龍馬と維新と橋下と

 
「短い間に『やってやろう』という人がこれだけ集まるとは、日本もまだまだ捨てたもんじゃない。日本の政治が全く信用されていないのではないか」
橋下徹大阪市長

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1.維新版・船中八策

2月13日、地域政党「大阪維新の会」は、大阪市内で開かれた全体会議の場で、橋下大坂市長が所属議員約100人に対して、次期衆院選に向けて策定中の公約「維新版・船中八策」の骨子について説明した。今後、所属議員で議論を重ね、26日の全体会議で細部を詰めるという。


維新版・船中八策の骨子は次のとおり。
一、統治機構の再構築・・・首相公選制・道州制、地方交付税の廃止
一、行財政改革   ・・・プライマリーバランスの黒字化
一、教育改革    ・・・教育委員会の設置の選択制
一、公務員制度改革 ・・・職員基本条例案の法制化
一、社会保障制度改革・・・積立・掛捨併用型年金制度、ベーシックインカム導入
一、経済政策    ・・・所得税率カット、TPP参加
一、外交・安全保障 ・・・沖縄の基地負担軽減、日米同盟堅持+豪との関係強化
一、憲法改正    ・・・参院廃止、改憲発議要件を衆参両院の過半数に緩和

とまぁ、憲法改正も絡んだ、結構大胆な提言をしている。

流石に橋下氏自身も、過激な案だと自覚しているのか、発表3日前の2月10日にJ-CASTの記者に対して、「船中八策を出したらパァーと引いていきますよ。そんな案は乗れないという人がいっぱい出てくる。年金は積立方式が最低ラインで、掛け捨て方式を目指しますとか言い出したら相当引いて行きますね」と漏らしていたという。

案の定、既存政党から反発が起きていて、自民党の脇参院国対委員長は2月14日の記者会見で、この「維新版・船中八策」について「論評に値しない。憲法を変えなければできない話もあり、とても公約になんかなるわけもない」と実現が難しいと批判しているし、同じく自民党の溝手参院幹事長も「出来そうな事と、出来そうにもない事が全部ごちゃ混ぜで混在している。」と、民主党マニフェストより酷いとこき下ろしている。

また、自民党の麻生太郎元総理は2月9日の麻生派例会で、「大阪維新の会」による国政進出の動きについて、「市長として、言うだけでなく実績を示してもらう。その上で聞くという態度が正しい」とコメントしている。

確かに「維新版・船中八策」には、首相公選制など憲法を改正しないと実現できない案があるから、維新の会やそれに同調する政党合わせて衆参両院の各2/3以上ないと無理な話。だから、次の衆院選の公約にするには相当無理な部分があるというのは、その通り。

だけど、政党の枠を飛び越えて、この主旨に賛同する議員が2/3を超えるようなことがあれば、その限りではなくなる。何らかの形でこれらが実現してしまえば、間接的ではあるけれど、この「維新版・船中八策」は、維新の会の公約として実現することになる。

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2.龍馬はただの剣豪ではなかった

「維新版・船中八策」は、いうまでもなく、幕末の志士、坂本龍馬が慶応3年(1867年)に起草した新国家体制の基本方針とされるものを真似たと思われるのだけれど、龍馬の「船中八策」として伝えられる内容は次のとおり。
一、天下の政権を朝廷に奉還せしめ、政令宜しく朝廷より出づべき事。
一、上下議政局を設け、議員を置きて万機を参賛せしめ、万機宜しく公議に決すべき事。
一、有材の公卿・諸侯及天下の人材を顧問に備へ、官爵を賜ひ、宜しく従来有名無実の官を除くべき事。
一、外国の交際広く公議を採り、新に至当の規約を立つべき事。
一、古来の律令を折衷し、新に無窮の大典を撰定すべき事。
一、海軍宜しく拡張すべき事。
一、御親兵を置き、帝都を守衛せしむべき事。
一、金銀物貨宜しく外国と平均の法を設くべき事。

 以上八策は、方今天下の形勢を察し、之を宇内万国に徴するに、之を捨てて他に済時の急務あるべし。苟も此数策を断行せば、皇運を挽回し、国勢を拡張し、万国と並立するも亦敢て難しとせず。伏て願くは公明正大の道理に基き、一大英断を以て天下と更始一新せん。

当時としては、画期的ともいえる龍馬の「船中八策」は、その後明治新政府の下、数十年掛けて実現していくのだけれど、龍馬自身がそれを実行したわけではなかった。

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龍馬の「船中八策」は、その精神を受け継いだ、明治政府の人々が実現していった。だから、もしかしたら、同じ様に「維新の会」はこの「維新版・船中八策」を選挙公約としているけれども、これは「維新の会」単独ではなくて、既存政党も含めて周りを巻き込んでいくことを前提とした公約という狙いがあるのではないかとさえ。

