安倍元総理と政策アウトソーシング戦略
自民の一部に維新の会との連携の動きがあるようです。
1.自民党の憲法改正素案
2月24日、自民党は、平成17年に纏めた憲法の改正案について、その一部を修正した新たな素案を纏めた。
それによると、現行憲法で「象徴」とする天皇陛下を「元首」とし、国旗国歌は「表象」と明記。更に、武力攻撃や大規模自然災害を「緊急事態」と定義し、国会の事後承認により首相の判断で財政出動を行うことができるとするなど、首相の権限を大幅に強化する「緊急事態条項」を設け、国民の私的権利の制限も規定している。
また、憲法九条については「戦争放棄」は維持するものの、自衛隊を「自衛軍」と明確に軍と位置づけ、「自衛軍」の役割に領土領海の保全を加えている。更に、現行解釈では憲法上保持はできるけれど、行使は許されないとなっている、集団的自衛権の行使を容認する一方、軍事裁判所の設置が盛り込まれるようだ。
そして、外国人参政権は容認せず、選挙権には「国籍条項」を設けており、憲法改正の発議要件は現行の衆参各議院の3分の2以上から「2分の1以上」へと緩和。改正は国民投票により有効投票の過半数をもって行うとしている。自民党はこの素案を基に、2月28日の憲法改正推進本部の役員会で憲法改正原案を決定する予定。
憲法改正となると、先に、維新八策として国政進出に向けた政策を提言した「大阪維新の会」を連想するのだけれど、維新八策でも、憲法改正要件については自民党素案と同じく、「2分の1以上」への緩和を主張している。
これについて、自民党の安倍元総理は、2月26日、記者団に対して「私たちも主張してきた。注目されている人たちが主張してくれることは大変良かった」と評価のコメントを残している。
この日、安倍元総理は、民間教育団体「日本教育再生機構」が大阪市内で開いた教育行政に関するシンポジウムに、大坂維新の会の幹事長である松井大阪府知事とともに出席しているのだけれど、その場で、大阪府の教育行政基本条例案について「安倍政権時代に進めていた教育再生の方向と同じだ。よりよい方向に協力関係が構築できればいい」とこれまた評価し、「教育再生は道半ばだ。私も同志の皆さんと頑張りたい」と締め括っている。
安倍元総理は「日本を変えていかなければならないという気持ちは、国民の多くが共有している。今後も期待感を込めて注目していきたい」と維新の会との連携に意欲を見せている。
維新八策については、発表当初、自民党幹部からは、憲法を変えないとできないものがあり、論評以前の問題だとか、できる話とできない話がごっちゃになっていて、民主党のマニフェストより酷いという批判が出ていて、あまり評判が良くなかったのだけれど、安倍元総理が評価するあたり、意外と自民党内でも評価が分かれているのかもしれない。
ただ、そういう割に、ここへ来て、自民党が5年も6年も前の憲法改正案を一部修正して新たに素案として纏め直してくるところをみると、また別の戦略があるのではないかと思えてくる。
それは、すなわち、将来の憲法改正をも睨んだ、「政策のアウトソーシング戦略」。そして、その一環として、維新の会との連携を探っているのではないかということ。
2.政策アウトソーシング戦略
この政策のアウトソーシング戦略については、筆者が昨年8月1日に「自民党と幸福実現党との連携戦略」のエントリーの中で提案したことがあるのだけれど、この戦略は、自民党がやりたくても中々オープンに言えなかったことを主張する別の政党と連携を取ることで、言いにくいことはその党に受け持って貰って、その代わり連携する相手の党には、自民がこれまで培ってきた、政権運営のノウハウや人脈を提供し、監督することで、国政を担うだけの力を持ってもらうようにするもの。
その意味からいえば、今回の安倍元総理の動きは憲法改正あるいは教育改革についての国民的議論を巻き起こして、数年後の憲法改正の布石を打とうとしていると考えることだってできる。なんとなれば、この時期に自民党が、憲法改正の修正案を出すということもそれに連動してのことではないかとさえ。
近々の世論調査でも、橋下氏の国政参加に7割近くが期待すると回答している。今や維新の会は飛ぶ鳥を落とす勢いであることは誰にも否定できない。
つまり、自民にとっては、維新の会と連携を取ることで、あまり大っぴらに言えなかった、憲法改正の部分を維新の会に受け持って貰える上に、維新人気のおこぼれに預かることができるメリットがある。一方、維新の会にとっても、自民党という全国組織を味方につけて、国政進出のチャンスを更にアップできるという、WIN-WINに近い関係が期待できる。
まぁ、自民以外の既成政党、たとえば、民主党とかみんなの党とかも、維新の会に対して、政策アウトソーシング戦略を採ることは、理論上可能ではあるのだけれど、おそらく自民が行う程の効果は見込めない。なぜなら、維新の会に対する政策の距離感が適切ではないから。
