風と月と太陽と


今日は、久々にエネルギー関連のエントリーです。

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1.政府による発電コスト見直し

昨年12月19日、政府のエネルギー・環境会議のコスト等検証委員会が発電方式毎の発電コスト試算結果を公表した。

政府は平成23年6月7日に、エネルギー・環境戦略を練り直すために、省庁横断的な組織として、エネルギー・環境会議を設立したのだけれど、この「コスト等検証委員会」は、エネルギー・環境会議の分科会として同年10月3日に設けられ、これまで計8回の会合と50時間以上の議論の結果を報告書としてまとめている。

今回の試算では、従来の発電コスト試算と違って、再生可能エネルギーやコージェネレーションなどの新たな電源や省エネルギーに関しても試算を行い、更に発電原価だけでなく、事故リスク対応費用やCO2対策費用や政策経費などの社会的費用も加味した検証を行なっている。

それによると、それまでキロワット当たり5~6円だった原発は、福島第1原発級の事故費用や立地対策の補助金などを盛り込んだ結果、最低でも8.9円と5割増しになり、火力発電も燃料代上昇や温室効果ガス削減費用などでコストが上昇する。石炭・LNG火力は従来6~7円だったのがおよそ9~11円と5割増。石油火力に至っては、14~17円が36~37円と倍になっている。

それに対して、陸上風力は、低コストで建設できる条件が揃ったケースでは、2010年モデルプラントで10円/kWh程度、2030年モデルプラントで9円/kWh程度と、原子力、石炭、LNG と同等のコストになり、洋上風力は、資本費を陸上風力の1.5~2倍と見込んで、2020年モデルプラントで9.4~23.1円/kWh、2030年モデルプラントで8.6~23.1円/kWhと試算している。また、地熱については、9.2~11.6 円/kWhと、原子力や石炭レベルのコストと試算されている。

そして、太陽光については、2010年モデルシステムの発電コストは、30円/kWh以上と割高なのだけれど、2030年には量産効果などによって、大幅にコストダウンされ、現在の2分の1から3分の1にまでコストが下がる可能性があると報告されている。

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2.SSPSとルナリング

さて、そんな再生可能エネルギーについてなのだけれど、目下、着々と研究開発が進んでいる。以前「海上発電の可能性」のエントリーで、浮体式風レンズ風車による風力発電について紹介したけれど、先頃、この「風レンズ風車」を使った洋上での実証実験が、福岡市の博多湾で始まっている。

実験では、直径18メートルの六角形の浮体に、直径約3.4メートル、出力3キロワットの風レンズ風車2機と、出力1.5キロワットの太陽光パネルを沖合約650メートル地点に設置。これらを1年係留して、風車の耐久性や浮体の揺れ、周辺の生態系への影響などのデータを収集しながら、年間約7500キロワット時の発電を目指している。

そして、家庭向け太陽光については、大幅なコストダウンが実現しようとしている。

先のコスト等検証委員会の報告書では、太陽光発電のコストは2010年モデルで30円/kWh以上なのだけれど、その理由の一因に、パネルメーカー主導の閉鎖的なビジネス形態があるのだそうだ。そこで登場してきたのが、メーカーから独立して、個別のサブシステムを集めて1つに纏めて完成させる、いわゆる"システムインテグレーター"的なビジネスモデル。

最近、フジワラ盈泰ジャパン社が共同で、19円/kWhという驚きの安さの家庭用太陽光システムを発売したそうだ。

事業内容をみる限り、フジワラが太陽光発電システムの計画及び取り纏めを行い、盈泰ジャパンが太陽光発電パネルや周辺機器の輸入及び施工を受け持っているものと思われる。パネルについては、盈泰ジャパンの代表者の名前(鞠 文軍)から察するに、おそらくは中国辺りから、安い太陽光発電パネルを輸入しているのだろう。

