尖閣がまた騒がしくなってきた。
1.尖閣の実効的防衛
2月19日、沖縄県久米島の北北西約170キロの「日本の排他的経済水域(EEZ)」で、地殻構造の調査をしていた海上保安庁測量船「昭洋」に対して、中国国家海洋局の「海監66」が無線を使って海洋調査の中止を要求する事件があった。
海上保安庁によると、両船は最短で約550メートルまで接近、並走し、中国の「海監66」は、その海域が中国の管轄海域であると警告したという。
2月20日、藤村官房長官は記者会見で、この件について、「我が方は正常な海洋調査活動を実施しており、中止の要求は当たらない」と強調し、不快感を示している。中国側も、同じく、20日に、外交部の定例会見の場で洪磊報道官が、「中国の東シナ海問題における立場は明確かつ一貫したしたもので、いかなる一方が東シナ海の領有権争いがある海域で一方的な行動をとることに反対している。中国側は日中両国がともに努力し、関連の問題を適切に処理し、実際の行動で東シナ海情勢の安定と日中関係の大局を維持することを望んでいる」と表明している。
ここで注意したいのは、中国側が「一方が東シナ海の領有権争いがある海域で一方的な行動をとることに反対している」と、この海域を"領有権争いがある海域"としていること。
一昨年の尖閣沖衝突事件後間もない2010年9月17日のエントリー「中国の「尖閣諸島係争地化」戦略」で指摘したことがあるけれど、これは、中国の「尖閣諸島を係争地として国際的に印象づけること」を狙った戦略に沿った発言ではないかと見る。
尖閣諸島はいうまでもなく、日本領であるのだけれど、それを"領有権争いがある海域"と喧伝し、国際的にそう印象付けることで、他国の介入、特にアメリカの介入をしづらくさせようとしている。そうした戦略の一環ではないかということ。
だから、中国はせっせと日本を挑発しては、日本が尖閣は日本の領土であると言い出すのを待っている。もし日本がそういえば、待ってましたとばかり、いやいや中国の領土である、と声高に宣言して、尖閣諸島は領土問題があるのだ、と国際的に印象付けようとしている。筆者にはそう見える。
だから、日本は「尖閣には領土問題は存在しない(係争地ではない)」という立場を守り、その裏で実効支配を強めるべきだと思う。
「中国のゲートキーピングと門番」のエントリーでも触れたけれど、日本政府は、全国の排他的経済水域の基準となる無人島のうち、公式な名前がついていない39の島について、2011年度中にも名前をつけることを決めている。沖縄の尖閣諸島周辺の7つの島にも名前がなくて、これらの島々も名前を付ける対象になる。
日本政府が、この名もない無人島に命名すると発表した翌日の1月17日に、人民日報は「釣魚島とその周辺の島々は古来、中国固有の領土で、中国は争うことのできない主権を有している。中国の釣魚島の領土主権を守る決意は断固として揺るぎない」と、予想通りの反発をしている。
名前を付けることも立派な実効支配の一つ。だから、中国の反発及び挑発もこれまで以上にエスカレートしてくる可能性があると見て、それに対する備えをしておかなくちゃいけない。
そんな折、政府は、海上保安庁法と外国船舶航行法の改正案を今国会に提出する方針でいる。
この改正案は、去年の尖閣沖衝突事件を受けて、海上保安庁の警察権を強化し、遠方の離島で不法侵入などがあった場合には、警察官に代わって海上保安官が捜査や逮捕ができる規定を設けるもので、対象とする離島は、尖閣諸島のほか、日本最東端の南鳥島、最南端の沖ノ鳥島などが挙がっているようだ。
現行の海上保安庁法は、海保の警察権の対象を「海上における犯罪」に限定しているため、一旦、不法上陸されてしまったら、海保は指を咥えてみてるしかない。彼らを捜査・逮捕できるのは警察ということになるのだけれど、警察が離島に来る迄は、杭を打つなり、看板を立てるなり好き放題にできるし、警察が来る前に逃げてしまえば終り。
それが、海保が離島でも捜査や逮捕ができるようにするのが今回の改正案。欲を言えば、なぜもっと早くやらなかったのかとも思うのだけれど、これは必要なこと。やらないよりは絶対良い。
2.小型実証衛星プログラム
また、政府は、領海付近をうろつく不審船に対して、宇宙からの監視体制を開発しようとしている。
これは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と海上保安庁が共同で、人工衛星を活用したシステム開発を行い、日本の領海や排他的経済水域に侵入する不審船や密航船などを監視しようというもの。
