールに近づく方向、即ち、進行方向側の車輪のフランジがレールに近づく角度をプラスとし、逆に離れる角度をマイナスとしている。
このアタック角がプラスの状態(車輪のフランジが進行方向に対してレールに乗り上がろうとする状態)で車輪やレールに横方向の力が加わって、車輪がレールの上に乗り上がって脱線するのが、1の「乗り上がり脱線」。
逆に、アタック角がマイナスの状態(車輪のフランジが進行方向に対して、レールから遠ざかる状態)にも関わらず、それ以上の横方向の力が加わって、車輪がレールの上に滑り上がって脱線するのが、2の「すべり上がり脱線」。
列車がレールの上を走行しているときの車輪とレールの接触点に掛かる力は、輪重(P:車輪に掛かる垂直方向の力)と横圧(Q)、そしてフランジの角度(α:フランジ角)によって決まるのだけれど、横圧に対して輪重が大きい程、またフランジ角が大きい程、脱線しにくくなる。
逆に言えば、輪重が横圧に対して小さくなってしまうと、脱線しやすくなるということだから、走行中に上下方向に振動が加わるのが一番拙い。
特に、急カーブを走行していて、車輪にアタック角が生じているときに、線路に微妙な凹凸があったり、レールの継ぎ目を通過して、瞬間的に輪重が変化したりするような場合は危ない。
近年の鉄道の高速化に伴って、車両の軽量化が行なわれているけれど、軽量化が進めば進むほど、相対的に大きくなる横圧を低減させる努力が不可欠になる。
レールをロングレールにすると、カーブ部分の継ぎ目が減ることは元より、熱による伸縮が両端100mで程度ですむことから、線路が歪む部分がその分限定される利点があり、横圧を減らす効果も期待できる。下図は、定尺レール区間とロングレール区間それぞれの横圧変動の予測及び実測結果だけれど、ロングレール区間では横圧変動が小さくなっているのが分かる。
今後、リニアは別としても、鉄道の高速化には、車体だけではなく、レールの保守管理技術は益々重要になるだろう。
←人気ブログランキングへ
この記事へのコメント
日比野
図6の1マスは25mなのですけれども、横圧変動は丁度この25m周期で大きくなっています。この25mというのは定尺レールの長さになりますから、レールの歪みもさることながら、やはり継ぎ目の問題が大きいように思います。
>ちび・むぎ・みみ・はなさん
フリーゲージトレインの開発に当たっては、当初、台車側の改良で吸収しようとしていたようなのですが、どうしてもカーブ走行での速度基準を満たせなくて、最後の最後にレール側に手を着けることになったようです。
その意味では、高速鉄道には定尺レールは元々無理があるのかもしれませんね。
ちび・むぎ・みみ・はな
ロングレールを基本としている新幹線では
サスペンション等はロングレールからの振動に対
して最適になるように設定されているのだろうし,
これは長い経験の積み重ねだから,
在来線を走るからと言って簡単には変えられない.
レールからの衝撃力の図を見てそう思う.
サーキットをかっ飛ばすF1が田舎道を安全に走れるか,
と言う問題だというと言い過ぎか.
ルイヴィトン バッグ
白なまず