「弱かったのは、個人ではなく、支える力でした。」NPO法人 自殺対策センター ライフリンク資料より
1.GKB47と抗議声明
2月6日、野田首相は参院予算委員会で、3月の自殺対策強化月間のキャッチフレーズである「GKB47」について、「見た瞬間、違和感を感じた」と見直す考えを示したことを受け、7日になって、「GKB47」を撤回し、「あなたもゲートキーパー宣言!」にすると発表した。
政府の説明によると、GKB47は、「ゲートキーパー・ベーシック」の頭文字と47都道府県を足したものだそうだけれど、誰が見たってAKB48のもじりだと分かる。この安易なネーミングに対して、自殺対策推進委員の一部から「自殺の標語としては違和感がある」と、疑問の声が上がり、ネットでも批判の声が多数あったのだけれど、発表当日の2月6日付で、自殺対策に取り組む全国72の民間団体が、抗議声明を提出している。
抗議声明の主な内容は次のとおり。
1)「GKB47」は、キャッチフレーズの役割を果たしていない
そもそも「gatekeeper basic(ゲートキーパーベイシック)」の意味が分かりません。まずは言葉に注目させて、それから意味を理解してもらおうと狙ったのかも知れませんが、それも裏目に出ています。「GKB47」は女性アイドルグループ「AKB48」のもじりとしての印象が強く、「冗談にもほどがある。人の死をバカにするな」「本当に苦しい状況に追い込まれている人がこれを見てどう感じるか想像できないのか」などの批判が沸騰しているのです。
また「GKB」は若者の間でゴキブリを意味することから、「政府がやりたいのは自殺対策の推進でなく自殺の推進。ゴキブリは47(死ね)ということだ」といった中傷も拡散しています。
キャッチフレーズとは本来、関係者はもちろんのこと、国民が心をひとつにするためのものであるはずです。人の生死と向き合う取り組み(自殺対策)のキャッチフレーズとして「GKB47」は、あまりに不適切であり、実際にその役割を果たしていないのです。
2)相談支援の受皿がないことを知りつつ、「気づいて」「相談しよう」はあまりにも無責任
「生きるのがつらい」「もう死にたい」と思い悩んでいる人たちが必要としているのは、「相談しよう」などという抽象的なメッセージではありません。「どこに相談すればいいか」という極めて具体的な情報です。そうした情報がないために、「相談したくても相談できない」人が大勢いるのです。
自殺念慮を抱えた人を支援する者にとっても、必要なのは「つなぎ先」に関する具体的な情報です。「周囲の人の変化(自殺のサイン)に気づいて」と言われても、実際に気づいたときにどうすればいいのかが分からなければ、支援者は自殺念慮者を支え切れずに疲弊し、共倒れしかねません。そうしたリスクを背負うのが怖いから、多くの人は「気づきたくても気づけない」のです。「みんなもゲートキーパー!」と呼びかける前に(せめて同時に)、「現代版 命の駆け込み寺」のようなシェルターを全国に整備すべきです。
3)「GKB47」を強行しようとする政府の姿勢は、自殺対策基本法の理念に反する
自殺対策基本法の第2条には「官民連携の理念」が掲げられています。それなのに政府が、自殺対策の現場で活動する全国の民間団体の反対を押し切って「GKB47」を推し進めるのであれば、この理念を踏みにじることになります。今後こうした事態を避けるためにも、現場の声が政策に反映される仕組みが必要です。
また第7条には「自殺者及び自殺未遂者並びにそれらの者の親族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、いやしくもこれらを不当に侵害することのないようにしなければならない」と謳われています。「GKB47」というキャッチフレーズを聞いて、多くの遺族や自殺念慮に苦しむ人たちが、「政府は自殺問題をバカにしている」と、憤りを超えて深い失望に陥っている現実を、政府は重く受け止めなければなりません。
とまぁ、掛け声だけの政府の姿勢に対して痛烈に批判している。いや、掛け声であるキャッチフレーズも意味を成さないと言っているのだから、それ以前の話。
そもそも、抗議声明を出した民間団体は、「ゲートキーパー・ベーシック」の意味が分からないという。政府の説明では、ゲートキーパーとは、「悩んでいる人に気づいて声をかけ、必要な支援につなげる存在」ということらしいのだけれど、どうやら、一般的な言葉ではないようだ。
2.宣言しただけではゲートキーパーに成れない
