小沢を切るか、財務省を切るか

 
3月7日、 野田首相は、首相官邸の朝日新聞などのインタビューで、「話し合い解散」について問われ、「我々の任期はまだ1年半ある。一体改革はやり遂げなければならない。復興や原発問題、経済再生をできるだけやり遂げた後で国民の信を問うのが基本。解散を何かの道具にして何かを成し遂げようという基本的な考え方はない」と早期解散の可能性を否定した。

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その上で、野田首相は、消費増税法案の国会提出に関して、与野党協議が出来なくても、3月中に踏み切るとし、「多くの政党が共通の責任を持つことが望ましい」と、提出後の修正に柔軟に応じる意向を示している。

話し合い解散をせずに、消費税増税法案を通せることがあるとすれば、消費税増税法案の中身が、野党の協力を得ることができるものか、又は、民主党内の反対派を説得でなくてはならない。

前者については、少なくとも、与野党協議で内容を詰めるか、国会の場での議論が必要になるし、自民党が再三再四、小沢氏を切るように発言していることから、中身の議論以前に、小沢氏切りというハードルを飛び越えなくちゃいけない。

では、後者についてはどうかというと、3月7日に、鳩山元首相が、岡田副首相と会談し、小沢氏と野田首相とで話し合う場を取り持ったらどうかと打診したのだけれど、岡田氏は乗り気ではなかったという。また、岡田氏が消費税関連法案への協力を求めたことに対して、鳩山氏は、今の経済状況で税率を上げるのは良くないとした上で、法案に景気条項をどう書き込むかが反対派を説得できるポイントだと伝えたようだ。

この会談後、鳩山氏は記者団に対して、「真っ向から消費税に反対しているわけではない。ただ、条件が成立しないといけない。そうしたことを法案の中に、いかにきちっと書き込むかどうかだ」と述べたあと、例の「賛成か反対かは法案の中身を見ないと分からない。政権を支えたいと思って行動している」と、法案に賛成も有り得る発言をしている。

だけど、岡田氏は、3月9日の記者会見で、消費増税関連法案に関して「議論は尽くしている」と述べ、また、3月3日の時点で、記者団に対して「一体改革の素案について、去年の年末に党として議論を尽くし、拍手で了承したことはみんなが分かっている。素案に書いてあることが法案になることを踏まえ、賢明な判断がなされるだろう」と、党内の増税反対派を牽制している。

要するに、岡田氏は鳩山氏との会談前後で全く同じ趣旨の発言をしている。だから、果たして、岡田氏に鳩山氏の意見が届いたのかどうかは疑問が残る。

そして、3月8日、岡田氏は自身の「夕刊フジ」の連載「岡田克也のズバリ直球」で次のように述べている。
一体改革に絡み、党内にも「消費税増税は認められない」「閣議決定に反対」などと主張する声があるのは残念だ。昨年末、5日間にわたって夜遅くまで徹底的に議論して、最後は、野田首相も出席する中で、満場一致で一体改革の素案を決めた。

 民主主義の基本は、徹底的に議論をするが、議論の上で決めたことには皆が従うということだ。国民生活に責任を持つ、政権与党としての自覚が求められている。
岡田克也のズバリ直球 「私が知る限り野田・谷垣“密談”はない!」2012.3.8付

と、まぁ、一体改革については、昨年末に党内で議論して、満場一致で素案を決めたのだから、それに従うべきだと、「議論を尽くした」論で押し切ろうとしているように見える。

では、その昨年末の素案は、一体、どういう"議論を尽くして"纏めたのか。



これについては、2月7日のエントリー「不退転の決意の中は増税だけ」で取り上げている。次に引用する。
昨年12月29日、深夜まで民主党の税制、一体改革両調査会合同会議総会で、消費税増税反対派の歩み寄りの流れを作ったのが、後藤祐一衆院議員の「議員定数削減と公務員給与の引き下げが実施されない限り、消費税増税も実施されないということを法律に書くべきだ」という発言だった。

後藤氏の発言に対して、消費税増税反対派の議員が次々と同調し、最後には税調幹部が「国会議員の定数削減、公務員人件費削減を実施した上で、消費税引き上げを実施すべきと閣議決定する」と表明したことで、反対派も歩み寄り、素案が決定したのだという。
日比野庵本館 「不退転の決意の中は増税だけ」より

岡田氏は、増税法案について、"議論を尽くした"と何かにつけて強調するけれど、その議論は、「国会議員の定数削減、公務員人件費削減を実施した上で、消費税引き上げを実施すべき」という前提つきでようやく纏まったもの。

今現在、その前提条件をクリアしているかというと、国会議員の定数削減はできず、公務員人件費削減は、平成24年度から2年間、平均7.8%を引き下げる法案を成立させたものの、先の衆院選で、民主党がマニフェストで掲げた総人件費2割削減までには至っていない。

岡田氏は、人件費の2割削減は無理とみたのか、平成25年度の国家公務員の新規採用数について「21年度比で4割超削減」との政府目標を大幅に上積みし、省庁によっては8割以上の採用抑制を指示したのだけれど、これも省庁の大幅な抵抗が予想され、どうなるか分からない。

だから、岡田氏の"議論は尽くした"発言も、党内の増税反対派からみれば、あの時約束したことを半分も守っていないじゃないか、ということになる。

こうしたことを考えると、議員定数削減ができず、公務員人件費削減がその途上の段階で、反対派を説得するためには、鳩山氏の指摘した景気条項を盛り込むなどの、更なる手土産を用意しないと難しいのではないか。

元々、景気条項については、去年末の民主党内の素案策定議論で、反対派が、名目・実質成長率の数値目標を盛り込むよう主張していたのだけれど、執行部が、増税が事実上不可能になることを恐れ、これを拒否した経緯がある。

一体改革についての2月の閣議決定では、景気条項は「種々の経済指標を確認し、経済状況等を総合的に勘案する」となっている。

だから、この景気条項の部分をもっと具体的な数値目標などで示すなどの修正を織り込むことができれば、反対派を説得できる可能性はある。実際、反対派は、法案の「景気条項」で増税に厳しい縛りをかければ妥協は可能との意向を匂わせているようだ。

ただ、景気条項に具体的な数値目標を入れるということは、統計データを誤魔化さない限り、本当に景気回復して見せなければならないから、大幅な公共投資とはじめとする、財政出動や更なる金融緩和など、今までの民主党路線とは真逆の政策をやらなければならなくなることは確実。

今の民主党政権にそこまで出来る力があるかどうかについて疑問が残るし、第一、財務省が真っ先に抵抗するだろう。場合によっては、野田政権への協力をボイコットするかもしれない。そうなったら、野田政権は死に体になる。

だから、野田首相は、今の増税路線でいくのなら、小沢切りをしないといけないし、逆に、党内の反対派を取り込むのなら、財務省を敵に回さないといけなくなるという、小沢を切るか、財務省を切るかの二者択一を迫られているともいえる。

3月の国会から目が離せない。

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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > 「我々の任期はまだ1年半ある。

    これが『本音』

    他に言っていることは単なる時間稼ぎ.
    時間を稼いで何をするか?
    そこがポイントではなかろうか.

    政権に居座っているのは反日革命家だと言う事実.
    これをもっと真面目に考えるべきだろう.

    政権を持つから日本の政治をすると言うのは
    「単なる思い込み」に過ぎない.
    現在のところ日本を動かしているのは官庁のみだ.
    2015年08月10日 15:25

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