また、太陽光パネルの施工についても、工事の標準化によって、30~50%程度の工事コスト削減に成功しているという。キロワット辺り19円と言えば、コスト等検証委員会の報告書で2030年に実現するかもしれないコストに匹敵することを考えると、設置後のメンテナンスその他は別として、2030年を待たずして、低コストな太陽光発電が可能になるかもしれない。

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また、宇宙太陽光発電衛星計画も2030年代の商用化目指して進んでいる。

宇宙太陽光発電衛星(SSPS)については、2009年5月に「宇宙太陽光発電衛星計画」のエントリーで紹介したけれど、日本では宇宙航空研究開発機構や三菱電機などが開発に取り組んでいる。

商用化当初の想定では、衛星1基で870万キロワットを発電し、マイクロ波に変えて地上に送電したあと、電気に変換し、およそ100万キロワットの供給を見込んでいる。1号機の有力モデルは縦横とも約2.5キロの超大型パネルを持った衛星で、大量の小型パネルを宇宙で合体させて造られるので、万が一、デブリなどに当たってパネルが破損したとしても該当箇所の小型パネルだけ取り換えてやればよいそうだ。

そして、この宇宙太陽光発電衛星のように、宇宙で太陽光発電をして、地球に送るという発想を更にパワーアップしたプランを清水建設が発表している。それは、月の赤道にぐるりと太陽光パネルを敷き詰めて発電し、マイクロ波レーザー光で地球に送電しようというもので、敷き詰めるパネルは、幅400キロメートル、長さは1万1000キロメートルに及ぶ壮大な計画。

実現すれば、年間220テラワット、原子力発電所約1万3000基分の電力が賄えるというから、なんとも凄い。

パネルの敷設は、地球から遠隔操作できる無人ロボットを使って、少人数の建設スタッフと共同で作業するのだけれど、地球から水素を持ち込めば、酸化物である月の砂で酸素や水を作ることができ、セメントやガラス、セラミックも「現地生産」が可能と見られ、パネル自身も自走式ロボットが月面で生産する。

勿論、建設費用や建設期間は莫大なものになるだろうけれど、未来イメージとして描けるものである限りは実現の可能性はある。こうしたイメージが未来の人たちへの良きメッセージになればよいと思う。



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画像発電コスト:風力8.8円、太陽光12円 原子力並み低下も--2030年試算

 政府のエネルギー・環境会議で電源ごとの発電コストを計算している検証委員会(委員長・石田勝之副内閣相)によるコスト計算結果が12日分かった。従来1キロワット時当たり5~6円としていた原発は、事故費用などが上乗せされ、「最低でも8・9円」と5割高になる。石炭や液化天然ガス(LNG)火力も5割程度上がり、直近では10円前後に上昇。一方、再生可能エネルギーは技術革新で30年には風力発電が最低8・8円、太陽光発電が同12・1円に下がり、原子力や火力のコストとほぼ同じ水準になる可能性がある。

 同委員会が13日に公表する。政府はこれらの試算をもとに来夏に策定する新たなエネルギー政策で最適な電源構成を示す方針だ。

 原発コストには福島第1原発級の事故費用や立地対策の補助金などを盛り込んだ。同事故の対策費を5・7兆円超と想定し、40年に1度の発生に備えるコストを0・5円と見積もった。立地などの費用も1・1円計上し、福島事故を受けた追加安全対策費が0・2円分押し上げる。さらに事故の対策費が1兆円増えるごとに0・1円上昇し、事故費用が20兆円に膨らむと、コストは10・2円になるとの試算も示す。

 火力発電は、燃料代上昇や温室効果ガス削減費用がコストを押し上げる。石油火力は従来の14~17円が35・5~37・1円と急騰している。一方、再生エネは技術革新や量産効果で大幅にコストが下がり、従来11~26円だった風力(陸上)は、30年に8・8~17・3円に下がるとした。【宮島寛】

