日銀はインフレターゲットを実施するか

 
2月14日、日銀は金融政策決定会合で、望ましい物価水準として「物価安定のめど」を導入し、消費者物価の前年比上昇率で当面1%を目指すことを決め、更に、10兆円規模の追加金融緩和を決定した。

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日銀はこれまで、物価目標について、「物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで実質ゼロ金利政策を継続していく」といった、曖昧な表現でいたのだけれど、それが今回、「消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで実質的なゼロ金利政策と金融資産の買い入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく」と表現を改めている。

たとえ、言葉の上だけでも、1%という具体的な数字を挙げ、それを目指すとしたこと事自体は評価していい。日銀白川総裁は、記者会見で、「今回の"めど"は、日銀政策委員会としての意思、判断を示し、物価安定に向けた日銀の姿勢を明確化した。」とし、「どうすれば、中央銀行の責任を果たせるか、 真摯に考えた」と説明している。

今回の日銀の発表を市場は予測していなかったようで、日銀の方針が伝わった14日昼の東京市場では、これまで円買いを仕掛けてきた海外ヘッジファンドなどの投機筋が一斉に円売りに動いて、一気に円安に振れた。発表から一夜明けた15日も円安・株高が継続し、ドルは78.67円まで上昇、日経平均は2011年10月31日の高値9152円39銭を抜いて一時9300円台を回復している。

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だけど、つい10日程前の2月6日、参院予算委員会に出席した白川総裁は、FRBが2%のインフレ目標を設定したことについて「長期的目標という形で物価の上昇率について2%という数字を定めた。バーナンキ議長自身もこれはインフレーションターゲットではないと言っている」とした上で、「むしろFRBが現在日銀が行っている政策に近づいてきたという認識を持っている」と述べていたし、翌2月7日の参院予算委員会では、公明党の魚住裕一郎議員が、物価安定の水準に日米で開きがあると質問したのに対して、白川総裁は「長く続いた国民の物価観から大きく離れて物価上昇率を設定するのは難しい」と、インフレターゲットを否定していた。

つまり、2月7日までの時点では、FRBが2%のインフレターゲットを定めたことを"インフレターゲットではない"とし、日銀がインフレターゲットを行うことは、日本国民の物価観から大きく離れるから、やらないと言っていた。

そんな白川総裁が、この一週間の間、「真摯に」考えた結果、突然、1%のインフレターゲットをやるとなった。たった一週間考えただけで、インフレターゲットを行う決断が出来るのなら、もっと前に、いくらでもやれたのではないか。

日銀が政府に対して、独立性を持っているというのは分かるけれど、であれば、尚更、中央銀行としての責務を果たすことを常に肝に銘じておかなくちゃならない。よもや、今まで、"真摯になって"考えたことがなかったとは思いたくない。

今回の措置について、世間一般は、日銀による明確なインフレターゲットだという風に思っているし、実際、安住財務相は14日の会見で「実質的にインフレ目標を設定されたものと受け止めている」と発言している。

また、10兆円規模の追加金融緩和を決定したことも、その1%のインフレターゲットを行うための準備だと見る向きもある。

だけど、今回の日銀の発表は、物価が1%ほど上がる目途がつくまで、利子は取りません(ゼロ金利)、と宣言して、国債買う金も更に用意しましたと、"見せ金"を積んでみせたまでのこと。別に、新しく金を市中に流したわけじゃない。



重箱の隅をつつくようではあるけれど、今回1%のインフレターゲットを設定したとされることについても、日銀は「目標」とは言わず「目途」という言い方をしている。

目標であれば、それを達成するために、自分から何かアクションを起こさなくてはならなくなるのだけれど、「目途」という言い方は、自分が何かをやる、という部分が曖昧で、自分以外の誰かがやってもよいという意味にも取れなくもない。

たとえば、政府が何か景気対策をやることで、インフレになったとしても、それが「目途」であれば、別に問題にはならない。日銀は1%くらいを「目途」にしていますから、と平然としていられる。

