LNGガスの調達について

 
LNGガスの消費が増えている。

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電気事業連合会が17日公表した電力10社の2011年12月の発受電電力量速報によると、電源別の発受電電力量は、原発が55億5109万キロワット時と、前年比75.5%減になったのだけれど、一方、火力は41.7%増の604億2423万キロワット時と大幅増。LNGの消費量は498万1194トンと単月で過去最高となった。

LNG(Liquefied Natural Gas)とは、液化天然ガスの略で、メタンを主成分とした天然ガスを冷却し液化した無色透明の液体で、太古の動植物の死骸が地中で圧力と熱を受け、長い歳月をかけて変化したものと考えられている。

日本は世界最大のLNG輸入国で、2010年度の日本のLNG輸入量は935億立法メートル(6678万5714トン相当[LNG1t=1400立方メートル])で世界全体の31%を占める。2位は韓国の444億立方メートル(約3171万トン相当)、3位はスペインの275億立方メートル(1964万トン相当)だから、如何に日本の輸入量が突出しているか分かる。

そして、財務省の通関統計によると、2011年のLNG輸入量は前年比12%増の7853万トンと過去最高を記録している。

これは、昨年の福島第一原発事故の影響による電力不足を補うため、電力各社が通常は稼働率50%程度と低いLNG火力発電所をフル稼働させた結果。LNGの使用については、その6~7割程度が電力会社による発電が占めているのが現実。

要するに、原発が再稼働できず、このままLNG火力発電をフル稼働し続けると、日本のLNG年間輸入量は、約1000万トン増加して、昨年並みかそれ以上、およそ8000万トン近く輸入しなければならなくなる。

だけど、元々、世界全体の3割もの天然ガスを輸入していた日本が、更に輸入を増やすとなると、12%だから1割くらいじゃないかといって済まされる話じゃない。絶対量として1000万トンともなれば相当な量になる。これは丁度、フランスの年間LNG輸入量139億トン(世界6位)に匹敵する。

それに、日本がLNGを多く輸入したら、その分、その他の地域への天然ガス需給を圧迫するし、そもそも1000万トンレベルの増産なんて、簡単な話じゃない。だけど、現実に日本はLNGの輸入を増やすことに成功している。

何故、日本がLNGの輸入を増やすことができたかというと、アメリカの天然ガス自給率が増えたことで、一大天然ガス生産地であるカタールが、元々、アメリカ向けに生産・確保していた天然ガスがだぶついてしまったから。

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カタールは2008年末の段階では、年間3000万トンのLNG生産能力しかなかったのだけれど、年間7700万トンの生産能力に向けて、LNGの増産工事を行い、2010年12月に完了している。

その生産量の6割から8割は、日本や韓国、欧州向けの長期契約分で、残りは主に米国向けのスポット契約を当て込んでいた。だけど、アメリカ国内で天然ガス(シェールガス)の生産が本格化したことで、国内自給率が向上し、カタール産のLNGは要らなくなってしまったという事情がある。

当初、カタール産LNGの受け入れ拠点を目指していた、アメリカのルイジアナ州サビーヌパスの輸入基地は、アメリカ産天然ガスの輸出拠点に転換されてしまっている。

アメリカの天然ガス増産によって、余剰となったカタール産LNGの量は2000万トンにも及び、今回の日本のLNG需要急増は渡りに船だったということ。

日本の1000万トンのLNG輸入増のうち、実に、その半分がカタールからの調達分とみられている。

カタールは余剰LNGをヨーロッパなどにも転売しているのだけれど、その結果、ヨーロッパはロシアとの天然ガス価格交渉で強気になり、世界的に天然ガスの価格低下が進んでいるという。

では、今後は、カタール産のLNGをあてにすればよいのかというと、そう簡単な話じゃない。エネルギーの輸入には、調達リスクが付きまとう。

現在、LNGの輸入国はアジア太平洋地域に集中している。地域別のLNG輸入割合を見ると、実にその6割以上がアジア太平洋地域で占められている(2006年現在)のだけれど、日本などのような島国では、天然ガスの産地からパイプラインを引っ張ってくるわけにもいかないから、船で運ぶしかない。

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天然ガスは約マイナス162℃の極低温で液化して、体積が約600分の1に減る。イメージでいえば、サッカーボール4個分のガスが、ゴルフボール1個分の液体にまで縮む。この性質によって、船による天然ガスの大量輸送や大量備蓄を可能にしているのだけれど、LNGを運ぶ船はそこらの船と同じというわけにはいかない。

液化した天然ガスは、マイナス162℃以上の温度になると、気化してしまう。だから、LNGを運ぶ船は、超低温に対応した特殊な材質のタンクや機器、及び、荷役時の事故を防ぐ緊急遮断装置など、最高度な技術が要求される。

それでも、やはり長い航海中の温度上昇によって、LNGの一部が気化してしまうのは防げない。そこで、この気化した天然ガス(ボイルオフガス)を、そのまま燃料として使うことができるように、LNG船は、蒸気タービンエンジンを搭載したものが多い。

LNG船には大きく分けて、2つのタイプに分かれる。ひとつは「モス型」LNG船。もうひとつは「メンブレン型」LNG船。

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「モス型」とは、甲板上に船体から独立した球形タンクを持ち、スカートと呼ばれるタンク支持部の上端で支える構造を持っていて、LNGの蒸発が少なく、衝突、座礁などの事故の際にも遺漏に対する安全度が高い利点がある反面、球形タンクを乗せるため、空間利用効率が悪く、タンク突起物のせいで前方の視界が悪い欠点がある。