JAXAでは機器・部品などの新規技術を予め宇宙で実証実験することで、成熟度された技術を利用衛星や科学衛星に提供することを目的とした小型実証衛星(SDS:Small Demonstration Satellite)プログラムを進めている。
その第一号は、2009年1月23日に温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」と相乗りで、打ち上げられた100kg級の小型実証衛星1型(SDS-1)で、2009年9月7日まで半年間の通常運用を行い、その後2010年9月8日まで約1年間に渡って、先端マイクロプロセッサ軌道上実験(AMI実験)を中心とした後期運用行ない、無事ミッションを終えた。
今回、不審船や密航船などを監視する小型実証衛星は、このSDSプログラムの4番目であるSDS-4プロジェクトの中で行なわれるのだけれど、実証小型衛星SDS-4は、第一期水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W1)の相乗り衛星として、2012年度中の打ち上げが予定されている。
実証小型衛星SDS-4は一辺50cmのサイコロ型衛星で、軌道上では左右面の太陽電池を開いて羽を広げたような形状になる。重さはわずか50kgで、次の4つのミッションを行う予定になっている。
1.衛星搭載船舶自動識別実験【SPAISE】 Space-based AIS (Automatic Identification System) Experiment
2.平板型ヒートパイプの軌道上性能評価【FOX】 Flat-plate heat pipe on-orbit experiment
3.THERMEを用いた熱制御材実証実験【IST】 In-flight experiment of space materials using THERME
4.水晶発振式微小天秤【QCM】 Quartz Crystal Microbalance
今回、JAXAと海保が共同で行おうとしているのが、1の衛星搭載船舶自動識別実験。通称"SPAISE"。
国際航海する300トン以上の船舶には、船舶自動識別装置(AIS)と呼ばれる、船名、船種、位置、針路、速度、目的地、積載物等を周辺船舶や陸上局に向け自動的に送信する装置を搭載することを義務付けられているのだけれど、このAIS信号を衛星軌道上で受信することで、全球における船舶の航行情報を得るというミッション。
これを使うことで、ある程度以上の規模の船について、より広範囲での監視が可能になると期待されている。
防衛予算が縮小される中で、効果的な防衛をしようと思えば、やはり早期発見・早期対処が必須になる。開発の進展を期待したい。
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中国船から調査中止要求、官房長官が不快感 2012年 02月20日 13時22分 提供元:読売新聞
藤村官房長官は20日午前の記者会見で、沖縄県久米島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)で海洋調査をしていた海上保安庁測量船が中国国家海洋局所属船から調査中止を要求されたことについて、「我が方は正常な海洋調査活動を実施しており、中止の要求は当たらない」と強調し、不快感を示した。
日本側の「要求は受け入れられない」との申し入れに対し、中国側が「内部で報告する」と回答したことも明らかにした。
URL:http://news.so-net.ne.jp/article/detail/674980/?nv=c_cat_latest
海保に捜査・逮捕権付与へ…離島での不法侵入等
政府が2010年の沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件などを受け、今国会に提出する海上保安庁法と外国船舶航行法の改正案の概要が判明した。
海上保安庁の警察権を強化し、遠方の離島で不法侵入などがあった場合には、警察官に代わって海上保安官が捜査や逮捕ができる規定を設ける。対象とする離島は、尖閣諸島のほか、日本最東端の南鳥島(東京都)、最南端の沖ノ鳥島(同)などが挙がっている。
