メタンハイドレート -メタンを抱いた水篭-

 
2月14日、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は「メタンハイドレート」の海洋産出試験に向けた掘削作業に着手する最終準備に入った。作業は愛知県の渥美半島沖で3月下旬まで継続し、海底に井戸を設置して来年1月から3月頃までに世界初の海洋産出試験環境を立ち上げる。

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1.ふところにメタンを抱いた水篭

「メタンハイドレート」とは、天然ガスの主成分であるメタンを水分子が取り囲んだ物質で、低温かつ高圧の海底下や凍土下に存在する。人工のメタンハイドレートの結晶は白く冷たい氷の様な形状をしていて、火を近づけると燃焼することから「燃える氷」とも呼ばれる。

水分子は、温度や圧力等が一定の条件を満たすと、その内部に5~6Å(オングストローム:1Å=1億分の1cm)のカゴのような空隙を持った、包接格子と呼ばれる立体網状構造を持ったマクロ分子構造を形成する。

メタンハイドレートは、この包接格子の"カゴ"の中にメタンを取り込んだ物質のことで、こうした結晶格子によって作られた空間の中に小さな分子が取り込まれて、共有結合をせずに安定な物質として存在しているものを、包接化合物(クラスレート:Clathrate)という。

包接化合物には、包接されている分子が包接格子の外へ出ていくと、その包接格子が壊れてしまうタイプと、包接格子だけでも安定して存在できる2つのタイプがある。前者の代表がメタンハイドレートのように内部にガスが取り込まれたガスハイドレートで、後者の代表には、脱臭剤なんかに使われるゼオライトなどがある。

包接化合物は、薬剤なんかの分野でも利用されていて、単体では不安定であったり、水に溶けにくい分子でも、別の分子に取り込ませて、包接化合物にしてやることで、安定した錠剤などに加工する。

メタンハイドレートのようなガスハイドレートが出来る為には、まず水分子が包接格子を持った構造にならないといけないのだけれど、その為には、低温かつ高圧という条件が必要で、更に、当然のことながら、そこに包接すべきガス分子もなくちゃいけない。

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水分子がガス分子を包接して多面体の立体網状構造物を形成するとき、12面体、14面体、16面体のいずれかの構造をとり、更に、取り込むガス分子の大きさや種類によって、結晶構造がそれぞれの多面体の組み合わせで変化するのだけれど、自然界のメタンハイドレートの殆どは2種類の結晶構造であることが知られている。

一つは、2個の5角12面体と6個の変形14面体(=5角12面体6角2面体)から成る立方晶で「構造Ⅰ型」と呼ばれている。もう一つは、16個の5角12面体と8個の変形16面体(5角12面体6角4面体)からなる立方晶で、「構造Ⅱ型」と呼ばれている。

構造Ⅰ型と構造Ⅱ型は、その取り込む分子の大きさによって、どちらになるかが決まり、取り込む分子の大きさが5.2Åより小さな場合は単位胞サイズが12Åの構造Ⅰ型に、分子の大きさが5.9~6.9Åの場合には単位胞サイズが17Åの構造Ⅱ型になる。

メタン(CH4)のサイズは4.6Åなので、メタンガスだけが取り込まれたメタンハイドレートは構造Ⅰ型になるのだけど、分子サイズの大きい、エタンやプロパンが混ざって、その量が多くなると、構造Ⅱ型を取るようになる。因みに日本近海のメタンハイドレートは、その殆どがメタンだけを取り込んだ、構造Ⅰ型のメタンハイドレートだと推測されている。

構造Ⅰ型のメタンハイドレートは、8個のメタン分子を46個の水分子が取り囲んでいる。この割合でいくと、水1リットルに、216リットルのメタンガスが取りこまれることになるのだけれど、実際には、包接格子全部がメタンガスで埋まることはなくて、大体7~8割りくらいメタンが取り込まれるとされている。

したがって、天然のメタンハイドレートには、水1リットルに対して、150リットルのメタンガスが含まれていると見られているのだけれど、このように、ガスハイドレートは、ガスを固体状態で大量に貯留できる利点がある。