「メンブレン型」とは、タンクを形成する薄いステンレス鋼が、船体との間に、タンクを支える役割を兼ねた断熱材を挟むことで、船体自身によってタンクを保持する構造を持っている。そのため船倉の空間利用率が高く、LNG積載量が多くできる利点がある。その一方で、タンクが船体と一体化しているために外部からのメンテナンスができないという弱点がある。

これまで建造されたLNG船はモス型が46%、メンブレン型が51%と殆ど同数なのだけれど、近年では、輸送距離の長距離化に伴い、コスト的に有利な船体の大型化と、スエズ運河を通過する航路のLNG船だと、通行料のより安いメンブレン型のLNG船が好まれるようだ。
※スエズ運河を通過するLNG船の通行料は、貨物積載量ではなく、船の断面積を基準に算出(Hull-Valume)されるため、甲板上に大きな球形タンクを乗せるモス型の通行料は割高になる。

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現在、世界でLNG船の建造を行なっているのはわずか13社しかなく、建造価格も、標準的な15万トンクラスのもので1.5億から2億ドルする。

しかも、LNG船はその構造上、用途はLNG専用になる。だから、需要が増えたからといって、簡単にLNG船を建造して増やせるものじゃない。

仮に、何処かの企業が、大枚をはたいてLNG船を発注・購入したとしても、出来上がる頃に原発が再稼動して、LNGの需要が元に戻ったら目も当てられない。

更に、LNGの輸入価格という問題もある。天然ガスは全世界で取引されている共通の商品ではないという事情があり、それゆえ、天然ガス価格のメカニズムはその地域毎で独立している。

アジア太平洋地域では、LNGは石油代替燃料と考えられていた経緯があり、その価格は原油価格にリンクするようになっている。日本では、輸入された原油の平均価格JCC(Japan Crude Cocktail)とリンクさせる方式が採用されている。

従って、原油価格が上昇すればLNGも後を追うように上昇し、原油価格が下落すればLNGも後を追って下落する。

一方、ヨーロッパでは、このパイプラインガスは、石油化学製品、ガスオイル、燃料油等と競合している関係から、パイプラインガス価格は石油製品の価格水準を尺度として決められている。

よって、LNGは、ヨーロッパ全土に張り巡らされているパイプラインガスと競合するので、LNG価格は、パイプラインガスと同じような価格メカニズムになっているという違いがある。

日本のLNG輸入価格は1000立方メートル(=0.71トン)あたり、370ドルと世界最高水準。

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2011年の貿易収支が31年振りに赤字になったのも、LNGの輸入が増えたのも、その一因だとも言われているし、原発停止が長期化すれば、LNGの輸入価格を下げる方策も考えなくちゃいけなくなる。

今のところ、日本は、大規模停電を起こしてはいないけれど、それは、火力発電が能力一杯まで稼動させているからであって、運用という観点からいけば、稼働率80%とか90%とか、十分なバックアップがない状態での長期運転なんて、危なっかしくってしょうがない。

実際、今年になっても、関西電力や中国電力の火力発電所で小事故による運転停止や、点検による停止も相次いでいる

だから今は、エネルギー供給という意味では、結構危うい状態で、いつ何時電力不足になるか分からない。

それ以前に、カタールは言わずとしれた中東地域。あそこで戦争かなにかが起こったら、石油と同じで、一発で中東からのLNGは途絶えてしまう。

やはり遠からずして、原発再稼動の話は起こってくるだろうし、安全性を強化および確認できたものから、順次、再稼動することになるだろう。

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この記事へのコメント

  • 日比野

    ちび・むぎ・みみ・はなさん。
    重複分は削除させていただきました。m(__)m
    2015年08月10日 15:25
  • 白なまず

    そうなると、次は石炭でしょうね。原発が主力に戻っても燃料の調達や処理問題に結局行き着くと思います。幸い、石炭は質を問わなければ世界中にあるし、質の悪い石炭を利用できる技術は日本にあるし。
    2015年08月10日 15:25
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    一国のエネルギー政策は簡単に変わらない.
    LNG供給には日本にとっては心細い事が多いが,
    世界では最上客(値切らない・良い金払い).
    ロシアは日本に買って欲しくて仕方がない.
    その点, ロシア現大統領は商売人として失格.

    何でかね.
    エネルギーに関しても, 工業技術に関しても,
    経済に関しても, 日本に不安はどこにもないのに,
    日本に漂う不安な曇.

    一つには日本人が心配し過ぎる点.
    効果が不明な時, 日本人は一応やれば良い,
    欧米人は「ナンセンス!」

    もう一つは日本の要所を占領する利権的
    社会主義的原理主義者達の作り出す不安の曇.
    彼らはユーロ社会主義革命を成功させようと
    している. ヒットラー時代は国家主義的社会主義
    だった独が現代は汎欧州社会主義を進める.
    案外, 国民性は変わらないものかも知れない.

    とすれば, 不調和なオバマ社会主義大統領を頂く
    米国は先祖帰りで一騒動起きるかも知れない.
    2015年08月10日 15:25

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