牛乳からの内部被曝について
2月2日、東京都内の学校給食用の牛乳を供給しているメーカーでつくる「東京学乳協議会」は、牛乳の放射性物質検査を実施した結果を公表した。
検査は1月20から25日にかけて行われ、同協議会に加盟するメーカー6社、9工場で製造された牛乳を対象に実施したのだけれど、それによると、放射性セシウムは協議会が自主基準として設定した1キロ当たり50ベクレルを下回っているという。
これは、厚生労働省が、昨年の12月27日付で、各都道府県に牛乳の放射性物質検査を概ね1週間ごとに実施するよう要請し、日本乳業協会、全国農協乳業協会、全国乳業協同組合連合会の乳業3団体に対して、牛乳の放射性物質検査結果を公表するよう通知したことを受けての発表。
これに到った経緯として、昨年9月に、東京・町田市の吉田つとむ市議が、保護者からの強い要望を受けて、学校給食で出された牛乳の放射性物質検査を専門機関に委託したところ、セシウム134とセシウム137が合計で、6Bq/Kg検出されていた件がある。
また、武蔵野市でも、市内の小中学校の学校給食で出してい群馬県産の牛乳について、放射性物質検査したのだけれど、ここでも、セシウム134が3.1Bq/Kg、セシウム137が3.9Bq/Kgと合計7Bq/Kg検出され、急遽この牛乳の提供を差し止めるという事態も起こっていた。
品川区では、区内の小中学校に牛乳を納入する業者に7月から約10回にわたり放射性物質検査のデータ開示を請求していたのだけれど、業者からは全部「非開示」と回答されていた。
何でも、検査自体は、牛乳メーカ各社が各社が独自に実施しているのだけれど、数値を公表するかどうかについては、風評被害になりかねないとして、牛乳メーカの上部団体である日本乳業協会の方針で非開示となっていたようだ。
そこで、都の特別区長会は「給食用牛乳の放射性物質測定検査の結果数値公表に関する要望について」という要望書を農林水産省、厚生労働省、文部科学省の3省に提出し、乳牛業界への自主検査結果を公表させるよう要望を行った結果、 漸く今回の公表となった。
現在の食品や牛乳に対する放射性セシウムの暫定基準値は、肉、野菜などの一般食品が500Bq/Kg、牛乳、および水が200Bq/Kgなのだけれど、厚労省は今年4月から、一般食品が100Bq/Kg、牛乳が50Bq/Kg、そして水を10Bq/Kgとする新基準を導入することを決めている。
これについては、原発事故直後の3月17日の段階で、厚労省が暫定基準値を策定したとき、筆者は、「食品と水の放射線暫定規制値緩和へ」のエントリーで、厚労省の基準値は、国際連合食糧農業機関(FAO)が定める指針に準拠するのであれば、2年目以降は5倍厳しくなる筈だ、と指摘していたのだけれど、厚労省が出した新基準は、大体この5倍厳しい値にしているから、一応、厚労省は、世界基準での対応をしているといえる。
特に、水の基準値については、「東京ウォーター」のエントリーで指摘しているけれど、世界保健機関(WHO)が定める、飲料水中の放射性核種のガイダンスレベルの基準値である10Bq/Kgと同じだから、きちんと追い込んだ基準であると思われる。
なぜ、1年目だけ基準値が緩いのかというと、事故直後から間もないという「緊急事態」として、やむを得ずこれくらいなら"我慢"できるのではないかということで設定されているもので、個々人の健康というよりは、社会全体の混乱を招かないように、ギリギリの線で設定されている背景があるから。
だから、厚労省の基準値が、世界基準の規格を守っているとはいえ、1年目の基準が2年目以降よりも5倍緩い基準であることには変わりなく、被曝を極力避けるためには、1年目の対応がカギを握る。
特に、食品の基準値よりも牛乳が、牛乳よりも水の基準値が厳しく設定されているということは、水・牛乳・食品の順で内部被曝の影響が強いだろうと見做されていることを意味してる。
福島原発由来の放射性物質の拡散状況が判明するにつれて、首都圏にもいくつか、"ホットスポット"と呼ばれる、放射性物質による汚染度の高い地域があることが知られているけれど、その一つに三郷市がある。
その三郷市に住む人々を中心として、三郷市に暮らす子供達を救うべく、保護者によって立ち上げられた、「放射能から子ども達を守ろう みさと(Save the Children from Radioactivity Misato:略称SCRm)」という会がある。
