TPP参加交渉の実態

 
3月1日、TPPの第11回交渉会合がオーストラリアのメルボルンで始まった。

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今回の協議は9日まで行われ、今年中の妥結を目指して、具体的なルール策定に向けた協議を行なう予定となっている。

日本はTPPについて交渉参加の意志は示したものの、アメリカなどから参加の同意を得ていないので、この会合には出席できない。

ただ、それでも、これまでに日本はTPP参加9ヶ国との事前協議を2月23日までに一通り済ませていて、それらの結果について外務省が公表している。

それによると、まずアメリカ以外の8か国である、ベトナム、ブルネイ、ペルー、チリ、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドとの事前協議では、各国とも、日本の交渉参加を支持し歓迎する立場であり、関税撤廃について、すべてを自由化交渉の対象としてテーブルに載せなければいけないとの認識を共有していたものの、特段、交渉参加のための前提条件はないとしている。

ただし、交渉参加については、まず、全交渉参加国との個別協議を行い、その後、全交渉参加国による交渉参加の承認を得る必要との見解を複数の国が示していて、更に、「TPPが目指している高い野心へのコミットメント」と「交渉の勢いに貢献し,交渉を遅らせないこと」との基準に適合することを、明確な証拠付きで示して欲しいという要求はあるようだ。

要するに、日本のTPP参加は歓迎するし、手土産も特に必要ないけれど、「本気」でやる気があることだけは、ちゃんと見せてくれ、ということ。まぁ、至極妥当な要望だと思う。

現在の状況はというと、2012年3月7日の時点で、日本のTPP交渉参加に対して、正式に支持を表明している国は、ベトナム、ブルネイ、チリ、ペルー、シンガポールにマレーシアの6ヶ国で、残りのアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの3ヶ国は態度を保留している。

まぁ、この3カ国は農業輸出国であり、農産品などの関税撤廃を強く求めている。ニュージーランドは酪農製品や牛肉が輸出の3割を超え、オーストラリアも小麦が主要産品。アメリカは日本の牛肉輸入規制の緩和を求めていることから、これらを中心とした農産品の市場開放に、日本が、ちゃんと取り組んでいくかを見るということなのだろう。

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さて、一番の焦点だと思われる、アメリカとの事前交渉についてなのだけれど、まず日本側は、「センシティブ品目に対する配慮を行いつつ、全ての品目を自由化交渉の対象とする。」と説明している。

その上で、アメリカ側は「TPP交渉に参加すればすべての品目を自由化交渉の対象とする用意があるか」と質問し、日本は「全品目を自由化交渉の対象にする。ただし全てを自由化の対象としたときに、具体的にどのような自由化が求められるのか情報を提供してくれ」と応じている。

まぁ、要するに、アメリカは、日本に全品目自由化する気があるのかと念を押し、日本は、自由化する気ではいるけれど、情報をくれ、といった感じで、まだ互いの腹の探り合いのような段階に見える。

ただ日本の農産物に関しては、関税の撤廃が遅れていることは事実で、米は勿論のこと、EPAを結んでいるマレーシアなど6カ国との間でさえ、全農産物の1割近いおよそ850品目で関税を維持している。

アメリカは近年のFTAで、全品目の98~99%を関税撤廃の対象としていることを考えると、少なくとも同程度つまり98~99%くらいの関税を撤廃することになるのを覚悟する必要があるだろう。

ただ、農産物以外で懸念されていた、公的医療保険制度の廃止及び民間医療保険制度への移行や、単純労働者の移民受け入れなどに関しては、アメリカは他のTPP参加国に対しても、そのような要求はしていないと日本に伝えたそうだから、日本のTPP参加を承認していない、アメリカを含む3カ国からの支持を取り付けるためには、まずは、人やサービス以外の全輸出入品目について、関税撤廃の準備を進めて、結果的に1%くらいは撤廃できない、または即時撤廃は無理だというくらいでないと承認を得るのは難しいのではないかと思われる。

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そんなTPP事前交渉とは裏腹に、日本国内での意見は全く集約されていない。与野党内にもTPP反対の議員はたくさんいるし、JAなんかは、去年の秋からTPP参加交渉反対を表明している。