みんなの党の政策は、そのブレーンが維新の会と共有していることもあって、互いの政策がとても似ている。従って、みんなの党が自身の支持層をよりワイドに広げるために、政策をアウトソースしたくてもあまり広がらない。逆に民主党の政策は、維新の会と離れすぎているから、維新の会と連携することで、これまでの自分達の支持層が離れて行ってしまう危険がある。だから、連携したくてもちょっとやりにくい。そこへいくと、自民党の政策は、維新の会の政策と近からず遠からずで、支持層を広げるのに丁度よい距離感がある。
それに、維新の会からみても、大政党と組むことは、そのしっかりした地方組織を味方につけることになるから、選挙の際には非常に力になる。その点では地方組織がまだまだのみんなの党と組んでもそれほどの旨味はない。維新の会が公明党と選挙協力を進めようとしているのも、そうした地方組織のバックアップという面もあると思う。
また、大組織ということであれば、民主党もそうではあるのだけれど、これまでの政権運営を見ても分かるとおり、党内がバラバラで、万が一政策連携できたとしても、連携した筈の政策を国会で通してくれる保証はない。国民新党が郵政改革法案を成立させるために連立を組んだ筈なのに、ほったらかしにされている現状をみると、たとえ連携できたとしても、その後の展望には不安が残る。
筆者の「自民党と幸福実現党との連携戦略」についても、昨年の8月の段階では、維新の会が国政に出るなんて話はなかったから、当時のエントリーでは連携先として、筆者は、幸福実現党を挙げたのだけれど、そのポジションに今回、維新の会が収まったと考えると、ほぼピタリこの戦略があてはまるように思われる。
維新の会がぶちあげた維新八策の実現性について言えば、とりわけ憲法改正が必要になるものは、近々には殆ど実現できないだろうと思われるけれど、自民などの大政党と連携をとることは、最初の足掛かりとしては十分だと思う。
問題は、安倍元総理の維新の会との連携の動きが、自民党公認のものなのかどうか、あるいは、安倍元総理の独断専行なのかどうかということなのだけれど、仮に維新の会と連携が取れなかったとしても、維新の会が維新八策をぶちあげてくれたお蔭で、少なくとも憲法改正論議が沸き起こることは確実だと思われる。
だから、自主憲法を党是とする自民党にとっても、憲法改正という点についていえば、連携云々なんて関係ない話になるし、もしも、3年、5年後に世論が憲法改正に前向きになることがあれば、本当に憲法改正にまで持っていけるかもしれない。
だから、今回の安倍元総理の動きが、自民党あるいは自民党首脳陣が諒解した上でのものだとしたら、少なくとも自民党は数年先まで見越した上での長期戦略を練っていることになる。今後の進展に注目したい。
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天皇は「元首」、国旗国歌は「表象」 緊急事態条項も 自民憲法改正原案 2012.2.25 01:30
自民党の憲法改正原案の概要が24日、分かった。現行憲法で「象徴」とする天皇を「元首」と位置付け、国旗国歌は「表象」と明記。武力攻撃や災害などに対処するため首相の権限を強化する「緊急事態条項」を創設した。また、地域政党「大阪維新の会」代表の橋下徹大阪市長は24日、自身のツイッター上で憲法9条改正の是非について、2年間国民的議論を行った上で国民投票で決定すべきだとの私見を明らかにした。次期衆院選の公約となる「維新八策」に盛り込む。憲法改正問題は衆院選の争点となりそうだ。
自民党は28日の憲法改正推進本部(保利耕輔本部長)の役員会で原案を決定する。原案では現行憲法に少ないとされる日本らしさを明確にするため、天皇を「元首」とし、これまでなかった国旗国歌と元号に関する規定も盛り込む。
武力攻撃や大規模自然災害を「緊急事態」と定義しし、国会の事後承認により首相の判断で財政出動を行うことができるとするなど、首相の権限を大幅に強化。国民の私的権利の制限も規定する。
現行9条の「戦争放棄」については維持するが、自衛隊を「自衛軍」として明確に軍と位置づける。日本の周辺海域への中国の進出などを受けて「自衛軍」の役割に領土領海の保全を加える。現行解釈では憲法上保持するものの行使は許されないとしている集団的自衛権の行使を容認する一方、軍事裁判所の設置も盛り込む。
また、外国人参政権を容認せず、選挙権については日本国籍を有する成人として「国籍条項」を設ける。在外邦人の保護や犯罪被害者家族に配慮する規定も取り入れる。
現行憲法で衆参各議院の3分の2以上とする憲法改正の発議要件は「2分の1以上」に緩和。改正は国民投票により、有効投票の過半数をもって行うとした。
推進本部の議論を経てサンフランシスコ講和条約発効から60周年の4月28日までに改正案をまとめる。
