焦りの白き隻眼

 
1月16日、民主党は都内のホテルで党大会を開き、野田首相が参加した。

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野田首相はその挨拶で、「不毛な政局談義はやめ、大局に立って身を捨てて国民に奉仕をする。これが、今、民主党に一番求められていることだ。今、崖っぷちに立っているのは民主党ではない。日本と国民だ」と述べ、党の結束を呼びかけた上で、社会保障と税の一体改革について野党に協議に応じるよう求めた上で「どうしても理解してもらえない場合は、法案を参院へ送って、野党にもう一度、この法案を潰したらどうなるかをよく考えてもらう手法も、時には採用していこう」と、衆院での強行採決の可能性にも言及した。

何やら言葉の上では強気なようにも見えなくもない。

それにしても、「崖っぷちに立っているのは民主党ではなくて、日本と国民だ」なんて、まるで、民主党が日本国民ではないかのような発言には違和感を覚えてしまう。

選挙で選ばれた議員は紛れもなく、日本国民の代表。しかも、政権を預かる与党、況や一国の宰相ともなれば、自らの発言にどれくらいの重みがあるのかは十分に自覚してしかるべき。

日本国民が崖っぷちなのが本当であれば、民主党だろうが、野党だろうがみんな崖っぷち。民主党だけが安全圏にいるなんて有り得ない。それ以前に、政権与党はその崖っぷちから国民を救いださなければならない。

まぁ、野田首相の発言の前後の文脈から推察すると、これらの発言の真意は、「いつまでも、党内で消費税反対論など政局談義をやっていないで、官邸及び党執行部の方針に従え。自分の次の選挙が危ないとか"崖っぷち"にいるとか考えるな。本当に崖っぷちなのは、日本と国民なのだ。」という辺りではないかと思うけれど、それならば、野田首相は、その「大局」とやらをしっかりと打ち出して、皆の理解を得なくちゃいけない。

確かに、野田首相は党大会の挨拶で、社会保障と税の一体改革の他に、被災地復興や福島県の再生、普天間問題、経済の立て直しと雇用の確保等々、一通りのことは述べている。だけどそれらが、大局的見地でみて、どう映っているのか。何が大切で、何をしなければならないのか。

そうしたことについて、全くといっていいほど説明がない。「一体改革をやり切ることなくして国民の将来はない」といいながら、何をどう改革するのか、増税することだけ決めておいて、改革の中身が分からないでは、それは税金を払う方は納得しないだろう。

野田首相は、3月末に国会に提出予定の、消費税引き上げ関連法案について、「各政党に政策協議に応じてもらうよう心からお願いをしていく。野党にどうしても理解してもらえない場合は、法案を参議院に送って、野党に『この法案をつぶしたらどうなるのか』と考えてもらう手法も、ときには採用したい」とも発言している。

法案を参議院に送るということは、その前に衆院を通過させなくちゃいけないから、その意味するところは、野党がいくら反対しようが、強行採決してでも可決させるということだろう。

野党に『この法案をつぶしたらどうなるのか』と考えてもらうと言う前に、まず、与党内でこの法案を出す必要があるのかを考えるべきだろう。それとも、党内は消費税増税で纏まっているとでもいいたいのか。

党大会後、小沢氏は自身が会長を務める勉強会「新しい政策研究会」の会合を開いて、衆参議員ら109人を集めている。小沢氏は、その場で、原発事故対応について「安心だというような印象を与える発表があったが、とてもそんなところではない。政府が全力で放射能を封じ込めないと日本の将来はない」と語ったそうだけれど、小沢氏の"放射能を封じ込めないと日本の将来はない"というロジックの方がまだ分かりやすい。

もしも、小沢グループが増税反対で決起したら、衆院ですら消費税増税法案を通せなくなる可能性だってある。尤も、その場合は、小沢氏は党に居られなくなって、新党結成も視野に入ってくる。

今回の改造内閣で野田首相は、小沢グループの一川、山岡両氏を退任させ、小沢氏と対立する岡田氏を副総理として入閣させた。見方によっては、党内融和を止め、小沢氏との対決も辞さない人事とも受け取れなくもない。

だから、もしかしたら、焦っているのは野田首相だけでなく、小沢氏だってそうかもしれない。

こちらのサイトでは、消費税と税収の関係をグラフ化しているけれど、これを見る限り、消費税をアップしても税収全体は増加しないどころか減る傾向にあることが分かる。

だから、今回の消費税増税案にしても、それだけでは、税収全体が減る可能性があり、そうなったら社会保障などももっと逼迫することになる。であれば、税収全体が減る以上に、メリットがある改革でないと、改革する意味がない。

まぁ、消費税を増税した分は、社会保障に充てるからメリットはあるのだという言い方も出来なくはないけれど、それで日本経済全体が縮小して、雇用が失われ、税収全体も減ってしまったら、それは将来が失われたことにならないのか。

それこそ"大局"に立って判断すべき問題ではないかと思われる。

隻眼を持って全てを見通せる傑物は、そう簡単にいるものではない。




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この記事へのコメント

  • 日比野

    >operaさん
    仰るとおり、増税すべき時期は明らかですよね。桜の経済討論も充実してきていますよね。
    菊池英博さんですかぁ。実は「特典付き復興国債」のエントリーの時の下調べで、菊池英博さんをチェックしていましたけれども、傾聴に値するかと。
    ご紹介ありがとうございました。

    >NGAさん
    議員定数削減については、民主党は自民党案を丸飲みだそうですね。最早、そうするしか手がないのでしょう。
    あと、政治改革の本質や問題点に触れないのは、真の問題に触れるのは都合が悪いか、内容を理解/認識できていないのかどちらかでしょうけれども、確かに国民をミスリードする危険がありますね。
    2015年08月10日 15:26
  • NGA

    今日、茂木敏充政調会長が岡田克也副総理が主張した国会議員歳費の削減について「震災対応でやった300万円、(年換算で約)15%の削減を継続するぐらいの気概が必要だ」と表明。という記事を読んだ。
    このことに対してのコメントにはたった15%かとか議員の削減についてや仕事をしてないんだからもっといけるはずなど記事の触れていない冷ややかなコメントが多い。
    確かに少し甘いところがある気がする。(政治に対して)でも政治改革のアピールだと伝える記事の内容に政治改革の本質や問題点にはふれてない。政治にも問題があるけど、それを伝えることにかたよりがあるのには個人的な考えだが、問題があり国民を惑わせてしまう気がする。
    2015年08月10日 15:26
  • opera

    結局、デフレの時に消費税を引き上げると消費税分の税収は確かに増えるけれども、国民の可処分所得が減って消費が冷え込み、その結果、企業の売上げ・利益がともに減って業績が悪化し、雇用状況も悪くなることで、所得税・法人税が激減してしまうため、全体として減収となることは歴史的に経験済みなんですよね。97年の消費税率引き上げの時は、確かに消費税分2兆円の増収があったけれど、所得税・法人税が減って、全体として4兆円減収になっているんですが、財務官僚はもちろん、マスコミもまったく指摘しませんね(なお、消費税導入時はバブル期なのでそのまま増収になっています。増税すべき時期は何時か、明らかに歴史が示しています)。

     ところで、最近のネットにおける経済関連情報の質・量ともに、非常に充実してきていますね。最近、「おっ」と思った動画を紹介しておきます。
    1/3【経済討論】2012年度予算案と日本経済の行方[桜H24/1/14]
    http://www.youtube.com/watch?v=AGDF8U5sLWQ
    2/3【経済討論】2012年度予算案と日本経済の行方[桜H24/1/14]
    http://www
    2015年08月10日 15:26

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