
ホルムズ海峡がキナ臭い。
1.ヴェラーヤト90
昨年12月24日から行なわれていた、イラン国軍の海上部隊による大規模軍事演習「ヴェラーヤト90」が1月3日に終了した。ただし、ホルムズ海峡の封鎖までには至らなかったのは幸いだった。
この「ヴェラーヤト90」は、ホルムズ海峡、オマーン海、インド洋北部の公海から北緯20度までの広範囲な海域で行なわれ、情報筋によれば、この数十年で最大のイラン海軍の演習なのだそうだ。
この「ヴェラーヤト90」で、イランは、各クラスの潜水艦や海上作戦を援護するヘリコプター、無人機、さまざまな射程距離を持つミサイル、魚雷などの実験を行い、その目的は「敵からの攻撃に対抗する上での航海の安全確保に向けた船舶のコントロール」、および「テロ・海賊対策」としている。
中でもミサイル発射実験では、いくつかの新型ミサイルも発射したようだ。
1月1日に「メフラーブ」の発射実験を行ない、翌2日には巡航ミサイル「ガーデル」と「ナスル」「ヌール」の発射実験を行ったと発表している。
「メフラーブ」は、ステルス能力を持った新型の地対空型中距離ミサイルで、レーダー追跡を避け、ミサイル誘導のかく乱を阻止する自動システムが導入されているという。
「ガーデル」も最新の地対海ミサイルで、射程は200キロメートル。低空を飛行し、戦闘用船舶や海岸標的物などの標的の破壊を得意とする。「ガーデル」は大量生産が行われており、既にイラン国軍海上部隊や革命防衛隊に配備されているようだ。
「ナスル」は短距離ミサイルであるものの、3千トン級の艦船を破壊する能力があるとされ、「ヌール」は最新型の海対海ミサイル(※CNNは地対地ミサイルと報道)で、レーダー追跡を避ける機能を持った誘導制御ミサイルとされる。
本当にイランがそんな高性能のミサイルを持っているのか分からないけれど、ここまで立て続けに各種ミサイルを発射されてしまっては、どうしたって周辺国や関係国には緊張が走る。
イラン国軍総司令官のアターオッラー・サーレヒー少将は「ヴェラーヤト90」の閉幕式で「今次の演習には、友好国であれ、敵国であれ、すべての国に対してのメッセージが含まれている。・・・われわれは不条理なことは何も求めてはいないが、しかしいかなる脅威にも用意ができている・・・彼ら〔=米軍〕には、以前いたペルシア湾地域に艦隊を戻さぬよう警告する。なぜなら、われわれは警告を繰り返すことに慣れておらず、一度しか警告しないからだ」と、発言している。
こんなにアメリカを挑発してどうするのかとも思うのだけれど、アメリカはまずは経済制裁のカードを切ってきた。
2.段階的経済制裁
昨年12月31日、オバマ大統領は、イラン中央銀行と取引がある各国の金融機関に対して経済制裁を実施する条項を盛り込んだ国防権限法案法案に署名している。
この国防権限法案法案は、アメリカの国内法で、外国金融機関のイラン中央銀行との取引を直接禁じることはできないのだけれど、イラン中央銀行と相当額の取引を持つと大統領が認定すると、アメリカの銀行とのドル取引を禁止することができるから、その外国金融機関はイラクを取るかアメリカを取るかの踏み絵を迫られる。
実際、外国金融機関が基軸通貨であるドル取引を止めて、アメリカでの事業から全面撤退するなんて殆ど考えられないから、この法案によって、イラン中央銀行は事実上、外国金融機関との取引が出来なくなってしまう。
しかも、イラン中央銀行は原油輸出入代金の決済窓口でもあるから、外国金融機関がイラク中央銀行との取引を止めてしまうことは、そのままイランの原油収入の資金源を止めることになる。
特に石油はイランの輸出収入の80%を占め、イラン政府予算の6割以上が石油収入によるものだから、これが止まるのはイランにとって大きな痛手。
ただ、この法案は、外国金融機関の取引内容によって2~6ヶ月の警告期間を置いた後に実施される見通しで、アメリカ米政府高官は「制裁を段階的に実施することで、イラン以外の国に被害が及ばないようにする」と述べている。
こうした、イラン有事の懸念から、テヘラン市場におけるドル・レートが急騰し、1月2日現在で、1ドル1600トマーンから1750トマーンへと上がっていて、また、その他の外貨の価格も上昇していて、イギリス・ポンドは1ポンド2600トマーンという前例のないレートを記録。ユーロも1ユーロ2300トマーンまで上昇している。
こうした動きについて、イランのラーミーン・メフマーンパラスト外務報道官は、1月3日の記者会見で、「明らかなのは、この問題は制裁とは関係がないことだ。というのも、制裁はまだ、実効的なものにはなっていないからだ。・・・中央銀行を制裁すると言っているのは、アメリカとイギリスだけだ。われわれは彼らと銀行上の取引はない。しかも、制裁が実行に移されるまで、まだ数カ月かかる。よって、外国為替市場をめぐる問題の根は、別のところにあるはずだ」と発言している。
だけど、ドルが急騰するのは、イランに制裁が課され、戦争が起こるのではないかという"懸念"があるから急騰するのであって、実際に制裁が発動してから上がるなんて悠長なことはない。信用経済においては、信用を失った段階で通貨価値は変動してしまう。
