新型ipadと透きとおる紙

 
新型iPadが大人気のようだ。

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3月16日に発売された新型iPadは、超々高解像度ディスプレイや日本語入力が可能な音声認識機能が新たに搭載され、初日から爆発的に売れ、アメリカのアップル社は、日米欧など10か国・地域で16日に発売した新型iPad販売台数が300万台を超えたと発表した。

特に評価が高いのは、「レチナディスプレイ」と呼ばれる、超々高解像度ディスプレイで、iPad2の1024×768ドット表示(132ppi)から、2048×1536ドット表示(264ppi)と4倍以上の解像度を誇る。

レチナ(Retina)とは、「網膜」という意味の英語で、レチナディスプレイの1ピクセルの幅が78ミクロンと、髪の毛の太さくらいにまで小型化されている。

なぜ、レチナという名を冠されているのかというと、人間の目の分解能は普通30cmの距離で90~100um程度であり、この距離より近い2点は1つの点としてしか捉えられない。つまり、人の目は、レチナディスプレイの78ミクロンのピクセル幅は識別できず、その画像は点の集まりではなく、線として捉えてしまうがために、非常に滑らかな画像に見えることになる。

しかも、レチナディスプレイの発光システムにはLEDバックライトと環境光センサーが搭載されていて、周囲の明るさによってディスプレイの明るさが自動調節され、目が疲れにくく、バッテリーの節約にもなるという。

この新型ipadの画面の綺麗さは、多くの人にインパクトを与えているらしく、「紙の発明」に匹敵するとの声さえあるくらい。



だけど、最近は、その紙のほうも進化している。

普通、紙というと、薄くて軽いけれど、すぐ破れてしまうイメージがある。けれども最近は、ガラスよりも軽くて強い「紙」が登場しつつある。

これは、ナノファイバーセルロース樹脂複合材と呼ばれるもので、簡単に言えば、植物繊維を細かく解いて、樹脂で固めたもの。

セルロース (cellulose) とは、分子式 (C6H10O5)n(n:重合度)で表される炭水化物のことで、植物細胞の細胞壁および繊維の主成分。その量は、天然の植物質の1/3を占め、地球上で最も多く存在する炭水化物であり、繊維素とも呼ばれる。

通常、紙は、木材などから抽出したセルロース系の植物繊維(パルプ)を水に分散させ、互いに絡み合わせてから乾燥させる方法を用いて作られる。

細胞壁において、セルロース分子[分子式:(C6H10O5)n](n:重合度)は数十本が平行に配列しているのだけれど、水の中にセルロース分子を懸濁させると,セルロース又は水のOH基と、水又はセルロースのO基の間に水素結合が出来、水分子を橋渡しとしてセルロース分子は互いに結合する。

その後、水を乾燥させて除去していくと、水分子の橋渡し部分は縮小し、セルロース分子が互いに近づいていき、最後には、セルロース分子同士が、水素結合で直接繋がるようになる。このように、セルロース同士が互いに水素結合すると、直径3~4 nmほどの強固な束を形成するのだけれど、この束をエレメンタリーフィブリル(基本繊維 elementary fibril)といい、更にこれが数~数十本束になって直径数~20nm、長さ 1~数μmほどのミクロフィブリル(微小繊維 microfibril)を形成する。

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普通の紙は、このセルロースミクロフィブリルが束になった、繊維幅が数十μmのものを植物繊維として使うのだけれど、ナノファイバーセルロース樹脂複合材は、これを物理的又は化学的処理によって、繊維状のままセルロースミクロフィブリル数本単位に解きほぐし、数十から100ナノメートルの繊維にしたもの(ナノファイバーセルロース)を使用する。

ナノファイバーセルロースは、ガラス繊維並みに温度変化に伴う伸縮が少なく(線熱膨張係数が小さい)、寸法が安定している上に、ガラス繊維より硬くて丈夫(弾性率が高い)という特徴があり、アラミド繊維(ケブラー)に匹敵する優れた特性を持っている。

このナノファイバーセルロースを樹脂中に分散させると、平行光線透過率85%を超える板ガラス並みに透明な紙をつくることができる。紙に色がついてみえるのは、紙の繊維によって光が乱反射するからなのだけれど、繊維幅が光の波長の10分の1くらいになると、光は乱反射せずに素通りしてしまう。

可視光の波長はだいたい、 350nm~700nmだから、ナノファイバーセルロース、とりわけ細い繊維から作った紙は、光を反射せず、透明になる。

しかも、このナノファイバーセルロース樹脂複合材は、セロファンのように一度繊維をドロドロに溶かしてから作るわけではなく、繊維のまま加工するから、ナノファイバーセルロースの優れた特性を損なうことなく、強くて軽くて丈夫で透明な新素材となる。

繊維が緻密だから、水にも強いし、厚みをもたせればガラスよりも軽くて強くなる上に、温度によって伸縮することもないから、窓の軽量化と強化を両立させる材料として使える他、薄くて折り曲げられる液晶画面にも使えたりする。応用範囲は広い。

まぁ、でも所詮は紙だから、燃やしてしまえば、燃えてしまうのだけれど、強度といい軽さといい、十分実用に耐えるものであることは確か。非常に将来性豊かな素材だと思う。

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この記事へのコメント

  • クマのプータロー

    リグニンをコントロールすることで強度と性質では紙と木を行ったり来たりするものもあったりします。
    今のところ製紙会社にとってリグニンは産業廃棄物以外の何者でもありませんが、紙にリグニンを戻すことで陶磁器の代わりをするものを三重大学の教授が作ったりしています。陶磁器と異なり、再生産が可能で木に近いことから保温性もあります。
    お金にはなりにくいかも知れませんが、紙にはこちらの方向もあると言うことで…。
    2015年08月10日 15:25
  • 日比野

    クマのプータローさん。コメントありがとうございます。

    なるほど、リグニンコントロールですか。生分解性プラスチックなんかもこれに当たるのでしょうか。ちょっと面白そうですね。
    2015年08月10日 15:25

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