ただ、そうは言っても、この「維新版・船中八策」を本当に実現しようと思えば、自民・民主を含めた既存政党の協力がないとどうにもならないことは目に見えている。

果たして、そんなことが可能なのか。

日本を守るのに右も左もない」というブログに「橋下大阪市長の意識構造と今後の方向性を探る」という記事があるのだけれど、ここでは橋下氏の過去の経歴から、その意識構造を読み取って、今後の展開を予想している。

この記事によると、橋下氏の意識の中には、より大きい力への憧憬があり、力の原理の信奉者であるとしている。

要するに、橋下氏は、自らの力を恃みとして、現状を打開していくタイプだということ。これを読んで、筆者は、橋下氏は戦国の世であれば、危険地帯に自ら飛び込んでいって、賞金を荒稼ぎする一匹狼的な剣豪に近いのではないかという印象を持った。

だけど、龍馬は、千葉道場免許皆伝のただの剣豪というだけではなかった。剣豪を下敷きにして、商才と政才を発揮した。薩長連合を仲介したことに見られるように、龍馬には、当時の志士や雄藩の家老達を結びつけ、説得し、動かす力があった。




3.橋下氏の補佐が鍵を握る

幕末の志士、維新の元勲達が持っていた、剣の腕前や商才或いは政才を今に置き換えてみると、恐らく次のようになると思われる。
剣の腕前=論戦能力
商才  =経営手腕
政才  =政治手腕

これら3つの要素について、橋下氏はどうなのかを考えてみると、まず、橋下氏の剣の腕前、すなわち、論戦能力の高さ(善し悪しではなく)は既にあちこちで実証されている。

たとえば、橋下氏は色んなテレビ番組に出演しては、数々の解説者達と討論してこれを打ち負かしてきた。とりわけ1月27日放送の「朝まで生テレビ」では橋下氏は自分への反対派をずらりと向こうにまわして論戦し、彼らを圧倒した。だから、橋下氏の論戦能力の高さに異論を唱える人は余りいないだろうと思われる。幕末当時でいえば、どこかの道場の免許皆伝・剣豪クラスといっていいだろう。
※単に橋下氏が人の話を聞かないだけだという見方もある。

では、商才と政才についてはどうか。

橋下氏の大阪知事時代の実績から、勘案すると、橋下氏の商才は儲けを出すというよりは、どちらかといえば、倹約切り詰めによる黒字化或いは収支均衡が主なもので、何かの事業を起こしたり、企画を立ち上げて、儲けを出すようなことはあまりやってない。ついでにいえば、府庁移転問題の失敗に見られるように、投資に関する手腕は今一つ。

そして、政才についてだけれど、橋下氏は自らの政策を実現するために、仮想敵をつくって、大騒ぎして衆目を集め、大衆を味方につけてから、仮想敵と交渉しては、自分の主張を通すやり方を取ることが多いし、またそれが上手い。別に、相手をねじり伏せるとまでは言わないけれど、相手との妥協点を探るというよりは、力を頼りに押し込んでゆくタイプ。これも、剣豪といえば剣豪だろう。

だから、橋下氏はどちらかといえば剣豪的要素が強い反面、その剣の腕前程には、商才と政才を発揮しているわけじゃない。その部分においては、未だ龍馬の域に達していない。

従って、世間の橋下氏に対する反応は、その剣豪的な力で事態を打開してゆくやり方を是とみるか否とみるかで、大きく分かれるように思われる。つまり、橋下氏が剣豪宜しく、向かってくる相手をバッサバッサと切り捨てる姿を痛快だと思い、欣喜雀躍する人もいれば、逆に、合意形成は双方が納得した上で行うべきであるし、経営手腕も政治手腕もないと駄目だと思う人は、剣豪が敵を一刀両断して、切り捨てるのもいいけれど、その後をちゃんとやって、まず実績を見せてくれと眉を顰めるといった具合に。



龍馬は剣豪であったけれど、海援隊を作って貿易して、儲けを出す一方、不倶戴天の敵であった、薩長を結び付ける働きをしている。決して相手を切り捨てて物事を進めた訳ではなかった。商才と政才を併せ持った剣豪だった。

「維新版・船中八策」を選挙公約として、それを実現するためには、次の総選挙で、維新の会が200議席とか取れば別として、自民党や民主党、その他の政党の議員の支持をうけるのは勿論のこと、犬猿の仲の政党同士を結びつけたりして、勢力を糾合でもしない限り、憲法改正はおろか、公約の一つとて実現は難しい。

したがって、橋下氏が国政において「維新」を起こすのであれば、商才と政才の部分を補い補佐する人物が必要になると思われる。そうして、他の政党の議員達を次々と味方につけなくちゃいけない。

