3月22日、シンガポールの水処理会社であるハイフラックスは日立製作所、伊藤忠商事と提携して、インドのグジャラート州に海水淡水化プラントを建設すると発表した。
完成すれば1日当たり33万6000立方メートルの淡水処理が可能になり、アジアで最大規模のプラントとなる。生産される水はグジャラート州政府関連企業が27年間にわたり買い取る計画で、総額は4000億円に達するビッグプロジェクト。
これは、日本とインドの両政府の間で進められてきた「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(Delhi-Mumbai Industrial Corridor Project:DMIC Project)」の一環として行なわれるもの。
デリー・ムンバイ間産業大動脈構想とは、デリーとムンバイの2都市間、約1500kmに貨物専用鉄道(DFC:Dedicated Freight Corridor)を敷設し、その左右150kmの周辺に、工業団地、物流基地、発電所、道路、港湾、住居、商業施設などのインフラを民会投資主体で整備しようという構想。総投資額が2019年までに900億ドル(7兆9200億円)にも及ぶ巨大プロジェクト。
この構想は、日本が戦後、南関東から北部九州までを結ぶベルト地帯「太平洋ベルト」に工業地帯を形成したことにヒントを得て、インドでもバラバラにインフラ投資を進めるのではなくて、デリーとムンバイの間に集中投資して工業地帯を開発しようという構想が持ち上がり、2006年に日本側から提案された。
インドとしても経済発展とともに、都市化に伴う公害・環境問題を解決してきた日本のノウハウに期待するところもあって、2006年12月に日印首脳間で合意に至り、プロジェクトが正式スタートした。
その主な経緯は次のとおり
2006年12月:インド・シン首相訪日。日印首脳間で構想推進合意。
2009年12月:鳩山前総理訪印。「スマートコミュニティ」構想合意。DMICDCと日本貿易振興機構(JETRO)が協力覚書(MOU:Memorandum of Understanding)を締結。プロジェクト開発ファンドへに7500万ドルのJBIC(日本国際協力銀行)融資契約締結。
2010年04月:直嶋経産大臣訪印。日立コンソーシアムとグジャラート州政府がスマートコミュニティの協力覚書(MOU)を締結。
2010年10月:インド・シン首相訪日。①日印官民政策対話の設立合意 ②DMIC-PPP推進協議会の設立合意 ③スマート・コミュニティの更なる進展を歓迎の共同声明。
2011年12月:野田首相訪印。①90億ドルの金融ファシリティの立ち上げ ②デリームンバイ開発公社(DMICDC)への出資・派遣による積極的な関与 ③具体的なインフラプロジェクト支援合意。
この構想で、貨物専用鉄道については、2017年の完成目指し、電気機関車で2段積み貨物コンテナを輸送する事業が建設に向けて動き出していて、まず、レワリとヴァドダラ間の950kmの建設を行い、その後、ダドリ~レワリ間とヴァドダラ~ムンバイ間の計552kmの建設が行なわれる予定。
鉄道の建設資金は、日印両首脳間で、資材の調達先を日本企業に限定する円借款(タイド円借款)という条件で日本が援助することで合意しており、レワリとヴァドダラ間の鉄道建設に約4500億円の円借款が行なわれる見込み。
また、工業地帯の開発については、2008年にDMICの運営を担当するデリー・ムンバイ間産業大動脈開発会社(DMICDC:DMIC Development Corporation)が設立され、具体化に向けて動き出している。
資金調達については、プロジェクト開発ファンド(PDF)が、2008年にDMICDC内に設けられ、その規模は1.5億米ドル(132億円)。そのうちインド政府が7500万米ドル(66億円)、日本の国際協力銀行(JBIC)が7500万ドル(66億円)を融資する。
2009年12月に、DMIC全体のマスタープランが策定され、24の重点地域の内、13カ所を製造業の拠点とする工業地域(100k㎡以上)、11カ所を各種インフラや研究教育機関含めた総合拠点とする投資地域(200k㎡以上)を定め、2008年から2012年までをフェーズ1として、24の重点地域の内、工業地域6カ所、投資地域6カ所を選定。先行的に開発を進める。
ところが、このマスタープラン策定について、作成担当会社は入札によって決められ、その会社は次のとおり。
全体マスタープラン :Scott Wilson社(英)
グジャラート州 :Halcrow社(英)
ウッタル・プラディッシュ州 :Halcrow社(英)
ハリヤナ州 :Jurong Consultants社(シンガポール)
ラジャスタン州 :Kuiper Compagnons社(蘭)
マディア・プラデシュ州:Lea Associates社(加)
マハラシュトラ州 :AECOM社(米)
とまぁ、入札に勝ったのは、欧米とシンガポールの企業ばかりで、日本企業はひとつも入れなかった。どうやら技術面では問題なかったものの、価格面で負けたようだ。
インフラ事業では、マスタープランの作成権限を握ると自分達に有利なようにプランを作ることが出来てしまう。たとえば、貨物鉄道の線路幅を広軌にするとプランニングされてしまったら、標準軌か狭軌の鉄道しか持っていない日本はその分不利になる。
そこで、日本は巻き返しはかり、DMICDCと協議の上、日本企業が得意な環境技術やITを駆使したプロジェクトを立案し、それをマスタープランにねじ込もうと立ち上げたのが「スマートコミュニティ」構想。
2009年12月に鳩山元首相が訪印したときに、このスマートコミュニティ構想が合意されたのだけれど、日本側は、この開発計画について公募を行なって、東芝、三菱重工、日立製作所、日揮をグループリーダーとする4件のコンソーシアムを選定し、各コンソーシアムにDMIC内で担当する地域を割り振っている。割り振りは次のとおり。
・東芝コンソーシアム(ハリアナ州マネサール担当)
参加企業:東芝、NEC、東京ガス
・三菱コンソーシアム(グジャラート州チャンゴダル)
参加企業:三菱重工、三菱商事、三菱電機、三菱総研、Jパワー
・日立コンソーシアム(グジャラート州ダヘジ)
参加企業:日立製作所、伊藤忠、京セラ、ハイフラックス(シンガポール水処理企業)、北九州市、エックス都市研究所
・日揮コンソーシアム(マハラシュトラ州シェンドラ)
参加企業:日揮、三菱商事、荏原エンジニアリング
今回の海水淡水化プラント建設は、この日立コンソーシアムが担当するプロジェクトのひとつで、グジャラート州ダヘジにある工業団地に工業用水を供給するというもの。
海水淡水化プラント建設は、「インド向け官民型インフラ輸出」の事業化第1弾でもある。DMICマスタープランで負けた日本の巻き返しの一里塚になることを期待したい。
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白なまず
【マイティーホエール「波食いクジラの物語」】
http://www.youtube.com/watch?v=x8l57OvSytY&list=UUapekjAa9x29a-gZNsWci1Q&index=3&feature=plcp
【インド洋の波浪予測情報について】
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E6%B4%8B%E3%80%80%E6%B3%A2%E9%AB%98&source=web&cd=2&ved=0CDQQFjAB&url=http%3A%2F%2Fwww.jamstec.go.jp%2Ffrcgc%2Fresearch%2Fd1%2Fmiyazawa%2FCaptain_Miyazawa_101124.pdf&ei=0vtsT5zKI5HPmAXp8Ni3Bg&usg=AFQjCNFUZ3pPFF76cK