そして、2月21、22日の両日にワシントンの米通商代表部(USTR)で実務者協議が行われ、日本側は経済産業、農水、外務など省庁混成チームで参加したのだけれど、関税撤廃の例外品目を巡る意見交換で、農水省の代表が「都道府県議会の多くがTPP交渉参加への反対決議がある」「関税全廃とは一度も言っていない」などと、困難である旨の大演説をぶったのだという。

呆気にとられたアメリカは、TPPの目標は、関税を100%撤廃するのが原則だと強調し、但し、センシティブ品目については、関税撤廃の移行期間を長く取ることができる」と回答したようだけれど、日本に対してかなり不信感を抱いたのではないか。

3月7日、自民党の外交・経済連携調査会は、TPP交渉参加について、自民党としての対応方針を纏めたのだけれど、TPP参加容認しつつも、「聖域なき関税撤廃」には、反対するという、なんとも煮え切らない玉虫色の内容となっている。

貿易自由化を推進するけれど、守るべきものは守るというのであれば、何もTPPでなくとも2国間のEPAで十分ではないかと思う。少なくとも自民党の方針でTPPに参加して上手くいくとすれば、それは抜群の交渉力と国内への調整力を発揮して、1%の護るべき品目を決めつつ、特に農産物について、関税ゼロになっても勝ち抜いていけるだけの大改革を推し進める必要がある。

これはとても1年、2年で出来ることではなく、10年単位できちんと計画をして進めなくちゃいけない。相当な政治力が要求される筈。国内の増税一つでこんなにグダグダになっている野田政権に、更に大変であろうTPPを纏める力があるとはちょっと思えない。

TPPは、次の政権への重い宿題になるだろう。


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画像米、TPP交渉加速へ 日本の参加決定は9月か

 【ワシントン共同】米政府は、日本が環太平洋連携協定(TPP)交渉に加わる前に協定をできるだけまとめることを目指し、今年夏にかけて交渉を加速する方針を固めた。日本の交渉参加が決まるのは9月の公算。7日付の米通商専門誌「インサイドUSトレード」(電子版)が報じた。

 早期参加を目指す日本は各国と事前協議を進めているが、鍵を握る米国の出方が読めないまま参加への道筋は見えていない。参加前に協定の大方がまとまれば、日本に不利になりそうだ。

 同誌によると、米国が交渉を急ぐのは、日本などが新たに加わり「交渉が複雑化する前にできるだけ協議を進める」のが狙い。5月8~18日にテキサス州ダラスでの次回拡大交渉会合に加え、7月上旬にも米国内で交渉会合を主催し、「今後数カ月で協議を前に推し進める」方針だという。

 しかし、現在の参加国による交渉は難航しており、目標とする今年中の妥結は困難。6月にもアジア太平洋経済協力会議(APEC)貿易相会合に合わせて閣僚会合が予定されているが、新規参加を決めるめどは立っていない。

 ただ、日本が参加に意欲を示しており、両国関係の重要性を考えると、「米国が日本の参加を引き延ばし続けるのは問題」との指摘もある。米国は11月に大統領選を控えており、7月以降はTPP交渉が滞る可能性が高い。このため、9月のAPEC首脳会議で日本の参加を決め、米国は大統領選を挟んだ年内に議会手続きを終えるとのシナリオが語られている。

 一方、消費税増税をめぐる政局の混乱で、TPPに積極的な野田政権が倒れた場合、日本抜きで新規参加を認めるとの見方も出ている。

URL:http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201203080125.html



画像TPP交渉、実態浮かぶ

9か国と協議一巡

 政府は21日、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加に向けた豪州との事前協議を行った。

 同日には米国と2回目、23日にはニュージーランドと初の協議を予定し、参加9か国との協議が一巡する。これまでの協議で、公的医療保険制度の廃止を求められるといった懸念は払拭されつつあるが、農産物の市場開放などを巡る事前協議は難航も予想される。