毎日新聞 2011年12月13日 東京朝刊

URL:http://mainichi.jp/select/seiji/news/20111213ddm001010047000c.html



画像「風レンズ風車」の実験開始=福岡市〔地域〕

 九州大学(福岡市)が開発した、小型で発電効率の良い「風レンズ風車」を使った洋上での実証実験が、福岡市の博多湾で始まった。風車を海底に固定せず、浮体に設置して行う実験で、年間約7500キロワット時の発電を目指す。関係者は広大な海を活用した「洋上での大規模な風力発電の第一歩」と位置付け、実用化に意欲を燃やす。
 風レンズ風車は、羽の周りが輪で覆われており、同じ大きさの従来型風車より発電量が2~3倍多いのが特徴。帽子の「つば」のような形状をした輪の部分によって空気の流れが乱れ、気圧差が生じて風力が増す仕組みだ。
 実験では、六角形の浮体(直径18メートル)に出力3キロワットの風レンズ風車(直径約3.4メートル)2機と太陽光パネル(出力1.5キロワット)を設置。沖合約650メートル地点に1年係留し、風車の耐久性や浮体の揺れ、周辺の生態系への影響などのデータを収集する。
 プロジェクトの責任者で同大応用力学研究所の大屋裕二教授(風工学)は「今回のデータをエネルギーファームづくりに反映させたい」と力強く語った。(2011/12/12-10:27)

URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011121200150&m=rss



画像宇宙で太陽光発電!2030年代の商用化目指す 2011.12.03

太陽光を24時間利用する宇宙発電計画が一歩ずつ進んでいる。静止衛星の巨大パネルで発電し、電気は電波などに変換し地球に伝送。昼夜のサイクルや大気中のちり、天候に左右されず、安定的に発電できるとされる。技術面で最先端を走る日本では宇宙航空研究開発機構や三菱電機などが取り組み、2030年代の商用化を目指す。エネルギー問題を解決する救世主になるか。

 ■原発1基に相当

 09年3月。国際宇宙ステーションで宇宙飛行士の若田光一さんが太陽光パネルの交換工事を行った。約100キロワット発電するステーションの主要電源だ。計画中の宇宙太陽光発電の規模はこれをはるかに上回る。政府は宇宙で実証実験に踏み切る方針で、宇宙機構などは15年ごろを提案している。

 宇宙機構と共同開発している無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)の布施嘉春技術本部グループマネージャーによると、商用化当初の想定は、衛星1基が870万キロワットを発電し、電波のマイクロ波に変えて地球に送る。地上でこれを電気に戻すと、原発1基分にほぼ相当する100万キロワットが供給できる。

 ■巨大パネル

 1号の有力モデルはUSEFを中心に検討してきた巨大パネルの衛星。長さが縦横とも約2・5キロあり、大量の小型パネルを宇宙で合体させて造る。重りとつないだロープでつるような外観だ。

 宇宙には廃用衛星の残骸などが漂い、ぶつかって来かねないが、修理は壊れた部分の小型パネルを地球などからの遠隔操作で交換すれば済むという。短所は常に同じ方向を向いていることで、利用できる太陽光や発電にばらつきがある。

 一方、宇宙機構はより発電が安定する理想タイプも検討。ただ、大型の丸い反射鏡2枚を編隊飛行させて集光するといった複雑で高度な技術開発が必要だ。

 ■ピンポイント

 「目下の最大課題はマイクロ波を正確に地上アンテナに送ること」(佐々木進宇宙機構教授)。マイクロ波は雨や雲にも強いなどの特徴がある。だが発電衛星軌道は宇宙ステーションよりずっと地球から遠く、地上アンテナはピンポイント。高い精度が求められる。

 安全性への配慮も欠かせない。マイクロ波は電子レンジでおなじみだが、衛星発信のものはエネルギー密度が低い。「レンジ用の100~10万分の1で当たってもやけどしない。だが、人体への影響の国際基準や一般市民の不安感に配慮し、アンテナ設備内は立ち入り禁上にするべきだ」と佐々木教授。

