アメリカの新国防戦略とホルムズ海峡封鎖危機
世界情勢が動いています。
1.二正面作戦を放棄した新国防戦略
もうすでに、色んなところで話題になっているけれど、今月5日、アメリカのオバマ大統領は、これまでの国防戦略を修正し、新たな国防戦略を発表した。
これは、「米国の世界的リーダーシップの維持と21世紀の国防の優先事項」と題する文書で、アメリカ国防予算の大幅削減に対応した国防戦略。アメリカは、今後10年で約4900億ドル(約37兆6千億円)の国防費の削減を決め、この文書では、2020年の米軍の役割と任務の「青写真」を描いている。
それによると、アメリカは10年に及んだ戦争後の戦略的転換期にあるとして、アメリカ軍全体の規模を縮小しながらアジア太平洋地域への戦力の重点投入を進める「選択と集中」が柱となっている。
新戦略では中国について「地域での摩擦を避けるために、中国の軍事力増強はその戦略的意図を一層透明にしながら進められなければならない」とした上で、「アメリカはアジア太平洋地域に接近するために必要な投資を続ける」と明言しているのだけれど、これは明らかに中国の接近阻止戦略に対抗する意志を示したものと思われる。
また、テロ対策や大量破壊兵器不拡散の観点から中東地域も重視していて、イランの核兵器開発阻止と同盟国イスラエルの防衛のため軍事プレゼンスの維持を述べている。
更に、二つの紛争に同時対処する「二正面作戦」を放棄する代わりに、一つの紛争に対処している間に「第二の地域」で敵が戦争を起こさぬよう「抑止し、屈服」させる考えに触れているから、二正面に同時対応することは諦めて、一つづつ片づける時間差の介入に切り替えたということ。
そのほかには、「サイバー空間と宇宙における戦力向上」や「抑止力としての核兵器の維持」「同盟国、主要パートナー国との安全保障分野での役割分担と協力」が述べられているから、二正面作戦を放棄したことを考えると、同盟国にこれまで以上の安全保障の分担が求められることは元より、アメリカ軍が居なくても、独自で戦線を支えるだけの国防および即応能力が求められることになる。
なぜなら、たとえば2つの地域で同時に紛争が起こった場合、アメリカは二正面に対応することを諦めた以上、片方に介入すれば、もう片方はお留守になる。そのお留守になった側は、少なくとも、アメリカ軍がもう片方をやっつけて、こっちに来るまでの間は最低でも戦線を維持してやられないようにしなくちゃいけない。
それは、戦争になったときでも易々とはやられないだけの国防を整備することでもあるし、外交その他によって、戦争を回避またはギリギリまで開戦を遅らせる外交能力を磨くことでもある。
今の日本にそれが出来ているか。
2.中東石油におんぶに抱っこの日本
戦争になったとき、一番大切なのは、燃料弾薬等の備蓄および補給。それは、軍だけではなくて、国民生活を支えるだけの備蓄及び補給路が確保されているかどうかという問題。
日本の食料自給率が低いというのは、昔から言われていることだけれど、それでも30数%はある。一番低いのは、やはりエネルギー。
日本のエネルギー自給率はわずか18%程度しかないのだけれど、これは原発を入れての数字。もし原子力発電を入れなかった場合、自給率はわずか4%にまで低下する。
では、現在、輸入エネルギーのうち、石油が占める割合はというと、第一次石油ショック当時の77%と比べると、随分低減したとはいえ、47%(LPガス含む)もある。
だから、去年の福島第一原発事故以来、原発再稼働もままならない現状で、石油の輸入が止まった日には、去年の計画停電、節電騒ぎどころの話じゃない。
日本の原油輸入量は1990年代から、およそ2億から2億5千万キロリットルで推移しているのだけれど、そのおよそ9割が中東からの輸入に頼っていて、その内の半分は、サウジアラビアとUAE。
サウジアラビアをはじめイラク、クウェート、UAE、カタール、イランの原油はすべてペルシャ湾のホルムズ海峡を通過し、去年は1日当たり1700万バレルもの原油が運ばれている。
そして、日本に来るタンカー全体の8割、年間3400隻がホルムズ海峡を通過している。だから、ここを封鎖されたらとんでもないことになる。
2010年のエネルギー白書では、ホルムズ海峡のように、物資輸送ルートとして広く使われている狭い海峡、すなわち"チョークポイント"を通過することを一種のリスクと捉えたとき、主要各国のリスクがどれくらいになるかの見積もりを公表している。
