インドの水とスペインの水
昨日のエントリーに関連して、インドの水道と淡水化技術について。
1.インドの上下水道インフラ状況
昨日のエントリーでは、インドでの海水淡水化プロジェクトを紹介したけれど、インドの水道インフラはまだまだ十分とはいえない。
元々、インドは水資源の豊富な国で、北はヒマラヤ山脈に豊富な水源を抱え、多くの河川と地下水を涵養できる沖積平野も多く、国内の水需要には十分に対応できるだけのポテンシャルがある。
国土が広い、インド全土での年間総降水量(国土面積×平均降水量)は年間平均3559キロ立方メートル(1961年~1990年の平均値)にも及び、これは日本の649キロ立方メートルの5倍以上になる。
このうち、河川への総流量は、平均1880キロ立法メートルにもなるのだけれど、これは、6月から9月の3ヵ月、いわゆる雨期に降雨が集中することもあり、利用可能な水量となると、690キロ立法メートルになる。それでも日本の8倍くらいはある。(尤もインドは人口が日本の10倍あるから一人あたりで計算すると日本より少なくなる。)
また、利用可能な地下水も膨大で、約430キロ立方メートルと日本の40倍以上あり、その84%程度が農業や家畜用の灌漑に使われ、残りは家庭用や産業用水として用いられている。
だけど、上下水道のインフラが十分でなく、インドでの上水道の普及率は約7割程度しかなく、下水道の普及に至っては、3割以下に留まっている。そのため、水道インフラが未整備の地域では、トレーラーで水が配給され、トレーラーが来ると、地元の人たちがバケツやタンクを持って集まってくる。
また、水道インフラが整っている地域でも、その水道管自身が老朽化していて、大都市から離れた郊外では、穴の開いた水道管から出る水を、一生懸命バケツに入れて運ぶ地元の人達が群がるという。
こうした事情から、インドの上水道から供給される水のうち、4割から5割は、漏水又は盗水で失われていると言われている。
インドでは、上下水道の事業は基本的に各自治体で行われており、一部の小さな市町村については国が直接管理を行っている。
だけど、肝心の上下水道の管理運営がお粗末で、折角、水道が通っていても、24時間毎日給水される家庭は殆どないという。畢竟、インドの各家庭では給水されている時間帯に、水を屋根の上のタンクに貯められるだけ貯めておき、それを使用しているのだそうだ。
インドでは上下水道料金が無料であることが多く、そのため、処理施設の運営・管理費用の安定確保が難しい。従って、水質管理もおざなりで、特に下水処理などは、ノウハウや資金がないために運営そのものが出来ず、下水を集めても何も出来ずにそのまま川や海に垂れ流されることが多いという。
また、運営資金確保のために、水道料金を徴収しようとしても、まず水道使用量を計るメーターを各家庭に設置しなければならないのだけれど、選挙で票が集まらなくなるという理由で反対が多く、実際にはあまり普及していないようだ。
これらの事情から、インドの水道事業にかかるコストのうち水道料金でカバーされているのはインド全体で20から30%程度だだと推計されている。
一般的に、1人当たりのGDPが2000ドルを超えないと、下水道をうまく維持できないと言われているのだけれど、インドの1人当たりの名目GDPは、2011年現在で1527ドルだから、水道料金を上手く徴収できたとしても、今しばらく時間が必要なのかもしれない。
2.スペインの海水淡水化技術
また、インドの自治体の中には、河川や地下水だけでなく、雨水利用などを進めているところもあるのだけれど、海水の淡水化による水の確保もそのひとつ。
2010年8月、人口約600万人を抱えるインド4番目の都市で、「南アジアのデトロイト」の異名を持つチュンナイで、70万人以上の飲料水需要を賄うと期待される、国内最大規模の海水淡水化プラントの商業運転は始まっている。
この海水淡水化プラント建設を請け負ったのは、スペインの海水淡水化プラント企業のベフェーサ(Befesa)。
ベフェーサは、海水淡水化事業では、世界最大手の企業の一つで、2010年7月に、チュニジア中東部のガべス湾にあるジェルバ(Djerba)島に淡水化プラントの建設を受注している。
実は、スペインは海水淡水化について、世界トップクラスの実力を持っている。特に海水淡水化設備の導入・運用実績には定評がある。
スペインはカナリア諸島の旱魃を切っ掛けとして、海水淡水化を推進してきた歴史があり、1964年カナリア諸島のランサローテに初めての海水淡水化プラントを建設して以降、国内に700基以上のプラントを設置し、日量約160万立方メートルの水を生産している。これは、約800万人の需要を満たせる量で、海水淡水化技術の利用においては、サウジアラビア、UAE、クウェートに次ぐ世界4位にランクインしている。
スペインはこうした長年に渡る海水淡水化事業の国内実績と厳しい競争によって、スペイン国内企業は国際競争力をつけてきた。必然的に、スペインには、プリデサ(Pridesa)、イニマ(Inima)、ベフェーサ(Befesa)、カダグア(Cadagua)、SADYT、インフィルコ(Infilco)、アクアリア(Aqualia)、コブラ(Cobra)、SETA グループ、アイソラックスコーサンコーバイン(IsoluxCorsanCorvian)など、海水淡水化のトップメーカーが数多くひしめいている。
しかも、これらの企業の殆どは、カナリア諸島沖の造水事業の参加経験があり、プラントの設計、エンジニアリング、建設、運用それぞれにノウハウを蓄積している。
カダグア社の国際ビジネス開発マネージャーのイグナシオ・スニガ氏によれば、「同じプラントはひとつとしてない」のだそうだ。何でも、海洋が違えば状態も変わり、プラントの取水条件や取水地域の汚染レベルも、海水の前処理やプラント全体の設計に影響するのだという。
これらのプラントには、主に逆浸透膜(RO膜)による淡水化技術が使われているのだけれど、RO膜市場は、年率12%以上で拡大を続けていて、特に海水淡水化用途ではプラント規模の拡大傾向も相まって、年率30%の伸びを示しているという。
この分野では、日本メーカーが抜群の強さを発揮している。RO膜の2009年度の世界シェア(金額ベース)を見ると、トップこそ、ダウ・ケミカル社が34.6%とその座についているのだけれど、2位の東洋電工、3位の東レ、4位の東洋紡と日本勢を合わせると、5割を超えている。
日本も経験を積めば、やがてプラント全体の設計、建設、運用のノウハウを持てるようになるとは思うけれど、RO膜という肝心要の部品の部分を抑えているのはやはり心強い。
やはり、日本はまだまだ技術立国であることは疑いない。
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この記事へのコメント
白なまず
【日本の技術】水から生まれた新燃料
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=oNF_OcQfUKg
水素自動車はダメだと思ってましたが、酸水素だとLPG自動車並の技術でいけそうですね。