まぁ、LNGのように、ガスを液化してしまえば、更に多くのガスを貯留できるのだけれど、天然ガスを液化するには、常圧で-162℃以下、40気圧下でも-80℃という極低温が必要になるのに対して、メタンハイドレートは0度、26気圧以上という緩い条件で作ることができるところにメリットがある。




2.海底疑似反射面

さて、メタンハイドレートの資源開発について、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は次の3つのフェーズに従って、研究開発を進めている。
PHASE1:2001-2008 メタンハイドレートの調査技術・分解生成技術・生産技術・環境影響評価などの基礎研究
PHASE2:2009-2015 日本周辺海域での海洋産出試験(2回実施予定)
PHASE3:2016-2018 商業的産出準備や経済性、環境影響等の総合評価

現在は、フェーズ2にあたり、今回のメタンハイドレート掘削作業もこの計画に沿ったもの。

海底面から約100~1000mの深さにあるといわれるガスハイドレートの分布や資源量を調べるためには、直接サンプルを採取せずとも、おおよそのことが判る観測及び計測方法が不可欠なのだけれど、その方法として使われるのが、地震探査法。

これは、文字通り、人工地震を起こして、その反射波を測定・分析する方法で、海底の場合は圧縮空気を放出して弾性波を発生させる"エアガン方式"が用いられる。

地中に送った弾性波は、地層の境界面なんかのように岩石の物性値が変化するところで反射が起こるのだけれど、一般に弾性波がガスハイドレート層を通過する速度は、ハイドレート化していないところに比べて約2倍速くなることが分かっていて、その境界面が地震探査記録上の強い反射面として記録される。

この反射面は海底面とほぼ平衡に現れることから、海底疑似反射面(BSR:Bottom Simulating Reflector)と呼ばれ、海底にあるガスハイドレート発見の重要な手掛かりとされていたのだけれど、それがメタンハイドレートとどう関係するのか迄はよく分かっていなかった。

その後の研究によって、BSRは、メタンハイドレート安定領域の基部に対応するのではないかというモデルが提示され、BSRが観測された海域を試掘した結果、メタンハイドレート層の下層に、メタンハイドレート層と同等の厚さと量を持つフリーガスの層があることが確認された。

そして、BSRは、メタンハイドレートとフリーガスの境界面に相当することが明らかになり、これらを総合することで、メタンハイドレート資源量を見積もる手掛かりを得ることが出来るようになった。

石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)はメタンハイドレート含有率が高く、定の広さ厚さを有するものを「メタンハイドレート濃集帯」と名付け、日本近海の調査を進めた結果、東部南海トラフだけでも大ガス田クラスのメタンハイドレート濃集帯が存在することが明らかになった。

次に示す図は、日本周辺のBSRの調査結果なのだけれど、愛知県沖の海域には、メタンハイドレート濃集帯がある可能性が高く、今回の調査もこの海域から掘削作業を行なうとしている。

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3.メタンハイドレートの採掘は天然ガス田と良く似ている

実際、メタンハイドレートをからメタンガスを生産するためには、メタンハイドレート内のメタンガスを取り出さなくてはならないのだけど、メタンハイドレートを掘削して、固体のまま掘り出すのではなくて、海底の地層内で直接メタンハイドレートをメタンガス化して、採取管(ライザーパイプ)を通じて、気体として採取する。

そのためには、メタンハイドレートの温度を上げるか、圧力を下げるか、若しくはメタンハイドレートの分解を促進させることで、メタンハイドレートがハイドレートの状態を保てないようにすればいい。

温度を上げてガス化させる方法には、地表から加温した流体(熱水や蒸気)を坑井内に循環させ、メタンハイドレートを加熱によって分解・ガス化させる「加熱法」というのがあり、圧力を下げてガス化させる方法には、坑井内の圧力を低下させて、メタンハイドレートの分解を促進させる「減圧法」というのがある。そして最後に、メタンハイドレート層にメタノールなどの分解促進剤(インヒビター)を注入して、分解を促進させる「分解促進剤注入法」というのがある。

石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、この中の減圧法によるメタンハイドレートの採取を進めている。



減圧法についていえば、普通の石油や天然ガスの生産手法も基本的には減圧法を使っている。石油や天然ガスは地中深くにあるため、上の地層の重さを受けて高圧化している。だから、そこに井戸を掘ってやれば、井戸から圧力が抜けて、液体や気体である石油や天然ガスは、井戸を通って陸上や海上まであがってくる(自噴)。