これは、ホルムズ海峡、マラッカ海峡、マンダブ海峡及びスエズ運河の4つのチョークポイントを通過する原油の数量を合計して、総輸入量に対する割合をチョークポイント比率とする。そして、チョークポイントを複数回通過する場合は都度計上するッ方式で算出したところ、日本は171%でダントツ。韓国・中国も100%を超え高くなっている。
一方、欧米各国のチョークポイント比率は1970年代こそ高かったものの、年代ごとに比率が減っていて2000年代になると、数~50%程度にまでになっている。
これは欧米各国が国策として中東石油の依存度を減らしていったからで、例えば、フランスは1980年代以降ノルウェー、英国、ロシア等からの供給を増やしているし、同じく、ドイツも1980年代からロシア、イギリス、オランダ、ノルウェー等への依存を高めている。
また、イギリスは国産エネルギー資源の開発を進めて、中東依存を減らしているし、アメリカは、カナダ、ベネズエラ、メキシコ等の近隣諸国への依存度を高めている。
こうした欧米諸国の動きに対して、日本はずっと中東依存のままで、その依存度は1970年代からこれまで、70%~90%の間を推移している。
石油が止まることに対して、あまりにも鈍感でいる。まさに"油断"そのまんま。
3.ホルムズ海峡を迂回する原油パイプライン
AP通信によると、1月8日、イランの指導部は、イラン産原油の輸出に制裁が科された場合、ホルムズ海峡の封鎖を命じることを決めた、とイラン革命防衛隊幹部の話として伝えている。
これに対して、アメリカのパネッタ米国防長官はイランが原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の封鎖に踏み切るならば、「我々はそれに対応した行動を起こす」と述べ、軍事行動も辞さない考えを述べている。
果たして、どこまでがブラフでどこまでが本気なのか分からないけれど、国家としては万が一のことを考えて対応を考えておく必要がある。
ホルムズ海峡が通過できないなら、ホルムズ海峡を使わなければいいじゃないかという考えも確かにあるけれど、そのためには、ホルムズ海峡の外に石油を積みだせる大港湾と、そこまでのパイプラインが必要になる。
実は、UAEは、ホルムズ海峡が封鎖された場合でも、安定的な原油輸出ができるように、ホルムズ海峡を迂回する陸上パイプライン(The Abu Dhabi Crude Oil Pipeline)の建設を国家戦略として進めている。
このパイプラインは、ホルムズ海峡を迂回する48インチの原油パイプラインで、アブダビ南方のハブシャン油田から、オアシス都市アル・アインの西を通って、インド洋側のフジャイラ港に到達する約370kmで、カタールからUAEに天然ガス輸送するドルフィン・ガス・パイプラインの長さを超える。
建設は、2008年から始まり、2010年12月に試運転を開始していて、完成時の輸送能力は日量150万バレル程度とされている。これは、UAEの原油生産量の約6~7割に相当する。
投資額は120億ディルハム(32.7億ドル)で、パイプラインの建設はILFコンサルティング・エンジニアがプロジェクトマネジャーとなって、中国石油工程建設公司が建設を請け負う。
また、合計22.5万トンにも及ぶパイプは、住友商事とドイツのSalzgitter Mannesmann International、及び、インドのJindal Groupの3社に分割発注されている。
ところが、このパイプラインは、現在270もの問題を抱え、建設がストップしているのだという。UAEは、2011年1月を目途にホルムズ海峡の外からの原油積み出し開始を目指しているとしていたのだけれど、どうやら早くても4月までは準備が整わないらしい。
先日、アメリカがイランに対する経済制裁措置を実施するにあたって、2~6ヶ月の警告期間を置いた後に行うとしたのも、あるいは、このパイプラインの稼働を待っている部分もあるかもしれない。
ともあれ、春先に向かって、アメリカとイランの神経戦が続くことになる。
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この記事へのコメント
白なまず
このままではハルマゲドンはやはり2018年でしょう。しかし、今年は辰年、良い年になると予言されてるので、今年大豊作なら備蓄をお勧めします。来年から食料が本当に入手困難になる事が予測できますから。日本にとって石油は血の一滴です。お忘れなく。
NGA
アメリカに依存しすぎない戦力が必要。