だから、橋下氏の政策ブレーンかそこらの中にそのような人物がいて、尚且つ、橋下氏がその人物の意見をよく聞いて間違いなく進めて、ようやくそれが現実の目標として見えてくることになる。

世間は、橋下氏の剣豪の部分に注目しがちではあるけれど、剣豪がその力を発揮するのは、自分に歯向かう輩を切り捨てる時。即ち、抵抗勢力をねじ伏せて、既存の仕組をぶっこわす時に、剣の力はものをいう。

だけど、その後始末をきちんとして、家を建て、儲けを出していく部分を持っていないと、たちまち行き詰ってしまう。橋下氏に対して、商才と政才を補う人物が居るか否かが、橋下改革および国政進出の成否を分けるような気がしてならない。


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この記事へのコメント

  • クマのプータロー

    坂本龍馬との比較は橋下氏がブレインを使うことで差をなくすことは可能です。
    問題は、坂本龍馬の過大評価ですね。橋下氏と坂本龍馬の差は法律の外か、中かだとおもいます。法律を軽視して憚らない今の民主党の方が坂本龍馬に近いと個人的には思います。
    2015年08月10日 15:25
  • sdi

    携帯から失礼。政策と言うよりスローガンに近いですね。昨日、最近やたらと「ジミンガー」や自民下げの記事を書いてた民主党シンパなブロガーが維新上げ記事に走ってるのを見ました。彼らの感性と橋下市長のそれの親和性は思ったより高そう。
    2015年08月10日 15:25
  • opera

    維新版・船中八策については、「馬鹿馬鹿しくて話にならない」というのが率直な感想です。

     一、統治機構の再構築・・・首相公選制・道州制、地方交付税の廃止
     →あまり正面から指摘されることがないのですが、首相公選制は議院内閣制及び天皇制にも抵触する恐れがある。したがって、最低でも憲法改正が必要になる。道州制も、内容如何で憲法の抜本的な改正が必要になる。地方交付税の廃止は、やりたければ、まず大阪が率先して二千数百億円の地方交付金を返上し、財政再建団体からやり直してみればいい。
     一、行財政改革   ・・・プライマリーバランスの黒字化
     →今時、行財政改革の基準をプライマリーバランスの黒字化などと言っている時点で、経済・財政についてど素人であることが明らか。IMFですら、財政健全化の指針を財政赤字の対GDP比縮小と言っているのだから、せめてその程度の内容は理解しておくべき。

     といった感じで、全ての項目に突っ込みどころが満載。しかも、大半の問題は、仮に憲法改正を行なうにしても相当議論がある問題点ばかり。つまり、法律的には簡単ではないだけでなく、無理筋のものが多い。

     橋下氏は弁護士出身
    2015年08月10日 15:25
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    橋下氏の提言に簡単に載る人は革命指向の
    社会主義者だと思う.

    日本は長い国民文化の伝統のある国.
    政治そのものが行き詰まった訳ではない.
    社会主義者が国を乱しているに過ぎない.

    国民文化の伝統に戻らずに, 徒に
    改革ありきには注意深い対応が必要.

    我々はまず認識すべきは, 江戸時代を通して
    日本人が優れた経済・社会思想を育んできた事.
    その特徴は, アジアの中にあって, 極めて
    バランスのとれた考え方をすることだ.
    身に染み付いている自らの思想の源流を
    知らずして改革を唱えるは愚かな振舞い.
    橋下氏は大阪市長で終るべき人だ.
    2015年08月10日 15:25
  • 白なまず

    大御心は大和心(大きく和する=大和魂)確かに右も左も関係ないが、間違えては活けないポイントは「自衛を目的にしていない右左は破壊者の心で信用出来ない」と言うこと。法律は大事であるが、だれを守る物か確認する必要がある。法律は決着が付かない時の最後の手段で裁くのであって、示談ですむなら、それが大和する意志を示している。全国共通の法律よりも、藩の権力が絶大であった時代と現代を比較するのは愚か。幕末には日本を統一して欧米列強と対向する法律もなければ軍も無かった。だから、龍馬でなくても、明治政府が出来た時点で龍馬の心が解り、素直に納得したので明治政府の方針になったのは当然の状況であった。しかし、仕組みを作っても完全に機能する為には国民が龍馬と同じ心にならないと不完全に終わる。これが明治政府が行き着いた戦争による防衛や大東亜戦争の結果である。拝金物欲主義が大和魂を無くした。日本を再統一する為には本当の大和の心を取り戻すしかない。これができないと日本は日本で無くなるし、神から与えられたお役目が果たせません。橋本さんはTPP賛成なんですね、、、残念。
    2015年08月10日 15:25

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