だけど、通常固体で存在しているメタンハイドレートは、井戸を掘っても、自分で吹き上げてくる筈もないから、メタンハイドレートを地中でガス化するくらいまで、強引に減圧させている。石油は天然ガスは10~20%程度減圧させて、生産性を向上させているのに対して、メタンハイドレートは、60~70%くらい減圧させなければならないという。

ただ、それでも、一旦減圧さえ出来てしまえば、あとは、普通の天然ガス田と同じだから、生産施設やシステムは、今あるシステムに少し手を加えるだけで使えるのだそうだ。

日本のメタンハイドレートの埋蔵量は、1996年の時点で、判明している分だけで、天然ガス換算で日本の天然ガス年間消費量100年分に迫る、7.35兆立方メートル以上あると推計されている。

ただやはり、問題になるのは採掘コスト。平成13年に経産省が立ち上げた、官民学共同組織である、メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムの試算によれば、メタンハイドレートの採掘コストは46~174円/立方メートルだという。

2011年時点での、天然ガス価格は、1$=80円換算で、30円/立方メートルくらいだから、もう少し安くしないと採算が合わない。ただ、それでも、資源がないと言われていた日本に、これほどまでの資源が眠っていることが分かってきた。

未来の日本は海洋資源大国になっているかもしれない。

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画像メタンハイドレート海底掘削へ 愛知県沖で世界初 2012.2.14 18:02

 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は14日、次世代エネルギー資源として期待される「メタンハイドレート」の海洋産出試験に向けた掘削作業に着手する最終準備に入った。作業は愛知県の渥美半島沖で3月下旬まで継続。海底に井戸を設置して来年1-3月に世界初となる海洋産出試験を実施する環境を整える。

 掘削作業は当初14日午前に始める予定だったが、悪天候などで間に合わず、同日夜の開始に向けて準備を進める。

 メタンハイドレートを含む地層は海面から約1260メートル下に存在するとみられる。海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」のやぐらから、先端にドリルをつけたパイプを連結させて海底まで下ろしていき、掘り進める。

URL:http://sankei.jp.msn.com/life/news/120214/trd12021418030005-n1.htm

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    今回の内容は多分に政府やJAMSTECの発表に
    基づいているのだろうが, エネルギー問題
    では政府の首は奇妙に首が曲がっている.
    東支那海EEZにおける海底油田の可能性に
    ついては支那が大平に始めるまでは知らん振り.

    家の猫も見たくないものを近付けると首を曲げる.

    メタンハイドレートに関しては独立研究所の
    青山氏による日本海底の可能性も聞く.
    国際会議では韓国の研究者が竹島南方での
    解析結果を発表しているそうだ.

    これも日本政府が見たくないものなのだろう.
    2015年08月10日 15:25
  • 白なまず

    米国のシェールガス、日本のメタンハイドレード。日本の技術は凄いものがありますが、商社も凄い。既に三井などが、、、天然ガスがメジャーになるのかもしれません。ついでに海上都市も一緒に実現すると津波の影響が無い都市が実現して良いのではないでしょうか。宮島みたいに人が住まわず、神様がお住まいになられる神社仏閣のみにして、日本は海上都市に住むみたいな。幽界(がいこく)身魂が都市部へ集まって悪霊となっているので速やかに洗い流して穢土を江戸に戻す。

    ひふみ神示 第11巻 松の巻  第八帖
     神の国には昔から神の民より住めんのであるぞ、幽界(がいこく)身魂は幽界(がいこく)行き。一寸の住むお土も神国にはないのざぞ。渡れん者が渡りて穢 して仕舞ふてゐるぞ。日本の人民、大和魂 何処にあるのざ、大和魂とは神と人と解け合った姿ぞ。戦いよいよ烈しくなると、日本の兵隊さんも、これは叶はんと云ふ事になり、神は此の世にいまさんと云 ふ事になって来るぞ。それでどうにもこうにもならん事になるから、早よう神にすがれと申してゐるのぞ。誠ですがれば、その日からよくなるぞ、神力現れる ぞ。、、、
    2015年08月10日 15:25

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