懸念払拭
 古川国家戦略相は21日、閣議後の記者会見で、米国との協議について、「質問リストも出し、考え方を問いただす」と強調し、国内で懸念されている点について、米国に問いただす考えを明らかにした。7日に開かれた1回目の協議で、米国は公的医療保険制度の廃止や単純労働者の受け入れは求めないと明言した。今回の質問リストは「食品の安全基準に対する米国の姿勢などを細かく列挙した」(通商筋)という。

 1月から順次行われている事前協議では、TPP交渉の「実態」が次第に明らかになっている。

 関税撤廃の例外設定を巡る議論は合意していないため、コメなどの関税を残せる可能性もある。交渉は全体の3割ほどしか進んでいないとの声もあり、日本がルール作りに関与できる余地も大きいとみられる。交渉の詳細は参加国以外には公開されないため、「情報が少なく、過剰な懸念が独り歩きしてきた」(政府関係者)ことが分かった。

 政府は来週後半にも協議結果を踏まえ、TPPに含まれる21分野の交渉状況などを公表する方針だ。

試金石
 乳製品や肉類などの日本への輸出を目指す豪州、ニュージーランドとの協議では、農業分野を含め、日本の貿易自由化への姿勢が改めて問われる見通しだ。豪州は日本のTPPへの関心を歓迎したが、参加についてはすんなりとは認めず、継続協議となった。

 日本は、17日まで開かれていた日豪経済連携協定(EPA)交渉で「コメや小麦、乳製品などの重要品目は守る」との姿勢を崩さなかった。ニュージーランドとのEPAは、日本が拒否し続けてきた経緯もある。

 日本国内では、農業関係者のほか与党内にもTPP参加に根強い反対がある。政府にとっては国内対策が急務だ。農業の体質強化に向けて、若年層の新規就農の促進などに着手したが、経営基盤強化の要となる農家への直接支払制度の拡充は手付かずだ。

 政府は、昨年10月に決定した「食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」で、農産物価格の値下がり分を補填(ほてん)する仕組み作りを「速やかに取り組むべき重要課題」と明記したが、TPP交渉への参加を正式表明していないうえ、財源の確保も難しく、棚上げされたままとなっている。

(2012年2月22日 読売新聞)

URL:http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20120222-OYT8T00294.htm



画像TPP:容認しつつ反対…自民、「玉虫色」の対応方針

 自民党の外交・経済連携調査会(高村正彦会長)は7日、党本部での会合で、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加問題について、対応方針をまとめた。「わが党も経済連携の構築の必要性は共有してきた」と容認姿勢を示す一方で、「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、交渉参加に反対する」とも併記。党内のTPP推進派と反対派に配慮した「玉虫色」の内容となった。

 方針は、米国車の輸入枠設定など工業製品の数値目標を受け入れないことや、国民皆保険制度を守ることなどを政府に要求。推進派議員は「きわどいところでまとまった」と賛同。農産物の関税撤廃を恐れる反対派も「関税を完全撤廃させない担保が取れた」と評価した。

URL:http://mainichi.jp/select/biz/news/20120308k0000m010088000c.html

この記事へのコメント

  • ス内パー

    自民党の表明は揚げ足取られないための官僚文法ではありますが実質TPP反対の断言ですな。
    条件付き賛成と言いながらその条件がTPP全否定。ストレートに言うと後からマスコミにあれこれ言われて縛られるからああいう表現なんでしょう。
    アメリカと官僚内の賛成派は今頃苦虫噛み潰してるんじゃないですかね~。
    2015年08月10日 15:25
  • 白なまず

    ペリーの通商条約、次はハルノート、そして今回のTPP。今渡こそ対応を誤らずやってもらいたいですが、相手の力に己が力で対向しても過去の失敗を繰り返すのみなので、合気道の極意で相手の力で相手を振り回し、投げ飛ばし、動きを封じ、日本の基準でアメリカを作り変えるくらいの勢いでアメリカの性根を叩き直してもらいたいですが、、、
    2015年08月10日 15:25
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    危ないと言っているのではない.
    現行の規制値は妥当なのか?
    2015年08月10日 15:25

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