ゲートキーパーの概念は、1970年代にアメリカのT.J.アレンによって提唱された。アレンは、元々、ボーイング社のリサーチ・エンジニアだったのだけれど、マネジメントに興味をもって、MITのマネジメント・スクールに留学したのち、経営学者になった。
アレンは、コミュニケーションが研究開発のパフォーマンスを向上させるという予測を立て、組織における内外のコミュニケーションの実態調査を行なったのだけれど、時間当たりのコミュニケーション回数とパフォーマンスとの間には有意な関係は見られなかった。アレンは、外部とのコミュニケーションがパフォーマンスに結びつかないのは、各研究所や組織にある、"組織固有の考え方"や"文化及び用語"などがあって、それが、意思疎通における雑音(セマンティック・ノイズ:semantic noise)となって、解釈ミスが起き、結果として、コミュニケーションを阻害しているのではないかと考えた。
そこで、アレンは更に詳細に、研究所における技術者集団のコミュニケーション・ネットワークを調べたところ、集団のなかに、集団内の誰とでも何らかの形で接触している「スター」的な人間がいて、そのスターの外部情報との接触頻度は、他の同僚とは明らかに異なっていることがわかった。アレンは、このスターを「ゲートキーパー」と名付けた。
アレンは、一般の技術者とを比較して、ゲートキーパーの特徴として次の3点をあげている。
1)ゲートキーパーは高度の技術達成者である。
2)ゲートキーパーの大半は第一線の管理者である。
3)技術系の経営者は、ちょっと気をつければ誰がゲートキーパーであるかを正確に見分けられる。
アレンの調査によると、ゲートキーパーは、一般の技術者と比べて、高度の技術専門誌を含めた読書量が圧倒的に多いのだという。したがって、その豊富な知識が外部とのコミュニケーション時に起こる"セマンティック・ノイズ"を低減するのに役立っているのではないかと思われる。
このように、経営学的観点から言えば、ゲートキーパーとは、「組織や企業の境界を越えて、その内部と外部を情報面からつなぎ合わせる人」のことを指すのだけれど、ゲートキーパーになる為には、相当の専門知識を有し、外部とのコミュニケーションにおける"セマンティック・ノイズ"を低減しつつ、正しい理解と意思疎通が出来るだけの豊富な知識が要求される。誰にでも直ぐなれるというものじゃない。
さて、この経営学でいう、ゲートキーパーの概念を自殺対策に当てはめるとするならば、自殺対策に従事するゲートキーパーは、自殺念慮者の固有の考え方や、これまで生きてきて身に付けてきた、生活習慣や文化、及び、彼の発する言葉が真に意味するもの(用語)を正しく理解して、それを外部に誤差なく翻訳・伝達するスキルが必要になる。時には、自殺念慮者の言葉にならない心の声までもを読み取って言語化する必要すらあるかもしれない。
そこまで出来て、尚且つ、自殺念慮者に対して、その悩みを解決するための支援に繋げて自殺を食い止めるところまでいかないと、政府の言うところの"ゲートキーパー"とやらにはなれないことになる。こんなことは、心理カウンセラーとか、精神科医とか、或いは、悟りを開いたどこかの和尚さんがやるようなことであって、ちょっとそこらの人がホイホイとできるとは思えない。ハードルが高すぎる。
要するに、政府としては、自殺しようかと思い悩んでいる人に、皆で声を掛けることで、自殺を食い止めようという意図があるのだろうけれど、声を掛けたくらいで自殺が収まるのなら、誰も苦労しない。やはり、その人特有の悩みや苦しみに対して、正しい答えを出せないと意味はない。
政府は、「AKB48」を撤回して、「あなたもゲートキーパー宣言!」に変更しているけれど、それほどハードルが高いゲートキーパーに、宣言しただけでなれると思っているとしたら、ちょっと考えが甘すぎる。それよりは、悩んでいる人を見つけたら、何処何処に相談するといいよ、という具合に、専門のカウンセラーを簡単に紹介できる体制を整えたほうがいい。
その意味では、抗議した民間団体が指摘する、「相談支援の受皿がないことを知りつつ、「気づいて」「相談しよう」はあまりにも無責任」というのはそのとおり。
だから、「GKB47」だか、「ゲートキーパー宣言」だか知らないけれど、標語を出したり、引っ込めたりしてどうこういうような問題ではないと思われる。
それでも、ただ、政府が撤回することで、自殺が減る可能性がある言葉が一つだけある。
それは、「消費税増税を撤回する」こと。
自殺やなんだといっても、ただ、本人が心に悩みを抱えて自殺するだけとは限らない。経済不況で会社が倒産して、社長が首をくくったなんて話はよく聞く。自殺する人がよくいう「生きるのがつらくなった」という中には、少なからず経済的苦境が原因になっているものもあるはず。それが政府の無策によるものであったなら何をか況や。経済的苦境が死に追いやっている部分があることも忘れてはいけない。