実際、白川総裁は、中央銀行がお金を供給するだけで物価上昇率が上がるわけではなく、成長力を高める経済政策とあいまって実現していくものだとして、政府に注文をつけているから、穿った見方かもしれないけれど、「お金の準備はしたから、あとは政府が面倒見てよ」という具合に、政府に責任の半分以上を投げしているのではないかとさえ。

だから、日銀が本当に中央銀行の責任を果たす積りでいるかどうかは、これからの日銀の動きを見なくちゃいけない。クレディスイス証券のチーフエコノミストである白川浩道氏によれば、日銀のこれまでの長期国債買い入れ枠として設定した9兆円も、実際には、3兆円規模しか買い入れておらず、今日の決定で枠を新たに10兆円増額しても、実際に満額買い入れるとは思えない、と指摘している。

これが本当であれば、白川総裁、或いは日銀は、本心では、インフレにするのを嫌がっていて、国債買い入れも嫌々やっているのではないかとさえ思ってしまう。

たとえ、日銀が嫌々やっているのだとしても、政府は、景気対策をバシッと打つなりして、政府が全責任を負ってやるような体裁でも整えてやらないと、今後、日銀は益々何もやらなくなるのではないか。

野田首相にとっても、今が最後の政治主導を発揮するチャンスだと思われる。この機会を生かすことが出来なければ、野田政権の浮上の目はないだろう。


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画像「インフレ目標を設定されたものと受け止めている」安住財務相 2012/2/15 19:12

日本銀行が金融政策の運営にあたって目指す消費者物価の前年比上昇率を「当面は1%」としたことについて、安住淳財務相は「実質的にインフレ目標を設定されたものと受け止めている」と語った。2012年2月14日、財務省で記者団の取材に答えた。

長期国債の買い入れに10兆円を増額した追加金融緩和策については「1%を実現するために日銀の具体的な強い意思の表れだと思っている」と評価した。

一方、日銀の白川方明総裁は14日、「1%」とした理由を、中長期的な物価安定のメドとして「2%以下のプラスの領域とある程度の幅をもって示し、当面1%を目指すことにした」と話した。中央銀行がお金を供給するだけで物価上昇率が上がるわけではないとして「成長力を高める経済政策とあいまって実現していくもの」と、政府に注文をつけた。

URL:http://www.j-cast.com/2012/02/15122316.html

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    日銀を見ていると日本の現在のエリートと
    される(必ずしもエリートではない)人達の
    能力の無さに呆れ返るばかりだ.

    開戦時の連合艦隊もこうだったのだろう.
    ならば敗戦必至であった訳だ. 実感・納得.

    日本は平和な時代が続くことが多いためか,
    何時の間にか上を脅かさない「平時の」
    エリートばかりがトップに付くことが多い.
    その根幹はキャリア選出の公務員試験に
    あるに違いない. 上級公務員だけは試験を
    行なわずに, 年間で採用委員会方式で
    実績を元にいろんな種類の「日本人」を
    採用することにすべきだろう.

    決まり事しか知らない朱子学人間が沢山いても
    事態は一向に解決しない.
    2015年08月10日 15:25
  • 独立不羈

    1月27日に発刊された『日銀総裁とのスピリチュアル対話』の内容を裏付ける動きですね。
    白川総裁の本心が知りたい方は必読です。

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    【発行:幸福実現党】

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    ・白川日銀総裁の本心を霊的に探る
    ・「日経ヴェリタス」での発言の意図
    ・デフレについてどう考えるか
    ・なぜ日銀は通貨量を増やさないのか
    ・はたして「日本の経済成長」は可能なのか
    ・「福井総裁時代」を振り返る
    ・「日銀の役割」とは結局何なのか
    ・白川守護霊が理想とする国民生活とは
    ・「超貧乏神発想」の淵源にあるもの
    ・白川守護霊との対話を終えて

    ***************
    収録時の動画は↓で一部公開されてます。
    http://www.hr-party.jp/new/2012/18187.html
    2015年08月10日 15:25

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