一方、橋下氏は9条改正について「決着をつけない限り、国家安全保障についての政策議論をしても何も決まらない」と指摘。解決の方策として、改正の是非について期間を2年と区切って徹底した国民的議論を行い、その上で国民投票で方針を定めることを提案した。維新は今月、次期衆院選の公約となる「維新八策」をまとめたが9条改正の是非は触れなかった。
URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120225/stt12022501300002-n1.htm
維新の緩和案、安倍氏が評価 憲法改正要件 2012/2/26 22:10
自民党の安倍晋三元首相は26日、橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」が国政進出に向けた政策集「維新八策」で、憲法改正要件の緩和を掲げたことについて「私たちも主張してきた。注目されている人たちが主張してくれることは大変良かった」と評価した。大阪市内で記者団に語った。
国政選挙での自民党と維新との連携については「今後も期待感を込めて注目していきたい」と述べた。安倍氏は同市内で開いた教育行政に関するシンポジウムに維新幹事長の松井一郎大阪府知事とともに出席した。
URL:http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819697E0E4E2E2E38DE0E4E2E0E0E2E3E08297EAE2E2E2
維新との連携に前向き=安倍元首相
自民党の安倍晋三元首相は26日、大阪府の教育行政基本条例案について「安倍政権時代に進めていた教育再生の方向と同じだ。よりよい方向に協力関係が構築できればいい」と述べ、橋下徹大阪市長が代表を務める「大阪維新の会」との連携に前向きな考えを示した。同市内で記者団の質問に答えた。
安倍氏は「日本を変えていかなければならないという気持ちは、国民の多くが共有している。今後も(維新の会を)期待感を込めて注目していきたい」と語った。(2012/02/26-23:11)
URL:http://www.jiji.com/jc/zc?k=201202/2012022600227&g=pol
安倍元首相、維新・松井大阪知事“エール交換” 「教育」で意気投合 保保連立も視野? 2012.2.27
自民党の安倍晋三元首相は26日夜、民間教育団体「日本教育再生機構」が大阪市で開いたシンポジウムに出席し、教育改革に取り組む松井一郎大阪府知事(大阪維新の会幹事長)にエールを送った。支持率が低迷する自民党では中堅・若手を中心に安倍氏の再登板を求める声が強まっており、次期衆院選後の政界再編を視野に、自民党と維新の会の連携に向け、秋波を送ったとの見方もある。
「教育基本条例は閉塞(へいそく)状況にある教育現場に風穴を開ける意義がある。松井氏には岩盤のような体制を崩す役割を担ってほしい」
シンポジウムで安倍氏は、維新の会が制定を目指す大阪府の教育基本条例をこう持ち上げ、最後は「教育再生は道半ばだ。私も同志の皆さんと頑張りたい」と力を込めた。
松井氏も「教育基本条例を制定するのは、安倍政権で教育基本法を改正したのに教育現場に民意が反映されていないからだ」とエール交換。終了後は両氏一緒に記者団のぶら下がり取材に応じ「教育の方向性は一緒だ」と口をそろえ、その後近くの居酒屋で教育関係者も交えて会食した。
安倍氏が教育改革を評価するのも分かるが、称賛はこれにとどまらない。25日の読売テレビの番組では「国民は橋下徹大阪市長なら閉塞感を突破してくれるんではないか」と橋下氏も評価。維新の会が策定中の「維新版・船中八策」も「教育では安倍政権の教育再生と同じことを進めようとしている」と語った。維新の会の国政進出や、東京都の石原慎太郎都知事の新党構想が現実味を帯びる中、「新党の看板として安倍氏を迎えるべきだ」との声も出ているだけに安倍氏の言動は波紋を広げる公算が大きい。
ただ、安倍氏に新党に参画する意思はなく、むしろ自民党再生を志向する。称賛するのは、将来の自民党と保守系新党との「保保連立」を念頭に置いているからだとみられる。ただ、教育問題を通じて安倍氏と維新の会の連携が強まれば、9月の自民党総裁選、そして次期衆院選の行方も大きく左右する可能性がある。(佐々木美恵)
URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120227/stt12022700200000-n1.htm
この記事へのコメント
almanos
ちび・むぎ・みみ・はな
現在の谷垣自民党は本当にどうしようもない.
意識のある議員の活躍にただ乗りするだけ.
現在の自民党の中枢はリベラルが握って離さない.
自民党の保守議員達の苛立ちを推測するに余りある.
逆に, 維新側から見れば, 政策で提携するなら
自民党保守派以外にあり得ない.
谷垣氏がこのままなら, 維新―自民保守勢力
による政界の強制再編もあり得るだろう.
安倍晋三がいるならそれも良い.