政府は両法改正案について近く閣議決定する方針だ。
現行の海上保安庁法は、海保の警察権の対象を「海上における犯罪」に限定している。警察が離島に到着するまで時間がかかることから、海保の警察権を拡大することにした。対象とする離島については、海上保安庁長官と警察庁長官が協議して指定する。
(2012年2月21日14時35分 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120221-OYT1T00685.htm
不審船、衛星で監視…宇宙機構・海保開発
宇宙航空研究開発機構と海上保安庁は共同で、日本の領海や排他的経済水域に侵入する不審船や密航船などを宇宙から監視するため、人工衛星を活用したシステム開発に乗り出す。
来年度打ち上げる小型衛星で実験を始める。これまで航空機や船で監視していたが、衛星を使えば、より広い範囲を継続的に監視できると期待される。
国際航海する300トン以上の船には、自動船舶識別装置(AIS)と呼ばれる発信器を設置することが条約で義務づけられている。発信器からは、船の名前や位置、針路などの情報が送られ、通常は船同士の衝突を防止するために使われている。
宇宙機構はこのAIS情報に着目。来年度に打ち上げる小型衛星「SDS―4」にセンサーを搭載。実際に宇宙でAIS情報を受信できるかどうか検証する。
(2012年2月21日14時35分 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120221-OYT1T00692.htm
この記事へのコメント
日比野
大変貴重なコメント&情報ありがとうございます。ご紹介の記事拝読させていただきました。
>同一衛星でAIS受信と直接観測を一元化出切れば…
・レーダ画像(SAR画像)と衛星AISデータとの組み合わせ利用手法の研究
という項目のことですね。SAR(=合成開口レーダ)については、このブログでも以前取り上げたことがあるのですけれども、
http://kotobukibune.at.webry.info/201104/article_18.html
確かにSARとAISをリンクして一元化できると、不審船の発見に大きく貢献しますね。
今後ともよろしくお願いいたします。
opera
ここには、若干の誤解と竹島問題との混同があるような気がします。もし中国に、尖閣諸島の領有に関して、竹島問題における日本と同等の歴史的・法的正統性があるのなら、上記の説明も妥当なのですが、そうでない以上、あくまでも中国側の一方的な侵略行為であるに過ぎません。
また、アメリカが介入しづらくなる最大の要因は、日本側が充分な防衛努力を行なわず、中国側の侵略を招き入れてしまったような場合で、「自国の領土を真剣に守ろうとしない国をなぜ助けなければならないのか」と思われた場合でしょう。
したがって、日本は堂々と「尖閣は歴史的にも法的にも日本領土であり、現在、日本が実効支配している。したがって、尖閣に領土問題は存在しない」と宣言して実効支配を強化し、さらに、万が一実効支配が奪われた場合でも、自衛隊が主体となってこれを即座に奪還するための準備を整えておくべきでしょう。
kedrskie
読売新聞の記事について検索していて、こちらのBlogを拝読致しました。
引用されている表にて、「衛星画像(SAR及び光学)」として観測衛星も描かれていますが、次期レーダー観測衛星ALOS-2(「だいち」の後継機)へのAIS受信機搭載の話も進んでいるようです。
(参照: http://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/conf/workshop/alos2_ws3/ALOS2_1_3_Oshimura_Koichi.pdf)
同一衛星でAIS受信と直接観測を一元化出切れば、画像から検出された船舶とAIS受信ログを同期して、「AIS義務違反船舶」(不審船容疑船)を特定できる、という理屈だと思われます。
件の記事で上記検討もSDS-4と併せて紹介してもらえれば、海上保安の向上を具体的に進めようとする国の姿勢と、その実現に事前実証で貢献する小型実証衛星(SDS)プログラムの存在意義との両方をアピールできたのでは?と、ちょっと勿体無く思います。
ちなみに以前の国土交通省発表によれば、SDS-4/SPAISEは「南鳥島などで