従って、メフマーンパラスト外務報道官が、ドルレートの急騰と制裁は関係ないとの発言は、信用経済が分かっていないか、分かっていて強がっているかのどちらかだと思われる。
アメリカは、今回のイランに対する経済制裁で「段階的」と発言しているけれど、この「段階的」という表現は結構ミソで、これによって、周辺各国の思惑を引っ張る効果があるのではないかと筆者は考えている。
というのは、段階的な制裁の"最終段階"は、これはもう対イラン戦争ということになるから、段々と世界各国の緊張が高まると同時に、"有事のドル"ということで序々にドルは買われていくだろうと思われる。
筆者は「2012年は大変な年」のエントリーで、アメリカはイランとの戦争を煽って、ドル高を演出するのではないかと言ったけれど、早くもそれが始まったのではないかと見る。
また、"段階的に制裁を加える"ということは、制裁を加え続けるということだから、世界に対して、アメリカは行動しているとアピールすることになり、他国の勝手な動きを牽制する効果も考えられる。特にイスラエルに対して「今は自分が制裁を加えているのだから少し待て」と宥める口実にもなるだろう。
今、アメリカは国防費削減に伴って国防戦略の見直しを行っていて、アジアと中東地域を重視する方針に転換しようとしている。具体的には、アジア太平洋地域に兵力を投入して、欧州やアフリカ、南アメリカなどの戦力を縮小する方針を固めている。
アメリカはアジアへ兵力を集中投入するという意思を明確にした上で「段階的制裁強化」のカードを切った。
このカードは予想以上に効き目があるかもしれない。


イラン海軍のサイヤリ司令官は、イラン海軍にはホルムズ海峡を閉鎖する命令は出されていないと声明を表した。
サイヤリ司令官は、ホルムズ海峡閉鎖は2日に終了した海軍軍事演習「ヴェラーヤト90」を行う上でも必要なかったとイランのテレビの放送で明らかにした。
先週、イランが原油供給の大動脈である同海峡を閉鎖する可能性を表した際、米国は即座に反応し、国防総省は、アメリカ軍はイランが船舶の運航を妨げることを許さないとの声明を出した。
12月24日、イランは10日間に渡る大規模な海軍軍事演習「ヴェラーヤト90」を開始した。この軍事演習は、ペルシャ湾からホルムズ海峡、アデン湾にいたる広範囲となるインド洋2千キロ四方で行われた。
URL:http://japanese.ruvr.ru/2012/01/02/63318709.html

[ホノルル 31日 ロイター] オバマ米大統領は31日、休暇滞在中のハワイ州ホノルルで、イランの中央銀行と取引がある各国の金融機関に対して経済制裁を実施する法案に署名した。同中銀は、イランの原油取引の決済の大部分を担っている。
米政府高官によると、制裁の対象は各国の民間銀行と中央銀行で、取引内容によって2─6カ月の警告期間を置いた後に実施される見通し。
ただ同法案のもとでは、イランとの取引を著しく縮小させている金融機関は例外として制裁の対象から外されるほか、米国の国益に適う場合やエネルギー市場の安定に必要と判断された場合も制裁を免れることができる。
米政府高官は、「制裁を段階的に実施することで、イラン以外の国に被害が及ばないようにする」と述べ、世界のエネルギー市場に動揺を与えない範囲での制裁について、今後も諸外国のパートナーと協議を行うとした。
URL:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120101-00000003-reut-int
この記事へのコメント
日比野
>石油を作るバクテリアですが、マツダの新でイーゼルエンジンは、その油を軽油に60%混ぜても立派に走ったそうです。
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1687877.html
これのことですね。筑波の渡邊教授ですから、オーランチオキトリウムですね。
増税より内需拡大はまったくそのとおりと思います。ただ消費税増税の前に総選挙になりそうですね。今後ともよろしくお願いいたします。m(__)m
SAKAKI
ホルムズ海峡に機雷を流せば、1年くらいは船が通れないとか(笑)ミサイルなんて勿体無いとの米軍水兵さんの笑い話を思い出しました。
以前日比野庵さんがブログにアップした石油を作るバクテリアですが、マツダの新でイーゼルエンジンは、その油を軽油に60%混ぜても立派に走ったそうです。
イランの暴走のおかげ??で、実は石油がすでに価格面で厳しい競争に晒されています。わが国の山里にふんだんにある「木材」が「燃料用チップ」と灯油より安価な熱源になりつつあるとか。
民主党さんは消費税引き上げより、電力や燃料を田舎が生産するシステムに本腰をいれたほうが、日本全体の経済の底上げにつながると思います。消費税増税より内需拡大なんだけどなぁ・・・。