 商用化には宇宙に運ぶ大型輸送機の開発や、巨大設備の宇宙での組み立てなどで巨額の費用が必要。財源確保も課題だが、大きな期待が寄せられている。

URL:http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20111203/ecn1112031428001-n1.htm



画像月を巨大なミラーボールにして太陽光発電 2011年6月1日

月を巨大なミラーボールにして得た太陽エネルギーを地球で利用するという、まるでサイエンス・フィクション映画のような計画が、なんと日本の企業から発表されていた。

日本の清水建設の研究者らによって実現に一歩近づいた『月太陽発電 LUNA RING(ルナリング)』と呼ばれる構想は、遠隔操作のロボットを人員として使い、地球上で消費されるエネルギーの全てを月に設置したソーラーパネルで収集し供給するというものである。

ソーラーパネル帯は、月の赤道を1周する形で設置する計画で、幅は400キロメートル、長さは1万1000キロメートルにもなる。太陽エネルギーは、月でマイクロ波レーザー光に変換し伝送、そして地球上で受信されたエネルギーは電力に変換され送電網へと流れる。

この壮大な計画が現実となれば、年間220テラワットものエネルギーが地球の受信施設に伝送されることとなる。この220テラワットという数字は、原子力発電所約1万3000基分に相当する。

この計画の大きな利点は、24時間連続発電ができること、風力や波力、地球上での太陽光発電などと違って天候の影響を受けないこと、そして何よりもクリーンエネルギーだということだ。

実現化には、まずはクレーターだらけの月の表面を平にすることから始めなければならない。しかし、地球から水素さえ持ち込めば、計画に必要となる水、酸素、さらにはコンクリート、セラミックといった材料も、月の資源を利用して作れるそうだ。この計画にはまた、資材を運ぶための鉄道システムの設置も含まれているらしい。

実現するとなると、歴史上最大の公共インフラ設備となるが、スケジュールなどは発表されていないということだ。

福島第一原子力発電所の事故以来、全世界からの注目が集まるエネルギー問題。今だからこそ、もっともっと先のことを考え、できるだけ地球にやさしい代替エネルギーを進んで採用すればいいのではないか。「いつまでもこの美しい地球と人類が共存していくために…」。清水建設のホームページで印象に残った文章だ。
(記者:Kanako Otomo)

URL:http://rocketnews24.com/2011/06/01/%E6%9C%88%E3%82%92%E5%B7%A8%E5%A4%A7%E3%81%AA%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%A6%E5%A4%AA%E9%99%BD%E5%85%89%E7%99%BA%E9%9B%BB/

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    希望を語るのは良いけれど, マイナスの面も
    しっかりと議論すべきだと思う.
    まず, 風力・海流発電のような自然現象が
    持つエネルギーを頂く方法は, 自然現象を
    変えてしまう危険性を持つ. 共生を言いながら
    自然エネルギを人間が簒奪するのはどうか.
    人類が必要とするエネルギは自ら作りだし,
    自分達で後始末をすべきだろう.
    人類が必要とするエネルギは益々増加する.
    だから, 極めてデリケートなバランスの上に
    立つ自然にはできるだけ手を触れない方が良い.
    それが人類の自己責任と言うものではないか.

    太陽光発電・マイクロ波伝送の提案にしても,
    携帯の電波が頭を温めるという議論が出ていた
    のは昔の話ではない. 放射能に騒ぐのなら,
    マイクロ波が降り注ぐことにも騒ぐ人がいる.
    原発は×でマイクロ波送電は○はないだろう.
    波長が違うだけではないかと思う.
    マイクロ波だと大気の温暖化もあるし.

    生存の危機を感ぜずに日本の中でぬくぬくと
    育ってきた現世代はエネルギ問題にナイーブだ.
    福島事故で結局何が起きた/起きなかったのか?
    津波で本当に多くの人が死んだのに, 対策は
    できていない. にも関わら
    2015年08月10日 15:26

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