レアアースレス磁石

  
今日は、レアアースの話題です。

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1.最強の永久磁石

昨年12月27日、中国商務部(日本でいえば経産省に相当)は、2012年のレアアース輸出企業リストと、第1陣の輸出割当量に関する通知を発表した。

それによると、2012年から、レアアースの輸出割当量を軽レアアース(軽希土類)と中・重レアアース(中・重希土類)に分けて管理する方法を採ることを明らかにした。2012年第1陣のレアアース輸出割当量の1万546トンの内訳は、軽レアアースが9095トン、中・重レアアースが1451トンと定めている。

中国商務部によれば、軽希土と中重希土に分けて管理するのは、レアアース政策の科学性や適応性を一段と高め、資源や環境をよりしっかりと保護するためだそうなのだけれど、実際のところは、割当量が決められている中では、各社とも、輸出価格が高い中重希土を輸出したがることと、他国の軽希土中心のレアアース鉱床とは異なって、中国華南地域のイオン吸着型鉱床には中重希土が多く含まれる貴重な鉱床であることから、これらの交渉を保護する目的があると見られている。

レアアースの中で、軽希土に分類されるのは、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジムで、中重希土に分類されるのは、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、イットリウム等なのだけれど、日本のレアアース需要として代表的なものとして、モーターなどに使用される、ネオジム鉄ボロン磁石の原料(ネオジム、ジスプロシウム、テルビウム)や、光学ガラス(ランタン)、フラットパネルディスプレイ関連(ガラス研磨剤:セリウム、蛍光体:セリウム、イットリウム他)及び自動車排ガス浄化触媒(ランタン、セリウム)などがある。

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中でも、ネオジム鉄ボロン磁石は、EV等に代表される次世代環境車両用のモーターと発電機に使用され、実際、焼結ネオジム磁石が、ホンダの「インサイト」で約1Kg、トヨタの「プリウス」で約1.5Kg使用されているという。

ネオジム鉄ボロン磁石は、1984年に日本の住友特殊金属(当時)の佐川眞人氏らによって発明された、永久磁石の中では最も強力とされる磁石で、ハードディスクドライブやCDプレーヤー、携帯電話などの小型の製品から、電車・ハイブリッドカー・エレベーター駆動用の永久磁石同期電動機などに使用されている。

ところが、ネオジム鉄ボロン磁石は熱に弱く、加熱すると磁力が落ちてしまう。これは、耐熱性を要求されるハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)に使う場合には欠点となる。

その対策として、ジスプロシウムやテルビウムを添加することで、なんとか高温でも磁力を弱くしないように工夫しているのだけれど、それは同時に重稀土であるジスプロシウムやテルビウムをも必要とすることを意味してる。

そんな貴重なレアアースを中国政府は自国の戦略物資として使っているのだけれど、やはり抜け道はあるもので、どうやら、多くのレアアース企業は、純粋なレアアースではなくて、割り当て対象外であるネオジム鉄ボロン磁石の形でを大量に中国から輸出しているようだ。

業界関係者は世界中の企業が、ネオジム鉄ボロン磁石を輸入することで間接的にレアアースを手に入れていると見ていて、専門家は、ネオジム鉄ボロン磁石を早急に輸出割当の対象にすべきと指摘しているという。

ただ、いくらネオジム鉄ボロン磁石が手に入るといっても、それ以外のレアアースが手に入るわけじゃない。レアアースが手に入らなくなったときのことを考えておく必要がある。

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2.レアアースレス磁石

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、経済産業省のレアメタル確保戦略の一環として、2009年度からネオジム鉄ボロン磁石に代わる、新規永久磁石材料の開発を委託事業に出していて、東北大学、戸田工業、帝人、京都大学、倉敷芸術科学大学、千葉工業大学、トヨタ自動車、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所、電気磁気材料研究所の全10機関が参画している。

研究は、大きく、窒化鉄系磁石とサマリウム窒化鉄系磁石の2つに分かれていて、前者は、レアアースを全く使わない、所謂「レアアースレス磁石」で、後者は、ジスプロシウム(Dy)を使わない磁石。

前者の窒化鉄系磁石は、現在最強の磁石であるネオジム鉄ボロン磁石を超える磁力を持つ可能性を秘めているそうだ。だけど、実用化のためにはいくつかのハードルがある。

例えば、モーターなんかにこうした磁石を使う場合、まず、任意の大きさ・形状の磁石の塊を作らなければいけないのだけれど、そのためには、特性の良い粉状の磁石(磁性粉)がなくちゃいけない。

これまで、強磁性窒化鉄は、薄膜としては得られたものの、粉末として抽出することはできなかった。それが昨年3月に、研究グループが強磁性窒化鉄の粉末を合成する技術を開発することに成功している。

また、後者のサマリウム窒化鉄系磁石は、これまで、粉末のサマリウム窒化鉄を任意の大きさに焼き固めようとしても(焼結)、高温では窒化物と鉄に分解してしまうために、「焼結磁石」としては実用化されておらず、磁石粉末を樹脂などで固めたボンド磁石だけが製品化されていた。その代り、ボンド磁石は、樹脂が混ざる分、焼結磁石と比べて磁力が落ちるという欠点があった。

これについても、研究グループは、昨年7月に、粉末の入った金型に圧力を加えながら電流パルスを流すことで、ごく短時間で温度上昇させ、結晶構造が変化する前に焼結させる技術、「パルス通電焼結法」を開発し、サマリウム窒化鉄の焼結磁石の開発に成功している。

中国のレアアース戦略に対して、日本は脱・レアアース戦略で対抗している。日本の技術が中国の思惑を凌駕することを期待している。

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この記事へのコメント

  • 白なまず

    一つ一つの研究結果がいくら凄くても、工業製品になるにはかなり時間が必要だったが、最近はどうやらペースが速まったようですね。ネット時代の恩恵が有るのでしょうか、、、それとも、崖っぷちの火事場の馬鹿力か。モータも大事ですが、HDDの原料が逼迫するのは心配ですね。そうするとFLASH等半導体不揮発メモリの大容量化が益々重要となりますね。江戸の仇は長崎で討つ為には、産業界の横の連携で重要な情報、技術をけっして外国に出さないようにしないとダメだと思いますが、その為には職人のような技が重要な気がします。知識だけ漏れても作れないような物が必要と言う事です。
    2015年08月10日 15:26

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