冒頭でも触れたけれど、NPO法人・自殺対策センター・ライフリンクは自身の資料の中で、「亡くなる人たちは、決して特別な人たちではありません。過労や失業、いじめや介護疲れといった社会的な要因が、生活やこころの問題へと連鎖して、自殺へと追いつめるのです。」と述べている。
だから、政府が本当に自殺を無くしたいと思うのであれば、抗議した民間団体が指摘する、受け皿づくりは勿論のこと、デフレを脱却して、経済を活性化させることが大事。不況下の増税をやって、自殺者を増やすことなどしてはいけない。
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自殺対策「GKB47」を撤回 「AKB48もじり」批判に対応 2012/2/ 7 19:30
自殺対策強化月間(3月)のキャッチフレーズ「あなたもGKB47宣言!」を政府が批判を受けて撤回した。人気アイドルグループ「AKB48」をもじった形で、「ふざけすぎ」といった反発が出ていた。
「GKB」はゴキブリの略として使われることもある。インターネット上だけでなく、参院予算委員会でも問題視され、自殺対策に取り組む72の民間団体が共同で抗議声明を発表する事態に発展していた。
「あなたもゲートキーパー宣言!」へ変更
内閣府サイトでも「ゲートキーパー」を紹介している。 自殺対策を担当する岡田克也副総理は2012年2月7日の会見で、「あなたもGKB47宣言!」を撤回し、「あなたもゲートキーパー宣言!」にすると発表した。「GKB47」は、「ゲートキーパー・ベーシック」の略と47都道府県を足したものだ。岡田副総理は「自殺の深刻さを十分にわきまえていないのではないか」という指摘が一部からあったことを理由に挙げた。
「ゲートキーパー」は、「悩んでいる人に気づき、声をかけ、必要な支援につなげる」などの活動をする人で、「ベーシック」には、専門家だけでなく国民全体で見守っていこう、という思いを込めていた。
「GKB47」に対しては2月6日、参院予算委で撤回要求が与党の民主党から出たほか、自殺対策に取り組む全国の72民間団体が、抗議声明をネット上などで公表し、撤回を求めた。
岡田副総理による撤回発表で、「一件落着」なのか。
実は抗議声明では、「もじり」問題だけではなく、「GKB」で訴えようとしていた「あなたもゲートキーパーに」との趣旨自体に対しても、「あまりにも無責任だ」と反発している。撤回後の新フレーズは「あなたもゲートキーパー宣言!」で、この抗議には答えた形になっていない。
「多くの関係者が傷つき、失望しました」
抗議声明に加わった「NPO法人 全国自死遺族総合支援センター」の杉本脩子代表に聞いてみた。
杉本代表は「問題は残りますが、容認範囲です」と答えた。「ゲートキーパー問題」については、「現場の取り組みはとても厳しいものです。ゲートキーパーは誰でもできますよ、と広く薄く呼びかけるのではなく、ゲートキーパーの質を高めていくべき時期なのです」と説明した。
自殺対策を担当する内閣府などには、「批判もあったが、マスコミに多く取り上げられ、ゲートキーパーという言葉の啓発などに結果的に役立った側面もある」といった声もある。
しかし、杉本代表は「当事者が言う言葉ではありませんね。単なる自己正当化に過ぎません。撤回はしたものの、これまでの政府の姿勢に対し、遺族を含めた多くの関係者が傷つき、失望しました」と指摘した。
その上で、一連の「GKB騒動」について、こう評価した。
「『内閣府を批判すればいい』ということではなく、自殺問題を原点に立ち戻って考える契機にするべきだと思います」
URL:http://www.j-cast.com/2012/02/07121424.html?p=all
この記事へのコメント
履歴書の資格
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
ちび・むぎ・みみ・はな
心の問題はその人しか解決できない.
良い年をした政治家がそこらの○○ネットの
叔母さん達と同レベルという点に問題を見る.
しかし, 茶番を前に自民党は何をしているか.
大臣を何人門責しても事態は全く変わらない.
全て, 日本の問題は自民党なのだ.
嘘付党の政策は過去の自民党のデフォルメであり,
自民党が国民側になかったから嘘付党がいる.
自民党が国民側に付けば嘘付は存在の場を失う.
戦えないトップを頂く自民党に日本の危機を見る.
日本の存亡の危機にトップ交代が間に合うか?
白なまず