昨年10月中旬に、このSCRmを中心に18名の参加者の保護者や子供達に対して、体内の放射性物質を調べるための母乳および尿検査を実施した結果を公表しているのだけれど、興味深い結果が出ている。
この検査では、参加者に対して、日常の生活での放射能対策の有無として、食べ物、飲み物、衣服、行動範囲などについて調べている。
放射能対策をばっちりやっている人となると、東日本の米を避けて古米を食べ、給食の牛乳は飲まずに北海道や九州の牛乳を取り寄せる。外出時はマスクして、帰宅すると着替え、外で遊ぶときも江戸川や公園を避け、土は触らない、室内遊び中心などと、まぁ考えられる目一杯の対応をしている。
この調査では、最も初期から対策を取っていたグループ(13人)と、初期には何もしなかったけれど、三郷市がホットスポットだと分かった6月頃から対策を取り始めたグループ(2人)と検査時期である10月まで何の対策も取らなかったグループ(3人)と3つのグループに分類したところ、何の対策もしなかったグループの3人中2人から、6月から対策を取り始めたグループの2人全員から、0.2~0.5Bq/Lの放射性セシウム134とセシウム137がそれぞれが検出されている。
一方、最も初期から対策を取っていたグループ13人のうち、放射性セシウムが検出されたのは1人だけで、SCRmは、早い時期の内部被曝対策の有無が大きな違いをもたらした可能性があると結論付けている。
尤もこれは、18名という少数の結果にしか過ぎないから、確たることはいえないけれど、この結果を見る限りでは、内部被曝を避ける努力を早期にできたところは、少ない被曝で済んでいるとは言える。
まぁ、セシウム134が10Bq/Kg含まれている牛乳を、毎日1リットル1年間飲み続けても、実効線量では、およそ0.07mSv/yだから、他の食品からの内部被曝を抑えることができれば、それほど恐怖に怯える程のことはないとは思うけれど、今後長期間に渡って、放射性物質による被曝リスクがある以上、少なくとも、内部被曝を避ける努力をするに越したことはない。
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この記事へのコメント
NGA
ちび・むぎ・みみ・はな
> 内部被曝を避ける努力をするに越したことはない。
ここに放射能被曝における重大な問題がある.
避ける努力に意味が有るか無いか.
上記の言い方, 実に多くの人がそう言うのであるが,
は科学的ではなく, 情緒的である.
放射能問題は情緒的な問題と化している.
丁度, ダイオキシン問題がそうであったように.
「避ける努力に意味が有るか無いか」の判断を
避けることが, データ隠蔽に繋がる.
ねぼけ猫
自然界の放射線量以下の話をしても無駄です。人体にはDNAの複製能力があるので累積の被曝量なんて意味ありません。人体自体が元々放射性物質のカリウムや炭素を含んでいるのでわずかの放射性物質を吸収したからって問題にする必要は無いでしょう。
私の感覚では1ミリシーベルト毎時以下の放射線量以下だったら全く安全だし、2000ベクレル以下の放射性物質だったら問題無いと思いますよ。
日比野
放射性物質の摂取による影響については、下記エントリーで言及しています。
放射線を放つ母乳PART1
http://kotobukibune.at.webry.info/201104/article_21.html
放射線を放つ母乳PART2
http://kotobukibune.at.webry.info/201105/article_1.html
放射線を放つ母乳PART3
http://kotobukibune.at.webry.info/201105/article_21.html
まだ、事故から1年も経っていません。被曝の影響がはっきりするのは、早くても数年後からでしょう。ですから、私は情報開示が不十分な今の状況下では、被曝を避ける行動を取る人がいても止む無しと思います。
ただし、ちび・むぎ・みみ・はなさんの指摘のように、放射能問題が情緒的問題と化しているとところは確かにあると思います。けれども、それは不十分な情報開示によるものが引き起こしている面もあると思うのですね。
今回の給食牛乳にしても、業界が非開示を続けたことで、より消費者の不安を煽ったとこ